生命保険金で税金!?相続放棄しても税金を納付すべき場合とは
「相続に関しては相続放棄をしたので、税金に関しても支払い義務がないはず…」 相続放棄を行なった場合、最初から相続につ…[続きを読む]
相続放棄をすると、被相続人の死亡に関するすべての財産を受け取れなくなると思われる方がいらっしゃいますが、それは違います。中にはこの事実を知らずに損をしている人もいるかもしれません。
今回は相続放棄をしても受け取れる財産について解説します。
相続放棄の対象になるとは、相続放棄したら受け取ることができない財産のことです。
反対に相続放棄の対象にならないということは、受け取ることができるということになります。
それぞれ解説します。
相続放棄の対象になり受け取れない財産は、「被相続人の財産」です。
例えば、被相続人の現金預金や、被相続人名義で登記されている不動産などがあります。
相続放棄の対象とならず、受け取ることができる財産は「みなし相続財産」です。
みなし相続財産とは、被相続人の財産ではないけれども、被相続人の死亡を起因として相続人のものになる財産のことをいいます。生命保険金や死亡退職金が代表的な例です。
相続放棄をしても受け取れる財産の種類を具体的に解説します。
生命保険金は被相続人が死亡することで、契約時に決めた受取人に生命保険金が支払われることになります。県民共済などの共済保険では死亡共済金という呼び方をしますが、扱いは同一です。
生命保険金は被保険者の財産ではなく、受取人の固有財産なので相続放棄をしているかどうかは関係なく受け取ることができます。
死亡保険金は、被相続人が勤めていた会社から死亡を理由に遺族へ支給される退職金で、生命保険金と同様の考え方をします。
ただし、受取人が被相続人であったり、受給権者が決められていない場合には、相続財産として扱われるため、相続放棄した後では受け取ることができません。
相続放棄する前に退職金規定などを確認し、「誰が受給権者なのか」を明らかにしておきましょう。
遺族年金は残された家族を支えるために支給されるものなので、遺族の財産です。被相続人の財産ではありませんで、受け取ることができます。
年金は後払い方式となっており、例えば1、2月分が3月に振り込まれる仕組みになっています。
被相続人が3月に死亡し、まだ年金が振り込まれていない場合には未支給年金が発生することになるのです。
被相続人に支給されるはずだった年金なので、一見、被相続人の財産のように思えますが、1995年(平成7年)11月7日の最高裁判決で、未支給年金の給付は相続とは関係なく特定の遺族に認められたものであるという見解が出ており、相続財産には含まれません。
未支給年金を受け取ることができるのは、次のいずれにも該当する人です。
企業からの年金を受給していた場合にも、考え方は同様です。企業年金に未支給の年金がれば、上記2-4.「未支給年金」を受け取れる条件に該当する人は、相続放棄に関係なく受け取ることができます。
また、残存期間分の年金については遺族が一時金として受け取ることができます。
相続放棄をしても受け取れる財産であっても、基本的に収益に対して税金がかかります。
上記のそれぞれの財産には、何の税金がどのくらいかかるのでしょうか。見てきましょう。
生命保険金にかかる税金は、保険契約者(保険料を負担する人)、被保険者(保険の対象になる人)、受取人(保険金を受け取る人)が誰で契約されているかによってかかる次の通り税金が変わります。
契約内容 | かかる税金 |
---|---|
契約者=被保険者 | 相続税 |
契約者=受取人 | 所得税 |
契約者≠被保険者≠受取人 | 贈与税 |
それぞれ簡単な税額計算と共に解説します。
被相続人が契約者で被保険者である場合の生命保険金は、みなし相続財産として相続税がかかります。
生命保険金の相続税の計算には非課税枠があり、次の算式で計算します。
500万円 × 法定相続人の数
ただし、この非課税枠の適用があるのは相続人のみです。
相続放棄をした人は、「法定相続人ではあるが相続人ではない」という立場になるため適用はできません。
具体例
- 生命保険金の額:8,000万円
- 法定相続人:2人(うち相続放棄1人)
の場合
8,000万円 -4,200万円(※1)- 500万円(※2)= 3,300万円
3,300万円 × 20% - 200万円 = 460万円
※1 基礎控除:3,000万円+600万円×2人=4,200万円
※2 非課税枠:500万円×1人=500万円
この場合、8,000万円の生命保険金に対して460万円の相続税がかかります。
保険料を負担してきた人と受取人が同じである場合には、自分が支払ったお金が生命保険金として返ってきたということなので、一時所得として利益部分に対して所得税がかかります。
所得税がかかる金額は次の算式で計算され、それに所得税率を乗じて所得税を計算します。
