1.神奈川県の特徴
神奈川県は関東地方の南西、東京都の真南に位置しており太平洋に面しています。東京都に次ぐ人口を誇る大都市です。
みなとみらい、横浜中華街、赤レンガ倉庫、鎌倉、箱根など、全国的に有名な観光名所を全域に多数持ち、東部は工業地帯として首都圏の産業の一角を担い、県庁所在地である横浜市には大手企業のオフィスビルや大規模商業施設が乱立しています。
商業、工業、観光などあらゆる面において長けており、さらに首都圏に気軽にアクセスできる利便性を兼ね備えた魅力ある県です。
2.神奈川県の相続税申告の状況
神奈川県の令和元年の相続税申告状況は次の通りです。税務署の管轄エリアごとにまとめられた公表となっています。
神奈川県の課税割合は12.60%で、隣接している東京都に比べると課税割合は下がりますが、それでも全国平均を上回る相続税が発生している県であることに変わりはありません。
都心に近いことから高所得者も多く、相続税対策は重要になる県です。
特に、鎌倉市、逗子市、葉山町などの観光リゾート地である湘南エリアや、川崎市など横浜市以外が高くなっていることが分かります。神奈川県は、都市部よりもベッドタウンの相続税が発生しやすい傾向にあり、それが神奈川県の相続税の大きな特徴となっています。
それでは、税務署の管轄エリアごと、課税割合が高い順にエリアの特徴と相続税申告の状況を解説していきます。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
鶴見 | 鶴見区 | 387 | 283 | 1991 | 15.76% | 11.52% |
横浜中 | 中区 西区 | 391 | 286 | 2547 | 15.91% | 11.64% |
保土ケ谷 | 保土ケ谷区 旭区 瀬谷区 | 953 | 712 | 1534 | 19.24% | 14.37% |
横浜南 | 南区 磯子区 金沢区 港南区 | 1,358 | 964 | 1350 | 14.37% | 10.20% |
神奈川 | 神奈川区 港北区 | 997 | 699 | 2389 | 26.52% | 18.60% |
戸塚 | 戸塚区 栄区 泉区 | 905 | 648 | 1713 | 16.39% | 11.74% |
緑 | 緑区 青葉区 都筑区 | 1,178 | 867 | 2541 | 23.59% | 17.36% |
川崎南 | 川崎区 幸区 | 529 | 382 | 1635 | 13.78% | 9.95% |
川崎北 | 中原区 高津区 宮前区 | 989 | 700 | 2178 | 21.01% | 14.87% |
川崎西 | 多摩区 麻生区 | 710 | 508 | 2771 | 22.68% | 16.23% |
横須賀 | 横須賀市 三浦市 | 636 | 488 | 947 | 11.35% | 8.71% |
平塚 | 平塚市 秦野市 伊勢原市 大磯町 二宮町 | 955 | 709 | 1173 | 16.40% | 12.17% |
鎌倉 | 鎌倉市 逗子市 葉山町 | 739 | 542 | 2368 | 24.11% | 17.68% |
藤沢 | 藤沢市 茅ヶ崎市 寒川町 | 1,294 | 919 | 1499 | 20.11% | 14.28% |
小田原 | 小田原市、南足柄市 中井町 大井町 松田町 山北町 開成町 箱根町 真鶴町 湯河原町 | 580 | 447 | 1025 | 13.69% | 10.55% |
相模原 | 相模原市 | 866 | 621 | 2235 | 13.26% | 9.51% |
厚木 | 厚木市 愛川町 清川村 | 341 | 264 | 2299 | 14.26% | 11.04% |
大和 | 大和市 海老名市 座間市 綾瀬市 | 748 | 542 | 1530 | 14.53% | 10.53% |
神奈川県計 | 14,556 | 10,581 | 1839 | 17.34% | 12.60% |
【出典サイト】「神奈川県内の市町村」| 神奈川県ホームページ
2-1.神奈川(神奈川区・港北区)
神奈川区と港北区は横浜市の中北部に位置している区で、課税割合は18.60%で堂々の1番目です。神奈川県で18%を超える唯一のエリアになります。
県名と同じ区名が付いている神奈川区は、市内で最初にできた行政区でもあります。再開発によってオフィスビルや高層マンションが急増し、臨海部の横浜港エリアには京浜工業地帯が広がっていることも特徴です。
