1.福岡県の相続税申告の状況
福岡県は九州の中心となる県であり、全国的にも5大都市圏に含まれている大都市です。
令和元年における相続税の申告件数は4,703件、そのうち相続税が発生した課税件数は3,825件、課税割合は6.78%、相続1件当りの納付税額は1,525万円となっています。
全国平均は課税割合9.33%、納付税額は1,714万円であり、福岡県は47都道府県中、課税割合は28位、納付税額は11位という結果です。
下記の表は、福岡県の税務署の管轄エリアごとの相続税申告状況です。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
門司 | 門司区 | 84 | 71 | 871 | 5.67% | 4.79% |
若松 | 若松区 中間市 芦屋町 水巻町 岡垣町 遠賀町 | 147 | 118 | 1,397 | 5.10% | 4.09% |
小倉 | 小倉北区 小倉南区 | 344 | 281 | 1,158 | 7.54% | 6.16% |
八幡 | 戸畑区 八幡東区 八幡西区 | 309 | 271 | 1,182 | 6.44% | 5.65% |
博多 | 東区(※) 博多区 | 262 | 221 | 3,428 | 10.03% | 8.46% |
香椎 | 東区(※) 宗像市 古賀市 福津市 宇美町 篠栗町 志免町 須恵町 新宮町 久山町 粕屋町 | 607 | 499 | 1,224 | 9.44% | 7.76% |
福岡 | 中央区 南区 | 641 | 489 | 2,403 | 17.30% | 13.20% |
西福岡 | 西区 城南区 早良区 糸島市 | 705 | 537 | 1,441 | 11.73% | 8.94% |
大牟田 | 大牟田市 柳川市 みやま市 | 187 | 164 | 774 | 5.66% | 4.96% |
久留米 | 久留米市 小郡市 うきは市 大刀洗町 | 415 | 338 | 1,468 | 9.03% | 7.35% |
直方 | 直方市 宮若市 小竹町 鞍手町 | 63 | 53 | 523 | 3.86% | 3.25% |
飯塚 | 飯塚市 嘉麻市 桂川町 | 93 | 84 | 1,219 | 3.64% | 3.29% |
田川 | 田川市 香春町 添田町 糸田町 川崎町 大任町 赤村 福智町 | 61 | 56 | 792 | 2.88% | 2.64% |
甘木 | 朝倉市 筑前町 東峰村 | 56 | 45 | 745 | 4.99% | 4.01% |
八女 | 八女市 筑後市 広川町 | 75 | 66 | 1,268 | 4.37% | 3.85% |
大川 | 大川市 大木町 | 42 | 35 | 721 | 5.93% | 4.94% |
行橋 | 行橋市 豊前市 苅田町 みやこ町 吉富町 上毛町 築上町 | 133 | 118 | 651 | 5.33% | 4.73% |
筑紫 | 筑紫野市 春日市 大野城市 太宰府市 那珂川町 | 479 | 379 | 1,658 | 13.02% | 10.30% |
福岡県計 | 4,703 | 3,825 | 1,525 | 8.34% | 6.78% |
※死亡者数について、東区は、令和元年の人口動態統計を基に博多と香椎に按分
福岡県は都市ではありますが、県内全体的にはそこまで相続税が課税される割合が多いわけではありません。相続税の課税は、博多市、北九州市とその周辺エリアに集中しており、それ以外は、課税される可能性は非常に低いことが特徴です。
福岡県の税務署の管轄エリアは全部で18箇所ありますが、その中で課税割合の全国平均を超えるエリアはわずか2箇所であり、半分以上は5%台以下となっています。
一方で、納付税額は全国11位と、そこそこ高額です。都市部の一部で地価が上昇している影響があると考えられます。
それでは次項にて、エリアごとの特徴を詳しく解説していきます。
福岡県
【出典サイト】4地域と60市町村紹介 | 福岡県ってどんなところ? | 福岡県 移住・定住ポータルサイト 福がお~かくらし
福岡市
【出典サイト】「公民館情報」|「まなびアイふくおか」福岡市学習情報提供システム
2.各エリアの特徴と詳細
それでは、福岡県の各税務署の管轄エリアごとに、主要市町村の特徴や地価の状況を課税割合の高い順に解説していきます。
(1)福岡市中央区・南区
福岡市中央区と南区からなる福岡税務署管轄エリアは、市の中央部に位置しています。
