1.岩手県の相続税申告データの概要
岩手県は人口約123万人の東北6県のうちの1つです。
(1)岩手県の相続税申告の状況
岩手県の2021年度(令和3年度)に課税された被相続人数は839人で、死亡者数は17,631人でした。死亡者数に占める被相続人数の割合「課税割合」は4.76%(全国38位)で、全国平均の9.33%を大きく下回ります。
課税割合が大きいほど、相続税が課税される可能性が高くなるので、岩手県は相続税が課税される可能性は低い県といえるでしょう。
他の東北の県では、宮城県31位6.58%、福島県34位5.76%、山形県42位4.32%、青森県46位3.15%、秋田県は最下位47位3.09%でした。
相続税の申告件数は998件であり。死亡者数(17,631人)に占める相続税申告件数の割合「申告割合」は5.66%(全国39位)で、こちらも全国平均11.78%を大きく下回りました。
被相続人1人当たりの相続税納付税額は、岩手県は1,076万円で全国30位でした。1位の東京都は3,232万円で、岩手県の約3倍です。全国平均は1,820万円であり、それでも、岩手県の約2倍近くあります。
(2)税務署エリア毎の相続税データ
税務署エリア単位の相続税データ(令和3年度)を掲載します。
盛岡エリアのみ突出して課税割合が高く、次の花巻エリアの課税割合が高いです。県内平均より高いのは、この2つのエリアのみで、残りのエリアの課税割合は低いです。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
盛岡 | 盛岡市 八幡平市 滝沢市 雫石町 葛巻町 岩手町 紫波町 矢巾町 | 440 | 370 | 848 | 7.89% | 6.64% |
宮古 | 宮古市 山田町 岩泉町 田野畑村 | 52 | 43 | 783 | 3.88% | 3.21% |
大船渡 | 大船渡市 陸前高田市 住田町 | 49 | 39 | 5,217 | 4.89% | 3.89% |
水沢 | 奥州市 金ヶ崎町 | 90 | 80 | 667 | 4.60% | 4.09% |
花巻 | 花巻市 北上市 西和賀町 | 169 | 131 | 688 | 6.39% | 4.95% |
久慈 | 久慈市 普代村 洋野町 野田村 | 23 | 19 | 2,013 | 2.69% | 2.22% |
一関 | 一関市 平泉町 | 84 | 74 | 907 | 4.17% | 3.67% |
釜石 | 遠野市 釜石市 大槌町 | 51 | 46 | 668 | 3.88% | 3.50% |
二戸 | 二戸市 軽米町 九戸村 一戸町 | 40 | 37 | 1,964 | 4.33% | 4.01% |
岩手県計 | 998 | 839 | 1,076 | 5.66% | 4.76% |
2.岩手県のエリア毎の相続税状況
(1)盛岡エリア
盛岡エリアの相続税申告件数は440件、課税件数は370件で、どちらも県内全体の約4割強を占めています。
課税割合は6.64%で、岩手県内では、突出して高いです。盛岡市を中心に県内では相続税が発生しやすい地域です。
とはいえ、課税割合の全国平均は9.33%ですので、それよりはかなり低い値です。
被相続人1人当りの納税額は848万円と、県内平均1,076万円より低いです。これは、後述しますが、一部のエリアで突出して高いところがあるためです。
(2)花巻エリア
盛岡エリアに次いで課税割合が高いのが花巻エリアです。相続税申告件数は169件、課税件数は131件です。
課税割合は4.95%、全国的には決して高い数値ではないのですが、県内平均よりは高くなっています。
被相続人1人当りの納税額は688万円、県内でも少ないほうです。
(3)その他のエリア
その他のエリアでは、課税割合は4%周辺か、それ以下ですので、相続税がかかる可能性はかなり少ないです。
一方で、一部、被相続人1人当りの納税額が突出して高いエリアがあります。
