贈与税がかからない場合とは?生活費、教育費など
通常、年間で110万円(基礎控除額)を超える贈与を受けた場合は「贈与税」が課されます。ただし、贈与税の課税対象にはな…[続きを読む]
祖父母や父母から、結婚・出産・子育てのための資金をもらった場合、最大1,000万円まで贈与税が非課税になります(結婚については300万円まで)。制度の概要と、対象者、利用方法をわかりやすく説明していきます。
目次
正式には、『父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度』といいます。
つまり、祖父母や父母から結婚・子育てのための資金を一回で贈与された場合に非課税になる特例です。
最高1,000万円の非課税枠があります(結婚関連は300万円の非課税枠)。
特例の期間は、2025年3月までです(2023年税制改正で2年間延長されました)。
この制度では非課税になる範囲がかなり広く設定されています。
それぞれ一番お金がかかりそうなところが網羅されていますので、利用の仕方によっては相当な恩恵が受けられる可能性があります。
ご存じのとおり、現在の日本では少子化が大きな問題となっています。経済的に不安定な状況の若者が多く、結婚・出産がなかなか進まないことが、少子化の大きな要因の一つです。
若者にとって結婚・出産・子育てはとてもお金がかかるものであり、希望していても経済的な理由からなかなか踏み出せない人も多くなっています。
そこで、両親や祖父母の資産を有効活用して、子や孫の結婚・出産・子育てを支援するために、この制度が作られました。
この制度の詳細を表にまとめました。
適用対象者 | ・贈与者(あげる人):受贈者の直系尊属(父母、祖父母など) ・受贈者(もらう人):18歳以上50歳未満の子や孫など (2019年4月1日以降は、前年の所得1,000万円以下に限定) |
---|---|
適用方法 | ・金融機関に受贈者(子や孫など)の名義で結婚・子育て資金口座の開設を行い、贈与者から受贈者に対して一括で贈与し、その金額を結婚・子育て資金口座に預け入れること。 ・金融機関を通じて、結婚・子育て資金非課税申告書を提出すること。(個人での税務署での手続きは不要) |
非課税内容 | ・結婚式費用(結婚の1年前の支払いから) ・家賃、礼金等の新居の費用、引越し費用 ・不妊治療の費用、分娩費用、産後ケアの費用 ・子供の医療費、幼稚園・保育所の入園料・保育料 |
非課税限度額 | 受贈者一人につき1,000万円(結婚関連は300万円まで) |
期間 | 2025年(令和7年)3月31日まで |
この制度のメリットとしては、
などが挙げられます。
子供の結婚を心配されている親や、孫の顔を早く見たい祖父母も多いと思いますので、この制度を利用して、子供や孫を支援することができます。
一方、この制度のデメリットとしては、
などが挙げられます。
特に、大きな金額を子供や孫に一気に贈与することに対しては注意が必要です。子供や孫がそのお金をきちんと管理して結婚・育児に使えば良いのですが、結婚・育児以外の用途に使ってしまったら非課税になりません。
そもそも、日常的に必要な生活費や教育費の贈与に対しては贈与税がかかりませんし、結婚の際には、世間的に認められる範囲であれば、資金援助をしても贈与税はかかりません。
結婚の際に、マンションの購入費用を何百万円も提供したら贈与ですが、新居に必要な一般的な家具や家電を買ってあげる程度なら、贈与税の対象にはなりません。地域の慣習や文化によって、結婚式の費用の一部を親が負担するのが通常であれば、それは親が負担するものですから、贈与には全く当たりません。
子供の医療費についても高額になれば、高額療養費制度で一定額を超えた部分が返還されますし、所得税からの医療費控除も受けられます。
『父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度』の結婚・子育て資金には、大きく分けて次の2つがあります。
制度の対象 | 制度の対象外 | |
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婚礼費用 | 結婚式場や披露宴会場等に支払う費用 | ・結婚式や披露宴以外の費用 |
新居の費用 | 婚姻日の1年前後に賃貸借契約をした物件に対して、契約日から3年以内に支払うもの | ・新たに賃貸していない物件 ・賃貸借契約と関係ない費用 |
引っ越しの費用 | ・婚姻日の1年前後に引越ししたもの | ・引っ越し業者に支払わないもの |
以下、それぞれの項目を具体例を列挙しています。
結婚した日(婚姻届を提出した日)の1年前からの支払いが対象になります。また、自宅や公民館などで行った場合、衣装代等は挙式のための費用であることがわかるように領収証に明確に記載してもらう必要があります。
