相続税の税務調査の1日、税務調査官はここを見ている!

調査

 相続税の税務調査は通常は1日、終わらなければ2日間にかけて行われます。ここでは1日で終わるとして、税務調査がどんな具合で行われるのか、税務調査官はどこを重点的に見ているのかを紹介します。
なお、一つの事例であり、実際の税務調査では異なることもありますので、あくまでもご参考として下さい。

1.相続税の税務調査 午前:質疑応答

1日の税務調査の場合、午前と午後に分かれて行われます。午前中は、家族への質疑応答になります。時間帯は午前10時~12時くらいです。

おおよそ2名程度の税務調査官(税務署職員)が指定された日時に自宅にやってきます。だいたい時間きっかりに訪問してきます。時間ぴったりなのは、さすが税務調査官というところでしょうか。

相続税調査のために自宅に訪問してきた税務調査官は、まず身分証明書を提示します。税務署職員であることを示すためです。昨今では、税務署職員を装って「税金を払ってください」とだましてお金を奪うケースもありますので、ご注意ください。

税務調査は世間話から始まる

早速、本題に入ると思いきや、まずは和やかなムードで世間話から始まります。税務調査ということでご家族は緊張されており、その緊張を解きほぐすという側面もありますが、実は、この世間話は調査の一貫であり、被相続人や相続人に関するいろいろな情報を聞き出します。

被相続人について

まずは、被相続人について、いろいろ質問されます。
被相続人の死亡した原因、病気のときは病状、入院先、入院期間を聞かれます。通常、ありのままの事実を回答すれば大丈夫ですが、被相続人がずっと病気で入院していたはずなのに預貯金から引き出しがあった場合などでは、誰か別の人が引き出したのではないかと疑われることになります。

さらに、被相続人の家系、職歴や居住地の移り変わり状況、性格、交友関係、お金遣い、趣味などについて順次質問されます。
職歴やお金遣いの質問で重要なのは、被相続人の財産がどうやって築かれたかです。被相続人が努力して働いて自分で築いた財産なのか、それとも、過去に相続や贈与で得た財産なのかをチェックされます。もし贈与を受けたのに贈与税の申告がされていなければ指摘事項となりますし、多額の所得があったにもかかわらず所得税申告が正しくされていなければ追徴課税の可能性があります。

趣味は意外に重要なポイントです。たとえば、趣味がゴルフだった場合、ゴルフ会員権を所有していた可能性がありますが、相続税申告書にゴルフ会員権の記載がない場合には、疑われることになります。

交友関係も意外な盲点です。被相続人に愛人がいた場合、後で調査したら愛人が生命保険金の受取人になったいたというケースもあります。そんなことは家族ですら知らずに驚きですが、生命保険金はみなし相続財産として相続税の課税対象になりますので、支払うべき相続税が増えてしまうのです。

ほか、被相続人の財産を誰が管理していたのかも質問されます。被相続人が入院していたり認知症であった場合、管理していた相続人が勝手に預貯金を引き出して相続財産を少なくした可能性があるからです。被相続人が知らないうちに勝手に引き出した預貯金は贈与になりませんので、相続財産とみなされます。

相続人について

相談次に質問されるのは相続人についてです。
相続人の家族構成、職歴、収入の状況、持ち家の有無、過去の相続/贈与の状況、相続税の支払い元、取引先金融機関、貸金庫の有無などについて聞かれます。

職歴や収入の状況は重要なポイントです。相続人の収入に対して相続人の預貯金が多すぎる場合には、生前に贈与を受けている可能性があるからです。もし正しい贈与であれば贈与税申告なしを指摘される可能性がありますし、贈与と認められなければ、その分が相続財産に加算されます。
また、相続税を誰のお金で支払ったかもポイントです。自分自身のお金で支払っていれば良いのですが、それを別の人が肩代わりしている場合は、その人から相続人に対して贈与があったことになり、贈与税の課税の可能性があります。

さらに、取引先金融機関の情報も聞かれます。「○○銀行と取引はありますか?」と質問された場合、税務署では十分に調査のうえで質問してきますので、すでにその銀行の預金を調べられていると考えたほうが良いでしょう。被相続人の預金口座については、相続人も全て知らないこともありますので、正直に答えるようにしましょう。

税務調査官は昼食は外でとる

午前中の質疑応答が終わると約1時間くらいの昼休憩となります。税務調査官はいったん外に出て昼食をとります。気を利かして食事を用意する方もいらっしゃいますが、コンプライアンス上、出された食事を調査官がいただくことはありませんので、食事の準備は不要です。お茶とお菓子くらいであれば出しても構わないでしょう。

午前中の質疑応答の注意点

午前中の税務調査は意外にも和やかな雰囲気の中で行われますので、調査される家族の側も安心しきってしまうことがあります。ただ、それはなるべく多くの情報を聞きだしたいからであり、決して調査官が親切だからではありません。「税務調査って意外と普通なんだ」と思って、あれこれ必要以上に話してしまうと、後で突っ込まれることにもなりかねませんので、質問されたことだけを端的に回答し、余計なことは言わないように心がけたほうが良いでしょう。

