出資持分のある医療法人の相続税・事業承継対策

病院

法人には株式会社をはじめいくつもの種類がありますが、その1つに医療法人があり、出資持分の有無で分類が可能です。
出資持分のある医療法人の場合、相続に際しては出資持分に対して相続税がかかりますので、病院の事業承継において大きな問題となります。

医療法人の概要および、出身持分のある医療法人の相続税対策について簡単に解説します。

医療法人の概要

医療法人とは医師や歯科医師が常勤する病院や診療所、老人介護施設等を指します。法的には「社団たる医療法人(社団医療法人)」と「財団たる医療法人(財団医療法人)」が認められていますが、ほとんどは「社団医療法人」です。
厚生労働省発表のデータでは平成26年度時点で、医療法人の総数は49,889、そのうち社団医療法人は49,498であるのに対して、財団医療法人はわずか391しかありません。

【出典】厚生労働省:種類別医療法人数の年次推移

出資持分のある社団医療法人

出資持分のある社団医療法人とは、その定款に出資持分に関する定めのある医療法人のことです。出資持分がある社団医療法人では、出資分が相続財産として相続の対象になります。

平成19年の医療法改正により新規設立はできなくなりましたが、既存の出資持分のある社団医療法人については経過措置がとられており、「経過措置型医療法人」と呼ばれています。
平成26年時点で出資持分のある社団医療法人の数は41,476であり、社団医療法人のうち約8割強を占めています。

出資額限度法人

出資持分のある社団医療法人のうち、出資持分の払戻しや法人解散に伴う残余財産分配の範囲に定款で限度を設けている法人です。この限度額は出資額に応じて決まります。

出資持分のない社団医療法人

出資持分のない社団医療法人とは、定款に出資持分に関する定めがない医療法人のことであり、基金拠出型法人と特定医療法人、社会医療法人の3つがあります。これらの出資持分のない社団医療法人は、出資分がないので相続の対象にはなりません。

平成26年時点で出資持分のある社団医療法人の数は8,022と社団医療法人全体の約2割弱です。平成19年の医療法改正を受け、現在では出資持分がない社団医療法人しか設立できません。

基金拠出型法人

社団医療法人の中で運営資金を「基金」によって調達しています。基金には拠出者がおり、その者が社団医療法人に対して金銭・財産を提供します。平成19年の医療法改正以降に医療法人を設立する場合には、最も一般的な形態となっています。

特定医療法人

国税庁長官の承認を得ている社団医療法人です。承認を受けると法人税の軽減措置といった優遇税制を受けられます。

社会医療法人

都道府県知事の認定を受けた社団医療法人です。認定を受けると法人税、固定資産税/都市計画税の一部の免税措置等の優遇を受けられます。

出資持分のある社団医療法人と相続問題

出資持分に対して「相続税」が発生する

出資持分があると、社員の退社に伴う払戻しや医療法人の解散に伴う残余財産の分配が生じ得ることから、財産価値があるとみなされ、相続税の課税対象となります。
医療法人は剰余金から配当ができないため、経営が好調で自己資本分が大きくなると、出資持分の評価額が高くなり、多額の相続税が発生する可能性があります。

たとえば、持分の評価額10億円、相続人が子2人とすると、約4億円の相続税が発生しますが、相続人がこれほど多額の現金を用意することは通常難しいです。

相続時に「払戻請求」が行われる

相続人が医療関係者でない場合は、医療法人に対して出資持分に相当する財産の払い戻しを求められる可能性があります。これは「出資持分払戻請求」と呼ばれるものです。

払戻請求が行われると、医療法人は出資者に対して資金を返還しなければなりませんが、通常、資金は病院の建物や医療器具などの固定資産の取得に使われており、数億円にも上る現金を手元に残していることは稀です。そうなると、金融機関からの借入や固定資産の売却の必要が生じ、医療法人の経営を圧迫する恐れがあります。

出資持分のある医療法人の一般的な相続対策

上記の相続問題を防ぐため、出資持分がある場合には相続対策が重要になります。この場合の相続対策としては従来から2つの方法がありますが、ただし、どちらも難しい側面があります。

出資持分のない社団医療法人に移行する

1つ目に考えられる方法が、出資持分のない社団医療法人に移行することです。問題の根本原因でもある出資持分を放棄してしまえば相続税の心配がなくなるからです。
ところが、出資持分の放棄にあたっては大きく2つの問題があります。

