抵当権がついた不動産の相続税の扱いと注意点
住宅ローンを組む場合などには、住宅や土地などの不動産を抵当に入れることがあります。「抵当権」とは債務者が返済不能などに陥った際に、債権者が不動産を競売にかけられる権利のことを言います。抵当権は不動産登記簿の権利部の乙区に債権金額とともに記載されています。(下図)
抵当権が設定された不動産を相続すると、場合によっては不利な状況に陥る可能性もあります。そこで、抵当権がついた不動産を相続する場合に税務上・法務上、どのように扱われるのかについて説明します。
目次
相続税上の抵当権のついた不動産の扱い
まず、相続税上、抵当権のついた不動産がどのように扱われるか確認します。
抵当権のついた不動産も相続税の課税対象
抵当権のついた不動産は「消極財産」と呼ばれる資産です。不動産に債務が付いているために、消極財産として扱われています。
消極財産も相続税の課税対象です。相続税上、借入金などの債務は控除されますが、抵当権が付いた不動産は、主たる不動産を相続していると見られるため、課税対象として扱われます。
抵当権のついた不動産の評価方法
抵当権がついた不動産であっても、不動産評価額には影響を与えません。したがって、路線価方式や倍率方式、固定資産評価額などによって、そのままの不動産価値が評価されます。
つまり、抵当権が付いた不動産を相続しても、相続税額への影響はありません。それぞれ定められた評価方法に従って、不動産評価額を算出します。
法務上の抵当権のついた不動産の扱い
次に、抵当権のついた不動産を相続する場合、法務上はどのように扱われるのかを確認します。誰が債務を負うのか?どれくらいの返済義務を負うのかがポイントです。
法定相続人全員が等分にて負担する
相続財産に抵当権のついた不動産がある場合には、法定相続人全員が等分に分割して負担する決まりになっています。一般的に、不動産等の名義変更(登記)は「所有者の移転」だけです。つまり、抵当権の負担者は被相続人のままです。
しかし、抵当権の負担者を被相続人のままにしておくことはできません。なぜなら、故人に返済等の負担をさせることはできないからです。したがって、抵当権のついた不動産を相続する相続人も、相続しない相続人も全員が返済の義務を負うことになります。
不動産を相続した相続人に負担させる
原則的には返済の義務は相続人全員が負うと決まりになっていますが、不動産等を相続していない相続人まで返済義務を負うことは不公平という意見も多くあります。
そこで、相続人と金融機関との協議によって「不動産を相続した相続人」だけに債務を負わせることもできます。この場合であれば、不動産を相続した人以外は返済の義務を負わずに済みます。
つまり、基本的には「相続人全員」が負担義務を負いますが、協議次第で「不動産を相続した人」だけが債務者になることも可能なのです。住宅ローンをだれが負担するかは、重要な問題です。遺産分割の時点でそれぞれの相続人の損得や公平性を考慮しながら、しっかり取り決めをしておくようにしましょう。
抵当権のついた不動産を相続する際の注意点
抵当権がついた不動産を相続する場合、トラブルに巻き込まれる可能性があります。あるトラブル事例と、その対処法を挙げておきます。ただし、ここでは一般的な対処法であるため、実際の解決に当たっては、弁護士、司法書士などの専門家に相談することがオススメです。
負債義務を負った人が返済不能状態に陥る
債務負担者が返済不能状態に陥ることは多いです。この場合、抵当権のついた不動産を相続した人が債務負担をしていれば、不動産を競売にかけられることになります。
ただし、中には抵当権のついた不動産を相続した人と、債務負担者が異なる場合もあります。この場合であっても、債務負担者が返済不能になれば、競売にかけられる可能性があります。
知らないうちに競売にかけられないようにするために、遺産分割時に債務負担者について取り決めをしておく必要があります。
オーバーローンの遺産を相続する
相続する不動産の市場での評価額よりも、住宅ローンの方が大きいケースもよく見られます。この場合も基本的には相続人全員で負担することになります。もしくは、手続きによって不動産を相続する人が住宅ローンを全額負担します。
不動産の市場評価額よりも住宅ローンの負担が多い場合は「相続放棄」をするという手もあります。相続放棄の手続きをすれば住宅ローンの負担はせずにすみます。住宅ローンが残っている不動産が相続財産としてある場合には、対象の不動産を売ろうとしたら実際にいくらくらいで売れるのか、住宅ローン負担額と比べておく方が良いでしょう。
抵当権が設定された不動産についてのまとめ
抵当権がついた不動産を相続する場合の相続税と、相続手続きについて確認しました。抵当権が付いていても、相続税額に影響はありません。また、基本的には債務は相続人全員で負うことになります。ただし、金融機関と取り決めをすれば債務者を変更できますので、遺産分割協議で誰がどのように負担するかよく話し合って決めることが大切です。