1.静岡県の相続税申告の状況
静岡県の令和3年度の相続税の申告件数は5,608件、そのうち相続税がかかった課税件数は4,544件、課税割合は10.52%で全国47都道府県中6位、相続1件あたりの納付税額は1,161万円で23位です。
全国における平均は、課税割合9.33%、納付税額1,820万円となっています。
納付税額の順位は全国の中盤であり、そこまで高くありませんが、課税割合は非常に高い数値となっており、中部地方9県の中でも愛知県14.86%(全国2位)に次いでいます。全国的にも中部地方の中でも、相続税が課税されやすい地域であるといえます。
「自分は関係ない」と思っていると危険です。自宅を所有しているだけでも相続税がかかる可能性があるため、税理士の力を借りる準備をしておきましょう。
下記の表は、静岡県の税務署の管轄エリアごとの相続税申告状況です。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
静岡 | 葵区 駿河区 | 830 | 640 | 1,558 | 15.80% | 12.18% |
清水 | 清水区 | 378 | 298 | 1,574 | 12.21% | 9.63% |
浜松西 | 浜松市中区、西区、北区 湖西市 | 850 | 718 | 1,104 | 15.45% | 13.05% |
浜松東 | 浜松市東区、南区、 浜北区、天竜区 | 502 | 418 | 1,177 | 12.89% | 10.74% |
沼津 | 沼津市 御殿場市 裾野市 清水町 長泉町 小山町 | 649 | 516 | 1,169 | 13.19% | 10.49% |
熱海 | 熱海市 伊東市 | 188 | 156 | 1,569 | 9.78% | 8.12% |
三島 | 三島市 伊豆市 伊豆の国市 函南町 | 383 | 301 | 1,094 | 13.75% | 10.80% |
島田 | 島田市 牧之原市 吉田町 川根本町 | 235 | 199 | 723 | 10.43% | 8.83% |
富士 | 富士宮市 富士市 | 472 | 367 | 984 | 11.33% | 8.81% |
磐田 | 磐田市 袋井市 森町 | 384 | 319 | 884 | 13.36% | 11.10% |
掛川 | 掛川市 御前崎市 菊川市 | 245 | 213 | 926 | 11.51% | 10.01% |
藤枝 | 焼津市 藤枝市 | 399 | 320 | 990 | 12.43% | 9.97% |
下田 | 下田市 東伊豆町 河津町 南伊豆町 松崎町 西伊豆町 | 93 | 79 | 617 | 7.81% | 6.63% |
静岡県計 | 5,608 | 4,544 | 1,161 | 12.98% | 10.52% |
【出典サイト】「静岡県」|地方公共団体情報システム機構
静岡県の特徴としては、ほぼ全域の課税割合が高いという点です。
他県では、数カ所のエリアが突出して高く、過疎化地域は全国平均を大きく下回っているようなパータンが多く見受けられますが、静岡県は、突出したエリアがなく、エリアごとの順位も僅差で続いています。全国平均9.33%を下回っているのも、12エリア中わずか4エリアしかありません。居住しているエリアに関係なく、相続税が課税される可能性がある県です。
それではエリアごとの特徴を、課税割合の高い順に詳しく解説していきます。
2.各エリアの特徴と詳細
それでは、それぞれの管轄エリアにおける主要市町村の特徴や地価の状況を、課税割合の高い順に解説していきます。
(1) 浜松市中区・西区・北区、湖西市
浜松市中区、西区、北区、湖西市からなる浜松西税務署エリアは静岡県の西部に位置し、愛知県と隣接しています。浜松市の面積は1,558.06㎢と非常に大きく、岐阜県高山市に次いで全国2位となっています。
浜松市は県の中心都市としての役割を果たしており、特に中区は浜松駅があることから、大型商業施設や高層マンションが建設され、経済、文化、情報、サービスなどが集積しています。
課税割合は13.05%で県内1位です。次に登場する静岡市葵区・駿河区の課税割合よりも0.9ポイント近く多いです。ただし、納付税額は1,104万円で県内6位とやや低くなっています。
地価を見ると、中区は1平米あたり約14万円で市内最高額ですが、西区が約5万円、北区が約4万円と大きな差があり、相続税の多くは浜松市中区で発生していることがわかります。浜松市中区だけを限定的に比較すると、大きな差があることが明らかです。
【出典サイト】「行政区」|浜松市HP
