相続税が払えないときの対処法

相続税は現金で一括納付することが原則です。しかし、現金がないと相続税を支払うことができません。

相続税が払えなくなってしまうケースと、そんなときの対処方法を解説します。

1.相続税が払えない3つのケース

最初に、「相続税が支払えないケース」を3つ挙げてみます。

1.期限までに遺産分割協議が成立しない相続税を支払う預貯金はあっても、相続税の納付期限までに遺産分割協議が成立していなければ、支払うことができません。
2.相続財産が不動産中心相続財産のほとんどが不動産で、預貯金など現金がなく相続税が支払えないケースです。多くの場合がこのケースにあたるでしょう。
3.不動産を取得した相続人に金銭がない相続財産に不動産と預貯金があり、全体としては預貯金で相続税が支払えるが、不動産と預貯金の相続人がはっきり分かれてしまい、不動産を相続する人には金銭がなく支払えない場合です。

これを簡潔にまとめると、次の2つの要因に分類されます。

  • ①遺産分割協議が成立していない
  • ②相続財産が不動産のため、現金がない

では、それぞれの原因について具体的な対策をご説明します。

2.相続税が払えないときの対処方法|➀遺産分割協議が不成立のケース

「期限までに遺産分割協議が成立しない」場合は、遺産の一部分割を行い、納税資金を作る方法が考えられます。

預貯金が充分にあるにもかかわらず、遺産分割協議が難航しているのであれば、申告期限までに相続税の納付金額分の遺産分割協議だけでも済ましてしまうことを検討しましょう。

遺産の一部分割は、以前から行われていましたが、民法改正によって法律上も認められるようになりました(民法907条1項)。一部だけであっても遺産分割協議が成立することで、預貯金口座の凍結も解除することができ、相続税の納付が可能になります。

ただし、残った相続財産については、いずれ遺産分割が必要になるのは避けられません。その場合、一部分割を残りの相続財産の分割にどのように反映させるかが問題となります。

一部分割を行う際には、相続に詳しい専門家にあらかじめ相談することをお勧めします。

3.相続税が払えないときの対処方法|②手持ちの現金がない

  • 相続財産が不動産中心
  • 不動産を取得した相続人に金銭がない

などの理由で、手持ちの現金がないというケースが最も多いのではないでしょうか。

相続税を支払う金銭が準備できない場合は、相続する不動産を売却する、金融機関から借用する等を検討することになります。

3-1.不動産を売却して金銭で支払う

物納する場合は相続税評価額で納めるので、市場価格の70~80%となることが多く、そのため、不動産を市場価格で売却した⽅が、物納に比べて、お⾦が残りやすいと言えます。

一方で、相続税は納税期限が決められているため、不動産を買い叩かれるリスクがあり、売買に時間がかかれば、相続税の納税期限に間に合わないリスクもあります。

また、不動産の売却によって譲渡税がかかる場合もあり、売却時にかかる税⾦も考慮し、納税資⾦を検討する必要があります。相続税の取得費加算の特例という譲渡税を低くするための特例も設けられており、併せて検討すると良いでしょう。

関連記事
相続税の取得費加算とは?不動産の売却は生前と死後のどっちがお得?
相続した財産を売却する際にも、譲渡益に税金がかかります。しかし、相続で財産を取得した場合には、その相続税の一部を譲渡…[続きを読む]

3-2.銀行から借りた金銭で支払う

銀行から融資をしてもらう方法には、次の2つの方法が考えられます。

  • 不動産は売却せずに、ローン返済
  • 不動産を売却する前提で、一時的に借用

銀行融資は場合によっては、⾦利が、相続税を延納する場合の利⼦税より低くなることもあります。

また、相続不動産を売却することが前提であれば、売却代金で⼀括返済することができる短期融資となるため、銀行にとってはリスクが少なく、⾦利等の融資条件が良くなる可能性があります。

4.相続税が払えないときの対処方法|③延納・物納

相続税の一括納付が難しい場合には、遺産の売却や銀行融資以外に、延納、物納といった方法も考えられます。

4-1.延納

延納とは、相続税の支払いを金銭で支払えない場合に、相続税を最⻑20年に分割して⽀払う⽅法です。

次の条件をすべて満たすときに、延納申請をすることができます。

  • 相続税額が10万円を超えること。
  • 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
  • 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること。
    ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はない。
  • 延納申請に係る相続税の納期限または納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。

延納をするには、不動産、国債や社債、株式といった有価証券などを担保として差し⼊れないといけません。
また、延納をする場合は、利⼦税を別途支払う必要があります。

延納の利子税の割合は、不動産等の割合や、延納をする財産によって異なり、令和4年1月1日時点、次の表の「特例割合」のようになっています。
不動産の割合は75%以上で、家屋・宅地等の不動産であれば、0.4%です。

