1.京都市の相続税申告の特徴
令和元年の相続税申告状況のデータによると、京都府の申告割合は14.87%、課税割合は11.41%、1件当たり納付税額1,944万円となっています。
京都府全体では、申告割合12.24%、課税割合9.59%、1件当たり納付税額1,682万円となっており、京都市はすべて上回っています。京都市は京都府において、相続税課税の中心地であるといえるでしょう。
全国平均は、申告割合10.71%、課税割合8.35%、納付税額1,714万円であることからも、京都府の数値は高いことが分かります。
課税割合の全国順位に当てはめてみると、京都府全体では47都道府県中5位でしたが、京都市のみで見ると3位の神奈川県12.60%に次ぐ、全国4位となっています。
1-1.京都市の課税割合が高い理由
下記の表は、京都市内にある管轄税務署エリアごとにおける、課税割合などの相続税申告の状況を表す表です。ここから、課税割合が突出して低いエリアがないことが分かります。
同じく関西の大都市である大阪市では、全19エリア中、課税割合が7%を下回るエリアが10箇所もあり、それが大阪市の平均値を下げる結果となっています。
対して、京都市には絶対的なブランドがあり、日本を代表する観光地としての地位を確立しています。
地価も下がりにくく、中心部に行くほど高額になるため、居住している人は富裕層が多くなります。高級住宅街も多くの区に点在しており、観保全のために高層マンションなどの建設ができない地域では、必然的に戸建て住宅となるため、広い敷地に豪邸が建ち並んでいる光景は圧巻です。
京都市はその全域において、相続税について注意を払わなければならない市です。
税務署名 | 管轄地域 | 申告件数 | 課税件数 | 1件当り 納付税額 (万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
中京 | 中京区 | 245 | 186 | 2,288 | 21.97% | 16.68% |
左京 | 左京区 | 335 | 257 | 1,655 | 20.98% | 16.09% |
上京 | 北区 上京区 | 389 | 296 | 1,373 | 17.77% | 13.52% |
下京 | 下京区 南区 | 263 | 206 | 1,607 | 14.97% | 11.72% |
右京 | 右京区 西京区 向日市 長岡京市 大山崎町 | 648 | 502 | 2,062 | 13.82% | 10.70% |
東山 | 東山区 山科区 | 212 | 161 | 1,735 | 11.52% | 8.75% |
伏見 | 伏見区 | 299 | 227 | 2,925 | 10.33% | 7.84% |
京都市計 | 2,391 | 1,835 | 1,944 | 14.87% | 11.41% |
次項から、それぞれの区の特徴を見ていきましょう。
2.京都市の各区の特徴
京都市の市域は11の行政区から成り立っています。中央より南部が中心部となり、地価や課税割合などが高くなります。
それでは、課税割合の高い区の順に、それぞれ相続税の課税状況、街の特徴や地価などを詳しく見てみましょう。
2-1.中京区
中京区は京都市の中央部のやや南に位置している小さな区です。
京都ならではの碁盤の目状に整備された美しい街並みに、京都市役所などの官公庁や金融機関、オフィス、商業施設が集中して建ち並び、京都府の政治経済の中枢として機能しています。
世界遺産の「二条城」をはじめとして、「本能寺」や「壬生寺」など歴史的財産が多数あり、観光地としても多くの人が訪れます。
ビジネス、商業地として活用されている中京区ですが、丸太町付近の御所南は京都らしい高級住宅街として知られています。
中京区のみを管轄している中京税務署の課税割合は16.68%、納付税額は2,288万円となっており、京都市の平均を大きく上回る数値となっています。
中心的な都市部であることから地価も非常に高額で、1㎡あたり150万円と市内トップとなっています。
地価が高く、高所得が得られやすい中心都市であるため、富裕層が集まるのは至極自然なことであり、相続税の課税に十分注意しなければならない区です。
2-2.左京区
左京区は京都市の東側の滋賀県に隣接する位置にあり、最北端から中京区辺りまで南北に広い市域を有する区です。しかしその8割は山林地帯が占めており、市街地は中央部から南部にかけて広がっています。
歴史的文化遺産も多くあり、日本で知らない人はいない銀閣寺をはじめとして、賀茂御祖神社や平安神宮などがあります。
左京区は京都市内有数の高級住宅街としても名高く、特に鴨川のそばに位置する下鴨は、便利な立地にないにもかかわらず、昔ながらの高級な雰囲気がにじみ出ており、憧れの住宅地として根強い人気があります。
