遺言とは?自筆証書遺言と公正証書遺言と秘密証書遺言の違い
お父さん
「最近、世の中では「終活」というのが流行っているみたいだね。お父さんも何かやっているんですか?」
相続おじいちゃん
「そうじゃな。いろいろ身の周りのことを整理したり、お世話になった人に手紙を書いたりしとるぞ。あと、わしの死後、お前たちが遺産分割に困らないように遺言も準備するつもりじゃ。」
おじさん
「おやじ、ぜひ俺には、もらって役に立つ財産をくれるようによろしく頼むよ。」
おばさん
「まあ、お父さんの前で何てことを言うの!うちの旦那は口が悪くてすいませんね~。 ところで・・・、遺言は正しい方式で作成しないと有効になりませんので、間違いなく作成して下さいね・・・。」
目次
1.遺言とは
人生いつか死が訪れます。自分が死んだ後に、財産をどうするか、面倒を見ていた人をどうするか、心配になるところですが、死んでいては自分ではどうすることもできません。そこで、残された家族に、ああしてほしい、こうしてほしいとお願いする必要があります。
自分の死後、残される家族に伝える内容を「遺言」といいます。読み方は、一般的に「ゆいごん」と読まれていますが、「いごん」とも読みます。
遺言というと、よく一昔前には、床に伏して亡くなる直前の家主の前に子供たちが集まって、一人一人、父親から有難く言葉をいただくという光景がありました。
1-1.遺言は文書で
口で直接伝えても遺言ですが、残念ながら、これでは法律的に有効な遺言にはなりません。
遺言は文書に書く必要があり、しかも、書き方に決まりがいくつかあります。口で伝えただけだと、言った言わないの話になり、しかも故人が亡くなった後にそれが正しいかどうか証明することもできませんので、きちんと文書に残す必要があります。
また、何でも遺言で書いて良いものではなく、法律的に有効な遺言の内容には範囲があります。
1-2.自分との身分と財産に関することだけ
遺言できる内容は、自分との身分に関することと、自分の財産に関することだけです。身分関係というのは、たとえば、結婚していない愛人との間でできた子を自分の子として認めるなどです。財産については、誰が相続する人になるか、誰が何をどのくらい受け継ぐか、その方法はどうするかといった内容です。
「周りの人には丁寧に尽くしなさい、金儲けはほどほどにせよ」というような遺言は、素晴らしい言葉(「遺訓」ともいいます)ではありますが、それを守るかどうかは言われた人次第で、法律的な力はないわけです。
2.遺言の活用
遺言がなければ、残された家族は、法律に従って、亡くなった人の財産を分けます。法律で決まっていることだから、簡単にいきそうな気もするのですが、これがうまくいかないケースが多くあります。
法律では、子供どうしは均等に分けるとされていますが、兄は親孝行を一生懸命したのに、弟は遊び呆けてばっかりだったら、逆に不公平感があり、兄から文句が出るでしょう。また、家や土地などの不動産は簡単に分けることができませんので、どう分けるか大きな問題です。
こんなとき、亡くなった人の遺言があれば、その人の意思を尊重しようということで、それぞれ納得しやすいものです。
3.遺言には3種類
遺言は、15歳以上で精神的に問題ない人であれば、誰でもできます。
遺言の方法には決まりがありますが、方法には次の三種類があります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
正しい方法で作成しないと無効になってしまいますので、それぞれの長所・短所とともに、どのようにして作成すればよいか詳しく見ていきましょう。
4.自筆証書遺言とは
4-1.自筆で書く遺言
「自筆」という名前の通り、自分の手で書いた遺言です。遺言の全文と、日付、氏名を自分の手で書いて、押印をします。
あくまでも、自分の手で書く必要がありますので、ワープロやパソコンで打って印刷した場合は有効になりません。他の人に代わりに書いてもらった場合も無効です。
遺言の文章は縦書きでも横書きでも構いません。
用紙は何でも構いませんが、自分が死ぬまで保管することを考えると、しっかりとした紙を使ったほうが良いです。
