1.京都府について
京都府といえば、言わずと知れた日本を代表する観光名所であり、世界的に見ても有名なスポットがたくさんあります。
なんと京都には、上賀茂神社、下鴨神社、清水寺、銀閣寺、金閣寺、二条城、仁和寺、龍安寺、天龍寺、西芳寺、高山寺、西本願寺、東寺、醍醐寺、平等院、宇治上神社、比叡山延暦寺という17もの世界遺産があります。最近では、インバウンド外国人の需要も高まっており、まさに世界的な観光スポットと言えるでしょう。
また、京都は大学の数も多く、人口10万人当たりに対する大学、短大の数は全国1位であり、「学生の街」という一面もあります。主な大学としては、東京大学と並ぶ高学歴な京都大学、さらには同志社大学、立命館大学などがあります。そんな環境からか、京都からはノーベル賞受賞者が12人も出ています。
最近では、2014年の物理学賞を受賞した赤崎勇氏(青色発光ダイオードの開発)や、2012年の生物学章を受賞した山中伸弥氏(iPS細胞)などが有名です。
そんな京都府ですが、相続税の事情はどうなっているのでしょうか。

2.相続税は一般個人よりも事業者が課税されやすい傾向
京都府の2016年の相続税課税割合は9.12%で、全国7位の高さです。相続1件あたりの納付税額は1,780万円で9位と、高額な課税が行われています。京都府は古くから残る寺社などが多く、景観保全のために高層マンションなどの建設ができない地域があります。
そのため、東京都などの都市部と比べると持ち家率が高い傾向が現れています。さらに、観光地は地価が下がりにくく、市街地化している地域では強い上昇傾向によって全国4位という高額な地価を誇ります。
つまり、地価が高い地域でも不動産を所有していることが多いため、全国でも相続税が課税されやすい地域となっているのです。また、観光地が多いことから、京都府では観光業が盛んに行われています。
特に、近年はインバウンド需要によって新しく宿泊業を始める事業者も増えています。したがって、宿泊施設や観光関連の施設を経営している事業者へ高額な課税が行われていることも考えられます。宿泊施設の場合、不動産への課税が高額になりやすいため、事業の継承時に多額の相続税が発生する可能性が高いのです。
3.相続税の課税割合
平成28年のデータから、各税務署エリア毎の相続税の課税割合を算出しました。
京都府の相続税については、京都市、とりわけ中心部の上京区・中京区・下京区および北区・左京区・右京区・西京区に集中しています。その他のエリアでは、全国平均よりも低いレベルです。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
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上京 | 北区 上京区 | 337 | 258 | 1,971 | 16.49% | 12.62% |
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左京 | 左京区 | 336 | 250 | 1,981 | 21.71% | 16.15% |
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中京 | 中京区 | 205 | 147 | 1,115 | 21.09% | 15.12% |
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東山 | 東山区 山科区 | 179 | 130 | 3,766 | 10.24% | 7.44% |
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下京 | 下京区 南区 | 232 | 186 | 2,819 | 12.92% | 10.36% |
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右京 | 右京区 西京区 向日市 長岡京市 大山崎町 | 627 | 454 | 1,701 | 14.22% | 10.29% |
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伏見 | 伏見区 | 279 | 224 | 1,430 | 10.20% | 8.19% |
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福知山 | 福知山市 綾部市 | 94 | 81 | 925 | 6.04% | 5.20% |
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舞鶴 | 舞鶴市 | 76 | 62 | 997 | 7.44% | 6.07% |
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宇治 | 宇治市 城陽市 八幡市 京田辺市 木津川市 久御山町 井手町 宇治田原町 笠置町 和束町 精華町 南山城村 | 583 | 436 | 1,507 | 11.89% | 8.89% |
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宮津 | 宮津市 伊根町 与謝野町 | 33 | 30 | 375 | 4.44% | 4.03% |
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園部 | 亀岡市 南丹市 京丹波町 | 84 | 68 | 1,542 | 5.57% | 4.51% |
