遺贈と相続の違い、相続税の計算方法

不動産

被相続人が亡くなったら、その人の財産は誰かに引き継がれますが、その方法には、主に「遺贈」と「相続」の2種類があります。

もし「遺贈」で財産を受け取った場合は、通常の相続税とは異なる計算方法で納税額を算出する場合があります。そこで、ここでは遺贈と相続の違いを始め、遺贈の場合の相続税の計算ポイントを紹介します。

1.財産を引き継ぐ2つの方法:「遺贈」と「相続」

被相続人の財産が相続人、または特定の第三者に引き継がれる方法として「遺贈」と「相続」の2つがあります。これらは引き継ぐと言う点では同じですが、細かい法律上の違いがあります。そこでまずは遺贈と相続の違いについてポイントを押さえながら説明します。

(1)法定相続人が包括的に引き継ぐ「相続」

まず、一般的によく知られている「相続」から説明します。

相続とは、被相続人の財産を包括的に、法定相続人が引き継ぐことです。包括的にというのは、現預金や株式、建物・土地などのプラスの財産から、借金、未払いの料金などマイナスの財産まですべて含めて引き継ぐことをいいます。また、財産を引き継ぐことができるのは民法で定められている法定相続人(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)です。法定相続人でない人(内縁の妻、認知されていない子、知人・友人など)は相続することができません。

財産の分け方について、遺言があれば基本的には遺言の指定に従い(指定分割)、遺言がなければ、相続人全員で協議して(協議分割)分けます。

財産に借金があり相続したくない人は、相続があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申請して相続放棄の手続きをしなければなりません。

(2)遺言によって財産が引き継がれる「遺贈」

遺贈とは、被相続人の財産を「遺言」によって特定の人物に無償で与えることを言います。遺贈で財産をもらう人のことを「受遺者」といいます。
「無償で与える」と記しましたが、贈与とは異なります。「贈与」とは、与える人/もらう人の両者が合意のうえで行う契約のことですが、遺贈は、被相続人の一方的な意思で財産を与えたい人に与えることができます。

遺贈の対象となる財産は全部でも良いし一部でも良く、遺言で自由に決めることができます(ただし、相続人の遺留分を侵害するとその分を返還するように求められる可能性はあります)。また、特定の人物とは、相続人だけでなく、相続人以外の第三者を指定することもできます。お世話になった方や、NPO団体など法人を指定することもできます。

遺贈として財産を受け取った場合に、相続財産全体が基礎控除額を上回れば、相続税を支払う必要があります。「贈与税」と勘違いをする人もいますが、遺贈は贈与ではなく、どちらかというと相続に近い性質のものですので、相続税がかかるのです。
(※遺贈として法人が財産を受け取った場合には、相続税は発生しませんが、法人の所得となり法人税等が発生する可能性があります。また、被相続人にも譲渡所得税が発生する可能性もあります。)

被相続人が亡くなった時に、遺贈の対象となる人(受遺者)は生存している必要があります。受遺者が先に死亡していた場合は、遺贈は無効となります。よって、受遺者の子への代襲相続は発生しません。

遺贈では、財産の指定の仕方によって「包括遺贈」と「特定遺贈」に分類することができます。

(i)包括遺贈

まず、包括遺贈とは、財産全部または一部を割合で指定して遺贈することです。遺言書には「相続太郎に全財産の4分の1を遺贈する」というように書かれます。

包括遺贈で財産を受ける人(受遺者)は、相続人と同じ権利義務を持つことになります。つまり、包括的に遺贈されるので、プラスの財産だけでなくマイナス財産も引き継ぎます。また、相続人と一緒に遺産分割協議に参加することになります。
もし、借金があって財産を引き継ぎたくない場合は、自分が包括遺贈を受けることを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申請して遺贈を放棄する必要があります。3ヶ月以内に放棄をしないと、マイナス財産を含めて遺贈を承認したとみなれます。

