事業承継では役員退職金を支払うことで節税できる

役員 シニアビジネスマン

中小企業の事業承継は、高齢社会の日本にとって多くの企業がかかえる問題です。創業以来、数十年に渡り事業を営んでいる場合、順調に経営していればいるほど、企業の資産価値が上昇していますので、どのように事業承継していけば後継者の負担が軽くなるかが課題です。事業承継には誰が後継者となるか、という問題もありますが、ここでは、どのように資産を承継するか、役員退職金に焦点を当てて解説していきます。

1.役員退職金を支払うことのメリット

大きくなった企業の価値を次の世代に承継させる方法の一つに役員退職金の支払いがあり、まずは退任予定の社長が役員退職金を受け取るメリットについて見ていくことにします。

創業以来、経営者として手腕を振るってきた社長であれば、その在任期間は長く、在任期間が長ければその分、役員退職金を多く受け取ることができます。役員退職金が多ければ、社長個人の相続対策に利用することができます

一方、企業側からすれば、多額の役員退職金を支払うことで損金計上することができるとともに、株式の価値が下がるため、事業承継がしやすくなります。また事業承継を早めに計画的に行うことで、社内での承継準備はもちろん、取引会社等への引き継ぎもスムーズに行うことができ、状況を観察しながら徐々に権限移譲を行うことができます。いずれも計画的に少し時間をかける必要があります。

<役員退職金を支払うメリット>
会社損金計上できる。株式や出資の価値が下がる(事業承継しやすくなる)。社内外に周知徹底できる。
社長役員退職金を受け取ることができる。不動産の購入など相続対策ができる。
後継者指導を仰ぎながら将来のかじ取りへ向けた経験をじっくり積むことができる。事業承継しやすくなる。

2.一般的な役員退職金の算定方法

原則、役員退職金は支給決議で金額が確定しますが、損失算入できるのは不相当に高額になっている部分以外となります。また役員退職金の算出方法については、役員退職慰労金規定を定めておく必要があります。一般的に、役員退職金の額は次の式で求めます。

最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

功績倍率は、同業種、同規模の企業を参考に、会社への貢献度を考慮して決めるもので、会長や社長などの役位によって異なります。最終報酬月額を100万円、役員在任年数を30年、功績倍率を3.0とした場合の役員退職金を求めてみます。

100万円 × 30年 ×3.0 = 9,000万円

ちなみに、過去の判決で示された功績倍率を紹介しておきます。ただ個々の事情により判決内容が異なりますのでご注意ください。

職務功績倍率
会長3.0
社長3.0
副社長2.8
専務取締役2.4
常務取締役2.2
取締役1.1
監査役1.8

3.社長個人の退職所得の計算方法

適正な役員退職金の支払いは損金算入することでき、利益を圧縮できるメリットがありますが、受け取る社長には税制面で優遇されている退職金所得として計算できるメリットがあります。ここでは退職所得について解説していきます。

まず退職所得の金額は、

(役員退職金の額 - 退職所得控除額)× 1/2

で求めることができます。次に退職所得控除ですが、これは勤続年数が20年超か20年以下で異なります。

  • 勤続年数20年以下: 40万円×勤続年数(最低80万円)
  • 勤続年数20年超 : 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

なお、勤続年数で1年未満の端数が出た場合は、1年となります。仮に前述の例である、役員退職金9,000万円、役員在任年数30年の場合で計算してみましょう。

800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円・・・退職所得控除額

(9,000万円-1,500万円)×1/2=3,750万円・・・退職所得

退職所得は3,750万円となります。退職金の額は9,000万円でしたが、退職所得に区分されることで、課税対象となる金額は3,750万円となります。この場合の所得税と住民税の額を求めてみます。所得税は次の<所得税の速算表>で、住民税は税率10%となります。

<所得税の速算表>
課税される所得金額税率控除額
195万円以下5%0円
195万円超330万円以下10%97,500円
330万円超695万円以下20%427,500円
695万円超900万円以下23%636,000円
900万円超1,800万円以下33%1,536,000円
1,800万円超4,000万円以下40%2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円

3,750万円 ×40% - 279.6万円 = 1,220.4万円・・・所得税の額
3,750万円 ×10% = 375万円・・・住民税の額
所得税・住民税の合計額 1,595.4万円

役員退職金9,000万円受け取った場合の税引後の手取額は、

9,000万円 -1,595.4 万円 = 7,404.6万円

となります。1,800万円超4,000万円以下の部分は税率40%ですが、退職所得控除額が大きく、さらに税率を掛ける前に2分の1するため、優遇された所得区分と言えます。これは長年勤めてきた所得であることが考慮されているためです。

参考:<退職金・勤続年数別手取額一覧>

(勤続年数)
退職金
(万円)
10152025303540
3,0002,5952,6382,6812,7562,8182,8702,923
5,0004,1304,1804,2304,3174,4014,4764,552
6,0004,8804,9304,9805,0675,1555,2425,330
7,0005,6305,6805,7305,8175,9055,9926,080
8,0006,3806,4306,4806,5676,6556,7426,830
9,0007,1157,1707,2257,3177,4057,4927,580
10,0007,8407,8957,9508,0468,1428,2388,330
15,00011,46511,52011,57511,67111,76711,86311,960
20,00015,09015,14515,20015,29615,39215,48815,585

4.退職金利用の注意点

役員退職金の支給により株式や出資の額が減少し、事業承継しやすくなることを解説しました。ここで注意すべき点を挙げておきます。取引相場のない株式の評価方式は、同族株主の場合、類似業種比準方式と純資産価額方式があります。純資産価額方式は企業の純資産価額から算出しますが、類似業種比準方式は事業内容が似ている上場企業の情報をもとに自社株を評価する方式で、類似業種比準方式の方が評価は低くなるのが一般的です。類似業種比準方式は上場企業との比較になりますので、相対的に評価額は下がるためです。どちらの方式が適用になるかは会社の規模によります。それが次の表です。

会社の規模評価方式
大会社「類似業種比準方式」
中会社(大)「類似業種比準方式×0.9+純資産価額×0.10」
中会社(中)「類似業種比準方式×0.75+純資産価額×0.25」
中会社(小)「類似業種比準方式×0.60+純資産価額×0.40」
小会社「類似業種比準方式×0.50+純資産価額×0.50」と「純資産価額」の低い方

この会社規模の判定は、次のような区分となります。

  • 従業員数100名以上 ⇒ 大会社
  • 従業員数100名未満 ⇒ 取引高基準か純資産基準(従業員数を考慮)の大きい方で会社の規模を判定する
    (例)卸売業で取引高基準の場合
  • 80億円以上 ⇒ 大会社
  • 50億円~80億円 ⇒ 中会社 大
  • 25億円~50億円 ⇒ 中会社 中
  • 2億円~25億円 ⇒ 中会社 小
  • 2億円未満 ⇒ 小会社

会社の規模は、従業員数100名未満の場合、どの方式で評価するか判定する必要があります。また類似業種比準方式は配当・利益・純資産の数値で計算しますが、資産が多いが赤字になってしまった場合、純資産額だけで算出することになります。会社の規模が満たしていても経営状況によっては純資産価額方式で評価することも注意しておく必要があります。

類似業種比準方式を活用できない場合、節税効果があまり出ない場合もありますが、役員退職金支給による損金算入や退職所得としての受け取りを含め、総合的に判断することになります。

【関連】上場株式と非上場株式の評価方法

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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