1.静岡県の相続税申告の状況
静岡県の令和元年における相続税の申告件数は5,056件、そのうち相続税がかかった課税件数は4,041件、課税割合は9.63%で全国47都道府県中6位、相続1件あたりの納付税額は1,166万円で23位です。
全国における平均は、課税割合8.35%、納付税額1,714万円となっています。
納付税額の順位は全国の中盤であり、そこまで高くありませんが、課税割合は非常に高い数値となっており、中部地方9県の中でも愛知県13.93%(全国2位)に次いでいます。全国的にも中部地方の中でも、相続税が課税されやすい地域であるといえるため、頭から「私は関係ない。」では危険です。自宅を所有しているだけでも可能性があるため、税理士の力を借りる準備をしておきましょう。
下記の表は、静岡県の税務署の管轄エリアごとの相続税申告状況です。
静岡県の特徴としては、ほぼ全域の課税割合が高いという点です。
他県では、数カ所のエリアが突出して高く、過疎化地域は全国平均を大きく下回っているようなパータンが多く見受けられますが、静岡県は、突出したエリアがなく、エリアごとの順位も僅差で続いています。全国平均8.35%を下回っているのも、12エリア中わずか3エリアしかありません。居住しているエリアに関係なく、相続税が課税される可能性がある県です。
それではエリアごとの特徴を、課税割合の高い順に詳しく解説していきます。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
静岡 | 葵区 駿河区 | 728 | 579 | 1,501 | 13.95% | 11.10% |
清水 | 清水区 | 349 | 280 | 1,326 | 12.13% | 9.73% |
浜松西 | 浜松市中区、西区、北区 湖西市 | 752 | 625 | 1,534 | 14.14% | 11.75% |
浜松東 | 浜松市東区、南区、 浜北区、天竜区 | 434 | 358 | 1,039 | 11.28% | 9.31% |
沼津 | 沼津市 御殿場市 裾野市 清水町 長泉町 小山町 | 651 | 489 | 1,153 | 13.95% | 10.48% |
熱海 | 熱海市 伊東市 | 143 | 116 | 1,278 | 7.79% | 6.32% |
三島 | 三島市 伊豆市 伊豆の国市 函南町 | 324 | 249 | 1,011 | 12.13% | 9.32% |
島田 | 島田市 牧之原市 吉田町 川根本町 | 243 | 193 | 642 | 11.18% | 8.88% |
富士 | 富士宮市 富士市 | 451 | 352 | 1,070 | 10.87% | 8.48% |
磐田 | 磐田市 袋井市 森町 | 315 | 264 | 959 | 11.52% | 9.66% |
掛川 | 掛川市 御前崎市 菊川市 | 204 | 167 | 700 | 9.98% | 8.17% |
藤枝 | 焼津市 藤枝市 | 376 | 294 | 867 | 11.91% | 9.32% |
下田 | 下田市 東伊豆町 河津町 南伊豆町 松崎町 西伊豆町 | 86 | 75 | 689 | 6.71% | 5.85% |
静岡県計 | 5,056 | 4,041 | 1,166 | 12.05% | 9.63% |
【出典サイト】「静岡県」|地方公共団体情報システム機構
2.各エリアの特徴と詳細
それでは、それぞれの管轄エリアにおける主要市町村の特徴や地価の状況を、課税割合の高い順に解説していきます。
2-1. 浜松西エリア
浜松市中区、西区、北区、湖西市からなる浜松西エリアは静岡県の西部に位置し、愛知県と隣接しています。浜松市の面積は1,558.06㎢と非常に大きく、岐阜県高山市に次いで全国2位となっています。
浜松市は県の中心都市として機能しており、特に中区は、中心駅である浜松駅があることから、周辺には大型商業施設やタワーマンションなども建設されており、経済・文化・情報・サービスが集結しています。
課税割合は11.75%、納付税額は1,534万円となっており、どちらも県内1位です。特に納付税額は県の平均を大きく上回っており、相続税が発生しやすいうえに、税額も高額になりやすいエリアです。
地価を見ると中心都市である中区は、1平米あたり13万円と市内最高額なのですが、西区は5万円、北区は3万円と差が激しくなっており、相続税の多くは中区で起きているといえるでしょう。
次項で解説する静岡エリアと課税割合、納付税額ともに僅差ですが、浜松市中区だけを限定的に比較すると、大差がついているものと考えられます。