中央区は市の中心としての機能を担い、高層ビルや商業施設、行政機関が立ち並んでいます。特に、天神地区は九州最大の繁華街として知られ、多くの人が「博多=天神」と考えるほどの活気があります。ファッションビルには県内外から多くの来街者が訪れ、トレンド発信地として、東京の渋谷に匹敵する存在と言えるでしょう。
南区は中央区に隣接しており、西鉄大牟田線やJR鹿児島本線の交通アクセスが優れ、緑が豊かで静かな環境が広がっています。このため、ベッドタウンとして多くの住民が住んでおり、人口が多いエリアです。
このエリアの相続税に関する課税割合は13.20%で、納付税額は2,403万円です。課税割合は県内で最も高く福岡県平均の2倍近くに達しています。
この高額な課税額の背後には、高い地価が影響しています。中央区の地価は1㎡あたり約182万円で、県内でも群を抜いて高額なエリアです。南区も市内7区の中で4番目に高い地価を維持しており、ベッドタウンにしては高額な部類に入ります。
逆に言えば、これほど高い地価にもかかわらず、課税割合や納付税額が低いと言えます。
中央区は県内で最も地価が高額ですが、土地や一軒家を購入するには高額すぎて難しくなります。そのため、所得などへの課税が中心となり、相続税の課税額は高額化しません。こうした相続税の傾向は都市部に見られることが多く、居住地域と都市部がはっきり分かれている傾向があります。
(2) 筑紫エリア
筑紫エリアは筑紫野市、春日市、大野城市、太宰府市、那珂川町から成り立ち、福岡県の中央に位置しています。特に太宰府市は学問の町として、全国的にも広く知られています。
このエリアは福岡市の東側に隣接し、久留米市にも近い立地にあり、各地で宅地の開発が行われ、ベッドタウンとして発展を遂げています。
相続税の課税割合は10.30%で県内で2番目に高い数字を示しており、全国平均を上回る地域です。一方、納付税額は1,658万円で県内平均より少し多い程度です。
福岡市に近いため、福岡市へ通勤する人々や福岡市から移住してくる人々が多いことから、地価が高騰しています。県内では、大野城市の地価は福岡市に次ぐ2番目、春日市は3番目に高い水準となっており、筑紫野市が5位、太宰府市が8位、那珂川町も9位と、このエリア全域が高額地価となっています。
また、現在も新しい住宅地やニュータウンの整備が進行中で、福岡市以外からも注目を浴びています。今後も居住地域としての人気が予測されますので、地価の動向には注意が必要です。
(3)福岡市西区・城南区・早良区、糸島市
西福岡税務署管轄のエリアは、福岡市の西部に位置し、西区、城南区、早良区、および糸島市から成り立っています。この地域は他の市内エリアとは異なり、商業地や繁華街などはほとんど形成されておらず、大部分が住宅地として利用されています。特に早良区は、福岡市内で高級住宅街として名高く、タワーマンションの建設も進行中です。
一方、糸島市は福岡市に隣接していますが、自然が豊かで海、山、離島などが魅力の観光地として栄えています。
このエリアの課税割合は8.94%で、県内で3番目に高い数字です。納付税額は1,441万円です。
地価は、早良区が最も高く、市内で3位です。次いで城南区が5位、西区が7位(最下位)となっています。一方、糸島市の地価は県内全体の60エリア中で18番目に位置しています。
このエリア全体の地価が相対的に高いこと、そして中央区などへの通勤率が高いことから、所得も高額になりがちであると考えられます。また、糸島市の地価は若干低いですが、景観の美しさから富裕層が別荘を所有していることにも留意すべきです。
(4)福岡市博多区・東区
博多税務署エリアは、福岡市の東部に位置する博多区と東区の一部からなり、福岡市内での第2の中心都市です。
特に博多区は新幹線の停車駅があり、福岡市だけでなく福岡県全体の玄関口としての役割を果たします。駅周辺には繁華街が広がり、大手企業の支店などが立地しており、大都市の顔を持っています。
このエリアの課税割合は8.46%で、県内で4番目に高い数字を示しています。納付税額は3,428万円で県内で最も高額です。
地価についても博多区が1平方メートルあたり約108万円で、中央区に次いで2番目に高く、東区は約16万円で市内で6番目に位置しています。
博多区は人口が中央区などと比べて多いことから、都市部と居住地域が融合している状況と言えます。博多区の地価は高いですが、中央区と比べると6割ほどです。富裕層にとっては土地や一軒家の購入がしやすく、高額な相続税の課税が発生しやすいと考えられます。
(5)香椎エリア
このエリアは福岡市東区の一部、宗像市、古賀市、福津市、宇美町、篠栗町、志免町、須恵町、新宮町、久山町、粕屋町の3市1区7町から構成されており、広大な地域をカバーしています。
