障がいを持つ子供のための非課税制度「特定贈与信託」
障がい(心身障がい・知的障がい・精神障がい等)を持つ子供の親は、自分が亡くなった後の子供のことが大変心配です。子供が自分で働いて収入を得ることが難しかったり、仕事があってもわずかしか収入がない場合は、なんとかして子供のためにお金を残してあげたいと思うでしょう。
ただ、普通に贈与すると贈与税がかかりますし、亡くなってからの相続だと相続税がかかります。子供の名義の預金口座にせっせと貯蓄している人もおりますが、残念ながらこれでは子供の財産にはなりません。口座名義は子供でも出したお金は親のものですから、相続時に相続財産としてみなされてしまいます。
そこで有効な手段となる制度が「特定贈与信託」です。特定贈与信託を利用すれば、6,000万円または3,000万円の贈与税の非課税枠が設けられ、障がいを持つ子供に多くの財産を渡すことが可能になります。また、そのお金の使い道も子供の生活の安定のために限定することができます。
目次
1.特定贈与信託とは?
1-1.特定贈与信託とは「障がい者のための信託」
特定贈与信託は、特定障害者の生活を維持・安定を図ることを目的としてできている信託サービスです。特定贈与信託を利用すると「6,000万円」もしくは「3,000万円」を限度として贈与税を非課税にすることができます。
なお、「信託」とは何か?については、下記を参照ください
1-2.特定贈与信託は「使用使途が限定される」
高い節税効果が得られる特定贈与信託ではありますが、利用上の注意点もあります。それは「受託金の使用使途が限られる」点です。特定贈与信託は、あくまで「障がい者の生活の安定を図ることを目的とした信託」ですから、受託金は最低限の生活費や治療費にしか使えないことを覚えておきましょう。
2.特定贈与信託の仕組み
特定贈与信託は信託契約と同様で、委託者・受託者・受益者の3者間による契約にて成り立ちます。簡単に契約の流れを見ますので、3つのステップを押さえておきましょう。
(1)信託契約の締結
委託者(被相続人)と、受託者(信託銀行)で「特定障害者扶養信託契約」や「特定贈与信託契約」などの締結をします。また、信託契約時に、委託者の財産を受託者に預けいれます。
この契約を結ぶことで特定贈与信託とみなされるようになります。そして、この時点で「みなし贈与」がされたと判断され、受益者は税務署に「障害者非課税信託申告書」を提出します。
(2)財産の管理・運用
受託者(信託銀行)は、委託者から預かった財産(主に金銭)を管理・運用します。この管理・運用は信託契約にて締結された信託目的に従って行われます。なお、場合によっては、信託会社が運用をするため元本割れする恐れもあります。
(3)受益金の給付
受託者(信託銀行)は3か月、あるいは6カ月といった一定期間ごとに、受益者(特定障害者)に対して受益金を給付します。なお、この受益金は先に説明したとおり、障がい者本人の生活費か治療費のいずれかにしか使えません。
3.非課税限度額と対象者の範囲
特定贈与信託では、6,000万円、もしくは3,000万円の贈与税の非課税枠が設けられています。どちらに該当するかは対象者の障がいの範囲によって決められています。
3-1.「特別障害者」は非課税限度額が6,000万円
特定贈与信託の非課税限度額が6,000万円に該当するのは、次に紹介するいずれかの「特別障害者」です。
(2)1級精神障害者保健福祉手帳所有者
(3)1級、2級身体障害者手帳所有者
(4)特別項症から第3項症までの戦傷病手帳所有者
(5)厚生労働大臣の認定を受けた原子爆弾被爆者
(6)常に就床を要し、複雑な介護も要する方で、その程度が(1)もしくは(3)に準ずると福祉事務所長の認定を受けている者
(7)65歳以上で、(1)もしくは(3)に準ずると市区町村長、もしくは福祉事務所長の認定を受けている者
これらのいずれかに該当する場合には、「特別障害者」として、6,000万円の非課税が認められています。
3-2.「特定障害者」は非課税限度額が3,000万円
特定贈与信託の非課税限度額が3,000万円に該当する人は、次の「特定障害者」です。
(2)精神障害者保健福祉手帳所有者
(3)65歳以上で、(1)に準ずると市区町村長、もしくは福祉事務所長の認定を受けている者
これらのいずれかに該当する場合には、「特定障害者」として、3,000万円の非課税枠を利用できます。
4.特定贈与信託の注意点
4-1.信託はいつまで続く?終了したらどうなる?
特定贈与信託は、受益者である特定障害者が死亡する日まで続きます。あらかじめ信託期間を定めることはできません。
そして、特定障害者が死亡して信託が終了すると、残った財産はその人の相続人にに引き継がれます。
もし、信託する際にボランティア・障がい者団体や社会福祉施設等を指定しておくと、残った財産を寄附して他の障がい者のために活用することもできます。
4-2.信託できる財産は現金など換金性の高いもののみ
特定贈与信託では、受益者に定期的に金銭を交付する必要がありますので、信託できる財産は、下記のような収益を生じる財産や換金性の高い財産に限られます。
- 金銭
- 有価証券
- 金銭債権
- 立木および立木の生立する土地
(立木とともに信託されるものに限る) - 継続的に相当の対価を得て他人に使用させる不動産
- 受益者である特定障害者が居住するための不動産
(上記の財産のいずれかとともに信託されるものに限る)
4-3.信託に関わる費用がかかる
信託では受託者(信託銀行)が財産・運用をしますので、信託報酬や手数料などの費用が発生します。これらの費用は、信託契約時に決められ、信託財産の中から随時差し引きます。
4-4.運用収益に対する税金
有価証券等を運用して収益が発生した場合は、受益者である特定障害者の所得となり、所得税が課税されます。ただ、もともと、運用で資産を増やすことを目的とした信託ではありませんので、それほど気にする必要はないでしょう。
4-5.信託手続きに必要なもの
委託者、受益者、それぞれ次のものが必要になりますが、詳細は契約される信託銀行等にお問い合わせください。
- 委託者:信託する財産、印鑑
- 受益者:障害者非課税信託申告書、特定障害者の区分に応じた証明書、住民票、印鑑等
まとめ
障がい(心身障がい・知的障がい・精神障がい等)を持つを持つ子供に財産を残すのであれば、「特定贈与信託」が有効な手段です。
もちろん、相続税でも「障害者控除」が用意されてはいますが、障害者控除では最大(0歳児の特別障害者)でも「1,700万円」にしかなりません。
一方、特定贈与信託であれば6,000万円または3,000万円の非課税枠を受けられます。
ただ、特定贈与信託だけが全ての方法ではありません。特定贈与信託は信託銀行で取り扱っていますが、相続税・贈与税などの一般的なアドバイスを受けるために、まずは税理士に相談をすると良いでしょう。相続財産の内容や他の相続人との関係次第では、他にももっと良い方法があるかもしれないからです。