相続税の計算方法を図でわかりやすく解説

相続税の計算

相続税の計算方法は少しややこしいですが、簡潔に書くと上図のようになります。
手順を一つ一つ分解し、計算方法を理解すれば、それほど難しくはありません。

相続税の計算の手順は大きく3つのSTEPに分けられます。

  • STEP1 課税価格を計算
  • STEP2 相続税の総額を計算
  • STEP3 各人の納付税額を計算

ここでは、相続税の計算手順を詳しく解説します。具体例と図を利用して紹介しますので、この記事を参考に、試しに自分の相続税を計算してみましょう!

動画でも解説していますので、あわせてご覧ください。

1.STEP1 課税価格を計算

最初に課税価格(相続税がかかる財産はいくらか)を計算しますが、ここが一番大変なところです。

①各人の課税価格の計算

まず、各相続人ごとに課税価格を計算します。相続財産そのものに相続税がかかるのではなく、相続財産として加算するものを足し、相続財産から差し引くものを引いた結果が課税価格となり、これが相続税の計算のもととなる金額になります。

以下で加算項目と減算項目を詳しく解説しますが、読み飛ばして、具体的な計算例からご覧いただいても大丈夫です。

(1)本来の相続財産【加算項目】

本来の相続財産とは、民法上の規定によって相続や遺贈によって取得した財産です。

被相続人が生前に所有していた財産で、お金に換算できる経済的価値のある財産をいいます。預貯金、株式、土地、建物、ゴルフ会員権、貴金属、骨董品などが当てはまります。古くなったテレビやパソコンなどお金で価値がつかないものであれば該当しません。

財産が家族名義となっていても、その購入費用を被相続人が出していたり、真の所有者が被相続人であるものも、相続財産となります。

それぞれの財産の評価方法については細かく定められています。

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(2)みなし相続財産【加算項目】

みなし相続財産とは、相続税法上の規定によって相続や遺贈によって取得したものとみなされる財産です。つまり、本来は、被相続人の財産ではないですが、被相続人の死亡を原因として取得した財産であるため、相続財産とみなします。

みなし相続財産には多くの種類がありますが、主なものに生命保険金と死亡退職金があります。

生命保険金被相続人が保険料を支払っていた保険契約で、被相続人の死亡によって支払われる保険金
死亡退職金被相続人の死亡によって支払われる退職金で、被相続人の死後3年以内に支給が確定したもの

生命保険について、保険料支払い者が被相続人でない場合の保険金は、みなし相続財産とはなりません。

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死亡退職金について、生前に退職していてもその時はまだ退職金の支給が確定しておらず、被相続人の死亡後に確定した場合は、みなし相続財産となります。また、被相続人が死亡により退職し、死後3年以内に退職金の支給が確定したが、実際に支給されたのは3年を過ぎた後であった場合もみなし相続財産となります。

(3)相続時精算課税制度による贈与財産【加算項目】

相続時精算課税制度とは、被相続人である祖父母・父母が生前に、子や孫に対して財産を贈与した場合、その時点では贈与税がかからない代わりに、相続時に相続税としてかかる制度です。相続財産として加算される金額は贈与時の価格です。

(4)相続開始前3年以内の贈与財産【加算項目】

相続開始前3年以内に、相続人が被相続人から贈与された財産です。
相続財産として加算される金額は贈与時の価格です。

相続時精算課税制度暦年課税
通常は、年間の贈与された金額に対して110万円までは控除を受けられ、110万円を超えた部分の金額に対してだけ贈与税がかかります。これを暦年課税といいます。
相続時精算課税制度では、合計2,500万円までは贈与税をかけずに、2,500万円を超えた部分の金額に対してだけ一律で20%の贈与税がかかります。
暦年課税と相続時精算課税制度はどちらか片方しか適用できません。通常は、暦年課税ですが、一定の要件を満たすと、相続時精算課税制度を選択できます。

(5)非課税財産【減算項目】

社会政策や国民感情等の観点から相続税の課税対象とすることが適当でない財産については、非課税財産となります。非課税財産には、次のようなものがあります。

  • 墓地、祭具、仏壇など
  • 生命保険金、死亡退職金のうち非課税額
  • 弔慰金のうち非課税額
★生命保険金、死亡退職金のうち非課税額

相続人が受け取った生命保険金、死亡退職金のうち、次の計算式で求めた金額が非課税(非課税限度額)となります。

非課税額=500万円×法定相続人の数

各人の非課税額は、上記の非課税額を次の計算式で按分した金額となります。

各人の非課税額=非課税額×(その相続人が受け取った金額)/(すべての相続人が受け取った金額)

なお、相続を放棄した人がいる場合、非課税限度額の計算の際には、相続を放棄した人も相続したとみなし法定相続人の数に入れて計算しますが、相続を放棄した人が受け取った保険金等について、非課税にはなりません。

★弔慰金のうち非課税額

相続人が受け取った弔慰金のうち、次の計算式で求めた金額が非課税となります。

業務上の死亡の場合:非課税額=死亡時の普通給与×36ヶ月分
業務外の死亡の場合:非課税額=死亡時の普通給与×6ヶ月分

(6)債務、葬式費用

被相続人の債務(借金など)を受け継いだ場合はその債務を、葬式費用を負担した場合はその費用を、課税価格から控除することができます。

控除の対象となるもの、ならないものを一部あげると次のようになります。

 控除できるもの控除できないもの
債務・借入金
・未払いの医療費
・未払いの税金
・生前に購入した墓地等の未払金
・遺言執行費用
葬式費用・通夜、告別式、火葬、納骨費用
・死体捜索費用
・香典返戻費用(お返し)
・法要費用(初七日など)