文房具も決まりはありませんが、ボールペン、筆ペンなどはっきりと見えて消えないもので書くのが良いでしょう。鉛筆など後から消すことのできるものは避けたほうが良いです。
日付は明確にわかる日付を書きます。西暦や和暦にこだわらず日付がわかれば大丈夫です。
例)2015年1月30日、平成27年1月30日
押印は実印でなくても大丈夫です。ただ、死亡後の遺産相続に関わる大事な文書ですので、実印で押しておくのが無難ともいえます。指で押すのはやめたほうが良いでしょう。
追加または修正する場合は、次のようにかなり大変な条件があります。
- 変更した場所を明確に示す 例)第○行目の「田中」の次の「俊夫」を「敏夫」に訂正した。
- 変更したことを書き加える
- その書き加えた後に署名する
- 変更した場所に押印をする
かなり複雑な条件ですので、追加・修正の場合は、最初から書きなおしたほうが無難といえます。
最後に、これも決まりはないのですが、紙っぺらのまま保管しておくのも危険ですので、封筒に入れて口をしっかりと糊づけし、つなぎ目に印鑑を押して封印をするのが良いでしょう。
4-2.自筆証書遺言の長所/短所
自筆証書遺言の長所と短所を整理すると、次のようになります。
長所
- 一人で簡単に作れる
- 費用がかからない
- 遺言の内容を秘密にできる
短所
- 紛失したり書き換えられる心配がある
- 遺言の方法に問題があった場合は、無効となる可能性がある
気軽に作成しやすい分、方法を間違えやすいので、自筆証書遺言をした後に、弁護士、税理士、行政書士等の専門家にも見てもらったほうが良いでしょう。書き換えられたり、紛失する危険性がありますので、保管方法にも気をつけなければいけません。
4-3.保管方法
自分で保管する場合は、紛失しない場所、かつ自分が死んだ後に家族が見つけられる場所に保管しましょう。たんすの隙間とか、昔から愛読していた本の間に挟むという人もいますが、家族が見つけることができなかったり、誤って捨ててしまう可能性もありますので、要注意です。
自宅で保管するとしたら無難なのは金庫かもしれません。耐火金庫ならば、仮に火事があっても、一定時間内に火が消えれば、燃えずに残ります。あとは、保管場所を、信頼できる人に教えておきます。
自宅での保管は心配、家族は信頼できないという場合は、第三者にお願いして保管してもらうこともできます。弁護士、行政書士等の専門家であれば、守秘義務がありますし、業務として慣れてもいますので、安心です。
なお、銀行の貸し金庫での保管は避けたほうが良いです。なぜなら、契約者が死亡したことがわかると銀行はその貸し金庫を凍結してしまい、相続人全員の同意のうえで書類を書いて手続きしないと取りだせなくなるからです。遺言を取りだすだけで時間がかかっていたら、その後の話し合いもスムーズに進みません。
5.公正証書遺言とは
5-1.公証人が作成する遺言
「公正証書」という名前の通り、公正証書による遺言で、公正人が作成します。
公正人とは、法律の専門家であり、中立的な立場で、公正証書と呼ばれる書類を作成する人のことです。
公正証書とは、国の機関が作成して保管する書類で、紛失や偽造の心配がなく、確実な証拠となります。お金を貸し借りした時とか、離婚の協議をした時とか、その事実を確実に証拠に残したいときに、公正証書がよく作成されます。
公正証書遺言は次のような手順で作成されます。
1. 近くの公正役場に出向きます。所在地は、全国公正役場所在地一覧を参照してください。2人以上の証人が立ち会う必要がありますので、一緒に行きます。配偶者とか子供とか相続の対象になる人は証人になれません。身近な人にはお願いしにくい面がありますので、第三者で信頼できる人がいれば良いですが、弁護士/税理士/行政書士などの専門家に依頼することも多いです。
2. 遺言をする人が、遺言の内容を公正人に口頭で伝えます。
3. 公証人はその内容を筆記し、遺言をした人と証人に読み聞かせるか、筆記したものを見せます。
4. 遺言をした人と証人が、公証人の筆記したことが正確であることを承認し、それぞれ署名して印鑑を押します。