出資者全員の持分の放棄が必要

一つは、出資者全員に対して出資持分を放棄させなければならないことです。出資者全員がその医療法人の従事者であれば良いですが、そうでない場合は出資者に何のメリットもないため放棄を断られることもあります。持分の放棄に賛同しない出資者に対しては出資分に従った払戻しが必要になりますが、前述したとおり、多額の現金を用意することは困難なケースが多いです。

出資持分を放棄すると「贈与税」が生じる

もう一つの問題は、出資持分を放棄をした場合には、医療法人に対して贈与税が発生することです(相続税法第66条第4項の規定により、医療法人は個人とみなされる)。
もし持分の評価額10億円であれば、贈与税は約5億4500万円にものぼりますが、医療法人が多額の現金を用意することは通常困難です。

これらの理由から、出資持分のない社団医療法人への移行がスムーズに進まず、社団医療法人の円滑な事業承継を阻む大きな問題の一つとなっています。

出資持分の評価額を下げるようにする

3つ目に出資持分の評価額を下げる方法が考えられまず。これは、通常の株式会社でも行われる事業承継対策の古典的な方法であり、成功すれば運営資金への負担が少なく相続問題を解決できます。

【参考】事業承継における株価引き下げによる株価対策

具体的には、退職金支給、生命保険への加入、不動産購入などの方法があります。しかし、実際は評価額を下げようとしても簡単に下げられるわけではありません。また、下げられたとしても期待できるほどの効果は見られません。

その他の相続対策

ここでは、従来の一般的な相続対策に替わるその他の相続対策をあげます。ただし、それぞれ条件があります。

特例等を利用して持分を相続・贈与する

厚生労働長が推進する「持分なし医療法人」への移行促進策として、出資持分の相続・贈与で発生する税金負担を減らす(なくす)ための、3年間の期間限定の税制優遇措置が設けられています。

この制度を利用するためには、平成26年10月1日から平成29年9月30日の間の3年間の間に、持分なし医療法人へ移行するための移行計画を厚生労働省へ提出し認定を受ける必要があります。そのうえで、認定の日から3年以内に、出資持分なしの医療法人へ移行します。

移行計画の認定を受けた後、出資持分の相続・贈与を行い、申告時に納税猶予の手続きを行うと、相続税・贈与税の納税が猶予されます。ただし、担保の提供が必要です。

そして、認定から3年以内という移行期限までに出資持分を放棄すれば、猶予税額の免除を受けることができます。手続きに当たっては、「出資持分の放棄申出書」を提出します。
ただし、この届出書の名前からも分かる通り、相続人・受贈人が出資持分を放棄しなければなりませんので、放棄に賛同しない出資者が現れるリスクはあります。

【出典】厚生労働省:「持分なし医療法人」への移行を検討しませんか?
【出典】国税庁:医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例
【出典】国税庁:医療法人の持分に係る経済的利益についての贈与税の納税猶予の特例

一見、メリットがあるように見える制度ですが、大きな問題点は、相続・贈与を受けた出資者側の納税猶予(免除)がされるものであり、持分の放棄で医療法人に発生する贈与税は免除されませんので、注意が必要です。

特定医療法人へ移行する

特定医療法人とは、持分の定めが医療法人のうち、その事業が医療の普及及び向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与し、かつ、公的に運営されていることにつき、国税庁
長官の承認を受けた法人をいいます。特定医療法人として承認された場合には、法人税22%の軽減税率が適用されるなどのメリットがあります。

ただし、特定医療法人への移行に当たっては非常に厳しい条件がいくつもあります。たとえば、次のような条件です。

  • 自費診療報酬が社会保険診療報酬と同一の基準により計算されること
  • 救急医療の要件を満たすこと
  • 理事、監事、評議員等(役員等)について、それぞれの役員等に占める親族等の割合が3分の1以下になるようにすること
  • 役職員一人につき、年間の給与総額が3,600万円を超えないこと

これらのすべての基準をクリアするためには、新たな設備投資や、役員の変更、報酬の改定などが必要であり、非常に大変な作業となります。

【出典】厚生労働省:出資持分のない医療法人への円滑な移行マニュアル

医療法人の相続対策は税理士にご相談ください

出資持分ありの医療法人では出資持分が相続税の対象になるため相続対策が必要になります。いくつかの対策方法はありますが、それぞれ多くの課題があり、移行ができず苦しんでいる医療法人が多くあります。

とはいえ、医療従事者も高齢化が進む現在、早めの対策をとらないと、病院・診療所経営が立ち行かなくおそれがありますので、出資持分のある医療法人の事業承継をお考えの方は、ぜひとも税理士にご相談のうえ対策を検討されることをお勧めします。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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