自社株式の分散を防ぐ集中化策13種類

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事業承継時に自社株式が分散をしていると、後継者による今後の経営が危うくなる可能性が高まります。例えば意思決定がスムーズにいかなくなったり、経営権が買収されたりなどです。こうしたリスクを防ぐために「自社株式の集中化」が必要になります。

ここでは自社株式の集中化策として「①事業承継時に分散させない方法」「②分散状況を改善する方法」「③これ以上の分散を防ぐ方法」の3つに分類して紹介していきます。

①「事業承継時に分散させない」集中化策

企業経営者が亡くなった際、被相続人が自社株式を保有していると、その株式も相続財産として扱われます。その結果、後継者だけでなく、その他の相続人にも株式が分散する恐れがあります。そこでまず「事業承継時に分散させない集中化策」を紹介します。

(1)生前贈与によって「後継者」が株式を相続する

事業承継時に株式を分散させない方法として、まず「生前贈与」があります。生前贈与とは現経営者が生きている間に、自社株式を後継者に相続させる手続きです。生前贈与は現経営者が生前しているため、後継者の地位を安定的に確立しやすいメリットがあります。

しかし、複数人の相続人がいる場合は「遺留分」に注意しなければなりません。なぜなら、遺留分を侵害すると、他の相続人が株式以外の事業資産を相続する可能性があるからです。その結果、後継者が事業をしにくくなる恐れがあるため、手続きの際には遺留分に配慮をする必要があります。

(2)遺言によって「後継者」に株式を相続させる

事業承継で株式分散を防ぐ方法として「遺言」も考えられます。遺言とは被相続人が「誰に、どの相続財産を相続させるか」意思を示せる手続きのことです。遺留分に配慮が必要ですが自社株式を後継者に相続させられます。

ただし、遺言は相続人次第で撤回される恐れがあります。したがって、確実に後継者が自社株式を相続できるとは限りません。もし遺言書を作成するなら、弁護士や税理士などの専門家と相談をしながら作成するべきでしょう。

(3)経営者が「信託会社」に委託をする

事業承継開始以前に、経営者が信託会社に委託をしておく方法も考えられます。信託とは委託者(現経営者)と受託者(信託会社)が契約をして、委託者の指示のもとに株式の議決権を行使することを言います。この手続きであれば、信託契約終了時に確実に後継者へ株式交付がされます。

ただし、信託会社を利用するデメリットは、信託会社の利用コストが発生することです。委託者となる現経営者は、あらかじめ信託会社とよく相談をしておくことが大事となるでしょう。

なお、信託契約中は、後継者は受益者とされ、配当金などを受取る権利を有しています。

(4)経営者が「資産管理会社」に株式譲渡する

後継者が「資産管理会社」を設立し、そこに現経営者が株式譲渡する方法も、株式分散をさせない有効手段です。資産管理会社とは後継者が設立する持株会社のことで、この会社が現経営者の自社株式を購入します。法的に譲渡手続きができるため、安心して後継者に株式移転ができます。

しかし、資産管理会社を設立し運営するには、多額の費用が必要です。また経営者から株式を購入する場合にも費用が必要であるため、資金調達面で苦労をする可能性が高い方法です。

(5)会社が「経営者」から株式を購入しておく

事業承継が始まる前に、会社が現経営者から自社株式を購入しておくことで、相続財産に含まれるのを防ぐことができます。以前は会社が自社株式を持つことは禁止されていましたが、会社法の改正により現在では持つことが可能です。したがって、あらかじめ会社が自社株式を購入しておけば、自社株式を分散させる心配が起きません。

ただし、会社が自社株式を購入する場合は財源規制を受けることとなります。基本的には分配可能額(当期純利益など)の範囲内でしか購入はできないので注意が必要です。

②「分散状況を改善させる」集中化策

すでに株式分散が起きている場合には、後継者もしくは会社の株式数を増やすことで議決権の集中化を図ることができます。

★後継者の株式数を増やす方法

後継者自身が株式数を増やす方法としては2つがあります。

(6)後継者が「他の株主」から株式を買い取る

後継者が自社株式を売却してくれる株主を探し、売買契約を結び、買い取ります。分散状況を改善させる手段の中では、後継者と他の株主の二者間取引となるため最もシンプルな方法と言えるでしょう。

ただし、必ずしも株式を保有する株主が、後継者に対して友好的であるとは限りません。したがって、売買契約が簡単には成立しないケースも見られる点に注意が必要です。

(7)後継者に「新株の第三者割当発行」をする

新株の第三者割当発行とは、特定の第三者(後継者など)に対して株式を募集する増資方法のことを言います。第三者割当発行をすると後継者の株式数を増え、議決権割合を高める効果が期待できます。

なお、第三者割当発行をする場合は、株主総会の「特別決議次項」にて3分の2以上の賛成を確保する必要があります。裏を返すと、後継者とその協力者で3分の2以上の賛成を確保できない場合は、実施するには難しい手段になる恐れがあります。