福岡県内で2つの大都市、福岡市と北九州市に挟まれているため、両都市のベッドタウンとしての発展が著しいエリアとなっています。特に香椎地区、福岡市東区を含む部分は福岡市のベッドタウンとして注目されており、東区は福岡市で最も多くの人口を抱えています。
このエリアの課税割合は7.76%で、納付税額は1,224万円です。
山や田畑が広がる自然環境が特徴的で、福岡市の中心部より地価が低くなっています。東区を除いて最も高い地価を持つ粕屋町では1平方メートルあたり約10万円で、県内で6位です。エリア内はベッドタウンであることから、特定の主要な産業が存在しないことも、低い課税額の背後にある要因と言えるでしょう。
ただし、福岡市と北九州市の発展に伴って、ベッドタウンとしての人気が高まり地価が上昇する傾向があります。今後の地価の変動には留意するべきでしょう。
(6) 久留米エリア
久留米市、小郡市、うきは市、大刀洗町からなる久留米エリアは、福岡県の中央寄り、北部に位置しています。
このエリアは福岡市のベッドタウンとして発展しており、特に久留米市は人口約30万人という県内で3番目に多い人口を抱え、このエリアの主要な中心都市となっています。福岡市とは隣接していないものの、久留米市を中心に独自の経済圏が形成され、小郡市、うきは市、大刀洗町も久留米市のベッドタウンとして機能しています。
課税割合は7.35%で、県内平均を上回る最後のエリアです。納付税額は1,468万円で県内平均をやや下回っています。
地価については、久留米市が15位となっており、他の地域は16位から32位まで幅広く分布しています。ただし、地価が15位であっても、1平方メートルあたりの金額は約6万円と低い水準です。
このエリアでは、全体の地価が低いことや、福岡市などの都市部と比較して世帯所得が低いことなどが、課税割合と納付税額が低い要因であると考えられます。
(7)北九州市小倉北区・小倉南区
ここで初めて北九州市がランクインします。小倉税務署管轄エリアは小倉北区と小倉南区からなり、県の北部に位置しています。
小倉北区の中心駅である小倉駅は、新幹線も停車し、本州からの玄関口としての役割を果たしています。小倉駅周辺には駅ビル、商店街、商業施設、オフィスビルなどが立ち並び、北九州市の中心としての機能を担っています。
一方、小倉南区は主に住宅地で構成され、小倉北区で働く人々のためのベッドタウンとして機能しています。
課税割合は6.16%で、これ以降のエリアは県の平均値を下回ります。納付税額は1,158万円で、こちらも県の平均値を下回っています。
地価も小倉北区では1平方メートルあたり約19万円と、福岡市の城南区に匹敵する金額となっており、周辺地域よりも地価が高いことが確認されます。
課税割合や納付税額が低いため、相続税の心配は不要というわけではなく、相続税に対する警戒が必要なエリアです。相続税に関する対策を怠らないよう留意しましょう。
北九州市
【出典サイト】北九州市教育委員会通学区域検索
(8)課税割合4~5%台のエリア
ここからは低い課税割合が僅差で並ぶため、まとめて解説していきます。
まず、課税割合が4~5%台のエリアです。
税務署名 | 管轄地域 | 1件当り 納付税額 (万円) | 課税割合 |
---|---|---|---|
八幡 | 戸畑区 八幡東区 八幡西区 | 1,182 | 5.65% |
大牟田 | 大牟田市 柳川市 みやま市 | 774 | 4.96% |
大川 | 大川市 大木町 | 721 | 4.94% |
門司 | 門司区 | 871 | 4.79% |
行橋 | 行橋市 豊前市 苅田町 みやこ町 吉富町 上毛町 築上町 | 651 | 4.73% |
若松 | 若松区 中間市 芦屋町 水巻町 岡垣町 遠賀町 | 1,397 | 4.09% |
甘木 | 朝倉市 筑前町 東峰村 | 745 | 4.01% |
注目すべきエリアは、納付税額が比較的高額な八幡エリアと若松エリアでしょう。いずれも北九州市で、小倉を挟む形で位置しています。
八幡エリア
八幡エリアは、北九州市戸畑区、八幡東区、八幡西区で構成されます。かつて八幡製鉄所があったことから製鉄業を中心とした工業が発達し、各企業の工場などが建設されています。日本製鉄をはじめとする大規模な工場が多いため、他の地域からの通勤者が多く、小倉とは違った経済活動の拠点となっています。
住宅地としては小倉南区の方に人気がありましたが、積極的に進められた再開発によって地価は上昇傾向にあります。今後も北九州市のベッドタウンとして人気が高まれば、さらに納付税額が増加する可能性があります。
若松エリア
次に若松エリアです。北九州市若松区のほか、中間市、芦屋町、水巻町、岡垣町、遠賀町で構成されます。臨海部は工場が立地する埋立地であり、北九州工業地域を構成しています。かつて日本一の石炭積出港として栄えた場所でもあります。
