相続対策の3つのポイント:節税、納税資金、遺産分割

相続対策の3つのポイント

相続とは遺族に財産を引き継ぎ、税金を納めることです。賢く相続をするには、

  1. 支払う税の金額をいかに安くするか(節税対策
  2. 税金を支払う資金をいかに用意するか(納税資金対策
  3. いかに問題なく争わず財産を分けるか(遺産分割対策

の3つが大切になります。これらの対策は始める時期が早ければ早いほど効果があります。ここでは、それぞれの対策について紹介します。

1.節税対策

相続の対策として真っ先に思い浮かぶのが、相続税を安くする節税対策ではないでしょうか。
相続税は簡単に言うと、相続財産の価額から控除額を引いたものに税率をかけて計算します。ということは、

のいずれかを行うと、相続税の納付額が小さくなります。

相続税の節税対策としては、生前贈与や不動産活用、生命保険の活用などがある

1-1.相続財産自体を減らす → 生前贈与

相続財産自体を減らす方法として一番多く用いられるのが生前贈与です。
生前贈与すると贈与税がかかりますが、年間110万円までの贈与なら贈与税はかかりません。

例えば110万円の生前贈与を10年間続ければ、合計1,100万円の相続財産を減らせたことになります。現金や預金など毎年110万円までに分割して引き継げるものは、積極的に生前贈与しましょう。

また、贈与税をあえて払いながら節税する方法もあります。1回で多額を贈与すると贈与税が多くかかりますが、何年かにわけて少額を贈与すれば、贈与税は少ししかかかりません。贈与税を少し払ったとしても、将来の相続税を大きく減らすことができます。

生前贈与

また、住宅資金や教育資金、結婚、子育てなど、特別な目的のために子供や孫に財産を生前贈与する場合には、贈与税を掛けないという特例もあるので、当てはまる場合は利用しましょう。

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相続税に関する特例(一部)
配偶者控除婚姻期間20年以上の配偶者から、居住用不動産の贈与に対して、最高2,000万円の控除
住宅資金の特例直系尊属から18歳以上の子供/孫へ、住宅取得用の資金に対して、最高1,000万円を非課税(2022~2023年)
教育資金の特例直系尊属から30歳未満の子供/孫へ、教育資金に対して、最高1,500万円を非課税
結婚子育て資金の特例直系尊属から18歳以上50歳未満の子供/孫へ、結婚子育て資金に対して、最高1,000万円を非課税
相続時精算課税制度60歳以上の直系尊属から18歳以上の子供/孫へ、すべての贈与財産に対して、最高2,500万円を非課税、ただし相続時に精算して相続税として課税

1-2.相続財産の価値(評価額)を下げる → 不動産や特例の活用

この方法は、財産自体を減らすのではなく、相続時の財産の評価額を減らす方法です。

(1)小規模宅地等の特例

相続税には「居住用の財産はあくまで住むためのものなので、税をかけるのは良くない」という考えがあります。
被相続人と相続人が同居し、生活を一緒にしている場合、そのままその家に住む人がその土地を引き継ぐ場合は、面積330㎡まで評価額を80%減額されます。

例えば1億円の土地なら80%減額されて、1,600万円まで評価額が下がります。そのため、自宅を引き継ぐ場合は、あらかじめ引き継ぐ予定の人と同居しておくなどの対策をしておきましょう。
※事業をしている場合で、事業を引き継ぐ人にその事業用の土地を相続する場合も、小規模宅地等の特例を使うことができます。

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(2)不動産の購入を検討する

相続時に同じ価値の現金と不動産がある場合、相続税の計算上、不動産の方が価値が安くなることが多いです。
おおよそ80%程度の評価になります。そのため現金が余っているなら、不動産を購入することで節税対策になります。

ただし、不動産は再開発など周囲の状況が変わったり、政府の政策の影響などにより価値が変動したりします。
不動産を購入する場合は、相続時までにその価値がどうなるかを考えてから購入する必要があるでしょう。

投機用の不動産を購入することで評価額を減らすことができ、相続税対策(節税)につながる

(3)不動産を賃貸する

既に不動産を持っている場合は、賃貸することも考えましょう。
賃貸した不動産は相続があったからといって簡単に売却することができません。そのため相続税の計算上、価値が低くなります

