事業承継税制:自社株に対する相続税・贈与税の納税猶予

事業承継税制スケジュール

中小企業庁は、国内の中小企業に対して経営や金融、商業・地域等のサポートをしていますが、この中の一つに「事業承継サポート」があります。

事業承継サポートとは、国内の中小企業経営者が後継者に対して事業承継をしやすいように支援する活動です。この支援活動の一つに「事業承継税制」と呼ばれる制度があり、自社株(非上場株式)の相続税・贈与税の支払いを猶予または免除され、後継者にとって大変有難い制度となっています。

1.事業承継税制の基礎知識

まずは、事業承継税制の法整備の背景や制度の概要について解説します。

1-1.事業承継制度の経緯

事業承継税制は、平成21年4月より施行された制度です。この税制は「相続税の納税猶予制度」と「贈与税の納税猶予制度」の2つの猶予制度を併せて、「事業承継税制」と呼んでいます。対象となる財産は、被相続人が所有している自社株(非上場株式)です。
非上場会社の事業承継においては、自社株の評価が高くなり相続税や贈与税の負担が大きくなりすぎて、株式の承継がうまくいかないことが問題となっていましたので、納税猶予制度ができました。
非常に長いですが、国税庁では「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例」と記載しています。

この税制が施行されるに至った背景は、平成20年5月に、中小企業経営者の事業承継を円滑にすることを目的として「経営承継円滑化法」(正式名称:中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)が成立されたからです。この成立を受け、事業承継に関わる税制措置も整備されたことで施行されました。

1-2.2015年(平成27年)の改正で利用しやすく

事業承継税制を利用するためには多くの条件を満たす必要がありますが、平成27年1月1日から条件が緩和され、利用しやすくなりました。
たとえば、事業継続要件として、以前は「5年間毎年雇用の8割を維持」する必要がありましたが、改正後は「5年間平均で雇用の8割を維持」すれば良くなりました。

1-3.相続税の納税猶予と贈与税の納税猶予

事業承継税制は、後継者となる相続人が事業承継を受けやすいように、非上場株式に対して「相続税」と「贈与税」のそれぞれに猶予制度を設けた税制措置です。一定要件を満たすことで、非上場株式の一定部分に対して納税猶予が認められます。

相続税については、相続によって後継者が取得した非上場株式のうち、相続前から所有していた分を含め全体の3分の2までの部分について、80%の納税猶予が認められます。
贈与税については、贈与によって後継者が取得した非上場株式のうち、贈与前から所有していた分を含め全体の3分の2までの部分について、全額の納税猶予が認められます。

納税猶予が認められた後も継続するための要件を満たす必要があります。納税猶予の継続要件から外れると「納付の義務」を負う可能性もあります。一方、一定の要件を満たすと「納付の免除」を受けることもできます。

1-4.2018年(平成30年)大幅な改正予定

一見、魅力的な事業承継税制ですが、それでも昨今の現状と照らし合わせるとまだ使いづらく利用者が伸び悩んでいました。そこで、2018年(平成30年)の税制改正大綱で大幅な改正が予定されています。
その一部をあげてみます。今後の改正が非常に期待されるところです。

  • 株式全体の3分の2から全額が対象に
  • 贈与税だけでなく相続税も100%全額の納税猶予に
  • 後継者1人だけでなく、最大3名までの後継者への贈与・相続・遺贈も猶予の対象に
  • 旧代表者以外の者からの贈与・相続・遺贈による取得分も猶予の対象に
  • 5年間平均8割以上の雇用要件を緩和
  • 承継後に譲渡・消滅・解散するとき、株価下落に伴う税差額は減免
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2.相続税の納税猶予の計算例

実際に、相続税の納税猶予の金額について計算してみます。
対象となる非上場株式は、相続前から所有していた分を含め全体の3分の2までの部分について、80%の納税猶予ですので、やや複雑な計算が必要となります。

相続人を長男、次男の2人とし、経営承継相続人を長男とします。長男は、非上場株式1.5億円および現預金1.5億円を、次男は土地3億円を、計6億円を相続します。被相続人は会社の議決権株式の100%を所有していたものとします。