(ii)特定遺贈

次に、特定遺贈とは特定の財産、例えば土地や住宅などを指定して遺贈することです。遺言書には「相続太郎に○○市△△町×丁目×番×号所在の土地を遺贈する」というように書かれます。

特定遺贈で財産を受ける人(受遺者)は、いつでも自由に承認・放棄をすることができます。遺贈の放棄の方法は特に定められておらず、「私は遺贈を放棄します」と意思表示をすれば良いとされています。

 相続遺贈
包括遺贈特定遺贈
引き継ぐ人相続人
(配偶者、子、親、兄弟)
受遺者
(相続人と第三者)
受遺者
(相続人と第三者)
引き継ぐ財産包括的包括的部分
遺言の必要性遺言あり/なし両方のケース必要必要
財産分割方法遺言による指定
または(かつ)
遺産分割協議
遺言による指定
かつ
遺産分割協議
遺言による指定
放棄相続を知ったときから
3ヶ月以内に
家庭裁判所に申請
相続を知ったときから
3ヶ月以内に
家庭裁判所に申請
いつでも自由に
意思表明
代襲相続ありなしなし

2.「相続させる」遺言と「遺贈する」遺言の違い

遺言書「相続させる」遺言では、遺言書に「相続太郎に○○所在の土地を相続させる」と書きます。
「遺贈させる」遺言では、遺言書に「相続太郎に○○所在の土地を遺贈する」と書きます。

「相続させる」と「遺贈する」の言葉の違いではありますが、それだけでなく、相続手続きでは、いろいろな違いが生じます。

まず、相続後の不動産の所有権移転登記手続きでは、「遺贈する」遺言の場合は、他の相続人と共同で申請しなければならないのに対して、「相続させる」遺言の場合には、単独で申請することができます。

遺贈された財産が他人から借りている土地や建物の場合で、「遺贈する」遺言の場合は、オーナーの承諾が必要になりますが、「相続させる」遺言の場合には、オーナーの承諾は必要ありません。

また、遺贈された不動産が農地で登記変更するとき、「遺贈する」遺言の場合は、農業委員会の許可が必要になりますが、「相続させる」遺言の場合には、許可は必要ありません。

よって、財産を与えたい相手が相続人であれば、「相続させる」と遺言書に書いたほうが相続手続きが楽になります。相続人以外の第三者に与えたいときは、相続させることはできませんので、「遺贈する」と書くことになります。

3.相続税の計算方法

遺贈でも相続でも、相続財産総額が基礎控除額を上回れば相続税がかかります。ただし、遺贈の場合の相続税額は、相続の場合よりも通常多くなります。

なお、ここでは、法定相続人以外の親戚や第三者に遺贈する場合を「遺贈」として相続税について述べます。法定相続人に遺贈することもありますが、その場合は、通常の相続と同じ計算になります。

(1)遺贈の相続税を計算する手順

遺贈の場合、相続税は通常、次の通りに計算します。

①法定相続人が相続したと仮定して、相続税の総額を計算する
②各相続人/受遺者の相続税額を計算する
③相続税額の2割加算をする

【参照】簡単にできる相続税の計算

①②は通常の相続税の計算と同じです。
①では、遺贈を受ける人が何人いたとしても、まずは、法定相続人だけが相続したと仮定して、相続税の総額を計算します。
次に②で、相続税の総額を、それぞれ取得した財産額で按分して、各人の相続税額を計算します。
最後に、遺贈の場合は③が追加され、「相続税額の2割加算」を行います。②で計算されたその人の相続税額にさらに20%プラスされます。

(2)「相続税額の2割加算」がされる人とは?

遺贈によって「相続税額の2割加算」がされる人は、配偶者を除く被相続人の一親等以外の人です。つまり、一般的には、民法上で定める法定相続人以外と考えると良いでしょう。具体的には次のような人です。

・被相続人の兄弟姉妹
・被相続人の甥や姪
・代襲相続人になっていない孫
・その他、遺贈で指定される第三者

これら二等親以上離れる人が、相続または遺贈を受ける場合には、「相続税額の2割加算」が適用されます。

相続税額が2割加算される理由ですが、本来、財産を引き継ぐはずの法定相続人でない人が財産を引き継ぎ、残された人の生活を保障するという意味合いが薄れますので、より多くの相続税をかけようというものです。

【参照】相続税額の2割加算の対象者と計算方法

(3)遺贈の場合の基礎控除額の計算は?