また、故意に財産を少なく申告したり財産を隠している場合には、該当する財産について質問をされると、突然声を荒げて怒り出したり拒否したりする方もおりますが、「そこは怪しいです」と自ら告白しているようなものですので、止めたほうが良いでしょう。相続税の税務調査は査察(マルサ)のような強制力はなく、もちろん拒むこともできますが、何もやましいことがなければ通常拒んだりしませんので、その場はやり過ごしても後で間違いなく厳しく突っ込まれることになります。

あと、当たり前のことですが、嘘をついてはいけません。素人が生半可な知識で嘘をついてもばれてしまう可能性が大きいです。たとえば、贈与税の基礎控除額を利用して3000万円を30年間、毎年100万円ずつ贈与してきましたと答えたら、それは嘘だとわかってしまいます。なぜなら、贈与税の基礎控除額が110万円になったのは平成13年からで、それ以前は60万円だったからです。
記憶がないことをわからないというのはOKですが、嘘をつくことは故意であり脱税とみなされかねませんので、絶対にやめましょう。

2.相続税の税務調査 午後:現物確認

午後はいよいよ現物確認となりますが、税務調査官は午前中の和やかなムードとは打って変って、厳しく追及し始めます。時間帯は午後1時から5時くらい、場所は自宅から始まり、銀行の貸金庫まで行ったり、ときには、関係者の居宅まで赴いたりします。

現物確認のポイントは、午前中で話に出てこなかった財産が発見されるかどうか、また逆に話に出てきて現物が自宅にあるはずなのにないなどであり、午前中の話の内容と矛盾する点を徹底的に洗い出していきます。

通帳・印鑑

通帳・印鑑通帳・印鑑はお決まりの確認項目です。被相続人の通帳・印鑑および相続人の通帳・印鑑を一通り提示するように要求されます。
預貯金で問題になりやすいのは、名義預金と贈与についてです。名義預金とは、口座の名義は妻や子供など別の家族のものですが、中身のお金は被相続人の財産であるというものです。遠方に住んでいるはずの子どもや孫の通帳が自宅にあったり、印鑑が同じだったりすると、実質管理していたのは被相続人であり名義預金と疑われることになるでしょう。

印鑑も一つずつ印影をとられます。最初は朱肉を使わずに押しますが、そうすると、最近使われたかどうかがわかります。印鑑を使うたびについた朱肉を紙でふきとるような律儀な人であれば、最近使ったとしてもわからないかもしれませんが。

ところで、財産を隠したいために一部の通帳を出さない人もいますが、これは絶対に止めたほうが良いでしょう。なぜなら、税務署では調査に来る前に相当な時間をかけて口座情報等を調べ上げたうえで調査に来ているからです。すでに目星をつけられているのに提示せず後で発覚すれば隠匿とみなされ重加算税を課されるおそれがあります。
むしろ、通帳と印鑑はすべてきちんと揃えてすぐ出せるように準備しておいたほうが印象が良いかもしれません。

重要書類の保管場所/金庫

金庫など重要書類の保管場所も必ずチェックされます。金庫があれば金庫を開けるように言われ中を確認されます。不動産の契約書や権利証書、有価証券の取引明細書、保険証券、年金関連の書類、贈与契約書など細かく見られます。被相続人が何でも金庫にしまってしまう習慣があり、いろいろな書類がごちゃごちゃに混ざっていることもありますが、不要なものは別に分けておいたほうが懸命です。

ここではあるべきはずの証書がちゃんとあるか確認されます。もし、被相続人が子どもに長年贈与し続けてきたのであれば贈与契約書があるはずですが、それがないと贈与を否認される可能性が出てきます。

被相続人が戸棚や押し入れになどに重要書類を保管する習慣があれば、そのような場所も開けるように指示されます。税務調査は任意調査ですので、税務調査官が家の中を勝手に探しまわりタンスなどの引き出しを開けることはありませんが、拒否すれば疑われますので、通常は開けて中を見せることになるでしょう。

とはいえ、明らかに相続税の税務調査とは関係ない場所(家族の寝室や化粧道具箱)まで調査されるのは問題ですので、行き過ぎた調査が行われたときは、税務署に相談したほうが良いです。
この場合、税理士が同席していれば、きちんと理由をつけたうえで丁重に断ってくれるはずです。

その他の書類

そのほか、相続人の家計簿や手帳・電話帳、葬儀時の香典帳などもチェックされることがあります。
どんな人もすべてを頭で覚えておくことはできませんので、自分しか見ない身近なところに重要なことを記録しておくことがあるからです。まさかここまで見られないだろうとメモしておいたのが、ばれてしまうこともありますので注意しましょう(当然、故意に隠すことをしてはいけません)。