STEP1:通常の相続税額を計算

相続税の納税猶予はなかったものとして、通常の相続税額を計算します。現金を相続する次男の相続税額はこれで確定します。→①

STEP2:特例非上場株式(100%)のみを相続したとして相続税額を計算

長男が非上場株式全体の3分の2の100%のみを相続するものとして、相続税額を計算します。→②

STEP3:特例非上場株式(20%)のみを相続したとして相続税額を計算

長男が非上場株式全体の3分の2の20%のみを相続するものとして、相続税額を計算します。→③

STEP4:差額を計算

STEP2で計算した長男の相続税額②から、STEP3で計算した長男の相続税額③を引いた分が、納税猶予される相続税額となります。→④

 STEP1STEP2STEP3
条件通常長男は非上場株式
全体の3分の2のみ
長男は非上場株式
全体の3分の2の20%のみ
課税価格長男:非上場株式1.5億円
現預金1.5億円
次男:土地3億円
合計:6億円
長男:非上場株式1億円
1.5億円×2/3
次男:土地3億円
合計:4億円
長男:非上場株式0.2億円
1.5億円×2/3×20%
次男:土地3億円
合計:3.2億円
相続税額長男:9,855万円(①)
次男:9,855万円(①)
長男:2,730万円(②)
(次男:8,190万円)
長男:482.5万円(③)
(次男:7,237.5万円)
猶予税額長男:②2,730万円-③482.5万円=2,247.5万円(④)
次男:-
納付税額長男:①9,855万円-④2,247.5万円=7,607.5万円
次男:①9,855万円

なお、2018年税制改正によって、非上場株式全体の3分の2から全体が対象に変更される予定です。

3.初期の適用要件

事業承継税制の適用を受けるには、法律で定める一定要件を満たす必要があります。要件には、相続・贈与発生時の初期要件と、その後継続するための事業継続要件があります。まずは、初期要件から説明します。

相続・贈与発生時の初期の要件は大きく、①会社に関する要件、②先代経営者に関する要件、③後継者に関する要件の3つに分かれます。「相続税の納税猶予」と「贈与税の納税猶予」、それぞれの要件は似ていますがやや異なります。

なお、要件として「議決権数」という用語が登場しますが、わかりやすくするために「株式」という言葉に置き換えて説明します。ここで「株式」とは、通常の議決権を有する株式とします。

3-1.「相続税の納税猶予」の適用要件

相続税の納税猶予を受けるための適用要件は下記の通りです。

①会社に関する
要件
・経済産業大臣の認定を受けた中小企業者であること
・常時雇用している従業員が1名以上いること
・非上場会社に限定され、資産保有・運用会社や風俗営業会社などは対象外
②先代経営者
(被相続人)に
関する要件
・相続開始前に会社の代表者であったこと
・先代経営者と関係者で全体の50%の株式を保有していたこと、
かつ、その中で後継者を除いて一番多く株式を保有していたこと
③後継者
(相続人)に
関する要件
・相続開始直前時点で役員であったこと
・相続開始後5カ月以内に会社の代表者になること
・相続後に、後継者と関係者で全体の50%の株式を保有しており、
その中で一番多く株式を保有するようになること

これら全ての要件を満たした上で、相続税の猶予申請を行います。猶予申請自体は相続税の申告の中で行いますが、その前に経済産業大臣の認定を受ける必要があります。
経済産業大臣の認定の申請は、原則として、相続開始後「8ヶ月以内」に行う必要があります。相続税の申告期限の「10ヶ月以内」よりも早いため注意が必要です

※なお、これらの要件は、2018年税制改正により緩和される予定です。

3-2.「贈与税の納税猶予」の適用要件

贈与税の納税猶予を受けるための適用要件は下記の通りです。

①会社に関する
要件
「相続税の納税猶予」と同一。
なお、起算点は贈与日になる。
②先代経営者
(贈与者)に
関する要件
・以前、会社の代表者であったが、贈与日には代表者でないこと
・先代経営者と関係者で全体の50%の株式を保有していたこと、
かつ、その中で後継者を除いて一番多く株式を保有していたこと
③後継者
(受贈者)に
関する要件
・贈与日に20歳以上であること
・贈与日に会社の代表者であること
・贈与日までに3年以上、会社の役員であったこと、
・贈与後に、後継者と関係者で全体の50%の株式を保有しており、
その中で一番多く株式を保有するようになること