基礎控除額の計算式は、3,000万円+600万円×(法定相続人の数) です。よって、遺贈を受ける法定相続人でない人は、基礎控除額の計算では人数としてカウントされず、基礎控除額を加算することはできません。

4.特別控除

相続税は一般的にその額が高額になるケースや、親族間の財産移動が多いため、相続税の特別控除が多く設けられています。それらの特別控除が遺贈の場合(法定相続人以外)にも当てはまるのかどうか一つずつ見ていきます。

(1)小規模住宅等の特例

被相続人から住居用宅地や、貸付事業用宅地を相続した場合、要件を満たせば相続税額を減額できます。これを「小規模住宅等の特例」と言います。

そして遺贈であっても、要件さえ満たせば小規模住宅等の特例を適用可能です。なぜなら、この特例では「被相続人の親族」が対象者になっているからです。つまり、相続人以外でも特例を受けられる可能性があります。

【参照】小規模宅地等の特例

住宅 お金

(2)死亡保険金・死亡退職金の非課税枠

被相続人が亡くなった場合に、生命保険等に加入していれば遺族は死亡保険金を受け取れます。同様に、被相続人が受け取るはずだった退職金を、遺族は死亡退職金として受け取れます。

これらの死亡保険金・死亡退職金には非課税枠が設けられていますが、その金額は「法定相続人1人当たり500万円」です。つまり、遺贈で保険金等を引き継いだ人には適用することができません。

【参照】生命保険と相続

(3)未成年者・障害者の税額控除

相続人が未成年者の場合、(20歳-相続した時の年齢)×10万円の税額控除が設けられています。
また、相続人が障害者の場合にも、(85歳-相続した時の年齢)×10万円の税額控除があります。

しかし、これらは遺贈の場合は適用できません。なぜなら、法定相続人であることが条件だからです。

【参照】障害者控除と未成年者控除

(4)生前贈与加算による贈与税額控除

生前贈与加算は、被相続人から生前贈与を受けた財産も相続税の対象となる制度です。対象となる期間は相続開始日から3年さかのぼった期間までです。
相続開始日から3年以内に生前贈与を受けた財産をいったん相続財産全体にプラスし、相続税額を計算します。そのうえで、この期間中に贈与税を納めている場合、その贈与税額は相続税額から控除されます。

この贈与税額控除は、遺贈の場合も適用されます。

(5)相次相続控除

相次相続控除は相続開始前の10年以内に、被相続人が相続税を納税している場合、一部の税額を控除できる制度です。この控除額は相続税額や、財産価額等によって変わります。

ただし、この相次相続控除は遺贈では適用できません。なぜなら、適用するためには「相続人であること」が要件に定められているからです。

(6)遺贈と相続の特例控除制度のまとめ

遺贈と相続のそれぞれの場合の、特例や控除制度をまとめます。
〇:適用、×:適用外、△:条件による

 遺贈相続
基礎控除×
2割加算
小規模宅地等の特例
保険金の非課税枠×
未成年者・障害者の税額控除×
生前贈与加算(3年以内)
相次相続控除×

5.不動産関連の税金

遺贈で不動産の所有権移転登記を行うと、相続ではかからなかった、不動産取得税(特定遺贈の場合のみ)、登録免許税が発生します。
それぞれ、固定資産税評価額を基に計算され、一般的には次のような税率です。

 法定相続人法定相続人以外
不動産取得税なし特定遺贈の場合のみ
固定資産税評価額×4%
(土地と住宅は平成30年3月31日まで3%)
登録免許税固定資産税評価額×0.4%固定資産税評価額×2.0%

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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