【出典サイト】「行政区」|浜松市HP
2-2. 静岡エリア
葵区と駿河区からなる静岡エリアは、県の中央部に位置する静岡市の行政区であり、市内のほとんどの面積をこの2区が占めています。
葵区は県庁所在地であり、行政機関が多数置かれ、静岡県の行政の中心地として機能しています。
課税割合は11.10%%、納付税額は1,501万円となっており、どちらも県内2位です。
1㎡あたりの地価は、葵区25万円で市内と県内で断トツの1位、駿河区も13万円で市内2位といずれも高額です。
葵区は、県の行政機関が集中している都市であることから高所得者が集まりやすくなっていること、そして、駿河区は葵区のベッドタウンとして機能しているため、地価や平均所得が高くなっていることが理由として考えられます。
このエリアは広いにもかかわらず全域の地価が高いため、居住しているという時点で相続税の課税を想定していた方が良いかもしれません。
【出典サイト】「区別名簿(3区)」|静岡市HP
2-3. 沼津エリア
沼津市、御殿場市、裾野市、清水町、長泉町、小山町の3市3町からなる沼津エリアは、県の東部に位置し、神奈川県に食い込む形で隣接しています。
この地域は、もともと東海と関東を繋ぐ陸路と海路の交通拠点として発展し、商業や文化の中心地として機能していたことから、現在でも金融機関や企業の本社が建設されており、商業地や工業地などが形成されています。
沼津市内にはJR東海道新幹線、JR東海道線、新東名高速道路、東名高速道路と大きな交通網が整備されていることから交通アクセスは抜群で、御殿場市や裾野市は沼津市のベッドタウンとして発展しています。
課税割合は10.48%、納付税額は1,153万円となっており、地価は浜松市や静岡市の都市部からは離れたエリアであるにもかかわらず、沼津市が県内2位、裾野市が8位、御殿場市が12位と比較的高い金額となっています。
沼津市には高額な所得を得られる企業が集結していること、周辺の市町はその人たちが居住するベッドタウンとなっていることも相乗して、このような高い結果となりました。
2-4. 清水エリア
静岡市の清水区のみからなる清水エリアは、駿河湾や折戸湾に面した港町であることから、工場の進出が相次ぎ、貿易港として発展してきました。
清水区から見える富士山は大変美しく、国内外から多くの観光客が訪れる景勝地でもあります。また、少女漫画「ちびまる子ちゃん」の舞台としても有名で、ちびまる子ちゃんランドをはじめ、街の雰囲気を味わおうとする観光客も訪れています。
課税割合は9.73% で県内4位、納付税額は1,326万円で3位となっており、葵区と駿河区と比較すると地価が8万円と低いことが、同じ静岡市内でも課税割合に1%近い差が出た理由でしょう。
しかし、納付税額は2区に匹敵する金額となっています。清水区の地価は海岸部よりも内陸部の方が高額であるため、区内でも葵区に近いあたりに居住している場合には、静岡エリア同様の注意が必要です。
2-5. 磐田エリア
磐田市、袋井市、森町からなる磐田エリアは、県の南西部に位置し、浜松市の西側に沿うように隣接しています。
ヤマハ発動機や河合楽器など、有名企業の子会社や工場が多数誘致されており、工業都市として発展していますが、その立地から浜松市のベッドタウンにもなっています。
磐田市はJリーグの「ジュビロ磐田」の本拠地として有名で、小中学校のグラウンド芝生化、女子サッカーの推進など市を上げてスポーツの発展に力を入れています。
課税割合は9.66%、納付税額は959万円となっており、納付税額は県内平均を下回っています。理由としては、地価は、磐田市が18位、袋井市が21位、森町が28位と低く、1㎡あたりも3、4万円程度であることだと考えられます。
しかし課税割合は高く、これは大手企業に勤務する人の所得高さが影響しているものと考えられ、このエリアは不動産課税よりも、預金などそれ以外の財産に相続税がかかる可能性が高いと思われます。
2-6. 三島エリア
三島市、伊豆市、伊豆の国市の3市からなる三島エリアは、県の北東部、神奈川などの都市部に近い位置にあります。
「伊豆」という地名を聞いたことがない人は、いないのではないでしょうか。それほど有名な観光地で、有名な温泉はもちろんのこと、自然やレジャーを楽しめるエリアです。
産業面は、良質な水を生かした食品工場や繊維工場がいくつも建設されています。また、現在でも農業が盛んに行われていることから、農具や農薬などを扱う産業も発展しています。
課税割合は9.32%、納付税額は1,011万円となっており、このエリアから静岡県の平均を下回りますが、それでも全国的に見ると依然として高い数値であることは変わりません。
