コストメリットが大きい企業保険の有効活用と相続税の非課税枠

ビジネス

生命保険に多く加入している人でも、勤務先の企業保険のことは意外と知らないものです。
しかし、企業保険は、制度によっては民間の生命保険よりはるかにコストパフォーマンスが高いものもあります。また、企業保険で死亡時に取得できる死亡保険金や弔慰金には、相続税の非課税枠も適用されます。

そこで、企業保険について詳しく解説します。

1.企業保険とは

企業保険とは、企業が契約者となり、従業員が被保険者となって実施される保険制度のことです。よって、個人が契約者となる保険とは明確に区別されます。
企業が福利厚生制度の一環として運営することが多く、「加入者数が多い」というスケールメリットが働くので、個人加入より保険料が安くなる場合が多いといえます。企業保険には、主に次の4つの実施目的があります。

  • 死亡保障
  • 医療保障
  • 所得保障(補償)
  • 老後保障

企業保険は通常、生命保険のことを指しますが、生命保険に限らず損害保険も含めた総称として使われることもあります。

1-1.企業保険の種類

企業保険の商品には、団体定期保険、総合福祉団体定期保険、団体医療保険、団体就業不能保障保険、拠出型企業年金保険などの生命保険商品があります。他に、傷害保険、所得補償保険、医療保険など、損害保険が含まれる場合もあります。

企業によっては、わかりやすさを訴求するために、実施している商品をまとめて、制度の総称として「グループ保険制度」、「○○プラン」などとしている場合もあります。
ここでは、企業保険の代表格である「団体定期保険」と「総合福祉団体定期保険」について解説します。

2.団体定期保険

団体定期保険とは、死亡保障制度の一環として企業が独自に運営する1年更新の定期保険(死亡保険)です。
希望者だけが加入する任意加入の保険で、強制加入ではありません。「グループ保険」、「Bグループ保険」とも呼ばれますので、聞いたことのある人も多いでしょう。

団体定期保険は、すべての企業で実施されているわけではありませんが、一般的には、従業員数が多い企業(単体ベースで従業員数1,000名以上、連結ベースでは従業員数3,000名以上)では、実施されている可能性が高いです。通常、年一回募集されるので、職場でパンフレットが配られた経験がある人も多いのではないでしょうか?

医療保険や拠出型企業年金保険、損害保険など他の保険とセットで募集されることも多いですが、企業保険はそもそも認知度が低いので、特に若い人は、セールスと勘違いしてパンフレットの内容をよく見ずに、そのままシュレッダーしてしまうことも多いです。

しかしながら、団体定期保険には多くのメリットがあります。有効に活用すれば、効率的に保障を確保でき、ライフプランの大きな支えになります。詳しく見てみましょう。

2-1.団体定期保険のメリット

団体定期保険には、次のようなメリット・特長があります。

  • 企業が契約者となり、希望する従業員のみ加入する。
  • 募集期間中は職場にポスターが掲示されたり、食堂や工場などで福利厚生部門や企業内代理店、保険会社などによる制度説明会が実施されることも多い。そのため、相談してから加入することもできる。
  • 個人で定期保険に加入する場合より、保険料が安くなるケースが多い。特に、大企業グループで実施されている団体定期保険は、配当金を考慮した「実質保険料」が、民間で最安といわれる個人加入の定期保険(ネット系生保、損保系生保、外資系生保など)よりも、さらにかなり安い場合が多い。
  • 配偶者、子どもも加入できる場合が多いため、家族の保障を一括でまとめて確保できる。(ただし、制度に「こども特約」が付加されている場合)
  • 従業員が支払った保険料は、生命保険料控除の対象となる。
  • 通常、退職したら脱退となるが、「退職者継続保障」が制度に付加されている場合は、会社を退職しても一定年齢までそのまま加入することができる。(ただしこの場合、保険料の引去りは給与控除ができなくなるため、通常収納代行会社を利用することになる。そのため収納手数料が別途かかる場合がある)
  • 新規加入時、あるいは増額時には、告知だけで加入できる。医師の診査は不要なため、加入時の事務負荷が小さい。
  • 団体定期保険は有配当の場合が多い。このため、1年間の収支を締めて剰余金が生じた場合は、配当金として還元され、実質の負担額がかなり小さくなる。
  • 複数の生命保険会社による「共同引き受け」(=シェア割り)になっている場合は、保険金額の上限が6,000万円など高く設定されており、高額の保障を確保できる場合がある。
  • 「年金払い特約」が制度に付加されている場合は、保険金を一時金ではなく年金形式で受け取ることができる。この場合、年金タイプは選択できる。年金タイプは、5・10・15年確定年金+保証期間付終身年金のなかから選ぶことが多い。

