空き家を民泊にしたら相続税対策になるか?

 2020年の東京オリンピックに向けて、外国人観光客が急増しています。外国人が訪れる旅行のことを「インバウンド」といい、インバウンドに関わる消費が増大しています。
こうした動きは、一つの国家施策でもあり、政府は今後2020年までに来日する外国人の数を今の2倍近くまで引き上げることを目標として掲げ、さまざまな取り組みを行なっております。

そんな中、今非常に注目を浴びているのが「民泊」です。民泊とは、簡単に言うと一般の民家に他人を宿泊させることを言います。
ただ、最近よく聞く「民泊ビジネス」とは、自分が居住している家に旅行者を招くのではなく、所有している貸家やアパート、マンションの一室などを民泊と位置づけて貸し出すことを意味しています。

似たような言葉に「民宿」がありますが、民宿は事業として継続的に部屋を貸し出す行為のため、民泊とは異なります。民泊はあくまで、一時的に部屋を貸し出すというのが建前となります。

そこで今回は、今話題の民泊について、法制度や税金の観点から、また相続税対策に使えるのかどうか、詳しく解説したいと思います。

1.民泊を活用すれば、空き家問題は解決する?

今民泊が注目を集めている理由の一つに、深刻化する空き家問題が見え隠れしています。というのも、実は日本に存在する民家のうち、人が継続して居住していないいわゆる「空き家」が平成10年以降右肩上がりに増え続けているのです。

一部の調査によれば、平成25年度時点で全国に820万戸もの空き家があり、住宅全体の13.5%も占めるという結果も出ています。これらの空き家は借り手もいなければ、買い手もいないという状況のため、これまでその存在が放置されてきた経緯があり、それによって老朽化した空き家が近隣住民に迷惑をかけてしまうという状況に陥ってしまっています。
そこでもしも民泊が今後広まれば、こうした全国に点在する空き家が民泊として再生利用できるのではないかと今期待され始めているのです。

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2.民泊ビジネスの2つのメリット

(1)安心できる民泊需要の存在

一般の普通賃貸住宅については、一部の都心部を除き人口減少傾向にあり、著しい供給過多の状態にあるため、今後の賃貸需要に黄色信号が点灯しています。これに対し、民泊の主要顧客である訪日外国人は、国家戦略の一貫でもあるということで増え続けており、民泊需要については今後しばらくの間はほとんど心配はいらないでしょう。

つまり、同じワンルームを所有していても、一般賃貸として貸し出すか、民泊として貸し出すかによって、その需要は全く異なってくるのです。

(2)民泊は高利回り高収益

民泊のメリットはなんと言ってもその高利回り、高収益にあります。

例えば、東京都内で相場家賃が6万円のワンルーム物件があるとします。
これを民泊として1泊4,000円で貸し出し、月間で20日間稼働したとすると、20×4,000円=8万円の収入になります。
また、民泊は宿泊する人が築年数にこだわらない傾向にありますので、古い貸家などでも十分に収益を上げることができるのです。

そのため最近では築数十年以上も経過したような古い民家を買い取って、民泊として貸し出している事業者も出てきています。
また、個人でもエアビーアンドビーなどの民泊サイトを使って、自分が所有しているアパート・マンションの一室を貸し出す事例も増えています。

3.民泊ビジネスの抱える2つの課題

課題1:追いついていない法整備

実は現時点で行なわれている民泊のほとんどは無許可営業であるケースがほとんどです。というのも、民泊については現状独自のカテゴリがなく、旅館やホテルと同様に旅館業法によって規制されています
要するに、一般賃貸の場合は国土交通省の管轄なのですが、旅館業法となると厚生労働省の管轄となり、全く別の規制がかかるのです。
ちなみに、2016年4月から旅館業法施行令の一部が改正され、営業許可に必要となる客室の最小床面積の制限が33㎡から3.3㎡まで一気に10分の1に緩和されました。これにより、一定の要件を満たせば都内のワンルーム物件でも営業許可を満たせるようになりました