家計簿をチェックして、被相続人から家族が毎月もらっていた生活費が多く残っている場合は、その残りが相続財産とみなされることもあります。

家の中にある物からも判断

税務調査での情報源は直接家族に対するヒアリングだけではありません。家に訪れたその時から調査は始まっているといえ、家の外観や中にある物も情報源となります。
そこで、調査官はお手洗いを借りたついでに、家の中を歩き回りいろいろと確認します。

たとえば、金融機関からもらったカレンダーやタオルがあれば、間違いなくその金融機関と取引があったことになります。また、ゴルフクラブがあれば、ゴルフ会員権を所有している可能性がありますし、絵画や骨とう品があれば、それなりの価値があり相続財産に当たるかもしれません。
富豪や農家などで母屋とは別に小屋や倉庫があれば、そこも開けて中を見せるように要求されます。

金融機関の貸金庫

自宅の中の確認が一通り終わると、次は外での確認になります。
一番多いのは、金融機関にある貸金庫です。貸金庫を借りているくらいですから何か重要なものが入っていると考えるのは当然でしょう。相続人が同行したうえで金融機関に赴き貸金庫を開けて中身を確認します。

親戚の居宅

自宅にあるはずの物が自宅になく、「近くに住んでいる娘が持っています」と家族が答えた場合には、実際に娘さんの家まで行って確認することがあります。

たとえば、上でも挙げた贈与契約書ですが、自宅にはなく娘だけが持っていたという実例があります。通常、贈与契約書は2部作成し、贈与者/受贈者が一部ずつ持つべきですが、何かの間違いで受贈者である娘だけが持っていたケースです。この場合、娘の家が自宅から1,2時間程度の距離であれば、調査官は実際に娘の家まで行ってその贈与契約書があるのかどうかを確認します。

この例では、実際に娘の家に贈与契約書がありましたので事なきを得ましたが、実際には存在しないのに、いい加減な回答をすると、本当にあるかどうかきちんとチェックされますので、ご注意ください。

午後の現物調査の注意点

金庫税務署は調査に来る前にある程度怪しい箇所の目星をつけてきており、午後の現物調査ではそれを確認しようと厳しく追及してきます。相続税申告時に隠していた財産のほとんどはすでにばれていると考えて良いですので、指摘されたら素直に見せて間違いを認めたほうが良いでしょう。

相続人が被相続人の財産をすべて把握していたわけではありませんので、単純に知らなかったということであれば、10%または15%の過少申告加算税のペナルティですみますが、故意に隠していたとみなされれば、35%(平成29年以降は45%)の重加算税のペナルティとなってしまいます。

ただ、逆に正当な内容であれば、指摘に対して軽々と認めずに否定すべきです。たとえば、被相続人から息子に対する確かな贈与であるにもかかわらず、税務署から贈与でないと指摘された場合、「はい、そうです」とその場で認めてしまうと、それが調査記録に残り事実と認定されてしまい、後から覆すことは難しくなります。

贈与したことは確かですがその場で明確な証拠を出せない場合には、いい加減な回答をせず後から証拠を提出するということにすべきです。認めないと大変なことになると言って脅してくる調査官もいますが、日本は法治国家ですから、逆に贈与でないという明確な証拠がないにもかかわらず相続税を課税することはできません。その気になれば、裁判に訴えることも可能です。

なお、贈与契約書など実際には存在しない書類を後から勝手に作成することはNGです。勝手に契約書を作成すると、隠ぺい行為とみなされるばかりか、刑法159条での私文書偽造等罪にも問われ懲役刑の可能性もありますので、決して書類の偽造・変造等をしてはいけません。

3.税務調査に税理士が同席すると心強い

午前:質疑応答、午後:現物確認と税務調査の1日の様子を簡単に紹介しましたが、これを読んだとしてもほとんどの人は相続税の税務調査を体験するのは初めてですので、やはり不安が残ると思います。

そこで、税理士にお願いして税務調査に立ち会っていただけると大変助かります。相続税申告に慣れた税理士であれば何度も立ち会い経験がありますので、調査官からの質問にどのように回答したら良いかわかっていますし、どこまで回答してどこからは回答する必要がないかの線引きもしてくれます。

特に午後の現物確認では、調査官はなんとか課税をしようとグレーな箇所を突っ込んで厳しく迫ってきますので、慣れていないとつい認めてしまいがちですが、税理士が同席していれば、理不尽な要求に対しては税理士から拒否してくれます
下手に認めてしまったら何百万円もの追加の相続税が発生することもありますので、多少報酬をお支払いしたうえでも、税理士に同席をお願いしたほうが懸命でしょう。

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相続税申告は税理士によって力量の差がはっきりと現れます。
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相続発生前後を問わず、相続に関連する問題に対して、税理士はあなたの味方になりますので、まずは気軽に相談されることをオススメいたします。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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