生命保険を利用した生前贈与による相続税対策

生命保険

生命保険が相続対策に有効であることはよく知られていますが、2015年1月からの相続税の基礎控除引下げに伴い、生命保険を利用した生前贈与が以前にもまして注目されています。メリット、デメリットや効果的な加入プランについて、詳しく解説します。

1.生命保険を利用した生前贈与とは

生命保険を利用した生前贈与とは、贈与税の基礎控除(年間110万円)の枠内で毎年現金を贈与し、それを保険料に充当して生命保険に加入するという方法のことです。贈与税は税率が高いですが、この方法であれば贈与税が課税されることなく、長期にわたり安定的に財産移転を行うことができます。

1-1.契約形態で異なる税金の種類

生命保険を利用して生前贈与を行う場合は、契約形態、つまり保険契約者(=保険料負担者)、被保険者、保険金受取人の関係に注意する必要があります。契約形態を間違えたら生前贈与は成立せず、また課税関係、つまりかかる税金も変わってくるからです。例えば、父親を被保険者として加入する場合、次の4パターンが考えられますが、それぞれの場合の死亡保険金にかかる課税関係は次の表のようになります。

契約形態保険契約者保険料負担者被保険者保険金受取人税金の種類
父親父親父親母親または子相続税(死亡保険金非課税枠あり)
父親父親父親相続人以外相続税(死亡保険金非課税枠なし)
父親所得税(一時所得)
母親母親父親贈与税

表の①、②では、保険契約者(=保険料負担者)、被保険者とも父親ですので、生前贈与にはなりません。いずれの場合も父親が死亡した場合、保険金受取人が受け取る死亡保険金は相続税の対象となります。

表の④では、保険契約者(=保険料負担者)、被保険者、保険金受取人がそれぞれ異なりますので、子の受け取る死亡保険金は贈与税の対象となります。

1-2.生前贈与に適した加入形態

生前贈与に最も適した加入形態は、先ほどの表の③です。
子には、生命保険料を払うお金がない場合が多いと思われますが、父親が毎年、贈与税の基礎控除110万円の範囲内で子に現金を贈与し、子はこの現金を保険料に充当し、自身を保険契約者(=保険料負担者)、保険金受取人、父親を被保険者として生命保険に加入します。これで、父親から子への財産移転が可能になります。

2.相続で生命保険を利用するメリット

2-1.納税資金の確保

生命保険を利用した生前贈与のメリットとしてまず挙げられるのが、死亡保険金で納税資金を確保できることです。先ほどの③の加入形態で、他の相続財産の状況により保険金受取人である子に相続税が課税されるような場合でも、死亡保険金を相続税に充当することができます。

2-2.円滑な遺産分割に役立つ

生命保険の死亡保険金の使途に制限はありません。ですので、例えば代償分割の資金に使うことも可能です。相続財産に不動産など流動性の低い資産が多く、現預金など流動性の高い資産が少ないときには特に有効といえるでしょう。このように、円滑な遺産分割にも役立つというメリットもあります。

2-3.贈与税の基礎控除の活用(非課税枠:年間110万円まで)

前述のとおり、贈与税には年間110万円の基礎控除(非課税枠)があります。例えば、相続が発生するまでの期間を10年とすると、累計で110万円×10=1,100万円の非課税枠があることになります。これをうまく活用すれば、相続税の課税対象となる父親の現預金を1,100万円圧縮することができます。贈与税の非課税枠の計画的な活用により、長期にわたり安定的に財産移転を行うことができるのです。

ただし、毎年同額の贈与を行う場合は、定期贈与とみなされて累計の贈与金額(総額)に対して贈与税が課税されることがありますので、十分ご注意ください。

【関連】暦年贈与のメリットと注意点:契約書作成と贈与税申告がポイント

2-4.受取時の一時所得の課税

さて、先ほどの③の加入形態の場合、子が受け取る死亡保険金は相続税ではなく所得税の課税対象となります。具体的には、一時所得として所得税が課税されることになりますが、その計算式を見てみましょう。

一時所得の金額 = 総収入金額(③の場合は死亡保険金)-その収入を得るために支出した金額(③の場合は子が支払った保険料の総額)-50万円(特別控除額)
一時所得として課税される金額 = 上記で計算した一時所得の金額×1/2

つまり、子が受け取った死亡保険金と子が支払った保険料の差額から50万円を控除し、その金額の1/2が一時所得として課税されます
この1/2がとても重要です。被相続人が多くの資産を保有している場合、相続税との比較では、1/2が効いて税負担が軽くなるケースがしばしば見られます。この所得税と相続税の比較については、事前にシミュレーションを行いそれぞれの税負担について把握しておくとよいでしょう。

3.生命保険を利用した節税対策のデメリット

生命保険を利用して行う生前贈与には、もちろんデメリットもあります。

3-1.所得税率・住民税率が高いと負担が大きい

先ほど2-4.で一時所得の課税方法について説明しましたが、死亡保険金には正確には所得税以外に住民税も課税されます。住民税は都道府県および市区町村が課税しますので、税率はそれぞれ異なります。自治体によっては住民税の税率が高い場合もあります。

また、一時所得は前述の一時所得の金額×1/2が、他の所得と合算して課税されます。この場合、例えば、子が給与所得者で比較的高い給与収入を得ている場合などは、課税される所得税の税率も高くなってしまいます。