課税財産の計算例

それでは、具体的な例をもとにして、課税財産を計算してみましょう。

夫が亡くなり、妻、長男、次男が相続するとします。

それぞれの相続財産は、妻が6,000万円の自宅、長男が3,200万円の土地、次男が現金2,000万円とし、次男は生命保険金1,000万円ももらうとします。さらに、借入金1,000万円を妻が受け継ぎ、葬式費用200万円を長男が負担します。

生命保険金の非課税限度額は、500万円×3人=1,500万円ですので、次男が受け取る生命保険金1,000万円は全額非課税となります。また、葬式費用、借入金は相続財産から控除できます。
それぞれの相続人の課税価格は次の表のようになります。

 長男次男
財産+6,000万円 自宅
-1,000万円 借入金
+3,200万円 土地
- 200万円 葬式費用
+2,000万円 現金
+1,000万円 生命保険金
-1,000万円 保険料控除
課税価格5,000万円3,000万円2,000万円

②各人の課税価格を合計

妻、長男、次男のそれぞれの課税価格を合計して、課税価格合計額を計算します。

5,000万円 + 3,000万円 + 2,000万円 = 1億円

2.STEP2 相続税の総額を計算

③課税遺産総額

②で求めた課税価格合計額から、基礎控除額を引きます。基礎控除額の計算式は下記のとおりです。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
・基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円×3人 = 4,800万円
・課税遺産総額 = 1億円 - 4,800万円 = 5,200万円

基礎控除とは

相続税の基礎控除とは、相続税がかかるかどうか基準となる金額のことです。

相続財産が基礎控除の金額以下であれば相続税がかからず申告の必要もありません。
もし、相続財産が基礎控除の金額を超えていたら、相続税がかかります。

相続税申告 基礎控除

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④各人の法定相続分を計算

各人の法定相続分は妻が2分の1、長男・次男が4分の1ですから、③で求めた課税遺産総額にそれぞれの法定相続分をかけると次のようになります。

・妻  5,200万円 × 1/2 = 2,600万円
・長男 5,200万円 × 1/4 = 1,300万円
・次男 5,200万円 × 1/4 = 1,300万円

⑤各人の税額を計算

相続税の速算表を用いて、各人の税額を計算します。

・妻  2,600万円 × 15% - 50万円 = 340万円
・長男 1,300万円 × 15% - 50万円 = 145万円
・次男 1,300万円 × 15% - 50万円 = 145万円

⑥相続税の総額

各人の税額を合計して、相続税の総額を計算します。

340万円 + 145万円 + 145万円 = 630万円

3.STEP3 各人の納付税額を計算

⑦取得割合をかけて、各人の相続税額を計算

妻、長男、次男のそれぞれの取得割合は、次のようになります。

・妻  5,000万円 ÷ 1億円 = 0.5
・長男 3,000万円 ÷ 1億円 = 0.3
・次男 2,000万円 ÷ 1億円 = 0.2

⑥で求めた相続税の総額に、上記の取得割合をかけて、各人の相続税額を計算します。

・妻  630万円 × 0.5 = 315万円
・長男 630万円 × 0.3 = 189万円
・次男 630万円 × 0.2 = 126万円

⑧各人の納付税額を計算

最後に、各人に適用される加算および税額控除を適用して、納付税額が出ます。
税額控除には、贈与税額控除、配偶者控除、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除、外国税額控除、相続時精算課税による贈与税額控除があります。

妻には配偶者控除配偶者の税額軽減)を適用できます。配偶者の取得財産が1億6000万円以下または法定相続分以下なら、配偶者の相続税は非課税になりますので、今回の例の場合は、配偶者の相続税は0になります。

最終的に納付税額は次のようになります。

・妻  0円
・長男 189万円
・次男 126万円

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相続税の計算についてよくある質問

相続税の計算はどのようにする?

相続税の計算は次の3つのSTEPで計算します。

  • STEP1 課税価格を計算
  • STEP2 相続税の総額を計算
  • STEP3 各人の納付税額を計算

詳しくは、こちらをご覧ください。

相続税の計算では、いったん法定相続分で相続したと仮定して計算し、その後、各人の相続割合で按分しますが、なぜこんな面倒くさい計算をするのですか?

それぞれの相続人がどんな割合で相続しても、相続税は同じ金額になるようにするためです。

もし、相続する割合によって相続税の金額に差があると、故意に相続税を減らすような割合で相続するケースが出てきます。

そのようなことがないように、いったん法定相続分で相続した場合の相続税額を計算し、それを各相続人で按分します。

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服部
執筆
服部 貞昭
東京大学大学院電子工学専攻(修士課程)修了。
CFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
ベンチャーIT企業のCTOおよび会計・経理を担当。
税金やお金に関する記事を1000本以上、執筆・監修。
FPメンバーで構成する「遺言・相続・成年後見研究会」勉強会に参加中。
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