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峰山 | 京丹後市 | 32 | 30 | 373 | 3.80% | 3.57% |
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京都府計 | | 3,097 | 2,356 | 1,781 | 11.99% | 9.12% |
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税務署の管轄エリアごとに地域や相続税の特徴を解説していきます。
3-1.京都市の相続税事情
まずは、京都市内の各地域の相続税について解説します。
3-1-1.北区、上京区
京都市の北部に位置する北区と、中部に位置する上京区。北区は金閣寺や大徳寺といった観光地が多い地域で、北部には山間地があるため歴史と自然が残る住宅地が形成されています。
一方、上京区には京都府庁や迎賓館などの行政機関が置かれており、京都府の行政の中心地として機能しています。さらに、歴史的建造物も多く、古くから行政の中心地だったことがうかがえます。
この地域の課税割合は8.60%、1件あたりの納付税額は約1,970万円です。北区と上京区、どちらも京都市内で地価が高額ですが、2つの区の地価には2倍近く差があります。そのため、地価が高額な上京区がこの地域の相続の中心地域だと考えられます。
3-1-2.左京区
京都市の北東部に位置する左京区は、滋賀県とも隣接しています。上京区に続いて行政機関が多いのが特徴的で、平安神宮などの歴史ある建物も多く残っています。市の多くは住宅地として利用されていますが、北部の山間部では現在でも林業が盛んに行われています。
左京区の課税割合は15.67%、相続1件あたりの納付税額は約1,980万円です。京都市の中で最も高い課税割合となっています。岩倉地区などは市街地化調整区に指定されているため、市内には大型マンションの建設が制限されています。そのため、持ち家率が比較的高くなっていることが、この高い課税割合を生み出していると考えられます。
3-1-3.中京区
京都市の中心部に位置している中京区は、一時期の人口減少から大きく人口が回復している地域です。特に、南部での人口増加が著しく、北部には二条城があることから落ち着いた住宅地である南部が人気を集めていることが分かります。
中京区の課税割合は14.50%、相続1件あたりの納付税額は約1,110万円です。北部の地域よりも市街地化していることなどから、中京区の地価は市内で最も高額です。そのため、不動産の評価額が高額になりすく、地価の高い住宅地が多いことから左京区に次ぐ高い課税割合が生まれているといえます。
3-1-4.東山区、山科区
京都市の東部に位置している東山区と山科区。東山区は祇園や三条京阪などに繁華街が形成されており、早くから市街地化している地域です。ただ、山間部の宅地開発は行われておらず、人口は市内で最も少なく高齢者の比率が最も高い区となっています。
山梨区は京都市街地や大阪府のベッドタウンとして、近年人気を集めており他地域からの移住者が多い地域です。もともと山間部にある農村地域だったため地価が低いのですが、ベッドタウンの需要増加によって地価が上昇しています。
東区と山科区の課税割合は7.02%、1件あたりの納付税額は3,760万円です。1件あたりの納付税額は市内で最も高額な半面、課税割合が低い地域です。これは、東山区では高額な相続税が発生しやすいのですが、人口の多い山科区では地価が低いため課税が起きにくいという、正反対の状況によるものだと考えられます。
3-1-5.下京区、南区
京都市の中南部に位置している下京区と南区。下京区には付の中心駅となる京都駅があり、駅周辺には商業施設が多く建設されています。特に、四条通りには府を代表する繁華街が形成されています。
南区には伏見区へと続く産業振興拠点地区が広がり、区の中で本社を置く大企業が多いのが特徴です。そのため、市外からの通勤者が多く、周辺の住宅街には高所得者が多いことが考えられます。
下京区と南区の課税割合は10.86%、1件あたりの納付税額は約2,820万円です。下京区の地価は市内で2番目ですが南区は8番目で、約5倍の差が現れています。相続の多くは下京区で起きており、南区の地価の低さが課税額や課税割合へ影響しているといえるでしょう。
3-1-6.右京区、西京区
京都市の西部に位置している西京区。京都市の中では最も新しい区の一つでもあります。区のほとんどは住宅地として活用されており、中心駅である桂駅周辺には市街地が形成されています。京都市の中心部へのアクセスが容易なことから、ベッドタウンとして人気を集めています。
右京区は、合併により市内で最大の面積を誇る区となりました。区内は広く住宅街が広がっており、特に南部は後続の別荘などが立ち並んでいた歴史ある住宅地です。そのため、地価が高額な地域も南部に集中しています。
西京区の課税割合は10.45%、相続1件あたりの納付税額は約1,700万円です。西京区の税務署は右京区と西京区だけでなく、長岡京市や日向市が含まれています。長岡京市や日向市は、府内で2位と3位を誇る地価が高額な地域のため、相続が課税される可能性が高い地域です。
3-1-7.伏見区
伏見稲荷大社が全国的に有名な伏見区は、市の南部に位置しています。市内で最も多い人口を擁する区となっています。伏見区は、古くから続く商業拠点でありながら、市街地に近いことからベッドタウンとしても注目されています。
