1.奈良県の相続税申告の状況
奈良県の令和元年における相続税の申告件数は1,707件、そのうち相続税がかかった課税件数は1,346件です。
課税割合と相続1件あたりの納付税額の全国平均は、8.3%、1,714万円であるのに対して、奈良県の課税割合は9.18%で全国7位、相続1件あたりの納付税額は約1,424万円で全国11位と高い順位となっています。
近畿2府4県の課税割合は、大阪8.4%、京都府9.59%、滋賀7.72%、兵庫8.67%、和歌山6.81%となっており、奈良県は京都府に次いで高く、日本の2大都市である大阪府よりも高い結果であることから、地価や預貯金などから世帯の財産状況を把握しておき、適切な対策が講じられるように常に準備しておくことが重要になります。
都市部では税務署の管轄エリアは大体10ヶ所以上ありますが、奈良県の税務署は管轄が広いため4ヶ所しかなく、1ヶ所のデータは各市のデータの合計として発表されています。
奈良県の課税割合の特徴を見ると、奈良市を中心とする奈良エリアが突出して高く、他の3エリアは全国平均も下回っていることが分かります。
県の平均としては大阪よりも高い奈良県ですが、管轄エリアが広いことによって、それぞれの市町村の状況が平均値に反映されにくくなっています。地域格差が激しいことが予想されるため、それぞれの状況を詳細に見ていく必要があります。
税務署名 | 管轄地域 | 申告 件数 | 課税 件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
奈良 | 奈良市 大和郡山市 天理市 生駒市 平群町 三郷町 斑鳩町 安堵町 | 1,010 | 800 | 1,524 | 14.28% | 11.31% |
葛城 | 大和高田市 橿原市 五條市 御所市 香芝市 葛城市 高取町 明日香村 上牧町 王寺町 広陵町 河合町 | 500 | 381 | 1,397 | 9.95% | 7.58% |
桜井 | 桜井市 宇陀市 川西町 三宅町 田原本町 山添村 曽爾村 御杖村 | 158 | 129 | 1,128 | 8.63% | 7.05% |
吉野 | 吉野町 大淀町 下市町 黒滝村 天川村 野迫川村 十津川村 下北山村 上北山村 川上村 東吉野村 | 39 | 36 | 565 | 5.35% | 4.94% |
奈良県計 | 1,707 | 1,346 | 1424 | 11.64% | 9.18% |
【出典サイト】全県地図|奈良県公式ホームページ
2.各エリアの特徴と詳細
それでは管轄エリアごとに、それぞれの主要市町村の特徴や地価の状況を解説していきます。
2-1.奈良エリア
奈良市、大和郡山市、天理市、生駒市、平群町、三郷町、斑鳩町、安堵町からなる奈良エリアの課税割合は11.31%、相続1件あたりの納付税額は1,524万円で、いずれも県内で断トツ1位となっています。
それぞれの市の特徴から、このエリアの高い課税割合と課税額の背景を確かめていきましょう。
奈良市
奈良市は奈良県庁をはじめとする国の行政機関や金融機関が集中していることから、奈良県の中枢都市として機能しています。
また、言わずとも知れた国際的な観光地で、東大寺や興福寺などの国宝級の歴史的建造物が多く残されています。京都南部に東西が大きく隣接していることから、観光客も効率的に流入し、インバウンド効果による経済の影響を大きく受ける市です。
新型コロナウイルスの影響も大きく、2021年7月発表の路線価では、都道府県庁所在地における最高路線価の下落率は12.5%で1位となりました。
それでも地価は県内1位の1平米あたり14万円となっており高額です。
特に高級住宅街のある、近鉄学園前駅周辺の学園北・学園南地区、百楽園地区、「登美ヶ丘・中登美ケ丘」地区には注意が必要です。
奈良エリアの中でも高い課税割合を誇り、平均値を底上げしているのは間違いないでしょう。
奈良県民は堅実な性格な人が多いといわれており、総務省統計局が実施している家計調査における貯蓄額ランキングでは、47都道府県中、常に上位にランクインしています。
貯蓄文化と高級住宅街が合わさる奈良市は、相続税課税の要注意エリアであるといえます。
大和郡山市
大和郡山市は、奈良市の南西部に隣接しています。
パナソニックやシャープなどの日本有数のメーカーの工場が集まる昭和工業団地として発展しており、市内での経済活動が活発な地域です。
地価は39位中8位と高く、市内の中心部を取るようにJR関西本線と近鉄橿原線が走っているため、中部地域ほど地価が高いです。また、各工場の周囲は国道や自動車道が整備されているため、この沿線も地価が高くなる傾向があります。
天理市
天理市は奈良市の南部に隣接する位置にあります。この地で天理教を興したことが市名の由来となった珍しい市です。
農業地として活用される面積が広く、農作物の栽培が盛んに行われており、特にいちごの生産量は全国トップクラスとなっています。
大阪市の中心部に近いことからベッドタウンとして新興住宅街の整備が進んでおり、人口増加に伴って大型商業施設の建設も増えています。
