1.広島市の相続税申告の特徴
令和元年の相続税申告状況のデータによると、広島市の申告割合は12.83%、課税割合は10.38%、1件当たり納付税額1,684万円となっています。
広島県全体においては、申告割合は10.38%、課税割合8.45%、1件当たり納付税額1,465万円であることから、広島市は広島県の中心でありながら、相続税課税においても県の数値をけん引している存在といえるでしょう。
全国平均では、申告割合10.71%、課税割合8.35%、納付税額1,714万円となっており、課税割合の順位において広島県は、47都道府県中10位と高い位置にいます。仮に、広島市と全国都道府県と比較すると、4位の埼玉県10.12%を上回って3位の位置に当たります。
広島市は相続税課税の可能性が高く、生前のうちから十分な対策が必要な市です。
1-1.広島市のほぼ全域で課税割合が高い
下記の表は、広島市内にある管轄税務署エリアごとにおける、課税割合などの相続税申告状況表です。
広島市の課税割合は、吉田税務署エリアを除いてすべてが9%を超えています。市の中心となる中区を管轄している広島東、広島西税務署が突出していることから、平均値を上げているというわけではなく、ほぼ全域が高い数値であることから、平均値も高いという結果になっています。
広島市にマイホームで居住している場合には、相続税が課税される可能性があると考えた方が良いでしょう。
税務署名 | 管轄地域 | 申告件数 | 課税件数 | 1件当り 納付税額 (1万円) | 申告割合 | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
広島東 | 中区(※) 東区(※) 南区(※) | 244 | 203 | 3,209 | 16.83% | 14.00% |
広島南 | 南区(※) 江田島市 | 244 | 170 | 1,068 | 13.90% | 9.68% |
広島西 | 中区(※) 西区 | 393 | 322 | 2,919 | 16.30% | 13.36% |
広島北 | 安佐南区 安佐北区(※) 安芸太田町 北広島町 | 403 | 339 | 1,101 | 10.93% | 9.19% |
海田 | 東区(※) 安芸区 府中町 海田町 熊野町 坂町 | 238 | 195 | 884 | 11.25% | 9.22% |
廿日市 | 佐伯区 大竹市 廿日市市 | 334 | 272 | 841 | 12.28% | 10.00% |
吉田 | 安佐北区(※) 安芸高田市 | 37 | 31 | 1,041 | 6.01% | 5.03% |
広島市合計 | 1,893 | 1,532 | 1,684 | 12.83% | 10.38% |
※印の付いたエリアについては、税務署の管轄が跨っているため、死亡者数を管轄税務署により按分して計算
それでは次項にてそれぞれの区の特徴を見ていきましょう。
2.広島市各区の特徴
広島市は8つの行政区から構成されています。
それぞれ相続税の課税状況、街の特徴や地価などを詳しく見てみましょう。
2-1.中区
中区は市の中央南部に位置する面積の小さな区ですが、県庁などの行政機関、大手企業の本店支店、金融機関、百貨店や地下街などの商業施設が集結しています。
ビジネス地、商業地として以外にも、平和記念公園や原爆ドーム、広島城など広島を象徴する観光地として世界中から多くの人が訪れるエリアです。
鉄道はJR山陽本線をはじめとする7路線が通っており交通アクセスに不便はなく、車なしで生活できるエリアになります。
エリアの性格上、地価は非常に高く、1㎡あたり85万円と市内8区のうち断トツトップの金額となっています。中心部から少し離れると閑静な住宅街もありますが、中区に居住している人の多くはマンション住まいです。
都心部であり富裕層も多く居住していますが、区域が狭く、さらに地価が高額であるため、戸建ての大豪邸が並ぶ高級住宅街はありません。その代わりに、豪華な高層マンションやタワーマンションがそうした人々の居住地となっており、「白島(はくしま)」、「幟町」、「上幟町」は古くからの広島の高級住宅エリアとして知られています。中心部まで徒歩でも行けてしまう利便性から、経営者や高所得サラリーマンなど現役バリバリの世代から需要を集めています。
マンションは戸建てに比べて土地の持分が少ないですが、元々の地価が非常に高額であるため、持ち分に分割されたとしても相続税評価額は高額になる可能性が高くなります。
2-2.南区
南区は南部に広島港、北部にJR広島駅を有し、広島の玄関口として機能しています。
最新の複合商業施設「広島イースト」をはじめとして、大型のショッピングモールが多く建設され、広島のショッピングエリアとして人気を博しており、「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島」は、多くの野球ファンで賑わいを見せます。
自動車会社のマツダは広島にあることで有名ですが、その本社工場があるのは南区です。その周辺には関連する会社や工場が並び、工場地帯としても発展しています。
南区の地価は市内2位で高額ではありますが、1㎡あたり33万円と中区の半額以下になります。中区に隣接しており交通アクセスにも不便がないことから、高所得でありながらも中区には住めないという人の居住地として人気です。
古くから高級住宅街として知られているエリアも点在しており、比治山公園の東側に位置する段原地区、出汐、翠が挙げられます。
相続税課税においては、中区と並んで特に要注意なエリアであるといえます。
2-3.東区
東区は南区の広島駅に隣接しており、山陽自動車道の広島東インターチェンジがあるなど、県内外への交通アクセスに長けている区です。市の中心部にも近いことから、そこで働く人たちのベッドタウンとして開発が進んでおり、住宅地が広がっています。
特に白島の北隣に位置している「牛田」は、古くからの高級住宅街として知られており、一級河川に挟まれた圧倒的な眺望を生かして、リバーサイドには高級マンションや豪邸が建てられています。
