1.熊本県の相続税申告の状況
熊本県は九州地方の中西部に位置しています。ゆるキャラブームで圧倒的な人気を博した「くまモン」は様々な企業とコラボ商品化がなされ、多くの人が熊本県を知るきっかけとなりました。
今なお活動が続いている活火山の阿蘇山を有していることから「火の国」と呼ばれ、その周りには世界最大級のカルデラが広がっています。観光業の他にも広大な土地と温暖な気候を生かした畜産業と農産業が盛んに行われています。
2016年に発生した熊本地震は記憶に新しく、中でも熊本県屈指の観光スポットとして有名だった熊本城は、震災の強い揺れと衝撃により大きな被害を受けました。
今回は、賢明な復興の最中にある熊本県の相続事情について解説します。
1-1.熊本県の課税割合は低い
熊本県の令和元年における相続税の申告件数は1,110件、そのうち相続税が発生した課税件数は877件、課税割合は4.05%、相続1件当りの納付税額は1,075万円となっています。
全国平均は課税割合8.35%、納付税額は1,714万円であり、熊本県は47都道府県中、課税割合は41位、納付税額は28位という結果になっています。
課税割合の低さは九州全域にいえることであり、九州地方8県のうち5県は40位台です。九州は福岡県を除いては、観光や農業を主力産業とする県が多く、地価が低くなる傾向があります。
また、九州最大の都市である福岡市のベッドタウンは福岡県内で完結するため、高所得者層も福岡県に固まっています。特に熊本県は自然が多く、九州一の農業県であることから地価が低いため、不動産課税が起こりにくいと考えられます。
1-2.熊本県のエリア別相続税申告状況
下記の表は、熊本県の税務署の管轄エリアごとの相続税申告状況です。
熊本県の税務署の管轄エリアは全部で10箇所ありますが、課税割合の全国平均を超えているエリアはありません。最も高い数値は6%で熊本市の2箇所となっており、それ以降は4%が1箇所、2%が5箇所、1%が2箇所と続きます。
相続税申告件数からみても、熊本市の2エリアが全体の6割を占めており、熊本県では、相続税の課税の多くが熊本市で発生していることが分かります。
これには、熊本県内の地価が大きく影響していると思われます。熊本県内の地価を比べてみると、上位はすべて熊本市内が独占しており、特に中央区は1㎡あたり38万円と、市内2位の西区の9万円に大きく差を付けて圧倒的1位の金額となっています。
熊本県で相続税課税の中心となるエリアは、熊本市、それも中央区です。
それでは次項にて、エリアごとの特徴を詳しく解説していきます。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
熊本西 | 熊本市中央区 西区 南区 北区 | 459 | 358 | 1,290 | 8.24% | 6.43% |
熊本東 | 熊本市東区 御船町 嘉島町 益城町 甲佐町 山都町 | 210 | 166 | 1,312 | 7.62% | 6.03% |
八代 | 八代市 水俣市 氷川町 芦北町 津奈木町 | 104 | 80 | 483 | 3.79% | 2.91% |
人吉 | 人吉市 錦町 多良木町 湯前町 水上村 相良村 五木村 山江村 球磨村 あさぎり町 | 23 | 21 | 1,439 | 1.69% | 1.54% |
玉名 | 荒尾市 玉名市 玉東町 南関町 長洲町 和水町 | 69 | 54 | 555 | 3.07% | 2.40% |
天草 | 上天草市 天草市 苓北町 | 54 | 47 | 1,230 | 2.69% | 2.34% |
山鹿 | 山鹿市 | 28 | 21 | 851 | 3.49% | 2.62% |
菊池 | 菊池市 合志市 大津町 菊陽町 | 103 | 78 | 741 | 5.97% | 4.52% |
宇土 | 宇土市 宇城市 美里町 | 41 | 37 | 644 | 2.97% | 2.68% |
