1.福岡市の相続税申告の特徴
令和元年の相続税申告状況のデータによると、福岡市における申告割合は10.24%、課税割合は8.11%、1件当たり納付税額1,936万円となっています。
これらの数値は税務署の管轄エリアごとに計算されているため、福岡市の行政区だけではなく、管轄内にある周辺の市区も含まれていますが、人口からしてほぼ福岡市内の数値であると考えて問題ないでしょう。
福岡県全体では、申告割合7.32%、課税割合5.88%、1件当たり納付税額1,493万円であることから、福岡市単体の平均値は、福岡県の平均を大きく上回ることが分かります。
しかし、全国平均の申告割合10.71%、課税割合8.35%、納付税額1,714万円から見てみると、福岡市は5大都市圏に含まれる都市でありながら、全区平均並みの数値となっています。
税務署名 | 管轄地域 | 申告件数 | 課税件数 | 1件当たり 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
博多 | 東区(※) 博多区 | 205 | 171 | 1,989 | 8.60% | 7.18% |
香椎 | 東区(※) 宗像市 古賀市 福津市 宇美町 篠栗町 志免町 須恵町 新宮町 久山町 粕屋町 | 477 | 389 | 1,405 | 7.91% | 6.45% |
福岡 | 中央区 南区 | 519 | 404 | 2,295 | 14.84% | 11.55% |
西福岡 | 西区 城南区 早良区 糸島市 | 624 | 482 | 2,044 | 10.55% | 8.15% |
福岡市合計 | 1,825 | 1,446 | 1,936 | 10.24% | 8.11% |
※ ※印の付いた区については、税務署の管轄が跨っているため、死亡者数を管轄税務署により按分して計算しています。
それでは次項にてそれぞれの区の特徴を見ていきましょう。
2.福岡市各区の特徴
福岡市は九州を総括する大都市でありながら、程よく自然が残っているコンパクトシティとして知られています。
仕事をするにも生活するにも「ちょうどいい」という魅力があり、移住者も多いことが特徴です。
福岡市には7つの行政区があります。それぞれの区について相続税の課税状況、街の特徴や地価などを詳しく見てみましょう。
2-1.中央区
福岡市の中心に位置しており、役所や金融機関、企業のオフィスビルや商業施設など、その名称通り福岡県の中心として機能しています。
九州一の繁華街である天神地区も中央区にあり、最新のトレンドが集まるファッションビルが建ち並び、若者や観光客で賑わっています。イメージとしては東京の渋谷や新宿が近いでしょう。
中央区は南区と共に福岡税務署の管轄となっており、課税割合は11.55%、納付税額は2,295万円で、いずれも市内1位の数値となっています。
中央区の地価は1㎡あたり165万円と非常に高く、市内2位の博多区93万円に大きく差を付けた突出した金額となっています。
これだけ高い地価の区であるため、居住するのであれば自然とマンションが多くなりますが、このような中心部にも落ち着いた高級住宅街があるのが福岡市の特徴です。
中央区には福岡市の高級住宅街の筆頭に挙げられる「浄水通」や、大濠公園に近い「大濠公園」には、豪華な戸建て住宅が建ち並んでおり、福岡市で成功した人たちが居住しています。
2-2.南区
北側が中央区に隣接している南区はベッドタウンとしての役割が強く、閑静な住宅街や大規模な集合住宅が多くあります。
南区の地価は1㎡あたり22万円で市内4位と中位にあり、同様に中心部のベッドタウンとなっている東区6位と西区7位(最下位)と比較すると、南区が最も高くなっています。さらに鴻巣山周辺は高級住宅地として発展していることから、富裕層も多いと考えられます。
2-3.西区
全域が住宅地として発展しており、ベッドタウンとして機能しています。中央区に近い東部程栄えており、西部は田園が広がる田舎になります。
西区を管轄しているのは西福岡税務署で、城南区、早良区、糸島市も管轄地域に含まれています。課税割合は8.15%、納付税額は2,044万円でいずれも福岡市内の平均並みで、2位となっています。
