被相続人の家賃収入と準確定申告
1.準確定申告とは?
相続税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内に申告書を提出し、金銭で一括納付しなければなりません。納付税額がなく、特例の適用を受けないなど一定の要件を満たせば、相続税の申告は不要です。しかしながら、被相続人が亡くなった際には相続税だけでなく、所得税のことも忘れてはいけません。
個人の所得税は1月1日から12月31日までの収入に対して課税されますが、1月1日から被相続人が亡くなるまでの間に得た収入は所得税の課税対象となります。この場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内に所得税の確定申告をしなければなりません。これを「準確定申告」といいます。
特に、被相続人に賃貸家賃収入がある場合は少しややこしくなりますので、その場合の準確定申告について解説していきます。
なお、一般的な、翌年2月16日から3月15日までに申告・納付しなければならないものは、「確定申告」という表記になります。
2.被相続人に家賃収入がある場合の準確定申告
被相続人がアパート等を貸していて家賃収入がある場合は、相続税と所得税のどちらになるのでしょうか。相続税であれば相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヵ月以内、所得税なら4ヵ月以内に申告しなければなりませんので、違いについて確認しておく必要があります。では賃貸借契約と家賃収入の取り扱いについて見てみましょう。
2-1.賃貸借契約と賃貸人としての立場はどうなるのか?
被相続人は賃貸人(貸主)として賃借人(借主)と賃貸借契約を結んでいますが、被相続人の賃貸人(貸主)という立場とこの契約は、相続人にそのまま引き継がれます。法的には契約書はそのままで問題ありませんが、亡くなった人の氏名を契約書に記載したままでは賃借人(借主)に違和感を与えてしまいます。この点を含め、相続人が複数人いる場合などの実務的な方法につきましては「4.相続人が複数いるとき、遺産分割協議が完了するまでの家賃の取り扱い」で解説します。
【関連姉妹サイト】相続弁護士相談Cafe:相続時の賃貸借契約はどうなる?貸主/借主の関係、敷金・家賃
2-2.家賃収入のどこまでが被相続人の収入となるか?
家賃収入がある場合、どこまでが被相続人の所得で準確定申告の対象なのか、どこからが相続人の所得で確定申告の対象となるのかが問題となります。
原則は、亡くなった日までに支払期日が到達している家賃収入が被相続人の収入となり、つまり準確定申告が必要な所得となります。具体的に9月10日に亡くなった場合を想定してみます。9月分の家賃は8月末日に支払うケースが多いと思いますので、この場合は支払期日が到達しており、8月末日に受領した9月分の家賃までが準確定申告の対象です。
ところで、継続的な記帳に基づいて不動産所得の金額を計算しているなど一定の要件に該当すれば、9月1日から10日までの日割り計算をした家賃分までを被相続人の所得金額に含めることができます。その場合、9月11日以降の家賃収入は相続人の所得となり、所得税の確定申告が必要となります。
【出典】国税庁:不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について
2-3.家賃収入のどこまでが相続財産に含まれるか?
被相続人が亡くなった日までに支払期日が到来している家賃収入が相続財産となります。
上記の例で9月10日に亡くなった場合、8月末に受け取った9月分の家賃は相続財産に含まれます。
3.遺産分割協議が完了していない場合の申告
申告期限までに正式な分割割合が決まらないことがあります。この場合、次のような問題が生じてきます。
- 相続税は誰の負担になるのか?
- 相続発生後、遺産分割が終わるまでの家賃収入は誰の所得になるのか?