阿蘇 | 阿蘇市 南小国町 小国町 産山村 高森町 西原村 南阿蘇村 | 19 | 15 | 440 | 1.95% | 1.54% |
熊本県計 | 1,110 | 877 | 1,075 | 5.12% | 4.05% |
【出典サイト】熊本県市町村地図
2.各エリアの特徴と詳細
それでは、熊本県の市区町村の特徴や地価の状況を、税務署の管轄エリアごとに課税割合の高い順にみていきましょう。
2-1. 熊本西エリア
熊本市には5つの行政区がありますが、そのうち中央区、西区、南区、北区の西側4区からなるエリアです。
熊本市は県の西北部に位置しており、有明海と金峰山の間にある内陸盆地であることから寒暖差が大きい地域です。人口は福岡市と北九州市に次ぐ約74万人を有する大都市であり、中央区には百貨店などの大きな商業施設や、大手企業の支店、金融機関などが建ち並んでいます。
中央区を取り囲んでいる北区、西区、南区は、主に住宅地と農地が広がるエリアであり、中央区のベッドタウンとしても機能しています。
都会らしい色を持つ熊本市ですが、豊富な水資源に恵まれており、なんと生活に必要な水道水はすべて地下水で賄われています。蛇口から天然ミネラルミネラルウォーターが出てくるとは羨ましい限りです。
このエリアの課税割合は6.43%で県内1位、納付税額は1,290万円で県内3位となっています。
熊本市の地価は5区の平均で1㎡あたり14万円で県内1位です。特に熊本市中央区の新屋敷は、地元では一目置かれる高級住宅地で、閑静な住宅街に豪邸がたくさんあります。その他京町なども富裕層が住むエリアとして有名です。
これらの高所得者層が、熊本市内の相続税申告件数の大半を担っていると考えられます。
【出典サイト】「熊本市の「行政区の名称」の答申がありました!!」 | 熊本市ホームページ
2-2. 熊本東エリア
熊本市東区、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、山都町からなる熊本東エリアは、県の中央部に位置しています。
東区は、熊本市5区の中で最も人口が多い区です。自然が多いにもかかわらず、都市の利便性も兼ね備えた住環境に優れたエリアです。
御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、山都町は、都会に近いことが魅力のエリアで、九州自動車道や、阿蘇くまもと空港、熊本駅など遠方への交通アクセスにも優れています。
課税割合は6.03%、納付税額は1,312万円でいずれも県内2位の数値です。
東区の地価は、1㎡あたり7万円で、5行政区のうち3位です。嘉島町、益城町は、1㎡あたり4万円で45位中4位と5位、御船町、甲佐町、山都町については1㎡あたり1万円前後で14~31位となっています。
人口の多くが、比較的地価の高い東区がエリアに居住していることから、県内2位の課税割合になっていると考えられますが、相続税申告件数を見ると熊本西エリアが459件なのに対して、熊本東エリアは210件と倍以上の差があります。
ただし、中央区に近いことから思いがけず地価の高いエリアもあるため、相続財産についてはしっかり把握しておきましょう。
2-3.菊池エリア
菊池市、合志市、大津町、菊陽町からなる菊池エリアは、県の北部に位置し、北は福岡市、南は熊本市に接しています。
菊池市は、菊池渓谷をはじめ数多くの水資源に恵まれており、阿蘇外輪山まで広がる山林、菊池平野に広がる田畑など豊かな自然に囲まれています。基幹産業はその自然を生かした農林業で、菊池米やシイタケ、メロンはブランド化され全国へ出荷されています。
合志市は、南部は熊本市のベッドタウン、北部には農地が広がっています。熊本県内の市町村の多くは人口減少にある中で、新興住宅地や商業地の開発によって人口増加傾向にある市でもあります。
菊陽町は、人口約4万人の自然豊かな小さな町ですが、熊本市の北東に隣接しており、高速道路や空港へのアクセスも容易であることから、近年では有名企業が進出して活気ある町になっています。