5. 最後に、公証人が、以上の方法で作成したものであることを書いて、署名し印鑑を押します。
遺言をする人が口が聞けない場合は、手話などの通訳を通して伝えるか、または自分で書いて、公正人に内容を伝えます。
遺言をする人または証人が耳が聞こえない場合は、公正人が書いたものを見せるか、または手話などの通訳を通して、内容を確認させます。
5-2.公正証書遺言の長所/短所
公正証書遺言の長所と短所を整理すると、次のようになります。
長所
- 紛失や改ざんの心配がない
- 相続開始後に、家庭裁判所で検認してもらう必要がない
短所
- 遺言の内容を知られてしまう
- 費用がかかる
- 証人を立てる必要があるため、手間がかかる
プロの役人が作成して保管するため、紛失したり書き換えられりする心配がありません。一方で、費用がかかりますし、証人を依頼する必要があり面倒です。遺言の内容を証人には知られてしまいます。
5-3.公正証書遺言の費用とスケジュール
公正証書遺言を作成するのに実際いくらかかるか気になるところです。手数料がかかりますが、相続財産の金額と相続させる人の人数によって手数料は変わってきます。
たとえば、合計1億円の財産があり、妻に6000万円、息子に4000万円を相続させる場合は、83,000円の手数料がかかります。詳細は、日本公証人連合会のサイトを参照してください。
次にスケジュールですが、公正役場に突然行って遺言を作成するのではありません。通常は、事前に、公正役場に何度か出向いて公正人と打合せを行い、遺言内容を決めます。公正証書ですから、間違った内容の遺言は作成できませんので、不動産の登記簿謄本をとったり、戸籍謄本をとったりして、確実な内容の遺言になるように詰めていきます。そのために、数週間から数ヶ月かかると思えば良いでしょう。
遺言内容が決まったらいつ公正役場で公正証書を作成するかを決めます。2人以上の証人を探して、全員が都合のつく時間に公正役場に出向いて行います。
確実な遺言を作成できますが、このように費用と手間がかかるのが、公正証書遺言です。
6.秘密証書遺言とは
6-1.自筆と公正証書のミックス版
大ざっぱに言いますと、自筆証書遺言と公正証書遺言をミックスしたような感じの遺言方法です。
まず、自筆証書遺言と同様に、自分自身で遺言を作成します。ただし、自筆証書遺言と違って、自筆である必要はなく、他人に代わりに書いてもらったものでもパソコンで打ったものでも大丈夫です。
遺言を書いたら、氏名を自分の手で書いて印鑑を押します。ここは自筆証書遺言と一緒です。
そして、封筒に入れて口をしっかりと糊づけし、つなぎ目に印鑑を押して封印をします。ここで、気をつけるべき点は、遺言に押した印鑑と同じ印鑑を封筒にも押して封印することです。違う印鑑で封印をしてしまうと無効になってしまいますので、注意しましょう。
次は、公正証書遺言と少し似ていますが、公正役場に出向いて、公正人に封筒を差し出します。そして、証人2人以上に立ち会ってもらい、この遺言は確かに自分の遺言であることと、自分の住所・氏名を伝えます。
公証人は、遺言をした人が言ったことと、封筒が差し出された日付を、その封筒に書きとめます。その後、遺言をした人と証人が一緒に署名し印鑑を押します。
公正証書遺言と違って公正役場で保管はしてくれませんので、自分自身で保管します。
6-2.秘密証書遺言の長所/短所
秘密証書遺言の長所と短所を整理すると、次のようになります。
長所
- 遺言をしたことが証拠に残る
- 書き換えられる心配がない
- 遺言の内容を秘密にできる
短所
- 費用がかかる
- 紛失する心配がある
- 遺言の方法に問題があった場合は、無効となる可能性がある
遺言の内容を秘密にしながら、遺言の存在を確実にできることが良いところです。その一方、自分で保管するため、紛失する心配はやはりありますし、封印した中身は他の誰も見ることができないため、遺言の方法を間違えていると無効になる可能性もあります。
たとえば、遺言そのものに署名や押印を忘れていたとか、遺言の印鑑と封筒の印鑑が別々だったという場合です。
