事業承継における株価引き下げによる株価対策

株券

事業承継時には被相続人が保有する株式を後継者に相続・移転する必要があります。しかし場合によっては株価が高く評価されてしまい、多くの相続税を納める必要が生じることもあります。
そこで事業経営者であればやっておきたい株価対策を3つに分けて紹介します。

【参考】上場株式と非上場株式の評価方法

類似業種株価の引き下げ策

未公開株式会社の株価は主に類似業種比準方式により決定されますので、類似業種株価を低くできれば、株価の上昇を抑えることが可能になります。

株式配当金を低く設定する

類似業種株価を引き下げるための手段として、「株式配当金を低く設定する」方法があります。非公開株式会社の多くは資本金が少ないために配当率が高くなる傾向があります。その結果、株価が高く評価されがちになります。

そこで株価対策のために株式配当金を低くします。この手続きは株主総会を経て変更可能です。もし、経営者が大株主であり決定権を持っている場合には、容易に配当金額を変更できるでしょう。

役員報酬の引き上げ・退職金を支給する

2つ目に「役員報酬の引き上げ」と「役員退職金の支給」があります。これらを実施すると報酬や退職金を損金計上して、利益額を小さくできます。その結果、株式評価が引き下げられる効果が期待できます。

まず「役員報酬の引き上げ」です。これは損金算入が認められる範囲で、役員報酬を引き上げる方策です。なお、役員の報酬額を定款で定めている場合には、定款を超えての増額は、会社法違反となるため注意が必要です。

また「役員退職金の支給」という方法もよく行われます。こちらは経営者が相談役や名誉会長などの役職に就くことで退職金を支払う方法であり、まとまったお金を損金算入することができます。

どちらも株主総会で決議をし議事録を作成したうえで行います。役員報酬や退職金の金額を不相当に高額にすると税務署から否認されることもありますのでご注意ください。

保険料を損金算入できる生命保険に加入する

3つ目に「生命保険に加入する」方法があります。一部の保険商品では支払った生命保険料を損金算入することができます。その結果、株式評価を低くすることが可能になります。

なお、生命保険に加入する際のポイントは「損金計上できる保険」に入ることです。保険料を損金算入できるかは、その保険の種類によって異なります。定期保険のように掛け捨ての保険は通常全額を損金算入できます。一方、終身保険のように、いずれ亡くなったら確実に保険金を受け取ることができるタイプの保険や、後で返戻金を受け取れる積立型の保険は、損金算入できません。また、養老保険のように保険料の一部を損金算入できる保険もあります。とにかく全額損金として計上したいのか、積み立てて後で返戻金を受け取りたいのか、よく検討してから保険に入るべきでしょう。

含み損のある資産、不良債権を処分する

類似業種株価を引き下げる方策として、4つ目に「含み損のある資産」と「不良債権」を処分する方法があります。これによって簿価を引き下げ株価を低く抑えることができます。

まず「含み損のある資産」がある場合には、それを低価格で売却して譲渡損失を計上します。その結果、その事業年度の利益を小さくできます。
また「不良債権」も同様に計上をします。税務上で認められる貸し倒れ損失がある場合には、これを計上することで利益を小さくできます。

純資産株価の引き下げ策

未公開株式会社の株価は、純資産株価も若干ではありますが影響してきます。企業規模によって影響する度合いは異なりますが、小規模企業ほど影響割合は高くなるので注意が必要です。

相続税評価を行う純資産を少なくする

純資産は企業が持つ資産から負債を引いた金額となり、この中には「含み益」も含まれます。純資産額を少なくするためには、類似業種株価の引き下げ策であげた、役員退職金の支払いや生命保険の加入などで預貯金そのものを減らす方法などがあります。

土地や建物等は路線価や固定資産税評価額を基にした相続税評価額によって評価されるため、時価よりやや低めになりますが、取得してから3年以内の場合には時価で評価されます
これらは、実質的には評価額を下げるのは難しいケースも多く、必ずしも全ての企業に適用できるわけではありません。

発行株式数を増やす

純資産株価は相続税評価額を発行株式数で除して計算されます。つまり、発行株式数が多ければ、純資産株価は低くすることができるわけです。
ただし、株式数を増やすには第三者割当増資などの手続きが煩雑であり、配当金を支払う必要がある等のデメリットもあります。必ずしも高い効果が狙える訳ではありません。

会社組織体を変更する

株価上昇を防ぐための方法の3つ目として、会社組織を変更する手法があります。ここでは、持株会社を設立することによる株価対策を紹介します。

持株会社を新設する

事業経営者が持株会社を設立することで株価上昇を防ぐことができます。具体的な手順は、まず「持株会社」を設立します。次に持株会社が事業会社の株式を保有することによって、事業経営者は「持株会社」の株式だけを持つことになり、株価が上昇しても事業承継には影響が出なくなります。

仮に事業会社の事業が好調になり業績が上がったとしても、持株会社は最大で37%まで含み益を控除できますので、持株会社でない場合に比べて株価を低く評価することが可能になるのです。

株価引き下げの具体的方法は税理士にご相談を

株価引き下げの方法として、「類似業種株価の引き下げ策」「純資産株価の引き下げ策」「会社組織体を変更する」の3つの観点から紹介しました。それぞれメリット・デメリットがあり、本当に自社株の相続税評価額の引き下げにつながるのかよく検討して行うべきですので、ぜひ税理士にご相談のうえで、各対策に取り掛かられてください。

株価引き下げの効果のまとめ

類似業種
比準価額
純資産価額
配当の
引き下げ
配当を下げる
特別配当や記念配当など非経常的な配当
利益と
純資産の
引き下げ
不良在庫の廃棄
回収可能性のない売掛金や貸付金の貸倒処理
含み損のある不動産の売却×
含み損のある有価証券、ゴルフ会員権の売却×
稼働していない固定資産の除却
全額損金算入できる定期保険への加入
役員生前(死亡)退職金の支払い
貸倒引当金の計上×
高収益部門の譲渡・切り離し
純資産の
引き下げ
土地・建物等の取得
(相続税評価額と時価の差額の利用)
×
(取得後3年後)
ゴルフ会員権の取得

○:効果あり ×:効果なし

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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