これら全ての要件を満たした上で、贈与税の猶予申請を行います。猶予申請自体は贈与税の申告の中で行いますが、その前に経済産業大臣の認定を受ける必要があります。経済産業大臣の認定の申請は、原則として、贈与日の属する翌年の「1月15日」までに行う必要があります。贈与税の申告期限の「3月15日」よりも早いため注意が必要です

※なお、これらの要件は、2018年税制改正により緩和される予定です。

4.事業継続要件および免除・納付となる場合

相続・贈与で事業承継税制を適用した後、「納税猶予」の状態を続けるには、「事業継続要件」を満たす必要があります。また、事業承継税制はあくまで「納税猶予」の特例ですので、最終的には納税者は「免除される」もしくは「納税する」ことになります。

4-1.納税猶予のための事業継続要件

(1)最初の5年間

「納税猶予」を継続するための事業継続要件は相続・贈与どちらも共通です。相続税の申告期限、または贈与税の申告期限から5年間(経営承継期間、次の要件を満たす必要があります。

  • 5年間、後継者が事業を継続し代表者であること
  • 5年間、平均で雇用の8割以上を維持すること(2018年税制改正で緩和予定)
  • 特例の対象となる株式を継続して保有すること
  • 非上場会社であること、資産保有・運用会社や風俗営業会社でないこと

これら全ての要件を満たす必要がありますが、一つでも適用要件を満たさなくなると、納税猶予されている税額(猶予税額)の全額と利子税を合わせて納付する必要が生じます

(2)5年経過後

5年が経過すると条件は緩和され、納税猶予を継続するための要件は次のようになります。

  • 特例の対象となる株式を継続して保有すること
  • 非上場会社であること、資産保有・運用会社や風俗営業会社でないこと

対象となる株式を譲渡・贈与した場合は、納税猶予されている税額(猶予税額)のうち、譲渡・贈与した部分に対応する相続税と利子税を合わせて納付します。

4-2.「相続税の猶予税額」の免除要件

次のいずれかの条件を満たすと、相続税の猶予税額が免除されます。

  • 後継者(相続人)の死亡
  • 経営承継期間の経過後に会社が破産した場合
  • 特例の対象となる株式を後継者が別の後継者に贈与し、その贈与された後継者が新たに「贈与税の納税猶予の特例」を受ける場合
  • 特例の対象となる株式の全部を関係者以外に譲渡した場合(譲渡で取得した額を上回る猶予税額を免除)

4-3.「贈与税の猶予税額」の免除要件

次のいずれかの条件を満たすと、贈与税の猶予税額が免除されます。

  • 先代経営者の死亡(相続税の課税対象となるため贈与税は免除)
  • 先代経営者より先に後継者(相続人)が死亡
  • 経営承継期間の経過後に会社が破産した場合
  • 特例の対象となる株式の全部を関係者以外に譲渡した場合(譲渡で取得した額を上回る猶予税額を免除)

5.手続き

事業承継税制の要件を満たしており、その適用を受けるためには、最初の「申請手続き」と、その後、継続するための「更新手続き」をしなければなりません。
相続税でも、贈与税でも、基本的には手続き内容は同じです。

5-1.申請手続き

事業承継税制では、各申請期限までに猶予申請手続きを行わなければなりません。申請手続きの流れは下記の通りです。

(1) 経済産業大臣の認定を受ける
(2) 申告書と一緒に適用を受ける書類を提出する、一緒に担保を提供する

まず最初に経済産業大臣の認定を受ける必要があります。この申請の期限は、相続税については「相続開始後8ヶ月以内」、贈与税については「贈与日の翌年1月15日まで」です。つまり、相続税・贈与税それぞれの申告期限の2ヶ月前までとなっています。申請書は、本社の所在地を管轄する経済産業局に提出します。経済産業局は、関東・中部・近畿などと地域ごとに分かれています。

経済産業大臣の認定を受けたら、認定書を添付して、相続税・贈与税それぞれの申告を行います。この際、「非上場株式等の明細」や「納税猶予税額の計算書」も添付します。
そして提出するタイミングで、一緒に担保も提供する必要があります。この担保は、納税が猶予される税額と利子税の額を足した金額に見合うものでなければなりません。