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遊んでいる土地がある場合は、賃貸マンションなどを建設するのも節税になります。
上記で説明した通り、まず現金を不動産に変えることで節税効果があり、そのマンションを賃貸することでさらに価値が低くなります。

ただし、空き部屋がある場合はその分、賃貸していないとみなされます。
不動産業者の一括借上制度が使えるかどうかなど、気を付けることも多いので、相続対策に強い税理士に相談したほうが良いでしょう。

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(4)事業承継税制を使う

会社を経営している場合、その会社の株式も相続財産になります。
経営している会社が利益を多く出していたり、固定資産を多く所有していたりする場合は株式の価値も高くなります。

国としても会社を継続してほしいので、会社を承継する人がその株を相続する場合には、全体の3分の2の部分について、80%を納税猶予する特例があります。
しかし、従業員の雇用などさまざまな条件があるため、会社を経営している場合は早めに税理士と相談する必要があるでしょう。

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1-3.控除額を大きくする

相続税の控除額を大きくする代表的な方法には、生命保険の加入と養子縁組の2つがあります。

(1)生命保険の加入

生命保険は、加入者が亡くなったときに遺族が生活に困らないために加入するものです。
その生命保険にまで相続税をかけるのは良くないという考えがあるため、生命保険には「ここまでは相続税をかけない」という控除枠が設けられています。

具体的には、相続人1人あたり500万円です。
相続人が3人なら1,500万円までなら相続税がかかりません。現金に余裕があるなら生命保険に加入することを考えましょう。

ただし、加入期間が短い場合は掛金よりも少ない金額しか戻ってこないこともあるなど、いくつか注意が必要なこともあります。
生命保険会社と提携している税理士事務所もあるので、生命保険に加入する前にはそうした税理士に相談してみても良いでしょう。

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(2)養子縁組

税金には、いかなる人でも受けることができる基礎控除があります。
相続税の場合、基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。つまり、法定相続人の数が多ければ多いほど控除額が大きくなります。

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そこで使われるのが養子縁組です。実子がいる場合は1人まで、いない場合は2人までの養子が認められています。

とはいえ、他人を養子にすることに抵抗がある人も多いので、よく用いられるのが孫を養子にすることです。
1世代を飛ばして相続することができますが、養子にした孫への相続税が2割加算されるので注意が必要です。

養子縁組は他の相続人の相続分が少なくなりトラブルの原因になるので、事前に十分な注意が必要です。

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2.納税資金対策

節税対策と同様に重要なのが、相続時の税金を納める資金をどう確保するかということです。
大きく分けて、

という方法があります。

納税資金対策の前提として、現金を用意する必要がある。生命保険を活用したり、不動産の売却・運用で資金を得たりする方法がある

2-1.相続時の資金を増やす

相続税は現金で納める方法のほかに、相続された不動産などの物で納める物納もありますが、手続きが煩雑なことや条件が厳しいこともあり、ほとんど使われることはありません。

納税資金対策として一番良いのは、相続時の資金を増やすことです。
そこで用いられるのが、上記で説明した節税対策にもなる生命保険です。
生命保険は、毎月少しずつ支払いができること、相続時にはまとまったお金が一時に入ること、節税になることから、納税資金対策に最も適しています。

生命保険金は受取人の固有の財産であり、他の相続人に分ける必要がないため、代償分割などの急な資金用途にも利用できます。

2-2.生前に資金を増やす

相続時の資金を増やす以外の方法としては、生前に納税のことも考えて資金を増やす方法があります。

(1)遊休資産の売却

資金を増やすには、不動産などの資産を売却するのが代表的な方法です。
ただし、事業や生活で使っている資産を売却することはできません。

空き地などの遊休資産がある場合は、売却して納税資金を増やします。
ただし売却益がでると、所得税を支払う必要があるため注意が必要です。

(2)賃貸事業の開始

アパートや家など賃貸できる物件がある場合は、賃貸事業を始めるのも生前に資金を増やす方法の1つです。
賃貸事業を始めると毎月家賃収入が入ります。
経費を差し引いた残りが預金などに残るので、相続税を納める資金として活用することができます。