伏見区の課税割合は8.21%、1件あたりの納付税額は約1,430万円です。伏見区は地価が市内で下から2番目と低い地域であることから、課税割合が低くなっていると考えられます。一方で、市街地への通勤者が多く所得が高額になりやすいことが、課税額が高額である背景だといえるでしょう。
3-2.京都市以外の相続税事情
続いて、京都市以外の地域の相続税の特徴を解説していきます。
3-2-1.福知山市、綾部市
京都府の北部にある福知山市と綾部市。京都市内とは違って、どちらの市も工業が盛んに行われており、市内にはいくつもの工場が建設されています。そのため、工場の付近には工場団地が形成されており、さらなる企業誘致にも取り組んでいます。
福知山市と綾部市の課税割合は5.18%、1件あたりの納付税額は約924万円です。どちらの市も地価が低いことに加えて、工業地域あることから団地などで生活していることが考えられます。つまり、不動産の評価額が低いことが課税割合や課税額が少なっているといえるでしょう。
3-2-2.舞鶴市
京都府の北部に位置している舞鶴市。もともと海軍の軍港が建設されていたことから、現在でも造船業を始めとした工業が盛んに行われています。種別ではガラスを製造する窯業が最も出荷額が高く、食品や繊維製造業などさまざまな工場があるのも特徴的です。
舞鶴市の課税割合は5.92%、1件あたりの納付税額は約996万円です。舞鶴市内には国の主要機関や企業が多いのですが、一方で山間部に囲まれているため地価が低くなっています。こうした影響からか課税割合や課税額は低く、預貯金への課税が中心に行われているのだと考えられます。
3-2-3.宇治市、城陽市、八幡市、京田辺市、木津川市
京都府の南部に位置している、宇治市、城陽市、八幡市、京田辺市、木津川市。京都市に近いことからベッドタウンとして人気を集めています。その結果、京田辺市などでは年々人口が増加する人気地域となっています。
この地域の課税割合は9.04%、1件あたりの納付税額は1,500万円です。この地域では京都市への通勤率が高く、高所得者が多い地域だと考えられます。さらに、京都市以外の中では、どこも地価が高額なため、京都市内にも匹敵するような相続税の数字が現れています。
3-2-4.亀岡市、南丹市
京都府の北西部に位置している亀岡市、南丹市。この地域では農業が伝統的に行われており、黒豆や松茸、栗は全国的に知られている特産品です。また、製造業も行われており、特に亀岡市が経済の中心地となっています。
亀岡市と南丹市の課税割合は4.36%、1件あたりの納付税額は1,540万円です。課税割合が少ないのは、亀岡市以外の管轄地域の地価が低いことが要因です。亀岡市では農業地で広い土地を所有していることもあり、限られた世帯へ高額な課税が行われていると考えられます。
3-2-5.宮津市、京丹後市
京都府の北部に位置している宮津市と京丹後市。天橋立を始めとした豊かな自然が魅力的な地域です。ただ、魅力的な自然が多いことから居住地域が限られており、どちらの市も地価が大きく下がっています。
その影響からか、どちらの市も課税割合は5%を下回り、1件あたりの納付額も500万円以下です。京都市街地からの距離があり、人口減少が起きていることもあって、他の地域よりも低い相続税のデータとなっているといえます。

4.相続税の課税世帯が増える可能性が高い
京都府は古くから行政の拠点として機能していたため、国の主要機関などが京都市に集中する傾向があります。特に、京都市内は市街地化が進んでおり、大企業の本社が置かれることも多いです。
一方で、古くからの伝統的な産業も盛んに行われています。工芸品の職人などは団塊の世代が多く、京都市内には少子高齢化が進んでいる地域が出始めています。今後高齢化が加速することで、相続の発生件数が増えるため、現在よりも課税世帯が増える可能性があります。
特に、相続税法の改正により基礎控除額が引き下げられました。市内など地価が高い地域で不動産を所有している世帯へ相続税の課税が起こる可能性が高いため、相続税への対策がより重要になっています。
5.美術品や骨董品も相続の対象に
京都府での相続で注意が必要なのは、美術品や骨董品の相続です。実は、30万円以上の価値が認められるものは、相続税の算定対象となり課税される可能性があるのです。そのため、美術品や骨董品を多く所有している場合は、あらかじめその評価額を調べておき、どれくらいの課税が行われるのか確かめておく必要があります。
特に、旅館など宿泊業を営んでいる事業者は代々高価な美術品や骨董品を相続している可能性があります。土地や資金だけでなく、美術品や骨董品のような隠れた資産へも十分に注意しておき、適切な対策を講じましょう。
6.京都府の相続税理士の在籍状況
京都府内の税理士事業所数は664件、在籍している税理士数は1,895名です。税理士1人あたりの対応相続数は1.63件と、税理士数と相続数のバランスは良い状況となっています。
一方で、京都市内に在籍している税理数は1,000名を超えており、府内の税理士は京都市に集中していることが分かります。中でも、中京区には407名、下京区に268名が在籍しており、京都市に在籍している税理士の半数以上が、この2区に在籍しています。
そのため、京都府内で税理士を探す場合は、どの地域でも京都市でも税理士を探す必要があります。また、京都府は市街地や住宅地、山間部など、さまざまな種類の土地を所有している場合があるため、土地の評価に強い税理士を見つけることが大切です。
さらに、美術品や骨董品が多い場合には、こうした評価に強いことも税理士を選ぶ基準となります。不動産だけでなく課税される可能性があるものを事前に調べておき、自分の相続に合った能力を持つ相続に強い税理士を探しましょう。