また、東区の地価の平均値は、1㎡あたり26万円で市内3位となっています。
東区は住宅地としての人気が高く、現在も積極的な再開発が行われているため、今後もさらに発展していくことが予想されます。地価の動向に十分注意し、適時、不動産の相続税評価額を計算して状況を把握しておきましょう。
2-4.西区
西区は3本の川と山々に囲まれた自然豊かな区です。東部には大型ショッピングモールやレジャー施設などがある市街地、西部の山地の麓には住宅地が広がっています。
地価は1㎡あたり22万円と市内4位で、中心部と比較するとリーズナブルであり、一般的なサラリーマンでも購入しやすい価格帯の物件が揃っています。
高台にある「高須台」と「井口台」は大豪邸が並ぶ高級住宅街とまではいきませんが、区画が広く、大きめの家が多い住宅街となっています。
西区は広島西税務署が管轄しており、その課税割合は13.36%と高い数値となっていますが、北区の一部も管轄しているため、西区のみの数値を把握することはできません。しかし、北区が相続税の課税割合を上げている中心地であることは間違いなく、西区の数値はそれほど高くはないと考えられます。
2-5.安佐南区
安佐南区は広島市の中央部に位置しており、広島のベッドタウンとして、ほぼ全域が住宅地として活用されています。人口は約24万人と市内最多を擁しており、年々増加の一途をたどっています。
また住宅地が多い分、教育にも力を入れており、区のシンボルマークはペンを模したデザインとなっているほどです。広島市立大学、広島修道大学、広島経済大学など多くの大学が誘致され、また、小中高学校も十分な数存在し、文教都市としても発展しています。
急速に都市化が進んだエリアにはなりますが、豊かな自然も残されており、昆虫やカエル、コウモリなど、遠出をしなくても子供が自然を学ぶ環境が身近にあります。
安佐南区の地価は1㎡あたり10万円で市内5位となっており、4位の西区の半額程であり、子育て環境にも優れているため、若いファミリー層から絶大な人気を誇ります。
新興住宅地が多く、街並みも非常にきれいで、新しい店もどんどん増えているエリアについては、若い世代が居住者の中心であり、相続税が課税されるにはまだ早いかもしれません。ただし、古い住宅街もあること、人口が市内最多であること、中心部へ通勤する高所得者もいることなどから、相続税の油断できないエリアです。
2-6.安佐北区
安佐北区は市の北部に位置しています。これまで解説してきた5区を合わせても敵わない広い市域を有していますが、中心部から北部は山間部となっており、未開拓の雄大な山々が連なっています。
南部は市街地ではありますが、大きな会社やショッピングモールはなく、生活に必要な商業施設は揃っている街です。
広島市の田舎であり、一番の魅力は豊かな自然ときれいな空気というエリアであるため、地価は市内で最も低く、1㎡あたり5万円となっています。
安佐北区を管轄する吉田税務署の課税割合は5.03%となっており、相続税が課税される心配はあまりありません。広島北税務署にも安佐北区の一部が管轄地域として課税割合が計算されていますが、これは安佐南区の数値がほとんどを占めているものと考えられます。
2-7.安芸区
安芸区は市の最東部に位置し、市内では最も人口が少ない区です。
区域の大部分が山間部となっており、間間に住宅地や市街地が造成されています。山が多いエリアということで、前項の安佐北区と同様に田舎町の景観がありますが、インターチェンジが区内に3ヶ所もあり、車があれば不便のない生活を送れるでしょう。
地価は1㎡あたり5万円で市内7位となっています。
一般的なサラリーマンでも、広い土地を購入して大きな家を建てるという夢が叶うエリアであり、矢野ニュータウン、みつぎ台団地、スカイレールタウンみどり坂など、自然と調和したニュータウンが多く造成されています。現在も続々と大規模な新興住宅地の造成計画が進んでおり、将来的には人口増加が望めるエリアになります。
大きなショッピングモールやレジャー施設はなく、スーパーや病院など生活に必要最低限の施設しかないため、子連れの若いファミリー層というよりは、大人が静かな暮らしを送るのに適しています。富裕層の別荘地や隠居地としての活用もあるでしょう。
2-8.佐伯区
佐伯区は市の最西部に位置しており、南西部は西区と瀬戸内海に接しています。
区域の大半は山間部となっており、北部は標高800m級の中国山地の山々に囲まれています。反対に西区と瀬戸内海がある南部では都市化が進み、中央部にかけて住宅地が広がっています。
地価は1㎡あたり8万円で市内6位となっていますが、西区に近づくほどベッドタウンとしての需要があり、高くなる傾向があります。この地価は、山間部の低い地価を含めた平均値となっているため、五日市駅周辺では20万円を超えるエリアもあります。佐伯区だから相続税はかからない、とは限りません。
3.広島市の税理士情報
広島県には税理士が1,535人(日本税理士会連合会 平成30年5月発行税理士界)おり、広島市にはその7割超の1,147人がいます。
さらにそのうち、中区には453人、南区144人、西区146人、東区131人となっており、広島市の中央部に874人が集結していることになります。
広島市の令和元年における相続税の申告件数は1,893件(税務署の管轄エリアによっては、周辺の市町も含まれています。)であったことから、税理士1人あたりの件数は約1.6件になり、全国平均の約1.9件と比較すると、広島市は税理士が足りているといって良いでしょう。
特に富裕層が多く居住しており、課税割合の高い中区や南区の税理士は、相続税の知識レベルが高い可能性が高く、相続税を最小限に抑えた申告を行うことができます。
安佐北区、安芸区、佐伯区の山間部などは、地元の税理士が見つからない、もしくは、相続税に弱い税理士しかいない可能性もあります。相続税申告には、相続財産がある地元情報に強いことも重要ではありますが、それに固執せず、中区での税理士探しをおすすめします。