課税割合は4.52%で県内3位、納付税額は741万円で県内6位となっています。
地価は需要のある菊陽町エリア内が最も高く、1㎡あたり5万円で県内2位、合志市が4万円で3位に続きます。その他は大津町が3万円で7位、菊池市が1万円で21位となっています。
自然豊かな地域ではありますが、その立地の良さから地価が高く、また広大な農地を所有している人もいることからこの順位になっていると考えられます。
課税割合は、県内の順位は高いものの全国平均8.35%と比較すると4.52%と低いため、相続税が課税される心配は低いエリアになります。
2-4.その他のエリア
前述した3エリア以外の次のエリアはすべて課税割合が2%台以下であり、相続税の心配は非常に低いといえます。
税務署名 | 管轄地域 | 1件当り 納付税額 (万円) | 課税割合 |
---|---|---|---|
八代 | 八代市 水俣市 氷川町 芦北町 津奈木町 | 483 | 2.91% |
宇土 | 宇土市 宇城市 美里町 | 644 | 2.68% |
山鹿 | 山鹿市 | 851 | 2.62% |
玉名 | 荒尾市 玉名市 玉東町 南関町 長洲町 和水町 | 555 | 2.40% |
天草 | 上天草市 天草市 苓北町 | 1,230 | 2.34% |
人吉 | 人吉市 錦町 多良木町 湯前町 水上村 相良村 五木村 山江村 球磨村 あさぎり町 | 1,439 | 1.54% |
阿蘇 | 阿蘇市 南小国町 小国町 産山村 高森町 西原村 南阿蘇村 | 440 | 1.54% |
注意しなければならないのは、人吉エリアです。
課税割合は1.54%で県内最下位なのに対して、納付税額は1,439万円と県内1位で両極端な結果となっています。
熊本県の相続税は、熊本市中心に課税されていますが、人吉エリアはそれらとは離れた県の南部に位置し、宮崎県と鹿児島県に隣接しています。市街地の中心には商店街がありますが、大きなショッピングモールなどはなく、少し郊外へ行くと田園風景が広がり、その割には暮らしやすさが魅力のエリアになっています。
地価は、1万円以下と低く、相続税が課税させるための条件は揃っていないため、令和元年においてたまたま高額な相続税が発生した可能性もあります。
3.熊本県の税理士情報
熊本県の税理士は南九州税理士会(熊本県、鹿児島県、大分県、宮崎県)に所属しており、4県合わせて約2,258人(令和3年10月末日現在)の税理士で構成されています。
このうち熊本県にいる税理士数は、861人(日本税理士会連合会 平成30年5月発行税理士界)で、南九州税理士会の約4割が熊本県にいることになり、4県の中で最多です。
熊本県の令和元年における相続税の申告は1,110件であったことから、1件当たりの税理士数は0.77人となっており、税理士1人当たり年間1.28件の相続税申告をこなしていることになります。
九州地方は相続税申告件数に対して税理士数が多く、熊本県も申告件数と税理士数に大差がないことから、税理士が充足している状態であるといえます。
3-1.熊本県の税理士は熊本市に集中している
熊本県の税理士探しで難しい点は、税理士の多くが熊本市内にいると推測できることです。
相続税申告件数の状況から当然の流れではあるのですが、県南部に位置しているエリアについては税理士探しに苦労する可能性が高いでしょう。
近隣は宮崎県と鹿児島県であるため、同じく税理士数が少ないことから、相続税に強い税理士を探すことは余計に難しいと考えられます。他県に出るよりは熊本市で探した方が良いでしょう。
熊本県は土地が広大です。南部のエリアから熊本市へ足を運ぶには費用も労力もかかります。また相続税に強い税理士を見つけるためには、1日行くだけでは難しいでしょう。
当サイトでは、熊本県の相続税に強い税理士を、簡単に検索できるようになっています。
自宅に居ながら、画面で多くの税理士の概要を見ることができ、気になった税理士には連絡を取ることができます。税理士探しの負担をかなり軽減できるはずですので、ご活用いただければと思います。