延納利子税

【出典】国税庁:No.4211 相続税の延納

延納の件数はかなり少ない

国税庁の統計データ「相続税の延納処理状況等」によると、令和3年度の申請数は1,095件、許可数783件となっています。

相続税が課税された相続税申告の件数は、令和3年分で134,275件ですので、延納の割合はかなり少ないことがわかります。

相続財産の売却や、現金の借入が不可能という状況でないと、延納は難しいかもしれません。

関連記事
相続税 延納
相続税を延納するには?要件、手続き、申請の際のポイントを解説!
税制改正により、相続税を支払わなくてはいけない方の数も増えています。「相続することになったが、期限までに相続税を払う…[続きを読む]

4-2.物納

物納とは、相続税の⽀払いが延納の⽅法をとっても払えないときに、代わりに土地などの不動産や有価証券などで⽀払う⽅法です。

次の条件をすべて満たすときに、物納申請をすることができます。

  • 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。
  • 物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産および順位(1から5の順)で、その所在が日本国内にあること。
    1 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
    2 不動産および上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
    3 非上場株式等
    4 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの
    5 動産

物納の件数は非常に少ない

国税庁の統計データ「相続税の物納処理状況等」によると、令和3年度の申請数は63件、許可数39件となっています。

物納の申請件数も許可件数も年々減っており、許可件数は非常に少ないことがわかります。

関連記事
相続税を「物納」するには?|要件やメリット・デメリットを解説!
相続税をどうしても払えない場合、一定の要件を満たせば相続財産をそのまま国に納めるいわゆる物納といった手段をとることが…[続きを読む]

5.相続税が払えないときの対処方法|④相続放棄

相続放棄は、本当に相続税が払えなくてどうしようもないときの最終手段です。

相続放棄すると、相続放棄した相続人は、被相続人の借金の返済の必要がなくなるうえに、相続税を支払う必要がなくなります。

しかし、相続人の一人が放棄しても、全体の相続税額は変わらないので、他の相続人の相続財産が増えて、その結果、その相続人の相続税が増えてしまいますので、根本解決にはなりません。

相続人が全員放棄すれば相続税納付の必要がなくなりますが、受け取れるはずの相続財産も受け取れなくなります。

相続財産評価額以上に課税されることはありません。通常、相続税を払っても相続財産は残りますから、相続放棄は得策ではありません

よほど特殊なケースでない限り、相続税が払えないからという理由で相続放棄をすることはないでしょう。

6.自己破産しても相続税の納付義務は免れない

相続放棄をすれば、とりあえず相続税の納付義務を免れることはできます。

しかし、相続税が払えないからといって、自己破産を選択するのは間違いです。

確かに、自己破産は借金がある場合には有効です。しかし、税金は、非免債権であり(破産法253条)、自己破産しても、納付義務を免れることはできないからです。

そもそも、相続税が発生するほどの財産があるのであれば、自己破産そのものが認められない可能性が高いでしょう。

相続税が払えない場合には、ここまでに解説してきた方法をご検討ください。

まとめ

「相続税が支払えないかも」と思ったら、まず、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例・不動産評価などを再度見直し、また、可能なら他の専門家からのセカンドオピニオンをもらい、相続税そのものを少なくする工夫をしましょう。

それでも、手持ちの資金や相続財産の金銭が少なく、相続税が支払えない場合は、不動産の売却や、銀行からの借入など別の形で金銭を準備して支払う検討を行うことになります。

いずれにしても、「相続する不動産を保持するのか売却するのか」の方針を決めて、その方針のもと、準備するのが良いでしょう。

超低金利時代ですから、延納の利子税が銀行融資より低金利の場合もあるでしょう。また、市場での売却が難しい不動産(不整形、崖地など)を相続する場合は物納の方が向いている場合もあるかもしれません。

延納や物納のオプションも捨てずに、相続に強い税理士と一緒に、ベストの方法を選択できるようにしましょう。

相続税のセカンドオピニオンを求めることができる相続税に強い税理士事務所は、以下から検索可能です。是非、ご活用ください。

よくある質問

相続税が払えないのはどんな場合?

次のような場合、相続税は払えません。

  • 遺産分割協議が完了していない
  • 相続財産が不動産で現金がない

詳しくは、こちらをご覧ください。

現金がなくて相続税が払えないときの対処方法は?

通常、相続した不動産の売却、または金融機関からの借入のどちらかで、相続税を支払うための現金を捻出します。

詳しくは、こちらをご覧ください。

相続税に強い税理士が問題を解決いたします

相続税申告は税理士によって力量の差がはっきりと現れます。
相続税について、下記のような不安・課題を抱えている方は、相続税に強い税理士にご相談ください。

  1. 相続税をなるべく安くしたい
  2. 税務調査が怖い
  3. 評価が難しい土地がある
  4. 相続関連のいろいろな手続きが面倒で困っている
  5. 生前対策をしたいが、何をしたら良いかわからない

相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、税理士はあなたの味方になりますので、まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

【無料】今すぐお問い合わせ 0120-897-507 受付時間 : 平日10:00~19:00
お問い合わせ 受付時間 : 平日10:00~19:00
この記事が役に立ったらシェアしてください!
監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
プロフィール この監修者の記事一覧

あなたへおすすめの記事