5-2.更新手続き

事業承継税制の適用を受け続けるためには「更新手続き」を行わなければなりません。この更新手続きを行わないと、特例が打ち切られ、納税猶予税額と利子税の納付をすることになります。更新手続きの流れは下記の通りです。

(1) 経済産業大臣に事業継続の報告をする
(2) 税務署に継続届出書を提出する

申請手続き後、最初の5年間は、毎年両方の手続きが必要になります。まず、申告期限+n年(n=1~5)の3ヶ月以内に、経済産業局に「事業継続の報告」手続きを行います。そして、経済産業局からの「報告に関わる確認書」を添付して、申告期限+n年(n=1~5)の5ヶ月以内に、税務署に「納税猶予の継続届出書」を提出します。

5年経過後は、経済産業大臣への事業継続の報告は必要なくなり、3年に一度、税務署に「納税猶予の継続届出書」提出するだけになります。

申請のスケジュールが非常にややこしいため、下図をご覧ください。

事業承継税制スケジュール

6.事業承継税制の利用法と注意点

6-1.相続税の特例と贈与税の特例を連続して利用する

事業承継税制には「相続税の納税猶予制度」と「贈与税の納税猶予制度」の2つがあり、どちらも要件や内容が似ていますので、どう利用すれば良いか迷うところかもしれません。利用するうえで重要なポイントとなる違いを比較してみます。

【相続税の納税猶予と贈与税の納税猶予の違い】
 相続税の納税猶予贈与税の納税猶予
納税猶予の範囲株式総数3分の2までの部分について
課税価格の80%
株式総数3分の2までの部分について
課税価格の全額
免除となる条件・後継者(相続人)の死亡・先代経営者の死亡(相続税の課税対象)
・先代経営者より先に後継者が死亡

相続税の納税猶予は税額の80%であるのに対して、贈与税の納税猶予は全額ですので、贈与税の納税猶予のほうが利用しやすいです。まずは、先代経営者が生存中に後継者に株式を贈与することで、相続時の遺産分割の問題を防ぐことができます。

先代経営者が亡くなった際には、納税猶予された贈与税は免除されますが、その代わり、所有している株式は贈与時の時価で相続税の課税対象となります。後継者の努力で会社が成長し株式の評価額が上がったとしても、相続税の評価額は贈与時の金額となりますので、税額の増加を防ぐことができます。相続時には、相続税の納税猶予を適用し、税額の20%を納税、80%は納税猶予とします。その後、次の後継者へ事業承継する際には、新たに贈与税の納税猶予制度を利用すれば、相続税の納税猶予は免除されます。

このように、「1代目から2代目への贈与」→「1代目から2代目への相続」→「2代目から3代目への贈与」→「2代目から3代目への相続」とそれぞれのフェーズで連続して特例を利用することで、自社株に関わる税額を大きく減らすことができます。税額軽減の対象となるのは発行済株式総数の3分の2までの部分についてですので、残り3分の1の部分については、どうしても税金を払う必要が生じてしまいますが、それでも、大きな助けとなるでしょう。

6-2.適用要件を満たすためのプランニングを

事業承継税制の適用要件は細かく多岐にわたっており、一つでも条件を満たさなくなると、納税猶予が認められず、猶予されている税額をすべて支払わなければならなくなります。そのため、特例適用後も各種条件を満たすように、最初から会社経営のプランニングをしっかりと行い、事業を継続していく必要があります。

特に、「5年間、平均で雇用の8割以上を維持すること」という条件は、最も厳しいところです。バブル崩壊後、長期間にわかり景気が芳しくなく、ビジネス環境がめまぐるしく変化する現在では、5年間、収益を保ち雇用を維持することも大変です。しかも、先代経営者の死亡・後継者への経営者交代という中では、従業員の気持ちの変化もあり何が起こるかわかりません。少なくとも未来5年以上にわたって、明確なビジョンを描き、社員と共有して事業を継続していく必要があるといえます。
※2018年の税制改正で要件が緩和される予定です。

また、相続税の節税対策として取れる手段はこの事業承継税制以外にもありますので、他の対策と併用することも考えられます。相続開始までの期間が長いほど、様々な対策を立てやすくなりますので、早めに事業承継対策を開始することが重要です。

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