(2) 静岡市葵区・駿河区
静岡市のうち、葵区と駿河区が静岡税務署の管轄です。この地域は、県の中央部に位置する静岡市の行政区であり、市内のほとんどの面積をこの2区が占めています。
葵区は県庁所在地であり、行政機関が多数置かれ、静岡県の行政の中心地として機能しています。
課税割合は12.18%で県内2位、納付税額は1,558万円で県内3位です。
1平方メートルあたりの地価は、葵区が約26万円で市内と県内で際立って高く、1位を維持しており、駿河区も約14万円で市内2位となっています。
葵区は県の行政機関が集中しているため、高所得者が多く住み着く傾向があり、また駿河区は葵区のベッドタウンとして機能しているため、地価や平均所得が高くなっています。このエリアは広大であるにもかかわらず、高い地価の土地が広がっているため、居住者は相続税の課税を考慮しておくことが賢明かもしれません。
【出典サイト】「区別名簿(3区)」|静岡市HP
(3) 磐田エリア
磐田市、袋井市、森町からなる磐田エリアは、静岡県の南西部に位置し、浜松市の西側に隣接しています。
このエリアはヤマハ発動機や河合楽器など、有名企業の子会社や工場が多く誘致され、工業都市として発展している一方、浜松市のベッドタウンとしても発展しています。
特に磐田市はJリーグの「ジュビロ磐田」の本拠地として知られ、市はスポーツの発展に力を入れており、小中学校のグラウンドを芝生化し、女子サッカーの推進にも取り組んでいます。
課税割合は11.10%で県内3位、以前の5位から浮上しました。ただし、納付税額は884万円で県内11位となっており、県内平均を下回っています。その主な理由は、地価が比較的低いことです。磐田市の地価は18位、袋井市の地価は21位、森町の地価は28位で、1㎡あたりの地価も3~4万円程度となっています。
しかし、課税割合が高いのは、このエリアに大手企業で働く人が多くいるためと考えられます。そのため、不動産課税よりも、預金などの財産に関連する相続税の方が影響を受ける可能性が高いでしょう。
(4) 三島エリア
三島市、伊豆市、伊豆の国市からなる三島エリアは、静岡県の北東部に位置し、神奈川などの都市部に近接しています。
「伊豆」という地名は、多くの人に馴染みがあり、観光名所として知られています。このエリアは温泉地はもちろんのこと、自然やレジャーを楽しむにも最適な場所として広く知られています。
産業面では、良質な水を活かした食品工場や繊維工場が多く建設されています。また、農業が盛んに行われているため、農具や農薬関連の産業も発展しています。
課税割合は10.80%で県内4位、以前は6位でしたので、順位があがりました。納付税額は1,094万円となっており、このエリアは静岡県の平均を下回っていますが、全国的に見るとやや高い水準と言えます。
地価については、三島市が県内2位の高い水準にあり、浜松市中区や静岡市駿河区と同等の金額となっています。一方、伊豆の国市は10位、伊豆市は24位と、地価がばらついています。
このエリアでは、三島市を中心に高額な相続税がかかる一方、伊豆市では人口増加を促すための再開発が進行中で、今後地価の上昇とそれに伴う課税額の増加が予想されます。そのため、将来的な相続税の影響に備えることが重要です。
(5)浜松市東区・南区・浜北区・天竜区
浜松市東区、南区、浜北区、天竜区は浜松東税務署エリアの管轄であり、前述した1位の浜松西税務署エリアに属していた浜松市中区、西区、北区以外からなっています。
課税割合は10.74%で県内5位、以前は7位でしたので、こちらも順位がアップしました。納付税額は1,177万円でやや多めです。このエリアは浜松西エリアとは異なり、主に田畑や宅地が広がっており、中区のベッドタウンとしての役割が強調されています。
地価については、浜松市内の7つの区域で東区が2位、浜北区が3位、南区が5位、天竜区が7位となっています。特に天竜区は1平方メートルあたりの価格が1万円と非常に低い金額となっており、県内の地価で見ると下から2番目の位置にあります。
他の3つの区域では地価の差が大きくないため、同様に留意が必要です。中区はベッドタウンとしての発展が進行しており、地価が今後上昇する可能性があるため、地価の動向に注視することが重要です。
(6)沼津エリア
沼津市、御殿場市、裾野市、清水町、長泉町、小山町からなる沼津エリアは、県の東部に位置し、神奈川県と隣接しています。
このエリアは、かつて東海と関東を結ぶ陸路と海路の交通拠点として栄え、商業や文化の中心地としての役割を果たしてきました。そのため、現在でも多くの金融機関や企業の本社が立地し、商業地や工業地が発展しています。