港北区は港北ニュータウンを始めとした住宅街として発展しており、人口と世帯数ともに横浜市で最も多い街となっています。
神奈川区の都市部については、再開発が行われたことによって、オフィスや商業地としての需要による地価が上昇したことで、生活拠点とはなりづらくなっていますが、電車通勤のサラリーマンにとって利便性が高い立地であるため、住みたい街としての人気は上々です。
港北ニュータウンを始めとした住宅地の人気は高く地価も高いため、相続税が発生しやすいエリアとなっています。
2-2.鎌倉(鎌倉市・逗子市・葉山町)
横浜市の南部に隣接している鎌倉市、逗子市、葉山町は湘南エリアといい、日本を代表する観光地として有名です。よくニュースで耳にする、皇族の葉山御用邸は葉山町にあります。
課税割合は17.68%となっており、神奈川県で2番目の高さとなっています。
決して都心ではないこのエリアが2番目となっている理由は、歴史的な観光地であるため建築制限によってオフィスビルなどがあまり建設されず、地域の大半が住宅地として活用されており、落ち着いた街並みが住みやすさに繋がっている他、東京駅までJRで1時間程度というアクセスの良さなど、ベッドタウンとしての機能性の高さが注目され、高所得者が多く集まっているためです。「いつか暮らしてみたい」と憧れを抱かせる高いブランド力のあるエリアです。
特に葉山市は別荘地として知られており、著名人や経営者など資産を築いた高所得者の生活拠点となる傾向が強いため、必然的に課税割合も高くなっています。
2-3.緑 (緑区・青葉区・都筑区)
横浜市の北部に位置し、東京都町田市や川崎市と隣接している緑区、青葉区、都筑区の課税割合は17.36%でした。2番目の鎌倉と同等の水準となっています。
東京、横浜、川崎への交通アクセスの利便性が高く、基本的に全域が住宅地として活用されています。緑が多く景観の良い街並みはあらゆる層の世代に人気で、人口増加へ合わせるように現在でも各区で積極的に団地が建設されています。
特に青葉区の東急田園都市線沿線は高級住宅街としても知られており、高所得者が集まるベッドタウンとなっています。
地価はそこまで高額ではありませんが、預金やその他の資産を多く所有しているため、高額な相続税となっている人が多い地域です。
2-4.川崎西(多摩区・麻生区)
川崎市の最西部に位置する多摩区と麻生区の課税割合は16.23%で、高級住宅地を擁する緑エリアに匹敵しています。
この地域は東京都との県境に位置しており、多摩区は世田谷区と隣接しています。川崎市の中心部に行くよりも東京都心部の方が近いため、東京方面への鉄道路線が大きく発展しています。川崎西は一言で表すなら「アクセスや利便性がとても良い街」といえます。
よって、東京都へ通勤する人達のベッドタウンとして需要が高く、特に、新百合ヶ丘などは市内屈指の高級住宅街となっているため、高額の財産所有者が多く、緑エリアと同様の理由から課税割合が高くなっているのだと考えられます。
2-5.川崎北(中原区・高津区・宮前区)
川崎市の中央部に位置する中原区、高津区、宮前区の課税割合は14.87%で、5番目ではありますがここから一気に下がります。特に川崎西とは隣であり、同様の東京のベッドタウンであるあるにもかかわらず、1.36%の差が付いています。
しかしながら、東京と横浜どちらにでも便利な立地は、横浜都心部だけのベッドタウンよりも利便性が高く、特に平坦地で生活がしやすい中原区は川崎市内で最も人口が多い地域であり、14.87%という課税割合は神奈川県の平均はもちろんのこと、横浜市内の区よりも高い水準となっています。
名だたる高級住宅地はないものの、中原区は武蔵小杉を中心に地価が高くなっており、川崎北地域の相続の中心地だといえます。
2-6.保土ケ谷(保土ケ谷区・旭区・瀬谷区)
横浜市の中央部に位置している保土ケ谷区、旭区、瀬谷区の課税割合は14.37%です。
かつては工業地域として発展していましたが、現在では農業が主な産業となっており緑があふれる地域で、全体が横浜都心で働く人たちのベッドタウンとして発展しています。
旭区と瀬谷区は中区から大きく離れてしまうため移動が難しく、ベッドタウンとしての地価はそれほど高くはありません。相続税が発生する中心地は、保土ヶ谷区であるといえるでしょう。
2-7.藤沢(藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町)
藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町が属する藤沢エリアは、鎌倉と同じく湘南エリアで、鎌倉地域よりも西部に位置しています。課税割合は14.28%で7番目、保土ヶ谷とほぼ同率です。