このように、所得税と住民税の税率によっては、生前贈与の効果が薄れてしまうことがありますので、注意が必要です。

3-2.生命保険に加入できないリスク

例えば、被保険者の健康状態がすぐれないときや高齢の場合、そもそも生命保険に加入できないということもあります。相続対策に有効な保険商品のなかには、加入対象年齢の範囲が広かったり、告知が簡単で加入しやすいものもありますが、それでも加入できないリスクは残ります。

4.生命保険加入のポイント

4-1.生前贈与を成立させるための要件

生命保険を利用した生前贈与を有効に機能させるためには、その要件を満たす必要があります。主なものは次のとおりです。

  • 贈与の事実を残すため、贈与契約書を、毎年の贈与の都度2通作成する。公証役場で確定日付をもらうのが望ましいです。
  • 年間110万円以下の贈与の場合でも、毎年贈与税の申告書を作成し提出します。また、定期贈与とみなされないよう、毎年の贈与金額は変えることが望ましいです。あるいは、贈与金額は110万円を多少超過して贈与税を少し払うくらいでもよいです。
  • 贈与者(③の場合は父親)は受贈者(③の場合は子)の銀行口座に現金を振り込み、その銀行口座から受贈者自らが保険料を支払います。
  • 受贈者の預金通帳と印鑑、キャッシュカードなどは、受贈者自らが保管します。贈与者が保管してはいけません。

なお、子が契約者となりますので、支払った保険料は子の生命保険料控除の対象となります。父親の生命保険料控除の対象とはならないので注意しましょう。また、例えば乳幼児に生前贈与をするといったことは非現実的でリスクが高いといえ、避けたほうがよいでしょう。なぜなら、受贈者側の子については、保険料の実質的な負担能力がないと判断されれば、父親死亡時の死亡保険金に相続税が課税されてしまう可能性があるからです。十分注意しましょう。

4-2.保険金受取人の検討

相続人が複数いる場合は、より効果的な相続対策を行うために、保険金受取人(=受贈者)を誰にするかについては特に慎重に検討する必要があります。相続財産の内容や他の税制特例の適用可否等を総合的に判断し、相続対策の効果が最も高くなるように保険金受取人を選定しましょう。

検討 悩む

5.生前贈与をより効果的にするために

5-1.生前贈与に適した生命保険の種類と加入プラン

生前贈与をより効果的にするためには、加入する生命保険の選定にも注意する必要があります。生前贈与に向く保険と向かない保険があるからです。一般的に、生前贈与に適しているといわれる生命保険は、次のとおりです。

  • 終身保険
  • (保険期間の長い)養老保険
  • 長期平準定期保険

生前贈与は、贈与税の基礎控除枠を使って長期に安定的に財産移転を進めることが狙いです。また、相続(今回の場合は、父親の死亡)はいつ発生するかわかりません。そのためいつ相続が発生してもよいように、生前贈与に利用する生命保険としては、保険期間が長く解約返戻金も期待できる終身保険や養老保険、長期平準定期保険などが適しています。個人年金保険が有効な場合もあります。

逆にいえば、保険期間が有期の保険、例えば保険期間10年の定期保険などは不向きといえます。また、外貨建ての保険には為替リスク、変額保険には価格変動リスクがあるため、それぞれやはり不向きといえます。

なお、加入プラン(加入形態)については、前述の契約形態③のように、被相続人を被保険者とし、財産移転を進めたい相続人を契約者、保険金受取人にするのが一般的です。ただし、2次相続まで考える場合は、加入プランが変わってきます。次で見てみましょう。

5-2.2次相続対策

生命保険を利用した生前贈与は、2次相続対策としても活用できます。例えば、父親が死亡し1次相続が発生した場合、相続人である母親については「配偶者の税額軽減」という特例があり、法定相続割合か1億6,000万円までは相続税が発生しません。そのため、1次相続は無事通過する場合も多いですが、問題は次に母親が死亡、いわゆる2次相続が発生した場合です。この場合当然ながら「配偶者の税額軽減」は使えないため、相続税の支払いに窮するような事態が生じるかもしれません。

このような場合に備えるため、父親が毎年、贈与税の基礎控除110万円の範囲内で子に現金を贈与し、子はこの現金を保険料に充当し、自身を契約者、保険金受取人、母親を被保険者として加入することで、2次相続に備えることができます。
生命保険を利用した生前贈与は、1次相続のみならず2次相続に対しても有効です。

5-3.孫への生前贈与

生命保険を利用した生前贈与は、子のみが対象とは限りません。孫への生前贈与が有効な場合もあります。これは、孫に生前贈与することで、より多くの財産を移転できることもありますが、課税を1回で済ませることができるというメリットも見逃せません。

つまり、最終的に同じ孫に財産を移転する場合でも、父親→子→孫と父親→孫の場合では、相続税の課税回数が1回減ります。被相続人の資産が多い場合は、子のみならず孫への生前贈与も検討の余地があるでしょう。

6.まとめ

生命保険を利用した生前贈与は、節税の観点からは魅力的ですが、注意すべき点も多いです。加えて生命保険そのものの知識や税金に関する知識も必要です。事前の慎重な検討が必要で、可能であればシミュレーションも行いましょう。

また生前贈与は、被相続人、相続人のライフプランにも大きな影響を与えることになりますので、もし実際に検討する場合は、税理士やファイナンシャル・プランナーなど専門家に相談されることをお勧めします。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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