社内承継(MBO)での買収資金の解決策:SPC(特別目的会社)を利用
事業承継の方法の一つとして、社内の役員や従業員に承継させる「社内承継」があります。社内の事情をよく理解している役員や従業員に承継するため、第三者への売却の場合と比較して、スムーズに承継を進めやすいという利点があります。
一方で、大きな問題となるのが、株式の買取資金です。中小企業の場合、株式の買取額は会社の業績に応じて数千万円から数億円程度に達しますが、役員個人がこれだけの多額のお金を用意できません。その解決策の一つとして、受皿会社となるSPC(特別目的会社)を設立し、現オーナーがその受け皿会社に株式を譲渡するという方法があります。
役員が事業を承継することを「MBO」と呼んだりしますが、MBOの概念を解説するとともに、株式の買取資金対策として有効なSPCの設立について触れます。
目次
社内承継(MBO)の基本と課題
MBOは経営陣(役員)による事業買収手段
MBOは「Management Buy-Out」の略で、日本語では「経営陣買収」と訳されています。すなわち、経営者が所有している株式を、役員に譲渡することで事業継承を成立させる手段のことを言います。
経営陣に株式を譲渡して事業継承ができるようになると、企業内でリーダーシップを発揮できたり、経営手腕が高い人を後継者に選出できます。また、企業事情に詳しい人が次期経営者になることで、従業員や取引相手などのステークホルダーも安心できます。
なお、株式を購入する人が経営陣ではなく、従業員の場合は「EBO(Employee Buy-Out)」と呼ばれ、「従業員買収」と訳されます。また経営陣と従業員が一緒になり株式購入する場合は「MEBO」呼ばれます。
MBOは「資金調達」に最大の課題がある
MBOを実施するに当たって最大の課題は「買収資金」の問題です。
MBOの仕組みは既に説明したとおりで、経営陣が現経営者の株式を購入することで成立できます。けれども、買収するには莫大な資金を投じる必要があります。特に、経営権を掌握するだけの株式(3分の2以上)を取得するとなると、資金調達が最大の課題になってしまうのです。
そこで、この問題を解決するために、受皿会社を設立してその企業に買収させる方法が誕生しました。受皿会社は事業を行う会社ではなく、特別の目的のために設立される会社であり「SPC」と呼ばれます。
SPC(特別目的会社)の活用スキーム
SPCは資金調達を目的とする会社
SPCは「Special Purpose Company」の略で、日本語では「特別目的会社(特定目的会社)」と訳されます。社内承継(MBO)に当たって設立されるSPCは、特別目的でもある「資金調達」のためだけに設立をされる法人です。したがって、SPCが事業展開をして収益をあげるようなことはなく、いわゆるペーパーカンパニーと言えます。
SPCを設立することで、経営陣は個人の信用ではなく、法人としての信用によって金融機関から資金調達ができるようになります。その結果、MBOの最大の課題である莫大な買収資金を調達できるようになります。
SPCを用いて事業継承する4つのステップ
SPCを設立し、実際にMBOを成功させるためには次に説明するスキームに従うことになります。4つのステップに分かれるので1つずつ確認をしていきましょう。
②金融機関から融資を受ける
③対象企業の株式を購入する
④対象企業と合併する
まず初めに「①SPCの設立」をします。基本的には事業継承をする経営陣(役員)がSPCを設立することになります。なお、SPC(特別目的会社)といえども立派な法人で各種の法務・税務が発生しますので、SPC設立に当たっては、顧問弁護士あるいは顧問税理士等に相談をしながら進めるといいでしょう。
次に「②金融機関から借入」をします。このステップが、今回の最大の山場です。金融機関は対象企業の成長性や財務体質などによって、SPCに資金調達をするか判断します。したがって、対象企業次第では融資が断られる可能性もあるので注意してください。
3つ目に「③対象企業の株式購入」です。現経営者から株式を購入し経営権を掌握します。なお、購入に当たっては会社法の規定に従うようにしてください。
最後に、対象企業を存続会社として、「④対象企業と合併」をします。そして、合併後に対象企業が借入金の返済をすることで、一連の流れが完了となります。
SPCを活用することのメリット・デメリット
SPC(特別目的会社)を活用するメリットとデメリットについて触れておきます。これら2つをよく理解した上で、SPCを活用するかどうか判断すると良いでしょう。
メリット:SPC設立によって社内承継(MBO)が成功しやすい
SPCを設立してMBOをすることの最大のメリットは、「社内承継(MBO)が成功しやすくなる」ことが挙げられます。MBOの最大の課題は、株式を買い取るための資金調達にありますが、SPCを設立すれば、金融機関やファンドから融資や投資を受けやすくなります。
また、後継者になる役員への負担が少ない点も挙げられるでしょう。役員が個人で株式購入をして、事業継承をすることは実質的に困難です。しかし、SPCであれば役員個人への負担にはなりませんので、安心して事業継承に踏み切れます。
デメリット:必ずしも資金調達できる訳ではない
SPCを設立したら「資金調達の問題がクリアする」と考えている人もいるかもしれません。しかし、必ずしも資金調達ができるわけではないのでご注意ください。なぜなら、最終的には事業会社が借入金の返済をします。したがって、事業会社に返済能力がない場合には、たとえSPCを設立しても金融機関から融資を断られる可能性があるからです。また、融資を受ける際には、SPCを設立した役員個人の連帯保証を求められる可能性が高いです。借り入れるのは会社とはいえ、役員個人の収入や資産状況、健康状況、人柄などもチェックされます。
また、SPCを活用してMBOをする場合、事業会社の現金が減ることになります。間違った運用をすると事業経営を危うくする可能性があります。そのため、顧問税理士や経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナー等の専門家と一緒になり進める必要があります。
社内承継(MBO)とSPC(特別目的会社)の利用のまとめ
社内承継(MBO)は事業継承の1つの方法であり、優秀な役員(従業員)に事業を引き継がせることができますが、株式を買い取るための資金調達の課題があります。そこで、SPC(特別目的会社)を設立して金融機関から融資を受けることで、買収資金を確保し事業継承をスムーズに進めることができるようになります。
なお、SPCの設立および対象会社との合併に当たっては、法律や税務の問題も絡んできますので、必ず税理士や弁護士などの専門家に相談をしながら進めることを強くお勧めします。