ここでは遺産分割協議が終わっていない場合の相続税や所得税の申告について解説していきます。
3-1.指定分割と協議分割
遺言で財産を分割する方法を指定分割といい、共同相続人全員の協議で分割する方法を協議分割といいます。遺言がない場合はもちろん、遺言があっても協議分割が成立した場合は協議分割が優先されます。共同相続人の1人から分割要求があると協議に応じなければならないため、相続税の申告期限までに協議が終わらないことがあります。
3-2.分割協議が終わらないまま申告期限を迎えてしまう場合の相続税の申告
まずは、相続税申告に関する話です。相続税の申告期限は、相続が発生したことを知った日の翌日から10ヶ月以内であり、たとえ、遺産分割協議が終わっていなくても申告・納税しなければなりません。
この場合、いったん各相続人が法定相続分を相続したとして申告し、各自が相続税を納付します。後日、遺産分割協議が調い次第、改めて正確な相続税の申告をして、追加納付するか、または還付を受けることになります。
【関連】相続税申告の期限までに遺産分割協議が完了しなかった時の対処法
3-3.分割協議が終わる前に受け取った家賃収入に対する所得税の申告
相続が発生してから、遺産分割協議が終わるまでの間に受け取った家賃収入は誰の所得になるのでしょうか?
相続財産に関しては、通常、分割協議が確定すると相続開始時までさかのぼって効力が発生します。つまり、賃貸不動産であれば、相続開始時から相続した人が所有していたことになります。
しかし、今回のテーマである家賃収入は扱いが異なります。東京高裁判決では「相続開始後遺産分割までの間に相続財産から生じる家賃は、相続財産そのものではなく・・・」とあり、別の最高裁の判例では「賃貸不動産とその賃貸不動産から得られる賃料は別の財産であり、賃貸不動産の帰属先を決めていても賃料の帰属先にはならず、相続開始時までさかのぼる遺産分割協議の効力は賃料には及ばない」とされています。
つまり、家賃収入は遺産とは別の財産ですので、賃貸不動産を相続した人のものにはならないとされています。各相続人が相続分に応じて家賃収入を取得し、また管理費を負担したとして、所得税の確定申告をする必要があります。
ただ、分割されていない賃貸物件の家賃と管理費を分けようとすると、それなりに大変な手間になります。そこで例外的に、賃料による収入や費用負担を相続人全員の合意を得て遺産分割協議書に記載することで協議分割することも可能です。この場合は、家賃は遺産分割の対象になりますので、各相続人の所得税の申告は必要ありませんが、代わりに相続税が発生してきます。詳細は税理士などにご相談ください。
4.相続人が複数いるとき、遺産分割協議が完了するまでの家賃の取り扱い
相続人が1名で賃貸人(貸主)としての立場を承継することが明らかな場合はいいですが、複数の相続人がいて、しかも遺産分割協議が終わっていない場合、完了するまで、家賃の取り扱いをどうすればよいか見ておきましょう。
4-1.相続人のうち誰かが代表して新しい契約をする
代表者を1名選出し単独で契約を行い、相続人の間で遺産分割協議が終わったあとに新しい賃貸人(貸主)が賃貸借契約を締結する旨の合意をする方法があります。
- 相続人がそれぞれ賃貸権限を委譲する確認書を代表者に渡す。
- 賃貸契約時の書類である重要事項説明書に確認書の写しを添付し、代表者を賃貸人(貸主)とする。
- 遺産分割協議が完了したあとに、新しい賃貸人(貸主)と賃借人(借主)との間で賃貸者契約を締結することを合意しておく。
分割協議が調わず、万一親族間で対立があると賃借人(借主)を不安にさせてしまいます。親族の間でもしっかりと書面でやり取りすることで、確実に新しい賃貸人(貸主)に権利を引き継ぐ必要があります。
4-2.管理会社に家賃を預かってもらう
管理会社がいる場合は、遺残分割協議が終わるまで、家賃を管理会社に預かってもらう方法もあります。第三者であり、不動の専門業者が間に入ってもらうことで安心して遺産分割協議を進めることができます。
4-3.勝手に自分の口座に振り込ませないこと
遺産分割協議が終了するまでは、全ての財産は共同相続人の共有財産となります。ですので、自分が不動産を相続する可能性があるからと言って、勝手に管理会社や借家人に連絡して家賃を自分の口座に入金させる事はくれぐれもやめましょう。たとえ善意でやったとしても、後から問題視されトラブルになる可能性がありますのでご注意下さい。