このように、民泊を事業として営業できるようにしようという動きがある一方で、まだまだ課題も残されています。
例えば、現状のところ民泊として営業が許される日数は、「年間180日まで」という規制がなされる予定のため、もしもこれが予定通り施行されると、月間平均15日までしか営業できず、民泊最大のメリットである高収益が難しくなる恐れがあります。旅館やホテルなどの既存の業者らは、民泊に日数制限をかけるように働きかけていますが、民泊という新しいビジネス形態で拡大を目指す不動産業者やIT業者らは日数制限に反対しています。
この辺りのバランスをどう取るのかは今後の課題と言えるでしょう。

また、一部の自治体では規制緩和により民泊が合法的に許可される制度がありますが、条件がかなり厳しいという声があがっています。たとえば、国家戦略特区の規制緩和により民泊が可能になった東京都大田区では、「1人の客につき7日以上(6泊7日)の宿泊」、「民泊用の物件の床面積は25㎡以上」などを条件に民泊を認めていますが、6泊7日連続して宿泊する観光客はごく少数と思われます。

課題2:近隣住民による民泊反対の動き

民泊は貸し出す側のビジネス的には非常に魅力がありますが、近隣住民にとってみればマイナスしかないというのが現状です。最近ニュースでも、民泊宿泊者がベランダからゴミを投げたり、共用部分を汚したりなど、生活態度の悪さがたびたび指摘されています。
今のところ、宿泊者と住民とのトラブルについては抜本的な解決策がなく、町内会やマンション管理組合が独自に民泊禁止の規定を作り、自己防衛をせざるを得ない状況となっています。
今後民泊を一つのビジネスとして成立させるためには、地域住民との調整が最も大きな課題と言えるでしょう。

ただ、一棟丸ごと民泊物件に活用できるとか、住人が観光客を出迎えるのに好意的な状況であれば、うまく活用することで空き家を生かせる可能性もあります。日本人なら泊りたいと思わないような古民家でも、日本文化を体験するためにあえて古い家に泊ってみたいという外国人は意外に多いものです。そこに、地域の人との交流があれば、旅行者のオアシス的な存在として注目を浴び、外国の観光ガイドや旅行サイトに掲載されて活況を呈することもあり得ます。

4.民泊で貸し出した場合、相続税が安くなる?

所有しているアパートなどを一般の賃貸物件ではなく民泊として貸し出した場合、相続税の計算上、何か変化は起きるのでしょうか。
これについては、相続税の特例制度である「小規模宅地等の特例」が深く関わってきます。

通常、アパート経営をしている人がお亡くなりになり相続が発生すると、一定の要件を満たすことで「貸付事業用宅地等」に該当することとなり、アパートが建っている宅地に対して、200㎡までの部分の評価額を50%カットすることが認められています。
これに対し、アパート一棟を民泊事業に転換した場合はどうでしょうか。

旅館業法の営業許可を取得して合法的に民泊として営業すると、認識としては不動産所得ではなく、民泊事業と考えられるため「事業所得」となる可能性があります。
もしそうなれば、小規模宅地等の特例の適用にあたり、「貸付事業用宅地等」よりもさらに節税効果が高い「特定事業用宅地等」の方を適用できる可能性が出てきます。そうなれば、400㎡まで80%も評価額がカットできるようになります。

ただし、これはあくまで仮定の話であって、すべての民泊がこれに当てはまるとは限りません。旅館業法の許可を得て民泊をしているということは、旅館業法上は事業としてみなされるかもしれませんが、それが必ずしも小規模宅地等の特例の適用上も事業として税務署でみなされるかどうかは分かりません。
この辺りは、事前に相続税に強い税理士との協議が必要かと思われます。何しろ民泊経営者の相続はまだそれほど前例が多くないと思いますので、あまり安易に節税できると考えない方が良いでしょう。

まとめ

民泊事業は、今後日本の空き家問題やインバウンド外国人(訪日外国人)の宿泊先の確保などの社会問題を解決してくれる大きな可能性を秘めています。ただ、その一方で法整備の問題や近隣住民とのトラブルなど解決すべき課題も多いため、今後の動向に注視していくべきでしょう。

相続において民泊物件が対象になったケースもまだそれほどありませんので、税務署がこれからどういう対応方針を打ち出していくかもポイントになります。民泊を利用したら相続税対策になるかどうか現時点ではなんとも言い難い面がありますので、空き家や賃貸物件を利用して民泊を考えられている人は、税理士と連携をとりながら常に最新の情報を入手するようにすることをお勧めします。

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