地価は福岡市内で最も低く、1㎡あたり11万円です。どちらかというと車を持つ若いファミリー層に人気のエリアであり、目立つ高級住宅街もないことから、相続税課税の面からすると大きな注意が必要な区ではないでしょう。西福岡税務署の管轄内において平均値を下げている区であると考えられます。
2-4.城南区
城南区は福岡市の中央部に位置しており、中央区とも隣接した利便性の高い区です。
これだけの立地にありながら地価は1㎡あたり18万円で、市内5位と低いのが特徴です。荒江団地や金山団地などの公営団地も多く、居住地としての選択肢が充実しています。
福岡大学をはじめとして学生の多い街でもあり、人口の2割を学生が占めており、相続税が、課税され難い区であるといえるでしょう。
2-5.早良区
福岡市を縦に割るように広がる、大きな区域を有しています。
北部の中央区に近く博多湾に面している「百道」には、ハイソな新興住宅地が広がっており高級住宅街として知られています。
昔ながらの大豪邸が林立しているというよりは、お洒落な戸建て住宅や、洗練された高級タワーマンションなど、高級感がありながらも今どきの活気が感じられる住宅街となっており、臨海エリアの環境の良さも相乗して、百道に居住することは福岡市民の新たなステータスとなっています。
地価も1㎡あたり24万円で市内3位、住宅地が多い区としては最も高い数値となっています。西福岡税務署内の相続税は、早良区を中心に課税されていると考えられます。
2-6.博多区
博多区は九州を代表するターミナル駅である博多駅をはじめとして、博多港、福岡空港、国道3号線など交通の要衝であり、福岡の玄関口として機能しています。
博多駅周辺には県庁などの行政機関、金融機関、オフィスビルなどが建ち並び、ビジネス地としての性格が強い区になりますが、2011年のJR博多シティの誕生によって、商業地としての魅力も発信しています。
博多区は東区と共に博多税務署が管轄しており、課税割合は7.18%、納付税額は1,989万円となっています。
博多区の地価は1㎡あたり93万円で中央区に次いで高額ですが、ビジネス地として活用されている面が強く、相続税の不動産課税にはあまり繋がりません。南部の一部には閑静な住宅街がありますが高級住宅街はなく、相続税については、同じ都心部である中央区とは違う様相を示しています。
2-7.東区
東区は福岡市内最大のベッドタウンとして発展しており、人口は市内最多です。北部に位置する海ノ中道海浜公園には、水族館やリゾートホテルなどがある九州屈指のリゾート地として、全国から多くの観光客が訪れます。
地価は1㎡あたり13万円と市内6位、また人口は多いですが高級住宅街はないため、相続税が関係する程の富裕層は少ないと考えられます。
そして、ビジネス地である博多区が同じ管轄であることが、博多税務署の課税割合が低い理由となっています。
3.福岡市の税理士情報
福岡県には税理士が2,671人(日本税理士会連合会 平成30年5月発行税理士界)おり、福岡市にはその半数以上の約1,500人が在籍しています。
福岡市の令和元年における相続税の申告数は1,825件であることから、税理士1人あたりの件数は約1.21件になります。全国平均は約1.9件であるため、福岡市の税理士数は充足しているといって良いでしょう。
特に、中区と博多区を含む九州北部税理士会の福岡支部と博多支部には税理士が1,369人がおり、福岡市の9割が集結していることになります。
しかし、だからといって福岡市の相続税申告のうち、中区や博多区の件数が突出して多いということはなく724件にとどまります。このエリアのみで税理士1人あたりの件数を計算すると約0.52件となり、税理士が溢れている状況です。
その分、それ以外の区には地元税理士が少ないということになりますが、大都会の福岡はJR、私鉄、地下鉄、バスなど交通網に不便がありません。中区や博多区での税理士探しは容易に行うことができるでしょう。
また税理士の側から考えると、中区や博多区の税理士は他区も顧客範囲に含めなければ仕事がない状況にあるといえます。その分増えてしまう相続税に弱い税理士には十分注意しながら、相続税に強い税理士を吟味しましょう。