地価は大和郡山市に次ぐ県内9位で高額ですが下落傾向にあるため、他の地域に比べると相続税の危険性は低くなっています。
しかし、現在でも整備が進んでいることや、リモートワークの普及などによって上昇に転じる可能性に注意しましょう。
生駒市
生駒市は奈良市の西部に隣接しており、大阪市や奈良市のベッドタウンとして発展している地域です。特に、大阪中心部へ約20分で行ける交通アクセスの良さから、大阪都市圏への通勤率は県内で最も高くなっており、県外への就業率が全国でも高い比率にある珍しい市です。
緑豊かな環境ですが、その立地条件から地価は県内4位と高額で、北部の山が多い地域でも地価の上昇が見られています。どの地域であっても地価の上昇に注意しなければならない地域です。
その他の町
平群町、三郷町、斑鳩(いかるが)町、安堵町の中で特に注意が必要なのは、世界遺産に登録されている法隆寺がある斑鳩町です。落ち着きと住みやすさが共存した街並みは、大阪のベッドタウンとして急速に都市化が進んでおり、地価も大和郡山市よりも高い県内7位となっています。
町内には法隆寺駅しかないため、鉄道でのアクセスは少し不便な地域ではありますが、大阪市と奈良市の中間に位置しているため、足を動かしやすい若い世代を中心に人気が上昇していく可能性のある地域です。
2-2.葛城エリア
葛城エリアは、大和高田市、橿原市、五條市、御所市、香芝市、葛城市、高取町、明日香村、上牧町、王寺町、広陵町、河合町からなります。
課税割合は7.58%、相続1件あたりの納付税額は1,397万円で、いずれも県内2位となっています。この段階で県内平均を下回り、奈良エリアからも離れた数値となることから、奈良エリアの突出さが分かります。
大和高田市
大和高田市は奈良県の中西部に位置しています。葛城エリアの中核都市であり、県内で最も人口密度の高い市です。
しかしここ数年は、周辺地域のベッドタウンの整備などによって移転者が増えたことで、大和高田市の人口は減少傾向にあります。
それにより地価も下落傾向にありますが、依然として県内6位と経済の中心地であることから高額です。相続税には注意しなければならない市です。
橿原市
橿原(かしはら)市は奈良県の中央近くに位置していることから、高度経済成長時代に大阪市や京都市、奈良市のベッドタウンとして大きく発展しました。全域が住宅地として整備されており、奈良市についで人口が多い地域となっています。
地価は1平米あたり11万円で奈良市に次いで2位、金額も1平米あたり3万円程度の差です。
ベッドタウンとして優れた都市機能を持ち、さらに人口の多さも相まって地価が上昇しやすく、相続税が課税されやすい地域となっています。
五條市
五條市は奈良県の中央西部に位置しており、金剛山などの山々に囲まれた盆地であることから、柿の生産量は市町村単位で全国1位です。
ザ・田舎であるため地価は1平米あたり2万円と低く、今後数年内に大きく上昇する可能性も極めて低い地域ですが、広大な自宅や農地を所有している場合には注意が必要です。
御所市
御所市は奈良県の西部に位置しており、丘陵地から平地が広がる緑豊かな田園都市です。
地価は県内20位と中盤です。五條市と同様に農地に注意しましょう。
香芝市
香芝市は奈良県の北西部に位置していることから、大阪市のベッドタウンとしてニュータウンや大規模宅地開発が行われた結果、急速に人口が増加した地域です。中でも大阪市に近い西部は依然として高い人気があり、現在でも宅地開発が続いています。
地価は県内3位と高額で、特に東部の五位堂駅周辺など、宅地開発などが終わって落ち着いた住宅街が上昇傾向にあります。
地価の高いベッドタウンは相続税発生の好条件が揃っていることになるため、生前に自身の相続財産を確認しておきましょう。
葛城市
葛城市は奈良県の北西部に位置し、香芝市、大和高田市、御所市に囲まれています。
菊の名産地として有名ですが、市の面積の多くは、大阪市や大和高田市のベッドタウンとして活用されており、大和高田市からの移転者も多く居住していると考えられます。
地価は県内12位で中盤より少し上というところです。
ベッドタウンとして立地は抜群ですが、市の西部は山間部であることから、居住地域や交通アクセスが限られてしまい、地価が上がりづらくなっていると考えられます。
その他の町
高取町、明日香村、上牧町、王寺町、広陵町、河合町の中で最も注意しなければならないのは王寺町でしょう。
大阪市のベッドタウンとして全域が住宅地となっており、町内より町外の経済活動が活発というベッドタウンの特徴が色濃く現れている地域です。
地価はなんと1平米あたり8万円で県内5位、大和高田市よりも高い結果となっています。
特に中心部である王寺駅周辺の地価は高額ですが、反面それ以外の地域の地価は下落傾向にあることから、相続税が課税されやすい地域はある程度限られているといえます。
2-3.桜井エリア
桜井市、宇陀市、川西町、三宅町、田原本町、山添村、曽爾村、御杖村からなる桜井エリアは県の北東部に位置しています。