地価は三島市が県内2位の高さとなっており、浜松市中区と同水準の金額ですが、伊豆の国市は10位、伊豆市は24位となっており、高中低とまばらです。
このエリアは三島市を中心として高額な相続税が課税されているといえますが、伊豆市では人口増加に向けた再開発が行われているため、今後地価の上昇に伴い課税額も上昇する可能性がある点に注意しましょう。
2-7. 藤枝エリア
藤枝エリアは、焼津市と藤枝市からなります。県の中央より若干北部に位置しており、静岡市に隣接しています。
焼津市は海岸線が長く、焼津港で水揚げされるマグロやカツオをはじめとする豊富な水産物が有名です。産業もそれに伴って、水産流通加工業や水産加工用機械の生産業が盛んです。
藤枝市はその位置から静岡市のベッドタウンとして発展しています。藤枝駅周辺は都市機能が充実している反面、少し足を伸ばすと自然豊かな生活をおくることができ、都会の喧騒に疲れた人々が、マイホームを建てる場所として人気を得ている市です。
課税割合は9.32%で前項の三島エリアと同順位、納付税額は867万円となっています。
地価は、藤枝市15位、焼津市16位となっており、県内35位中の中盤程度の金額です。
漁業やベッドタウンという面からすると、思ったより課税割合や地価が高い印象ですが、やはり静岡市に近いということが大きく影響しているものと考えられます。
2-8. 浜松東エリア
浜松東エリアは、浜松市東区、南区、浜北区、天竜区からなり、前述した1位の浜松西エリアに属していた浜松市中区、西区、北区以外からなっています。
課税割合は9.31%、納付税額は1,039万円であり、浜松西エリアとは離れた結果となっています。理由としては、こちらは田畑や宅地が多いエリアとなっており、中区のベッドタウンとしての機能が強くなっていることが挙げられます。
地価は浜松市7区中、東区2位、浜北区3位、南区5位、天竜区7位となっており、天竜区は1㎡あたり1万円と群を抜いて低い金額となっています。県内順位に当てはめると、下から3本に入ります。
他3区は金額にすると大差がないため、同程度の注意を向ける必要があります。中区のベッドタウンということから、中区の発展に伴って地価が上昇する可能性があるため、地価動向には十分注意しましょう。
2-9. 島田エリア
島田市、牧之原市、吉田町、川根本町からなる島田エリアは、県の中央部、静岡市と浜松市に挟まれる形で南北に通して位置しています。
このエリアはお茶の産地として有名です。静岡と聞くとお茶をイメージする人も多いですが、このエリアを中心に栽培されています。
牧之原市はその位置からも分かるように、サーフィンなどのマリンスポーツが1年を通して盛んに行われており、2021年には日本初の大型ウェイブプールが建設されました。
海山川と自然豊かなエリアですが、課税割合は8.88%と、この順位にして全国平均をまだ大きく上回っており驚異的です。納付税額は642万円と県内最下位となっています。
地価は最も高い島田市で17位、1㎡あたり4万円台の低さが納付税額の低さにつながっているものと考えられます。
しかし、このエリアは高齢者率が高いことから相続発生の頻度が高くなっていること、浜松市や静岡市へ通勤している人の所得の高さ、広い田畑を所有していることなどから、課税割合は高くなっています。
2-10. 富士エリア
富士宮市と富士市からなる富士エリアは、静岡市の東部と隣接し、その名称通り、富士山が地域のシンボルとなっています。
富士山の澄んだ美しい湧き水を使用したお茶の栽培や、製紙業、食品加工業が盛んに行われています。
課税割合は8.48%、納付税額は1,070万円となっており、全国平均を超える課税割合のエリアでは最後になります。
地価は、富士市が13位、富士宮市が23位となっています。
農業よりも工業によって大きく発展してきたエリアですが、製紙業は紙の価格が大きく下落したことから大手工場の閉鎖が相次ぎ、地域の経済に大きな影響を与えました。
現在では自動車関連の工場が増えているものの、完全な立て直しにまで至っていないことから地価も低く、それが課税割合と納付税額の結果に繋がっています。
ただし、県内では10位ですが、まだまだ8%台であることを忘れてはいけません。県によっては上位になることもある数値であるため、相続税に注意がいらないというわけでは決してありません。
2-11. 掛川エリア
掛川市、御前崎市、菊川市の3市からなる掛川エリアは、県南部に位置しています。
中心となる掛川市は、全国屈指の緑茶の産出量を誇り、日本茶で初めてモンドセレクション金賞を受賞したブランド茶です。