- 大船渡エリア:5,217万円
- 久慈エリア:2,013万円
- 二戸エリア:1,964万円
いずれも、相続税申告件数も課税割合も低いエリアなのですが、被相続人1人当りの納税額だけ非常に高いです。
一部、財産を多く持っている家庭が、統計上の数値を押し上げていると考えられます。また、岩手県は農地が多いですが、市街地にある農地は評価額が高くなりやすい傾向があります。
3.相続での注意点
岩手県で相続するときと相続されるときの注意点を紹介します。
「使いそうにない」と思った不動産は早めに処分を
被相続人(故人)が岩手県内に住んでいて、相続人(遺族)が東京などの離れた都会に住んでいる場合、岩手県内の土地や住宅が相続財産になることがあるでしょう。
このとき相続人がそれらの不動産を「当面の間、使いそうにない」と思ったら、早めに処分することをおすすめします。その理由は2つあります。
- 「当面の間」と思っていても地方の不動産は実際はずっと使わないことが多い
- 地方の不動産は売却しにくいので「早め」かつ「長期」で売却活動をしたほうがよい
ずっと使わないと、土地は雑草が生い茂り、住宅は朽ちていきます。そうなると近所迷惑になります。しかも所有し続ける限り、維持費や固定資産税がかかります。
そして地方の不動産は、よほどの住宅地や商業地にないと売りにくい状態にあり、「負動産」と呼ばれるのはまだましで、ときに「腐動産」と呼ばれる物件もあります。1円でも売れないことは珍しくありません。
そのため、ほしいと名乗り出てくれた人に真っ先に売却するのが鉄則です。
そして、相続してから時間が経過してしまうと「売れ残り」感が出てしまい、さらに売りにくくなります。
農地の相続は意外に「やっかい」
相続人が農業を引き継ぐ場合を除いて、農地の相続は「やっかい」になることが珍しくありません。
農地は、固定資産税評価額が低いのに、相続税評価額が高くなる傾向があります。つまり、毎年の固定資産税が「安い」と思って安心していると、「高い」相続税を請求されてしまうわけです。
市街地にある農地は、固定資産税評価額は低いけれど、相続税評価額は高くなりやすいので注意してください。
相続税申告は税理士に相談
相続が発生「しそうになったら」税理士に相談しましょう。
親や祖父母がまだ存命なのに相続の心配をするのは不謹慎、と思っていると、いざ相続の手続きに入ったときに混乱するかもしれないからです。
税理士は、相続人の心配ごとを熟知しているので、安心して相続前に相続の相談をすることができます。岩手県内の地元の税理士なら、地域の不動産に詳しい人が多いので、具体的なアドバイスがもらえるはずです。
4.岩手県の税理士情報
岩手県には東北税理士会の岩手支部連合会があり、2023年10月現在、262人の税理士が在籍しています(*)。
岩手支部連合会には9の支部があり内訳は次のとおりです。
盛岡支部 | 125人 | 46% |
---|---|---|
花巻支部 | 41人 | 16% |
水沢支部 | 30人 | 11% |
一関支部 | 25人 | 10% |
大船渡支部 | 9人 | 3% |
釜石支部 | 8人 | 3% |
宮古支部 | 9人 | 3% |
久慈支部 | 7人 | 3% |
二戸支部 | 8人 | 3% |
合計 | 269人 | 100% |
【出典】東北税理士会
半数が盛岡に集中、税理士が少ない大船渡・釜石・宮古・久慈・二戸の住民は早めにコンタクトを
ほぼ半数が盛岡支部に在籍しています。岩手県の人口は約123万人で、そのうち盛岡市の人口は24%にあたる30万人なので、税理士は盛岡支部に偏っていることがわかります。
一桁人しかいない大船渡支部、釜石支部、宮古支部、久慈支部、二戸支部の周辺の市町村住民は、相続税に関する困りごとが発生してすぐに税理士に相談することが難しくなるかもしれません。そのため、いざというときに慌てないように、早めに相談しておきましょう。