沼津市はJR東海道新幹線、JR東海道線、新東名高速道路、東名高速道路などが通っていて、交通アクセスが非常に便利であり、御殿場市や裾野市は沼津市のベッドタウンとして成長しています。
課税割合は10.49%で県内6位、納付税額は1,169万円です。地価については、沼津市が県内6位、裾野市が9位、御殿場市が12位という高い順位を示しています。
沼津市において高所得を得られる企業が多く存在し、周辺の市町がこれらの企業関係者の居住地として発展していることが、地価が高くなる原因です。
(7)掛川エリア
掛川市、御前崎市、菊川市の3市からなる掛川エリアは、県南部に位置しています。
このエリアは中心となる掛川市で、全国でも際立った緑茶の産出量を誇り、日本茶のブランドとして高い評価を受けています。掛川市は、日本茶で初めてモンドセレクション金賞を受賞したブランド茶を生産しています。
また、東海道新幹線の掛川駅や東名高速道路の掛川ICが存在し、県内でも有数の工業団地が整備されています。
このエリアの地価は掛川市が19位、菊川市が26位、御前崎市が33位と、全体的に低い水準です。そのため、課税割合は10.01%で、納付税額も926万円といずれも比較的低い数値となっています。
しかし、依然として全国平均よりもやや高めの課税割合となっており、相続税に関する検討が必要なエリアであることに留意してください。
(8)藤枝エリア
藤枝エリアは、焼津市と藤枝市から成り立っています。このエリアは、静岡県の中央部からやや北部に位置し、静岡市に隣接しています。
焼津市は長い海岸線を持ち、焼津港で水揚げされるマグロやカツオなどの豊富な水産物が知られています。これに伴い、水産流通加工業や水産加工用機械の生産業が盛んに営まれています。
藤枝市は静岡市のベッドタウンとして発展しており、藤枝駅周辺には都市機能が充実しています。また、少し足を伸ばせば自然に囲まれた環境で生活できることから、都会の喧騒から逃れたい人々にとって人気のある市です。
このエリアの課税割合は9.97%で、前項で述べた三島エリアとほぼ同じくらいです。納付税額は990万円となっています。
地価は藤枝市が15位、焼津市が16位と、県内35エリア中の中盤に位置しています。
この地域は、漁業とベッドタウンの要素が影響して、予想よりも課税割合や地価が高いという印象があります。静岡市に近接していることが大きく影響していると考えられます。
(9)静岡市清水区
静岡市の清水区のみからなる清水税務署エリアは、駿河湾や折戸湾に面した港町であることから、工場の進出が相次ぎ、貿易港として発展してきました。
このエリアからは美しい富士山が望め、国内外から多くの観光客が訪れる景勝地としても知られています。また、人気の少女漫画「ちびまる子ちゃん」の舞台としても有名で、ちびまる子ちゃんランドなど、漫画の雰囲気を楽しむ観光客も多く訪れます。
課税割合は9.63%で、県内では9位、以前は4位にいたのですが、かなり順位を下げました。清水区の課税割合も少し下がっていますが、それよりも、静岡県内の他の市区町村の課税割合が増えたことが大きな原因です。葵区や駿河区と比較すると、地価が低い約8万円という低いことが、課税割合が低くなる理由でしょう。
一方、納付税額は1574万円で1位となっており、葵区・駿河区も超えています。清水区の地価は海岸部よりも内陸部の方が高額であるため、区内でも葵区に近いあたりに居住している場合には、静岡エリア同様の注意が必要です。
(10)島田エリア
島田エリアは、島田市、牧之原市、吉田町、川根本町から成る地域で、静岡県の中央部に位置し、静岡市と浜松市に挟まれた南北に広がっています。この地域はお茶の生産地として有名で、静岡といえば多くの人がお茶を連想するでしょう。実際、このエリアがお茶の栽培地の中心となっています。
特に牧之原市は、その海に近い立地から一年中サーフィンなどのマリンスポーツが盛んに行われ、2021年には日本初の大型ウェイブプールが建設されました。海山川に囲まれた自然に恵まれたエリアでもあります。
課税割合は8.83%で県内平均を下回ります。また、納付税額は県内で2番目に低い723万円となっています。島田市の地価は県内17位で、1平方メートルあたりの価格が4万円台と比較的低い水準です。
(11)富士エリア
富士エリアは富士宮市と富士市から成る地域で、静岡市の東部に隣接し、その名の通り、富士山が地域の象徴となっています。この地域では、富士山の澄んだ湧き水を使用したお茶の栽培や製紙業、食品加工業が盛んに行われています。
