似て非なる遺贈と死因贈与の違い
遺贈と死因贈与は、どちらも相続人の死亡によって効力が発生するのは同じですが、法律上は、一方は単独行為で、もう一方は契…[続きを読む]
相続によって遺産を承継したら、相続人の間で遺産を分割しますが、被相続人の生前の意志で、遺産をボランティア団体やNPO団体に寄付するケースも増えているようです。
では、遺産を寄付した場合、税金はどうなるのでしょうか?
実は、遺産を寄付することで相続税をはじめ税金の減額が可能になります。しかし、被相続人の生前の意思による寄付と相続人の寄付では、税金の種類によって多少扱いが異なってきます。
どのような要件で寄付をすると税金が減額できるのか、また、具体的にどのような税金が減額できるのかなど、寄付と税金の関係について解説します。
目次
相続財産を寄付すると、一定の条件のもとで、寄付した財産については相続税が非課税となります。
また、寄付をした相続人に給料や年金、個人事業などでその年に所得がある場合は、一定の条件のもと所得税や住民税も控除されます。
控除される税金の種類 | 控除の内容 |
---|---|
相続税の非課税の特例 | 相続人が相続した財産を、国や特定のNPO法人等に寄付した場合、その財産は相続税が非課税となる特例があります。 |
所得税の寄付金控除 | 相続人が相続した財産を国や特定のNPO法人、政治団体などに寄付した場合、確定申告によって一定の金額が所得税から控除されます。 |
住民税の寄付金控除 | 地方公共団体に寄付した場合には、さらに特例控除がプラスされます。 |
相続財産を寄付した場合の相続税、所得税、住民税の控除額は次のように計算します(あくまでおおよその控除額を計算するものです)。
相続税については、非課税の特例が適用されますが、それにより減額される相続税の計算は次の計算式で求めます。
寄附金控除により減額される所得税の金額は、次の計算式で求めます。
ただし、寄附した金額すべてが寄付金控除の対象になるわけではありません。総所得額の40%を超える寄付をしたとしても、総所得額の40%までしか寄付金控除の対象になりません。
寄附金控除により減額される住民税は、基礎控除と特例控除の2つに分かれます。それぞれ、次の計算式で求めます。
ただし、総所得額の30%までしか、基礎控除の対象になりません。
では、以下の事例を使って、おおよその減額できる金額を計算してみましょう。
事例:相続財産の一部50万円を地方公共団体に寄付し、税率が以下の場合
相続税率:40%
所得税率:20%
住民税率:10%
寄付の金額は、寄付額の上限を超えていないものとする。
計算式 | 減額分 | ||
---|---|---|---|
相続税 | 寄付額50万円 × 相続税率40% | 20万円 | |
所得税 | (寄付額50万円 - 2,000円)× 所得税率20%×1.021 | 101,691円 | |
住民税 | 基礎控除 | (寄付額50万円 - 2,000円)× 10% | 49,800円 |
特例控除 | (寄付額50万円 - 2,000円)×(90%-所得税率20%×1.021) | 346,508円 | |
合計 | (寄付額50万円 - 2,000円)×(90%-所得税率20%×1.021) | 697,999円 |
具体例で見た通り、相続財産の寄付は、大きな節税効果をもたらします。しかし、控除を受けるためには、次の適用要件を満たす必要があります。
「相続税の申告期限までに手続きを終える」必要があります。この相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった翌日から10カ月です。
また、相続人が相続財産を寄付する場合は、申告期限までにその寄付の手続きを終えなければなりません。そして、これらの手続きを終えたうえで、寄付をした財産の明細書等を申告書に添付する必要があります。
税金控除に必要な要件には、「財産をそのままの形で寄付する」ことも挙げられます。「そのままの形」とは、例えば不動産であれば不動産のまま、有価証券であれば有価証券のまま寄付をするということです。
一度相続財産を現金化してから、その現金を寄付しようとすると、特例の適用外として判断されてしまいす。
最後に寄付先として認められている組織への寄付であることも必要です。
寄付先として認められている国や地方自治体には、専用の窓口があるため分かりやすいでしょう。
私立大学などの学校法人も寄付先として認められており、認定されていれば母校へ寄付の寄付も可能です。ただ、特定公益法人は要件の当否の判断がつきにくいのであらかじめ確認が必要です。
税務署で確認するほか、寄付をしたい組織に確認を取ることもできます。また、税理士等の専門家に事前に確認することも可能です。
被相続人が遺産を寄付するには、「遺贈」と「死因贈与」の2つの方法があります。
受遺者として寄付先の団体や施設を指定した遺言書を作成しておけば、遺贈により遺産を寄付することができ、寄付先と死因贈与契約を締結しておけば、死因贈与により遺産を寄付することもできます。
いずれの場合も要件を満たせば、相続税の特例を適用できます。
しかし、これらの方法では、所得税や住民税の控除ができません。所得税や住民税の控除まで考えるのであれば、相続人が相続財産から寄付する必要があります。
ここからは、寄付先の条件を少し詳しく見ていきましょう。
相続財産を
などに寄付した場合、相続税・所得税・住民税の減額を受けることができます。
認定NPO法人とは、NPO法人の中でも一部のものに限られた、各所轄庁に特例認定の基準に適合することを認定された法人です。
特定公益増進法人は、日本赤十字社やユニセフ、学校法人など、社会貢献度の高い法人として政令に定められているものです。
寄付先が認定NPO法人や特定公益増進法人に該当するかどうか、判断がつかないことも多いので、寄付をする場合には、認定NPO法人や特定公益増進法人に該当するのか、手続きの方法などをあらかじめ寄付先に問い合わせておく必要があります。
なお、相続税の申告時に適用を受けても、次のケースに該当する場合は非課税特例の適用が除外されます。
このように寄付先の組織・団体が無くなったり、相続人たちのために使われていたりするなど、社会的に還元されなくなった場合には非課税特例が除外されます。そのため、こうした点には注意が必要です。
相続財産の国や地方公共団体への寄付で、ふるさと納税による控除も受けられます。
ふるさと納税とは、自分の選んだ自治体に寄付を行った場合に、所得税と住民税から原則として全額が控除される制度です。
相続財産を国や地方公共団体へ寄付した場合に、相続税の非課税はもちろん、ふるさと納税による所得税と住民税の控除も適用されます。
相続税の非課税とふるさと納税の控除の両方を適用するためには、遺言ではなく、相続人の意志で寄付することが必要です。そのためには、ふるさと納税を行う前に遺産分割を終えている必要があります。
また、ふるさと納税にはワンストップ特例を申請しない方法とする方法の2つの申請方法があります。
個人事業主や医療費控除などで確定申告をする必要がある場合は、ワンストップ特例は使わず、確定申告で寄附金控除を受けます。
確定申告をする必要がない場合は、ワンストップ特例を申請することで、確定申告しなくても、寄附金控除を受けることができます。ふるさと納税の流れについては、総務省の以下のページをご参照ください。
関連外部サイト:総務省「ふるさと納税ポータルサイト」
遺産を国や地方自治体、ボランティア団体やNPO団体に寄付することで税金の減額を受けるには、様々な要件を満たす必要があります。
分からないことがあれば税理士等の専門家が相談に乗ってくれますので、相続税対策を希望する人なども相談をしてみると良いでしょう。