★対象にならないもの
★対象になるもの
婚姻日の1年前後以内に受贈者名義で賃貸借契約をした物件に対して、契約日から3年以内に支払うものが対象です。
★対象にならないもの
婚姻日の1年前後以内に引越ししたものが対象。
★対象にならないもの
制度の対象 | 制度の対象外 | |
---|---|---|
不妊治療、妊婦検診 | 国内の医療機関における治療費 | 通院のための交通費、宿泊費 |
出産費用、産後ケア | ・出産のために入院から退院のために要する費用 ・出産1年以内に支払われた産後ケアに要する費用(6泊分または7回分) | 病院や助産所に通うための交通費や宿泊費 |
子の医療費 | 国内の医療機関、薬局にかかる費用 | 病院への交通費、宿泊費 |
育児費用 | 基本的に、子を預かる施設に対して支払う費用 | 子供用品の購入等 |
以下、それぞれの項目の具体例を解説しています。
対象になる具体例
国内の医療機関における治療費が対象です。
★対象になるもの
★対象になるもの
★対象になるもの
★対象にならないもの
費用に関する領収書等の要件は、細かく規定されています。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
結婚・子育て資金の贈与税非課税制度を利用するには、信託銀行等の金融機関が提供している「結婚・子育て支援信託」サービス等を利用する必要があります。専用の口座を開設します。取扱金融機関は以下を参照してください。
【参考外部サイト】「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置取扱金融機関一覧」|こども家庭庁
口座開設時は、まず、金融機関に連絡しましょう。本支店窓口に直接行くのもよいですが、周囲に店舗がない場合は、コールセンターに資料請求して資料を取り寄せましょう。
必要書類は、各行により若干異なりますが、金融移管の所定書類以外では、概ね以下のものが必要になります。
結婚・子育て支援信託は、商品設計が複雑であることに加え、契約が長期間に渡るため、基本的には、信託銀行が委託者、受益者全員への商品説明と手続き書類の記入(署名)を行います。
ただし、遠隔地に居住している場合など物理的に難しいケースもあるかもしれません。その場合は信託銀行に相談してみてください。
次に、結婚・子育て資金の専用口座をどのように利用して、お金を引き出したりするのかを解説します。
結婚・子育て支援信託では、基本的に手数料はかかりません。
ただし、金銭信託の運用に伴う運用報酬はかかります。運用報酬は、運用により生じた利益のなかから所定の期日に差し引かれるため、新たに支払うことはありません。なお、信託金を払い出す際は、支払先口座によっては振込手数料がかかる場合があります。
前述のとおり、結婚・子育て支援信託は金銭信託であるため、元本保証があります。
金銭信託では、運用益(収益金)をもらうことができます。金銭信託は通常、3月と9月の各25日に決算が行われ、翌26日に収益配当金が支払われます。この収益配当金の受け取り方法は、
のどちらかを選ぶことができます。
50歳になっても使い切れないお金があると、残ったお金はその年の贈与で取得したとみなされ、贈与税がかかります。贈与税には110万円の基礎控除がありますので、基礎控除を控除した残額に対して贈与税を支払います。
2023年4月1日以降の一括贈与からは、贈与税の計算時、特例税率ではなく一般税率を適用することになりましたので、贈与税が高くなります。
払い出し方法は、主に次の2つがあります。
領収書等による払い出し請求の場合は、例えば結婚式場や病院等へ支払った後、領収書等を添付して金融機関に請求します。つまり、一時的に立て替え払いをすることになります。
請求書(振込依頼書)等による払い出しの場合は、請求書(振込依頼書)等を信託銀行に提出することにより、例えば結婚式場や病院等に支払う前に払い出すことが可能です。これにより立て替え払いはなくなります。
なお、この払い出し方法は金融機関により異なります。利便性を重視する場合は、事前によく確認しておきましょう。
以上、『父母などから結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度』について解説しましたが、メリット、デメリット両方を考慮しながら、この制度を有効活用することが重要です。
祖父母や両親に多くの余裕資金があり、子供や孫が結婚・育児で経済的に困っている場合は、この制度を利用する意味があるといえます。
一方で、祖父母の余裕資金はそれほど多くなく、子供や孫に経済的な余裕があるなら、この制度は利用せずに、必要に応じて随時贈与をするほうが賢明といえます。