ただし、毎年利益に対して所得税を支払う必要があるので注意が必要です。

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3.遺産分割対策(争続対策)

相続対策というと税金面についての対策を思い浮かべる人も多いと思いますが、実はその前段階として誰に何を相続するか、遺産分割についての対策をすることも重要です。

残念なことですが相続では兄弟姉妹など親族で争いが起こり、相続だけでなくその後の関係にまで影響を及ぼしてしまうことが少なからずあります。
それを防ぐためにも、生前から対策を行います。

遺産分割対策としては、

の2つがあります。

遺産分割の前に相続対策がされていないと、「争続」になる。対策としては遺言を残す、生前贈与をするなどあるが、公平感を損なわないよう配慮することが重要になる

3-1.誰に何を与えるか決めておく → 遺言

誰に何をいくら与えるか、被相続人(相続される人)が生前に自分の意志で決めて、それを文章として記録します
たとえば、配偶者と子供1人がいるとしたら、配偶者には自宅の建物と土地を、子供には現金1,000万円をなどと記します。

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遺言を作成することで、被相続人の意志が明確になりますので、相続人同士でのトラブル防止につながります。
遺産分割の内容が完全に公平でなかったとしても、亡くなった方の意志があればそれを大切にして従いましょうと納得しやすくなります。

ただし、遺言には書式が厳格に定められており、必要事項を記入していないと無効になるおそれもありますのでご注意ください。
トラブルを防ぐためには、弁護士などの専門家にお願いするのも良いでしょう。

3-2.先に贈与しておく → 生前贈与

遺言は被相続人の死後に実行されますが、もし、誰に何をいくら与えたいのか明確になっているのであれば、本人が生きているうちに先に贈与しておくのが確実です。

生前贈与は、被相続人本人が自ら与えるのですから、本人の思い通りに確実に財産を分割することができます。
贈与してしまえば、もはや被相続人の財産ではありませんので、相続税の節税にもつながります。

ただし、あまりにも不公平な生前贈与を行うと、兄弟・家族間の争いに発展することもありますので、周囲のことをよく考えながら行うが良いでしょう。

4.相続対策のまとめ

4-1.総括的かつ迅速な相続対策を

相続を賢く行うためには、節税対策、納税資金対策、遺産分割対策の3つの対策が必要になります。
3つを別々にするのではなく、総括的に進めていく必要があります。

大区分対策内容対策例

節税対策
(相続税対策)
(1)生前贈与毎年少しずつ贈与する
各種の贈与の特例の利用
(2)不動産や
特例の活用
小規模宅地等の特例
不動産を購入する
不動産を賃貸する
事業承継税制を使う
(3)控除額を増やす生命保険に加入する
養子縁組もあり

納税資金対策
(1)相続時の資金増子供を受取人として生命保険に加入
(2)生前に資金増遊休資産の売却、賃貸事業の開始
③遺産分割対策
(争続対策)
(1)遺言誰に何をいくら与えるか生前に決めておく
(2)生前贈与生前に自分で贈与をする

4-2.税理士にご相談を

ご紹介したとおり、相続税の知識だけでなく、生命保険や不動産のことなど税金以外の知識も必要になります。

また、生前贈与や納税資金対策は、一回きりの対策ではなく、中長期的に継続して行っていくことでより大きな効果を発揮するため、早めに相続税対策を開始することが重要です。

すべてご自分で行うのは大変ですしリスクも想定されますので、相続税に強い税理士に相談することで、より効果をあげることができるでしょう。

相続の生前対策を、専門家と相談しよう

相続に強い弁護士は、「生前にどれだけ相続税対策するか」の豊富なノウハウがあります。

後の相続税が気になる方、節税したい方は、一度相続税に詳しい税理士に相談してみることをオススメします。

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本サイトでは、生前対策に関するコラムを他にも用意しています。

  • 税制上の各種優遇措置の活用方法
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下記に一覧を用意していますので、どんな生前対策があるか興味がある方は、ぜひチェックしてみてください。

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