左京区を管轄しているのは左京税務署で、課税割合は16.09%、納付税額は1,655万円となっています。
地価は1㎡あたり25万円で、11区中6位と中間的な金額となっていますが、この金額は、農村部も含めた平均値です。市街地のみで見た地価はもっと高く、下鴨は1㎡50万円近い金額となっており、居住している人は、相続税の課税について中京区と同様の注意が必要です。
2-3.北区
北区は京都市の中央部に位置し、南北に長い形をしています。中京区、左京区、右京区、下京区に囲まれるように接しており、非常に便利な立地にあります。
区の北部は高い山々が連なる大自然エリアでは林業が盛んに行われ、中央部は農地が多く、賀茂ナスは京野菜ブランドとして有名です。南部は市街地になり、住宅地が広く広がっています。特に「北山」は、モダンな街並みと自然が共存している高級住宅街があり、都心にありながら静かな暮らしを求める富裕層が居住しています。
北区は上京区と共に上京税務署が管轄しています。課税割合は13.52%で市内3位、2位の左京区からは2.5%ほど下落します。納付税額は1,373万円で、市内最下位の低い金額となっています。
地価は1㎡あたり25万円で市内5位、左京区とほぼ同じ金額です。この金額には、農村部も含まれている点も同様で、高級住宅街のある北山は1㎡あたり68万円にもなるエリアもあるため、相続税が課税される可能性は十分にあります。
2-4.上京区
上京区は、南側に中京区、北側に北区と挟まれるように位置しています。
京都御所で有名で、今でも京都府庁、京都府警本部など東南部は中京区に並ぶ中心地として機能しています。また、西陣織は基幹産業として地域経済の柱となっています。
京都駅にも地下鉄やバスを使えば程近いことから、都心部でバリバリ働く高所得者層には最高の居住地になるでしょう。
戸建て住宅よりはマンションが主流であり、地域上、タワーマンションはなく低層マンションが中心となります。中には1億円を超える高級マンションもあり、富裕層も多く居住していると考えられます。
地価も1㎡あたり49万円で市内4位と高額であり、北区と並び相続税の課税に注意すべきエリアといえます。
2-5.下京区
下京区にはJR京都駅があり、京都市の玄関口として機能しています。
京都駅周辺には大規模な繁華街が形成され、地下街、百貨店、大手電機店、イオンモール、京都タワーなどが密集しており、商業施設の多さでは他区を圧倒しています。
日本のみならず世界各国から多くの人が訪れる一大観光地であることから、常に賑やかなイメージがありますが、大通りから1本入れば閑静な住宅地が広がっています。
目立つ高級住宅街はありませんが、大手企業の本店支店が林立している区であるため、マンション住まいの高所得者も多いでしょう。
下京区は南区と共に下京税務署が管轄しており、課税割合は11.72%、納付税額は1,607万円となっています。
地価はもちろん高く、1㎡あたり131万円で中京区に次ぐ2位となっています。
2-6.南区
下京区の南側に隣接している南区は、JR、近鉄、国道1号線、名神高速道路など、抜群の交通利便性を誇ります。
どこに行くにも便利であることから、都心部のベッドタウンとして活用されています。新築の建売住宅が3,000万円台で手に入るお手ごろさから、新興住宅地は若いファミリー世帯に人気です。
地価は1㎡あたり22万円で、市内7位と高くありません。
南区は、下京区と同じ税務署の管轄となっており、課税割合は混ざって公表されていますが、相続税課税の中心は下京区の方だと推察されます。
2-7.右京区
右京区は京都市の西部、左京区の反対側に位置する市内最大面積を有する区です。
南部は商業施設やオフィスが建ち並ぶ繁華街、住宅地が広がり、西部には有名な嵐山、北部は山々が連なる田園地帯となります。市街地から日本の原風景まで、エリアによって様々な表情を持っているのが右京区です。
特に、嵐山は景勝地としてはもちろんですが、道を入っていくと閑静な高級住宅街が広がっており、広大な敷地に風情ある邸宅が建ち並んでいます。
右京区は右京税務署が管轄しており、他には西京区、向日市、長岡京市、大山崎町が同管轄内に存在します。課税割合は10.70%、納付税額は2,062万円となっており、納付税額は市内3位の高さです。地価は1㎡あたり21万円で市内9位、下から3番目です。
都心へ通勤する高所得者というよりは、落ち着いたエリアで暮らしたい資産家のような富裕層が多く居住しているエリアなのでしょう。
地価が低い分、広大な土地を所有している場合が多いと考えられるため、土地評価に強い税理士を探すことをおすすめします。