また、東海道新幹線掛川駅や東名高速道路掛川ICがあることから、県内有数の工業団地が形成されています。
地価は掛川市が19位、菊川市27位、御前崎市33位と全域で低くなっていることから、課税割合は8.17%、納付税額は700万円といずれも低い数値に繋がっています。
ただし、まだ全国平均を若干割った程度であり、相続税の心配がないラインではありません。
2-12. 熱海エリア
熱海市、伊東市からなる熱海エリアは、県の最東部に位置しています。
伊豆と同様に熱海市は古くから観光地として人気を集め、現在でも観光業が市の重要な産業となっています。
課税割合は6.32%と下から2番目で、これまでのエリアより1段次元が下がります。しかし、納付税額は1,278万円で4位となっており、いざ相続税がかかるとなると、高額になる可能性が高いエリアです。
地価は熱海市が9位、伊東市が14位とそこまで高い水準ではありませんが、このエリアは別荘地としても人気があり、一部には高級住宅街が形成されています。
そのため、この地域で住宅を所有している人は所得が高い可能性があり、このような一部の高所得者への課税によって高額な相続税が発生し、平均値を押し上げていると考えられます。
2-13. 下田エリア
県内最後のエリアになります。よって、課税割合も最下位です。
下田市、東伊豆町、河津町、南伊豆町、松崎町、西伊豆町からなる下田エリアは、伊豆半島のほとんどの市町が範囲となっていますが、どの地域も地価と所得が低く、人口減少も起きているエリアです。
課税割合は5.85%、納付税額は689万円で、課税件数も75件と非常に少なくなっており、前項の熱海エリアの116件と比較しても6割程度です。限られた世帯でのみ課税が行われているため、課税割合が一際低くなっています。
ただし、最下位といえども納付税額はそこまで低くないことから、無視して良い地域ではありません。生前のうちに相続税発生の有無を、必ず一度は確認しておきましょう。
3.静岡県の税理士情報
静岡県の税理士は東海税理士会に所属しており、その税理士登録者数は4,405人(令和3年9月末日現在)で、そのうち静岡支部に所属している税理士は1,789人(平成30年3月31日現在 日本税理士会連合会 平成30年5月発行税理士界)となっています。
静岡県の令和元年における相続税の申告が5,056 件であったことから、1件当たりの税理士数は0.35人となっており、税理士1人当たり年間3件の相続税申告をこなしている計算になります。
相続税申告は申告期限まで10ヶ月ありますが、それだけ申告書の完成までに長い期間が必要になるということです。それを年間3本ということは、税理士が不足している状況にあるといって良いでしょう。
静岡県内の税理士1,789人の分布状況を代表的な市別に見ると、静岡市が456名、浜松市に506名、沼津市が110名となっており、静岡市と浜松市に半数以上の税理士が事務所を構えていることが分かります。
相続の発生場所によっては、地元の税理士に依頼することができない可能性がありますが、静岡県の強みは、愛知県や神奈川県などの都市と隣接している点です。
また地図を見ると分かりやすいですが、愛知県、浜松市、静岡市、神奈川県の並びが、程よい間隔で空いています。いずれも都会であるため、交通アクセスも良く、税理士の選択肢は多いといえるでしょう。
しかしながら、伊豆半島の特に先端部分や、御前崎市周辺はこれら都市部からは遠く、すべての税理士が対応できるわけではありません。地元以外で税理士を探す場合には、自分が生活している地域にも出張できるかを、出張費も含めて十分確認しましょう。
また、浜松市や静岡市など税理士が十分にいる地域に居住している場合には、地元の税理士に依頼することをおすすめします。
静岡県内は地域ごとに地価や土地の活用方法が異なっているため、特に、再開発や需要の情報に敏感であるなど、その土地が置かれている最新の状況から、適切な土地評価を行えなければなりません。土地の評価ミスは相続税を百万単位で変えてしまうこともあるため、税理士を比較する際には、土地評価に強いことを重視しましょう。
しかし、現実的には、税理士に馴染みのない一般の方が、このような探し方をするのは難解でしょう。
当サイトでは、相続税の土地評価に強い税理士のみをご紹介しております。
条件に合わせて簡単に検索することができるため、特に静岡県のように税理士の選択肢が多い場合には有効です。是非ご活用いただき、良い税理士探しのお手伝いができれば幸いです。
【参考サイト】「税理士登録者数 」| 日本税理士会連合会、東海税理士会ホームページ