6-3.秘密証書遺言と他の遺言の比較
秘密証書遺言は、自筆証書遺言と公正証書遺言と似ているところがありますが、同じところと違うところを整理すると、次のようになります。
同じところ | 違うところ | |
自筆証書遺言との比較 | ・自分で遺言を作成する ・自分の名前を書いて印鑑を押す ・自分で保管する | ・遺言の本文は自筆でなくても良い ・封筒に入れて印鑑を押し封印するのが必須 |
公正証書遺言との比較 | ・公正人に依頼する ・証人2人以上が立ち会う | ・公正人と証人が保証するのは、その人が確かに遺言をしたこと ・遺言の内容そのものは保証されない |
秘密証書遺言は長所も短所もあり、手間も費用もそれなりにかかるため、この方法をとる人は少ないです。
秘密証書遺言として無効になった場合でも、封筒の中身の遺言が自筆証書遺言として認められれば、遺言自体は有効となります。ですので、秘密証書遺言の場合でも、できれば本文は自筆で書いたほうが良いです。
7.遺言執行者の指定
遺言を正しい方法でしたとしても、はたして、子供たちが、遺言も守ってくれるかどうか心配なことがあります。親の言うことなんか無視して勝手に遺産分割をしてしまうかもしれません。
そんなときには、遺言の中で、遺言執行者を指定しておきます。遺言執行者とは、相続する人に代わって、遺言の内容を実現する人のことです。遺産分割が終わるまで、亡くなった人の財産を管理し、名義変更などのいろいろな手続きを進めます。遺言執行者がいる場合には、相続する人は勝手に遺産を処分することができません。
遺言で遺言執行者が指定されていないときでも、相続する人たちの間でもめているときには、家庭裁判所にお願いして、遺言執行者を選んでもらうことができます。また、問題のある相続人に相続できなくさせる場合など、遺言執行者が必ず必要なこともあります。
遺言執行者にふさわしいのは、相続に関して知識があり信頼できる人ですが、身近にそういう人がいない場合には、弁護士や行政書士などの専門家に依頼することが多いです。
8.遺言が見つかったら?
さて今度は、遺言する人のほうではなく、遺言を残された人のほうの話です。
親が亡くなって遺品を整理していたら遺言と書かれた封筒が見つかった、さあ、どうすれば良いでしょうか?
気になったので思わずはさみで封を切って中身を見てしまった、これはダメです。遺言の入った封筒を家庭裁判所に持って行って開封する必要があります。そうでないと、罰金を科される可能性がありますので、ご注意ください。
8-1.遺言書の検認と開封
遺言が見つかった場合、または故人の生前に遺言を預っていた場合は、まず、家庭裁判所に持って行って検認をしてもらいます。検認とは、遺言が発見されたままの状態を明確にして偽造されたりしないようにするための手続きです。検認が済んでから、遺言に従って遺産相続を進めることになります。
ただし、公正証書遺言の場合には、遺言が公正役場で保管されていて偽造される心配はありませんので、検認をしてもらう必要はありません。
遺言が封筒に入っていて封印がされている(封筒の開け口に印鑑が押されている)場合は、勝手に開けてはいけません。家庭裁判所に持って行って、相続する人か、または、その代理の人が立ち会ったうえで、開封します。
8-2.罰則
家庭裁判所に遺言を提出して検認をしてもらわずに、その遺言の内容を行ったり、封印のある遺言を勝手に開けてしまった場合には、最高5万円以下の過料(罰金のようなもの)を科される可能性があります。ですので、遺言を見つけたら、まずは、家庭裁判所に持っていきましょう。
ただ、このような規則を知らない人もいますので、知らずに間違ってしまったとしても、実際に過料を科されるケースはあまりないようです。また、遺言の内容自体は有効ですので、ご安心ください。
参考:過料
あまり聞きなれない言葉ですが、罰金の一種で、何かの手続き方法を間違えたときに、行政的な罰として科されるものです。
非常によく似た言葉で、科料というものもありますが、こちらは、軽い犯罪を犯したときに刑事的な罰として科されるものです。1000円以上、10,000円未満です。