課税割合は4.09%と低いですが、納付税額は1,397万円とそれなりに高い金額になっています。
大川エリア
大川市は、470年の歴史を持つ家具生産の一大拠点で、ここで生産された家具は、大川家具というブランドが付きます。事業を行っている世帯については、事業承継によって思いがけない相続税がかかる可能性もあるため、生前に相続税の試算を十分にしておく必要があります。
(9)課税割合2~3%台のエリア
次に課税割合が2~3%台の4つのエリアを解説します。
税務署名 | 管轄地域 | 1件当り 納付税額 (万円) | 課税割合 |
---|---|---|---|
八女 | 八女市 筑後市 広川町 | 1,268 | 3.85% |
飯塚 | 飯塚市 嘉麻市 桂川町 | 1,219 | 3.29% |
直方 | 直方市 宮若市 小竹町 鞍手町 | 523 | 3.25% |
田川 | 田川市 香春町 添田町 糸田町 川崎町 大任町 赤村 福智町 | 792 | 2.64% |
これらのエリアはいずれも相続税の課税件数が100件以下であり、大川エリアに至っては35件で福岡県内での最も少ない件数となっています。
いずれのエリアも都市部から距離があることからベッドタウンとしての機能が弱いため、人口流出も起きていることから地価は非常に低く、最も高い筑後市でも1㎡あたり4万円です。
相続税がかかるほどの財産を所有している人は少ないエリアにはなりますが、大地主などは低い地価であっても、莫大な財産額になることもあります。
3.福岡県の税理士情報
福岡県の税理士は九州北部税理士会(福岡県、佐賀県、長崎県)に所属しており、3県合わせて約3,554人(令和5年10月末日現在)の税理士で構成されています。
(1)福岡県では相続税についての税理士は充足している状態
このうち福岡県の税理士数は、その8割以上の2,979人(令和5年10月末日現在)にものぼり、もちろん九州一の人数です。ほとんどの税理士が福岡県に集結していることになります。
福岡県の令和3年度における相続税の申告は4,703件であったことから、1件当たりの税理士数は0.63人となっており、税理士1人当たり年間1.58件の相続税申告をこなしている計算にります。
この数値は全国的に見ても多く、税理士が充足している状態であるといえます。近県に都会がないことから、他県の税理士に仕事を奪われるということが少なく、福岡に根を下ろす税理士が多いものと考えられます。
手が空いている税理士がおらず、依頼できない事態に陥るようなことはまずないでしょう。
(2)小倉エリアまでは相続税の課税について備えておく
福岡県の課税割合や納付税額は、都会の割には思ったより低い結果となっていました。
県内平均を上回っているのは福岡エリアと筑紫エリアのみであり、顕著な二極化が現れています。
福岡県の場合は、課税割合が6%台の小倉エリアまでは、相続税の課税について備えておけば良いでしょう。
ただし、課税割合が2~5%台のエリアにおいても、土地をたくさん所有している場合や、大きな自宅に住んでいるなどの場合には、税理士に一度相談しておくと安心です。
(3)福岡県における相続税に強い税理士の探し方
福岡県で税理士を探す際のポイントは、地元の税理士だけではなく、課税割合が高いエリアの税理士も並行して探すことです。
福岡県のように課税割合の二極化が起こっている県では、実力のある税理士も二極化している可能性が高いため、より多くの相続税経験を積んでいる可能性が高い、福岡市の税理士も選択肢に入れることが重要になります。
他県では依頼地まで距離があるため対応不可という懸念がありますが、福岡県の場合には税理士が充足している状況であるため、仕事を求めたフットワークの軽い税理士も多いでしょう。
ただし、九州地方では福岡県に税理士が集中していることから、他県からも福岡県内の税理士へ依頼するケースが増えることも考えられます。
九州地方は課税割合が低いため、地元の税理士が不足することは少ないはずですが、節税効果をより高めるために実力のある税理士を求めるとなると、対応件数が多い福岡県の税理士が該当します。
県内だけでなく県外からの依頼者ともバッティングすることを見据えて、早めの税理士探しと相続税対策を心がけましょう。
当サイトでは、現地に足を向けることなく、各々の条件に合った税理士を探すことができるようになっています。
福岡市の膨大な人数の税理士の中から、相続税に強い実力のある税理士のみを厳選してご紹介しておりますので、大変な税理士探しの負担を少し軽くすることができるのではないかと思います。是非ご活用いただけましたら幸いです。