小規模宅地等の特例は老人ホーム入居中に発生した相続でも使えるの?

老人ホーム

高齢化が進み、老人ホームへの入居者が増加するに伴って、施設自体も増えています。被相続人が老人ホームに入居したまま相続が開始することが、益々増えていくことでしょう。

注意すべきは、介護施設への入所が、相続税与える影響です。特に、「小規模宅地等の特例」は、宅地等を相続する際に、その相続税評価額を50~80%減額できるので、適用が受けられるかどうかは大きな問題となります。

そこで、今回は、「老人ホームに入居していた被相続人が入居前に居住していた土地」を相続する際に、小規模宅地等の特例の適用をうけられるかどうかを解説します。

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1.小規模宅地等の特例は老人ホーム入居中の相続でも使える!

小規模宅地等の特例は、被相続人が老人ホームに入居していた場合に、利用することができるのでしょうか?

ご安心ください。亡くなった被相続人が老人ホームに入居していた場合でも、要件さえ満たしていれば小規模宅地等の特例は利用することができます。

1-1.小規模宅地等の特例の適用受けるための要件

まず、前提として、小規模宅地等の特例は、以下の通り、宅地を相続する相続人によって要件が異なり、相続人ごとにすべてを満たさない限り、利用することができません。

小規模宅地等の特例を利用するための要件

相続人の種類要件
被相続人の配偶者なし
老人ホーム入居前に被相続人と同居していた親族相続開始時から相続税申告期限まで、その自宅に住み続け、かつ、その宅地等を所有している
別居親族被相続人に配偶者や同居親族がいない
その土地を相続してから相続税の申告期限まで手放していない
相続開始前3年以内に、自分または自分の配偶者、3親等内の親族、特別の関係にある法人が所有する家屋に住んだことがない
被相続人の死亡時に自分が住んでいる家を過去に所有していたことがない

1-2.被相続人が老人ホームに入居した場合に追加される要件

加えて、以下の3つの要件を満たすことで、被相続人が老人ホームに入居しているケースでも小規模宅地等の特例を利用することができます。

  • 介護が必要なために老人ホームに入居していたこと
  • 老人福祉法等の要件を満たした福祉施設であること
  • 被相続人の自宅の宅地を賃貸や事業の用、被相続人と生計一の親族以外の者の居住の用に供しないこと

老人ホームの設置については都道府県知事への届出が義務付けられています。

しかし、中には届出のない老人ホームも存在しており、その場合は、小規模宅地等の特例は受けられないことになりますので注意が必要です。入居前に必ず確認するようにしましょう。

2.小規模宅地等の特例は使えるか?事例毎の可否

ただし、一口に「被相続人が老人ホームに入居する間に相続が開始した」というケースであっても、様々な事例が考えられます。

ここでは、いくつか事例を挙げて、小規模宅地等の特例が利用できるのかを検証してみます。

2-1.老人ホーム入居時に介護が必要でなかった場合

老人ホーム入居時には介護が必要ではなかった場合であっても、亡くなる時には介護認定等を受けており、介護が必要な状態であれば要件は満たしているため、小規模宅地等の特例の利用は可能です。

介護認定等の有無は、相続開始時に判断されることになります。

2-2.要支援・要介護認定中に被相続人が亡くなった場合

では、被相続人が要支援や要介護の認定中に亡くなってしまった場合は、小規模宅地等の特例の適用は受けられるのでしょうか?

要支援や要介護の認定を受けていたかは、被相続人が相続開始の直前に、認定を受けていたかどうかにより判断されます。そして、市町村が認定を行った場合は、申請に遡って効力が生じます。

したがって、相続開始後に要支援・要介護の認定があった場合は、申請時に遡って認定を受けていたものと認められることになり、小規模宅地等の特例の利用が可能です。

【参考外部サイト】「老人ホームに入所していた被相続人が要介護認定の申請中に死亡した場合の小規模宅地等の特例」国税庁

2-3.老人ホーム入居のため自宅を離れ空き家になっていた場合

次に、被相続人が老人ホームに入居したことで、被相続人が住んでいた自宅から離れ空き家になっていた場合を考えてみます。

この場合、以下2つの要件を満たしていれば、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

  • 相続の開始直前に、被相続人が要支援・要介護認定を受けていたこと
  • その被相続人が老人ホーム入居・入所していたこと

【参考外部サイト】老人ホームへの入所により空家となっていた建物の敷地についての小規模宅地等の特例(平成26年1月1日以後に相続又は遺贈により取得する場合の取扱い)|国税庁

2-4.老人ホームに入居後に経済的に独立した親族が住んだ場合

親が老人ホームに入居して実家が空き家になり、近くに暮らすために、実家に越してくる親族の方もいらっしゃると思います。そういった場合にも小規模宅地等の特例は利用できるのでしょうか。

この場合、経済的に独立した子供が、親の老人ホームへの入居後に実家暮らしを始めたとしても、残念ながら小規模宅地等の特例の適用は受けられません。「被相続人と生計一の同居親族以外の者の居住の用に供しないこと」という要件に該当しないからです。

一方で、仕送りで家賃や生活費を賄っていた大学生が、親が老人ホームに入居したことを機に実家に戻ってきた場合は、配偶者やこの生計一の子供が宅地を相続すれば、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

また、親とは経済的に独立した子供が、老人ホームへの入居前から同居していた場合も、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

3.老人ホームで開始した相続で必要な小規模宅地等の特例添付書類

被相続人が老人ホームに入居時に相続が開始した場合、小規模宅地等の特例を利用するためには申告書に加えて、小規模宅地等の特例の要件を満たしているかを証明する書類が必要となります。

特例を使える要件は相続する人が誰かによって異なりますので、証明するための書類も変わってきます。

3-1.小規模宅地等の特例を使用するための添付書類

まず、小規模宅地等の特例の適用を受けるすべての相続人が提出するべき添付書類について見ていきましょう。

  • 住民票の写し
  • 戸籍謄本
  • 遺言書の写し又は遺産分割協議書の写し
  • 相続人全員の印鑑証明書

3-2.被相続人が老人ホームに入居していた場合必要な添付書類

さらに、被相続人が老人ホームに入居していた場合には以下の書類の添付も必要となります。

  • 被相続人の戸籍の附票の写し
  • 介護保険の被保険者証の写しや障害者福祉サービス受給者証の写しなど
  • 福祉施設の入所時の契約書の写しなど

3-3.相続人が別居親族の場合に必要な添付書類

相続人が別居親族である場合には、以下の添付書類を提出しなければいけません。

  • 戸籍の附票の写し
  • 相続開始前3年以内に住んでいた家屋の登記簿謄本・借家の賃貸借契約書など

詳しくは、こちらをご参照ください。

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3.まとめ

老人ホームに入居していた被相続人が入居前に居住していた土地を相続する場合であっても、小規模宅地等の特例を利用することができます。

ただし、通常の相続に比べて特例を使うための要件が複雑であり、また申告書の提出の際に添付しなければならない書類も追加されるため、専門家に相談するなど慎重に進めることをおすすめいたします。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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