★会社の株式数を増やす方法

会社が株式数を増やす方法には3つの手段があります。

(8)会社が「他の株主」から株式を買い取る

会社が自社株式を売却してくれる他の株主を見つけ、売買契約を締結して、株式を買い取ります。会社が購入すると、その株式分の議決権をなくすことができます。したがって、後継者の議決権割合を高められることにつながります。

ただし、会社が株式を購入する場合は株主総会での「特別決議」が必要になります。つまり、出席株主の3分の2以上の賛成がない場合には、買取ることはできません。そのほか、購入できる限度が定められており、分配可能額(当期純利益など)を超えての買取りは不可能になっています。

(9)既存株式へ取得条項を付与する

既存株式へ取得条項を付与するとは、現在発行している普通株式を「取得条項付株式」へと変更することを意味します。取得条項付株式は、一定の自由が生じた場合に会社の意思だけで株主から自社株を買い取ることができる制度です。したがって、後継者の議決権割合を高められます。

ただし、既存株式へ所得条項を付与するには、株主総会での「特別決議」を経る必要があります。また、現株主全員の合意が必要になるため、簡単には手続きを取ることができません。

(10)会社が「相続人」に株式の売渡請求をする

現経営者が亡くなった際に、被相続人が分散対策をしていなければ、自社株式が後継者以外の相続人へ相続されることもあります。こうした場合に株式の売渡請求権規定を設けることで、会社が相続人から自社株式を購入することが可能になります。

ただし、定款に売渡請求権規定を設けるには、株主総会で「特別決議」が必要です。また買い取りできる株式は譲渡制限株式に限られます。したがって、定款変更をして売渡請求権の規定を設けることは、ハードルが高いことと言えます。

③「これ以上の分散を防ぐ」集中化策

後継者の経営を安定させるには、将来的に自社株式が分散しないように防止策を売っておく必要もあります。そこでこれ以上の分散を防ぐ集中化策を説明します。

(11)発行株式を「株式譲渡制限」にする

株式譲渡制限とは株式総会、または取締役会の承認なしに株式譲渡ができないようにする手続きです。株式譲渡制限を設定すれば、自社株の購入者を後見者や会社に指定することができます。その結果、株主による自由な株式移転がされなくなることで、自社株式の分散を防げるようになります。

なお、株式譲渡制限をするには株主総会にて「特別決議」を経る必要があります。定款変更が必要になるため、すでに株式分散が進んだ会社で設定することは難しいかもしれません。

(12)社員持株会を設立する

社員持株会とは、社員によって構成される自社株を保有・管理・運用する組織のことです。社員持株会を設立すれば、経営者などが持つ自社株式を持株会に譲渡することが可能になります。その結果、自社株式を社外へ流出させずに済むようになります。また、持株会の理事長を経営者、または後継者にしておくことで議決権の行使もできます。

社員持株会の会員になった社員は「持分」という形で株式を保有します。社員への会社への帰属意識が高ったりモチベーションがアップするという効果も期待できます。

なお、社員持株会を設立すると、従業員に配当金を支払う必要があります。資金繰りが厳しい会社で持ち株会を設立すると、経営の先行きを不安なものにしてしまう可能性もあるので注意してください。

(13)種類株式を設定する

種類株式とは、普通株式とは異なる権限が付与された株式のことです。例えば、すでに説明済みの「取得条項付株式」や、「議決権制限株式」、「拒否権付株式(黄金株)」があります。

まず「議決権制限株式」とは、議決権の全部または一部を制限されている株式です。この株式を有する株主には議決権がなく、配当を受ける権利のみを有します。

また「拒否権付株式(黄金株)」とは、議決権の中で最も強い権力を持つ株式で、決議の全てを拒否することができる株式です。決議の賛成こそ出来ないものの、議決の大部分をコントロールすることができます。

なお、これらの種類株式を導入するには株主総会での定款変更の決議が必要です。したがって、出席株主の3分の2超が賛成していない場合は、導入できないので注意しましょう。

自社株式の分散を防ぐ集中化策のまとめ

事業承継で大きくウエイトを占める関心事が「後継者が安定して経営ができるのか」どうかです。安定した経営環境を保つためには、自社株式の分散を防ぐことが重要です。自社株式の集中化策は一朝一夕ではいきませんので、現経営者が事業承継までに時間をかけてじっくりと取り組む必要があります。
自社株式の分散を防ぐ集中化策にはいろいろな方法があり内容が高度なため、事業承継に詳しい弁護士や税理士、中小企業診断士などの専門家にアドバイスを求めることをお勧めします。

分散を防ぐ(1)生前贈与によって「後継者」が株式を相続する
(2)遺言によって「後継者」に株式を相続させる
(3)経営者が「信託会社」に委託をする
(4)経営者が「資産管理会社」に株式譲渡する
(5)会社が「経営者」から株式を購入しておく
分散状況を改善(6)後継者が「他の株主」から株式を買い取る
(7)後継者に「新株の第三者割当発行」をする
(8)会社が「他の株主」から株式を買い取る
(9)既存株式へ取得条項を付与する
(10)会社が「相続人」に株式の売渡請求をする
さらなる分散を防ぐ(11)発行株式を「株式譲渡制限」にする
(12)社員持株会を設立する
(13)種類株式を設定する

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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