2-8.西京区
西京区は南区と右京区に隣接し、京都市の南西端にある区です。
右京区にまたがる嵐山、一級河川である桂川など水と緑に囲まれた自然豊かなエリアであることから、ベッドタウンとして人口が年々増加中です。
特に都市近郊にありながら田園風景が残る大原野地区は、広い庭付き戸建てが叶うとして若いファミリー世帯に注目のエリアとなっています。
西京区の地価は1㎡あたり22万円で市内8位と高くありません。また高級住宅街はないことから富裕層も少なく、嵐山を除いては庶民的なエリアであることから相続税課税は少ないと予想できます。
右京税務署は多くの市区町を管轄しており、西京区は平均値を下げる側であると考えられます。
2-9.東山区
東山区は西側を上京区、中京区、下京区に隣接しており、東山連峰と鴨川に挟まれています。
清水寺、八坂神社、建仁寺、六波羅蜜寺など京都を代表する寺院が集まっており、京都らしい独特の風情を感じられる街並みがあります。
高級住宅街として知られていますが、景観保全のために再開発が難しいとされているエリアであり、高級感がありながらも昔ながらの一戸建てが多く建ち並んでいます。そのため、マンションは少ないですが、近年では低層の新築分譲マンションの建設も進んでおり、都心部に匹敵する売買相場となっています。
東山区は山科区と共に東山税務署が管轄しています。課税割合は8.75%、納付税額は1,735万円となっており、全国平均並みの数値です。
地価は1㎡あたり75万円で市内3位と高額です。宿泊事業をしており、代々広い事業用地を継いでいる家系は莫大な相続財産になる可能性があるため、十分に注意しなければなりません。
2-10.山科区
山科区は、西側が東山区に隣接しており、大阪市にも近いことから、京都都心部や大阪市のベッドタウンとして活用されています。
大きな団地やマンションが多く建っている割に、歴史的文化遺産が数多く、厳しい景観保全のイメージが強い京都市の中では、少し異なった雰囲気を持つ普通の街です。
地価は1㎡あたり14万円で市内で最も低く、相続した不動産への課税は起こりにくい区であると考えられます。東山区と共に相続税の申告状況が計算されているため、全国平均並みの数値となっていますが、山科区単体で計算されたとすれば、大幅に低くなるのではないでしょうか。
2-11.伏見区
伏見区は京都市の南東部に位置しています。宇治川、桂川など大きな河川が流れていることから、水運の要衝として発展してきました。良質な地下水も湧き出ており、古くから日本酒の名産地として知られています。
自然豊かなエリアでありながら、交通アクセスが良いことから、京都市内や大阪、奈良方面のベッドタウンとしても人気が高く、市内最大の人口約28万人を擁しています。
伏見区は伏見税務署が管轄しており、課税割合は市内最下位の7.84%となっています。最下位でもこの割合であることが、京都市内の相続税の課税件数が多いことを物語っているといえるでしょう。
一方、納付税額は2,925万円と、2位の中京区から600万円以上離して断トツトップとなっています。
地価は1㎡あたり16万円で市内10位と低いですが、京都中心部や大阪市などの大都市に通勤している人が多いため、高額な所得を得ている人が多いこと、全国有数の酒処として多額の事業用財産を所有している可能性から、高い納付税額になっているのではないかと考えられます。不動産に対する課税より、預金などのその他の財産に注意しましょう。
3.京都市の税理士情報
京都府には税理士が1,895人(平成30年3月31日現在 日本税理士会連合会 平成30年5月発行税理士界)おり、近畿税理士会に所属する税理士15,146人(令和3年11月1日現在)の1割が京都府にいることになります。
そのうち京都市にいる税理士は1,000人を超ており、中京区と下京区には700人弱が属しています。
京都市の令和元年における相続税の申告件数は2,391件であったことから、税理士1人あたりの件数は約2.4件になり、全国平均の約1.9件と比較すると、京都市の税理士数は、申告件数からは少ないといえるでしょう。
しかし、その分、京都市の税理士は相続税申告の経験値が高く、相続税に強い税理士が多いということでもあります。
また、京都市は大阪府、奈良県、兵庫県という大都市と隣接しています。
特に、同じく近畿税理士会に属している大阪府には8,620人の税理士がおり、税理士1人あたりの件数は約1.1件になります。他県まで足を伸ばして仕事を探している税理士も多いはずです。
その分、京都市とは反対に、相続税申告の経験値が低い相続税に弱い税理士も隠れているため注意しましょう。
京都市の税理士探しは、できるだけ京都市内、難しい場合には近隣他府県も含めて検討するのがおすすめです。