(受け取った生命保険金 - 負担した保険料など - 特別控除額50万円)×1/2 = かかる所得税の金額
具体例
- 生命保険金の額8,000万円
- 負担した保険料の総額:3,000万円
の場合
(8,000万円 - 3,000万円 - 50万円)× 1/2 = 2,475万円
2,475万円 × 40% - 2,796,000円 = 7,104,000円
8,000万円の生命保険金に所得税がかかると、7,104,000円になります。
保険料を負担してきた人、被相続人、保険金受取人がすべて別々の人である場合には、契約者が保険料を負担してできた財産を受取人に贈与したということになり、生命保険金から贈与税の基礎控除110万円を差し引いた残額に対して贈与税がかかります。
具体例
- 生命保険金の額:8,000万円
- 特例税率に該当する
場合
(8,000万円 - 110万円)× 55% - 640万円 = 36,995,000円
贈与税となった場合には、なんと36,995,000円です。
贈与税は基礎控除額が少なく税率も高いため、税額が大きくなりやすく、今回のケースでは相続税と比べると10倍近くの差になります。
相続税がかかると思っていた生命保険金が、実は贈与税の課税対象だったとなると大変なことになりますので、事前の確認と対策が非常に重要です。
死亡退職金には相続税がかかります。
相続税の計算には生命保険と同じく、次の非課税枠が設けられていますが相続放棄した人は適用できません。
500万円 × 法定相続人の数
では、次の具体例で、死亡退職金にかかる相続税を計算をしてみましょう。
具体例
- 死亡退職金の額:6,000万円
- 法定相続人:3人(うち相続放棄1人)
の場合
6,000万円 - 4,800万円(※1)- 1,000万円(※2)= 200万円
200万円 × 10% = 20万円
※1 基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
※2 非課税枠:500万円×2人=1,000万円
この場合、6,000万円の死亡退職金に対して20万円の相続税がかかります。
生命保険や死亡退職金に相続税がかかる場合には、非課税枠がなくとも大きな基礎控除があるため、一般的な支給額であればそこまで大きな相続税には繋がりません。
遺族年金は遺族の生活を保障することが目的であるため、課税に適しません。よって、所得税、住民税などすべての税金が非課税となっています。
「遺族年金以外の所得がある場合には、合算して申告しなければいけないのでは。」と思われる方がいますが、遺族年金は非課税なので申告する必要もありません。
未支給年金は、一時所得として所得税がかかります。
算式は「「契約者=受取人」の場合は所得税がかかる」と同様で、次の通りです。
(未支給年金 - 経費など - 特別控除額50万円)× 1/2= かかる所得税の金額
最大でも2ヶ月分の年金なので、一般的には数十万程度です。特別控除額50万円を差し引き、更に他の所得控除などを考慮すると、所得税は0または微々たる金額となる場合がほとんどでしょう。
未支給年金は上記3-4.と同様に、一時所得として所得税がかかります。
遺族一時金については、みなし相続財産として相続税がかかります。
この場合には、生命保険金や死亡退職金のように非課税枠がありませんので注意しましょう。受取額がそのまま相続財産となり相続税が計算されます。
最後に、相続放棄の対象となるため受け取れない財産のうち、迷いやすいものについて解説します。
1ヶ月の医療費がその人の状況に応じた上限額を超えた場合には、超過部分の還付を受けることができる高額医療費制度というものがあります。
この高額医療費の還付金を、相続放棄をした人が受け取ることができるかどうかですが、結論としては受け取れません。
高額医療費の還付金は、国見健康保険の場合には世帯主へ、健康保険の場合には被保険者へ支払われるため、被相続人が世帯主または被保険者である場合には、被相続人へ支払われる財産だからです。
ただし、相続人自身が世帯主または被保険者である場合には、自身の財産なので相続放棄をしていても受け取ることができます。
団信は住宅ローンを組む際にはほとんどの人が加入する保険で、融資を受けた人が死亡した場合には、住宅ローンの残高相当額の生命保険金が団信から融資先の金融機関へ支払われるため、遺された家族は返済に困らずに済みます。
「相続放棄をしたら団信の請求ができなくなるのでは。」と心配されることがありますが、団信の契約は、金融機関が契約者と受取人、融資を受けた人(被相続人)が被保険者とするため、相続放棄は影響しません。
相続放棄をしても生命保険金や死亡退職金などは受け取ることができます。
財産によって課税の取り扱いが異なりますので、思いもよらない税金がかかってしまったということにならないように、かかる税金と税額までシュミュレーションをしてから相続放棄を決断しましょう。