課税割合は7.05%、相続1件あたりの納付税額は1,128万円で、いずれも県内3位となっています。
特に納付税額は一段と落ちており、それぞれの市の特徴から理由を考えてみましょう。
桜井市
奈良県の中央から少し北に位置している桜井市は、歴史ある奈良県の中でも、古墳などさらに歴史深い地域です。
全国的に有名な三輪の手延べそうめんの産地であり、食品を扱う企業が多くあります。また製材業などの伝統的な産業も盛んに行われています。
地価は県内10位でこのエリアの相続税の中心地域であると考えられますが、東部が山間部であることや、大阪市との距離があることから地価が上昇しづらい地域となっており、エリアの納付税額が低い理由に繋がっているのでしょう。
宇陀市
宇陀市は、宇陀川と芳野川沿いの平地が山々に囲まれており、その大半が森林です。
この自然を生かした農業や林業が市の中心の経済活動となっており、その中に住宅地が点在しています。
山に囲まれている形状から市街地化が進んでいないこと、鉄道路線が少ないことなど、生活するうえで不便な点から地価は県内24位、1平米あたり2万円と低いですが、広大な土地を所有している可能性が高いため、都市部並みの相続税が発生することもあります。油断大敵な市といえます。
その他の町村
このエリアには他に、川西町、三宅町、田原本町、山添村、曽爾村、御杖村があります。
前述の2エリアよりも町や村の方が多くなっていることも、課税割合や納付税額が低い理由の一つしょう。
しかし田原本町は地価が県内11位で、宇陀市の3倍近い金額となっている点に注意しなければなりません。
桜井市の西部に位置する田原本町は、全域が自然豊かな住宅地となっています。大阪市と奈良市のどちらからも距離があるため、ベッドタウンとしては注目されていませんが、市の中心部に位置しながら平坦な地形のため住みやすいことから、程々な需要はある地域です。
町であっても油断してはならないことが現れています。
2-4.吉野エリア
このエリアは、吉野町、大淀町、下市町、黒滝村、天川村、野迫川村、十津川村、下北山村、上北山村、川上村、東吉野村からなり、奈良県の中央から南部に位置しているすべての地域です。
清流吉野川や約3万本の桜が咲き誇る吉野山など、広大な大自然があります。
エリア範囲は広大ですが山々に囲まれた山間部の地域であるため、市街地はほぼなく、課税割合は4.94%、相続1件あたりの納付税額は565万円で桁違いの低さとなっています。
地価は1平米あたり1万円前後で、最下位の野迫川村は3,000円程度となっており、吉野エリアでは所有している土地の面積が広くなければ、相続税が発生する可能性は低いといえるでしょう。相続税対策よりも、まず課税されるかどうかを慎重に調べることが重要な地域です。
3.奈良県の税理士情報
奈良県の税理士は近畿税理士会に所属しています。
近畿税理士会は所属エリアが広いのが特徴で、大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県、滋賀県の近畿2府4県が所属しているため、その会員数は15,026人(令和3年8月1日現在)にものぼります。
そのうち奈良県にいる税理士は555 人(平成30年3月31日現在 日本税理士会連合会 平成30年5月発行税理士界)で、和歌山県に次いで少ない数です。
令和元年における奈良県の相続税の申告件数は1,707件であることから、1件当たりの税理士数は0.32人となり、税理士1人あたり年間3件の相続税申告を行う計算になります。
一般的に、税理士の間では、相続税に力を入れてる税理士でない限り、税理士1人あたりの相続税申告は年1件程度といわれているため、奈良県は税理士数が非常に不足しているといってよいでしょう。
奈良県に税理士が少ない要因は、大阪市と隣接しアクセスが簡単であることが挙げられます。奈良市よりも大阪市に近い地域では、大阪市でも税理士を探すと有効です。場合によっては、大阪市の税理士が奈良県まで出てきて仕事を探していることもありますが、大阪府内では仕事がない相続税に弱い税理士の可能性があるため、注意しなければなりません。
税理士数の県内分布を見ると、全体の4割弱になる212人が需要のある奈良市に在籍しています。
前述してきたエリアごとの課税割合を見ると分かるように、相続税のほとんどは奈良市周辺で起こっていることから、周辺他県の傾向からすると8~9割方の税理士が奈良市に在籍していそうなものですが、意外に固まっていないという印象です。
しかし、奈良県南部の方になるにつれて税理士数は確実に減っていき、吉野エリアになると地元税理士の選択肢はほぼないといってよいでしょう。
このエリアになると都市部まで距離があり、探しに出て行くのは並大抵の労力ではありません。
相続税に強い税理士を見つけるためには、様々な税理士や事業所を比較することが重要になります。
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