課税割合は8.81%で、納付税額は984万円となっており、県内平均も全国平均を下回っています。地価は富士市が県内で13位、富士宮市が23位と比較的低い水準に位置しています。
富士エリアは農業よりも工業に焦点を当てて発展してきましたが、製紙業は紙の価格の急激な下落に伴い大手工場の閉鎖が相次ぎ、地域経済に大きな影響を及ぼしました。現在は自動車関連の工場が増加していますが、まだ完全な立て直しには至っていないため、地価が低い水準にとどまり、これが課税割合と納付税額の結果に影響している可能性があります。
(12)熱海エリア
熱海エリアは、熱海市と伊東市から成る地域で、静岡県の最東部に位置しています。伊豆と同様に、熱海市は古くから観光地として知られ、人口が密集している首都圏に近いことから、現在でも観光業がこの市の重要な産業となっています。
課税割合は8.12%、県内で2番めに低いです。一方、納付税額は1,569万円で県内2位と高額な相続税が発生しています。
地価は熱海市が8位、伊東市が14位と、そこまで高い水準ではありませんが、このエリアは別荘地としても知られており、高級住宅地が一部に存在しています。そのため、ここに住宅を所有する人々は高所得者である可能性が高く、その一部の高所得者による課税が高額な相続税をもたらし、平均値を引き上げていると考えられます。
(13) 下田エリア
県内最後のエリアになります。
下田エリアは、下田市、東伊豆町、河津町、南伊豆町、松崎町、西伊豆町から成る伊豆半島の大部分をカバーする地域で、地価と所得が低く、人口減少も進行しているエリアです。
課税割合は県内最下位で、6.63%となっており、納付税額も617万円で県内最下位です。課税件数も79件で、前述の熱海エリアの156件と比べても非常に少ない数字です。課税が限られた世帯に集中しているため、課税割合が極端に低くなっています。
ただし、最下位であっても、納付税額は決して低額ではないことから、このエリアでも、相続税に無頓着になるわけにはいかないことが示唆されます。したがって、生前に相続税の事前対策を検討し、必要であれば専門家のアドバイスを受けることが重要です。
3.静岡県の税理士情報
静岡県の税理士は東海税理士会に所属しており、その税理士登録者数は約4,300人(令和5年7月現在)で、そのうち静岡支部に所属している税理士は1,775人(令和5年7月現在)となっています。
静岡県の令和3年における相続税の申告が5,608件であったことから、1件当たりの税理士数は0.32人となっており、税理士1人当たり年間3件の相続税申告をこなしている計算になります。
相続税申告は申告期限まで10ヶ月ありますが、それだけ申告書の完成までに長い期間が必要になるということです。それを年間3本ということは、税理士が不足している状況にあるといって良いでしょう。
静岡県内の税理士1,775人の分布状況を代表的な市別に見ると、静岡市が467名、浜松市に503名、沼津市が158名となっており、静岡市と浜松市に半数以上の税理士が事務所を構えていることが分かります。
相続の発生場所によっては、地元の税理士に依頼することができない可能性がありますが、静岡県の強みは、愛知県や神奈川県などの都市と隣接している点です。
また地図を見ると分かりやすいですが、愛知県、浜松市、静岡市、神奈川県の並びが、程よい間隔で空いています。いずれも都会であるため、交通アクセスも良く、税理士の選択肢は多いといえるでしょう。
しかしながら、伊豆半島の特に先端部分や、御前崎市周辺はこれら都市部からは遠く、すべての税理士が対応できるわけではありません。地元以外で税理士を探す場合には、自分が生活している地域にも出張できるかを、出張費も含めて十分確認しましょう。
また、浜松市や静岡市など税理士が十分にいる地域に居住している場合には、地元の税理士に依頼することをおすすめします。
静岡県内は地域ごとに地価や土地の活用方法が異なっているため、特に、再開発や需要の情報に敏感であるなど、その土地が置かれている最新の状況から、適切な土地評価を行えなければなりません。土地の評価ミスは相続税を百万単位で変えてしまうこともあるため、税理士を比較する際には、土地評価に強いことを重視しましょう。
しかし、現実的には、税理士に馴染みのない一般の方が、このような探し方をするのは難解でしょう。
当サイトでは、相続税の土地評価に強い税理士のみをご紹介しております。
条件に合わせて簡単に検索することができるため、特に静岡県のように税理士の選択肢が多い場合には有効です。是非ご活用いただき、良い税理士探しのお手伝いができれば幸いです。
【参考サイト】「税理士登録者数 」| 日本税理士会連合会、東海税理士会ホームページ