有価証券の相続税評価方法
相続税における財産評価は専門性が高く難しいです。なかでも有価証券は種類が多く、また近年新しい商品も出てきていますので、それぞれの商品に応じた評価方法を理解しておく必要があります。有価証券の相続税評価方法について、商品ごとに解説します。
1.利付公社債の評価方法
利付公社債の評価額は、次のようになります。なおいずれの場合も「既経過利子の額」は、課税時期において利払い日の到来していない利息のうち、課税時期現在の経過分に相当する金額のことをいいます。
1-1.金融商品取引所に上場している利付公社債
(最終価格+既経過利子の額-源泉徴収税相当額)
なおこの場合の最終価格は、日本証券業協会において公社債店頭売買参考統計値(売買参考統計値)が公表される銘柄として選定されている場合、最終価格と売買参考統計値の平均値との低い方で評価します。
また、複数の取引所に上場している公社債については、原則として東京証券取引所の最終価格としますが、納税義務者の選択により納税地の最寄りの取引所の最終価格とすることができます。
1-2.売買参考統計値が公表される銘柄として選定された利付公社債
(金融商品取引所に上場しているものを除く)
(売買参考統計値の平均値+既経過利子の額-源泉徴収税相当額)
1-3.その他の利付公社債
(発行価額+既経過利子の額-源泉徴収税相当額)
1-4.個人向け国債
個人向け国債は、課税時期において中途換金した場合に支払いを受けることができる金額として評価します。具体的な計算式は次のとおりです。
(額面金額+経過利子相当額-中途換金調整額)
1-5.計算例
実際の計算方法についてですが、利付公社債は株式や投資信託と違って個人投資家にあまりなじみがないかもしれません。そこでここでは、上記の4種類の商品のなかで、現在個人投資家にもっともなじみがあると思われる個人向け国債の例で見てみましょう。
例えば、変動10年の第18回国債で、額面100万円、課税時期を2017年3月6日とすると、
・中途換金する額面金額:1,000,000円
・経過利子相当額:194円(=100万円×0.05%(適用利率)×142日/365日(経過日数))
・中途換金調整額:398円(={100万円×0.05%(適用利率)×1/2(計算期間)}×2×0.79685(調整率))
です(経過利子相当額と中途換金調整額の計算式自体は、ここでは覚える必要はありません)。
よって、この個人向け国債の評価額(課税時期において中途換金した場合に支払いを受けることができる価額は、
1,000,000円+194円-398円=999,796円となります。
2.割引公社債の評価方法
割引債の評価額は、次のようになります。割引公社債は利付公社債と異なり利息の概念がないため、評価方法は利付公社債よりややシンプルです。
2-1.金融商品取引所に上場している割引債
取引所の公表する最終価格等(複数の取引所に上場している公社債については、原則として東京証券取引所の最終価格としますが、納税義務者の選択により納税地の最寄りの取引所の最終価格とすることができます)
2-2.売買参考統計値が公表される銘柄として選定された割引債
(金融商品取引所に上場しているものを除く)
売買参考統計値の平均値
2-3.その他の割引債
発行価額+{(券面額-発行価額)×発行日から課税時期までの日数/発行日から償還日までの日数}
なお、この{ }の部分はやや専門的ですが、既経過償還差益といいます。
3.転換社債の評価方法
転換社債の評価額は、次のようになります。転換社債は「株式への転換」という概念が入ってくるため、評価方法は利付公社債よりやや複雑になります。なおいずれの場合も「既経過利子の額」は、課税時期において利払い日の到来していない利息のうち、課税時期現在の経過分に相当する金額のことをいいます。
3-1.金融商品取引所に上場している、あるいは店頭転換社債として登録されている転換社債
(最終価格+既経過利子の額-源泉徴収税相当額)
3-2.上記以外の転換社債で、発行会社の株式の価格≦転換価格の場合
(発行価額+既経過利子の額-源泉徴収税相当額)
3-3.上記以外の転換社債で、発行会社の株式の価格>転換価格の場合
株式の価格×100円/(転換価格(行使価格))
なお、発行会社の株式が取引相場のない株式の場合は、所定の算式により修正を行った金額を発行会社の株価とします。この算式は複雑なため、ここでは割愛します。
4.貸付信託の評価方法
貸付信託の評価額は、次のようになります。
元本+(既経過収益-源泉徴収される所得税相当額)-買取手数料(買取割引料)
5.投資信託の評価方法
投資信託の評価額は、日々決算型の投資信託(MMFやMRF、中期国債ファンドなど)か、その他の一般的な投資信託かで異なります。
一般的な投資信託の評価額は、次のとおりとなります。
{課税時期の1口当たりの基準価額×口数-課税時期において解約請求等をした場合に源泉徴収されるべき所得税相当額-信託財産留保額および解約手数料(消費税に相当する額を含む)}
なお、1万口あたりの基準価額が公表されている場合は、1口を1万口に読みまえます。
5-1.計算例
実際の計算方法につき、簡単な例で見てみましょう。
- 1万口あたりの基準価額:11,000円
- 1万口あたりの取得単価:10,000円
- 保有口数:100口
- 源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額:15,315円{=(11,000円-10,000円)×100×15.315%}
- 信託財産留保額および解約手数料:なし
この場合、評価額は、11,000円×100口-15,315円=1,084,685円 となります。
なお、日々決算型の投資信託の評価額については、ここでは割愛します。
6.J-REIT(国内不動産投資信託)の評価方法
J-REIT(不動産投資信託)は比較的新しい金融商品ですが、上場していることからその評価は基本的に上場株式に準じます。つまり、次の4つのうち最も低い価額で評価します。
- 課税時期の終値
- 課税時期の属する月の毎日の終値の平均額
- 課税時期の属する月の前月の毎日の終値の平均額
- 課税時期の属する月の前々月の毎日の終値の平均額
課税時期の終値がない場合は、課税時期前後で最も近い日の値とします。また、その他の注意点についても上場株式と同じです。
なお、ETF(上場投資信託)もREITと同じ評価方法になります。
7.ストックオプションの評価方法
ストックオプションの評価額は、次の3つの要件を満たすか否かで異なります。
- 会社法2条21号に規定する新株予約権が無償で付与されたもの
- その目的たる株式が上場株式または気配相場等のある株式であること
- 課税時期が権利行使可能期間内にあること
これら3つの要件を満たす場合のストックオプションの評価額は、次のとおりとなります。
(課税時期における株式の価額-権利行使価額)×ストックオプション1個の行使により取得できる株式数
この場合の「課税時期における株式の価額」は、1.の上場株式の評価方法と同じです。
8-1.計算例
実際の計算方法につき、具体例で見てみましょう。
例えば、課税時期における株式の価格が800円、権利行使価格が500円、行使できる株式数が10,000株とすると、ストックオプションの評価額は(800円-500円)×10,000株=3,000,000円となります。
株式の時価が800円だからといって、ストックオプションの評価額が8,000,000円(=800円×10,000株)になるわけではありません。時価より300円低く購入する権利を保有しているわけですから、評価額については「権利行使してすぐに(時価で)売却したら、いくらの利益になるか」という観点で算出することになります。
まとめ
以上見てきたように、有価証券の相続税評価は複雑でややこしいです。全て覚える必要はありませんが、基本的な知識を身につけておけば、実際の相続発生時に随分助かるでしょう。ただし、専門性が高いため、もし不明点があれば、税理士や最寄りの税務署に相談することをお勧めします。