全国的に有名な江ノ島があり、海のイメージが強い地域です。鎌倉エリアと同様に景観の良いベッドタウンとしての機能性が高く、高所得者の別荘も多く建てられています。ネット環境の普及によって、都心に住居を構える必要性が薄くなった現代では尚更、高所得者が増加傾向にあります。
こうした高所得者が集まることにより、課税割合が大きく上昇していると考えられ、今後も伸びていくでしょう。
2-8.平塚(平塚市・秦野市・伊勢原市・大磯町・二宮町)
神奈川県の中央南部に位置する平塚市、秦野市、伊勢原市、大磯町、二宮町の平塚エリアの課税割合は12.17%で、7番目藤沢エリアから2.11%離れての8番目です。神奈川県全体の平均が12.60%であることから、同水準といえます。
目立った観光産業はない地域になりますが、平塚市は古くから工業都市として発展しており、日産自動車が工業の発展を牽引しています。
この工業地帯に勤務している人も多く、平塚市の周辺にある市や町がベッドタウンとなっています。二宮町や大磯町などは、横浜市の都市部に次ぐ平均所得となっており、都心ではないにもかかわらず、課税割合を引き上げていると考えられます。
2-9.戸塚(戸塚区・栄区・泉区)
横浜市の南東部に位置している戸塚区、栄区、泉区の課税割合は11.74%です。12%をわずかに下回り、ここからは神奈川県の平均以下の地域になります。
戸塚区に多くの企業や工場が進出しており、この地域の中心都市として発展しています。鎌倉市や藤沢市、栄区、泉区と隣接しており、各方面から通勤者が集まります。
栄区や泉区は戸塚区のベッドタウンとして発展しており、戸塚区自体も横浜や東京都のベッドタウンになっています。
需要がある地域ではありますが、湘南エリアに近いことから、高所得者層はそちらへ移住している可能性があり、課税割合自体は伸びていないと考えられます。
2-10.横浜中(中区・西区)
中区と西区は横浜市の中央部に位置しており、中区には県庁や支庁などの行政機関が集中し、西区は大手企業のオフィスビルや商業施設などの商業の中心になっています。
神奈川県の中心都市であるにもかかわらず、課税割合は11.64%と低めです。
理由としては、中区と西区は県内で最も高額な地域であり、最新の路線価で県内最高額となった「横浜駅西口バスターミナル前通り」は西区にあります。
よって、高い地価の影響により生活拠点というよりは、オフィスや商業ビルが中心となるため、この地域は住む場所ではなく通う場所となっており、相続税の課税件数も非常に少なくなっているといえます。
相続税は人が住んでいるところの課税割合が高くなります。
横浜市は都心部とベッドタウンの棲み分けが行われているため、課税割合は、横浜都心部よりもベッドタウンのほうが高いという現象が起きていると考えられます。
2-11.鶴見(鶴見区)
鶴見区は横浜市の北東端に位置しており、北側に川崎市、西に港北区と神奈川区、南は東京湾に面しています。市内では唯一、単独で管轄されている地域で課税割合は11.52%です。
臨海エリアには大小様々な工場が立ち並び、代表的な大手企業には森永製菓やキリンビール、ダスキンなどがあります。
緑が多い住宅街も整備されてはますが、マンションや団地などの集合住宅地が多く、相続税が高額になる土地の相続があまりないため、課税割合は上昇しにくい状況にあります。
2-12.厚木(厚木市・愛川町・清川村)
厚木エリアは神奈川県のほぼ中央部に位置しており、東側には鮎釣りで有名な相模川が流れています。課税割合は11.04%で11%台最後の地域です。
東名高速や小田原厚木道路、国道など様々な国道が交差する利便性の良さから、商業都市として物流の拠点にもなっており、厚木市内には物流業などの企業の事業者が多く建設されています。
産業中心のエリアである割には高い課税割合となっている理由としては、商業都市として発展している厚木市に居住している人は、年収が比較的高い水準にあることが挙げられ、相続税の課税割合も比例していると考えられます。
2-13.小田原(小田原市・南足柄市・中井町・大井町・松田町・山北町・開成町・箱根町・真鶴町・湯河原町)
神奈川県の南西部に位置している小田原エリアの課税割合は10.55%です。
この地域は箱根をはじめとする日本有数の温泉地であり、東京都からも手軽にアクセスできることから別荘地としても人気があります。
温泉地や別荘地という特殊な地域であり、都心部からも離れているためベッドタウンとして機能はほとんどなく、居住している人自体は少ないため課税割合は伸びていません。
2-14.大和(大和市・海老名市・座間市・綾瀬市)
横浜市の西部と隣接し、神奈川県の中央部に位置している大和エリアの課税割合は10.53%です。
海老名市の高速道路に建設された道の駅「海老名サービスエリア」は、テレビなどでよく特集されることもあり、商業が活発な地域です。行ったことはなくても多くの人が知っているのではないでしょうか。
大和市は東京都町田市や藤沢市とも隣接しているため、都市部のベッドタウンとしても人気です。
よってこの地域は、商業やベッドタウンの機能が高く地価も高額となっており、高所得者による課税が多いように思いますが、藤沢市や鎌倉市に近いことから高所得者はそちらへ流れる傾向にあり、横浜市内と同様な傾向が生じることによって課税割合は低くなっています。
2-15.横浜南(南区・磯子区・金沢区・港南区)
横浜市の中南部に位置している南区、磯子区、金沢区、港南区を擁する横浜南エリアの課税割合は10.20%です。
南区や港南区はその立地から、中区や西区のベッドタウンとして人気ですが、その他になると湘南エリアと隣接している分、人気が薄くなり地価は低くなります。
金沢区や磯子区に住むなら湘南エリアとなってしまうため高所得者層が少なく、課税割合は上昇しにくい状況にあります。
2-16.川崎南(川崎区・幸区)
川崎区と幸区は川崎市の東部に位置しており、東京湾に面した湾岸エリアになります。課税割合は9.95%で10%を切る下から3番目で、神奈川県の平均からすると低い数値となっています。
川崎区は川崎市役所の所在地であり、川崎駅周辺には繁華街も形成され、市の中心として機能しています。また工業地域としても発展しており、各地に工場が建設されています。
川崎市の中心都市ではあるのですが、生活用地として使用できる地域は限られていることから、居住する相続税対象となる人が少なく、課税件数や課税割合は低くなっています。
2-17.相模原(相模原市)
相模原市は神奈川県の北西部に位置し、面積は328キロ平方メートルで神奈川県内では横浜市を次ぐ第2位の面積です。人口は約72万人で、横浜市と川崎市に次ぐ人口を擁しています。
課税割合は9.51%で、県内で下から2番目に低い地域になります。
東京都町田市や八王子と隣接しており、小田急線快速急行を利用すると相模大野駅から新宿駅へ35分ほどで到着することができるため、東京都のベッドタウンとしても機能しています。
山間部の地域と合併したため、平均データとしては低くなっていますが、相模大野駅周辺の地価は高く人気が集まる地域となっているため、課税割合だけを見るのは危険な地域です。居住地によっては高額な相続税が課税される可能性があるということを忘れてはいけません。
2-18.横須賀(横須賀市・三浦市)
神奈川県の三浦半島に位置している横浜市と三浦市は、相模湾や東京湾、太平洋などに面している海の街として知られています。
課税割合は8.71%で、神奈川県の平均は大きく下回りますが、さすが神奈川県、最下位であっても全国平均8.55%と比較すると同等となっています。
地域を上げてマリンスポーツやレジャーへ積極的に取り組んでおり、観光施設の整備などが行われていますが、海、山と自然豊かであるがゆえに住宅都としては機能しづらく、神奈川県全体では人口増加が続いているのに対して、この地域はかなり前から人口減少に悩まされています。
居住人口の少なさと地価の低さが相まって、課税割合も低くなっているようです。
3.神奈川県の税理士情報
神奈川県は高所得者が多く、課税割合も全国平均を大きく上回っているため、税理士の相続税申告や節税対策の需要が高い地域です。
神奈川県の税理士数は、令和3年3月末現在において4,661人です。全国の税理士数は約79,000人であるため、そのうちの約5%が神奈川県にいることになります。これは関東地方では東京に次ぐ多さです。
また、神奈川県の相続税申告件数が14,556件であるということは、税理士1人あたり3.1件の申告件数があることになります。東京の0.76件と比べると、神奈川県の税理士は4倍の申告量をこなしているということであるため、相続税に強い税理士が多いと捉えて良いでしょう。
特に、横浜市や川崎市はビジネスの中心地でもあるため、税理士の競争も激しく、生き残っている税理士は実績や経験が豊富な人が多い傾向があります。
なお、神奈川県で税理士を探す場合には、東京都の税理士も比較対象にすると良いでしょう。
東京都は神奈川県の税理士に比べて所属数が多く、1人当たりの仕事も少ないことから、神奈川県も対応範囲に含めている税理士も数多くいるためです。