2-2.団体定期保険のデメリット

一方、団体定期保険には次のようなデメリットもあります。

  • 1年更新で毎年収支計算を行うため、保険料は毎年変動する。当然上がる場合もある。
  • 基本的に1年に一回、決められた時期にしか加入できない。そのため、加入日(契約日)も制度によって決まっており、自分で決めることはできない。ただし、制度によっては、新入社員や中途入社者向けに、期途中でも加入できる「中途加入制度」を設けている場合がある。
  • 脱退は自由だが、基本的に加入と同じで毎年決められた時期にしか脱退できない。
    ただし、退職した場合は、退職月の月末に脱退となる場合が多い。また、配当金は決められた月の月末に加入していないともらえない場合が多い。
  • 制度が用意している保険金額(例えば、1,000万円、1,500万円、2,000万円など)にしか加入できず、自分で独自に保険金額を設定することはできない。
  • 加入者数が大きく減少する、制度への加入率が10%未満に低下する、加入者の死亡率が極端に高まる、など、保険会社が定める要件を満たさなくなった場合、制度が終了してしまう場合がある。

2-3.団体定期保険の保険料の決定方法

団体定期保険について、もう少し詳しく、保険料の決まり方を見ておきましょう。団体定期保険の保険料率の決定方法には、次の3つがあります。

  • 年齢群団別保険料率方式
  • 平均保険料率方式
  • 年齢別保険料率方式

2-3-1.年齢群団別保険料率方式

年齢群団別保険料率方式とは、被保険者の年齢を主に5歳刻みでまとめてしまい、その中で「代表年齢」と呼ばれる一定の年齢を定め、その群団(グループ)の年齢にはその代表年齢の保険料率を一律に適用するものです。

仮に、41歳~45歳をひとまとめにして群団にしている場合、加入時の年齢が41歳でも45歳でも保険料は同じになります。なお通常、この群団の年齢が上がるに従い保険料は高くなります。
団体定期保険では通常、この方式を採用しているケースが最も多いです。

2-3-2.平均保険料率方式

平均保険料率方式とは、被保険者全員の平均の保険料率を適用するものです。そのため、被保険者全員に同じ料率が適用されます。
例えば、23歳の新入社員と55歳の部長が同じ1,000万円に加入する場合でも、保険料は同じになります。

2-3-3.年齢別保険料率方式

個人保険ではおなじみの決定方法で、被保険者の年齢により保険料が変わってきます。ただし、グループ保険でこの方式を用いると、管理が難しくなり、募集パンフレットへの保険料表の記載もしづらくなるので、あまり採用されていません。

なお、二つ目の平均保険料率方式は、一見公平に見えますが、「若い人には保険料が割高、中高年には保険料が割安」になってしまうため、若い人が次第に加入しなくなり、制度としては存続しづらくなるのが実情です。
実際には、平均保険料率から年齢群団別保険料率への変更は重要な「制度変更」となるため、運営主体である企業には、加入者や労働組合等への説明など大きな負荷が生じます。そのため、料率の変更は簡単ではありません。実施企業のなかには、昔からの平均保険料率方式がそのまま続いているところもあります。

計算

3.総合福祉団体定期保険

総合福祉団体定期保険は、団体定期保険同様、死亡保障制度の一環として企業が独自に運営する1年更新の定期保険(死亡保険)ですが、原則、従業員全員加入となります。ただし、「一定役職以上全員加入」(よく、「部課長保険」などと呼ばれます)といった加入形態も可能です。

総合福祉団体定期保険は、1997年以前は「Aグループ保険」と呼ばれていました。Aグループ保険は、その高額な加入が大手紙報道をきっかけに1997年に社会問題になり、現在の総合福祉団体定期保険に商品そのものが切り替わりました。

総合福祉団体定期保険についても、団体定期保険同様、すべての企業で実施されているわけではありませんが、一般的には、従業員数が多い企業では、実施されている可能性が高いです。

3-1.総合福祉団体定期保険のメリット

総合福祉団体定期保険には、次のようなメリット・特長があります。

  • 企業が契約者となり、原則、従業員が全員加入する。ただし、加入に際しては、加入対象の全ての従業員に「同意確認」を行い、同意を取り付けることが必須となっている。加入に同意しなかった従業員は加入対象から外さなければならない。これは、制度開始後の全追加加入者(新入社員、中途入社者等)についても同様である。
  • 加入者一人一人の保険料で見た場合、個人で定期保険に加入する場合より、保険料が安くなるケースが多い。
  • 企業の規程・規定(弔慰金規程、死亡退職金規程、退職年金規程、法定外労働災害補償規程、通勤途上災害補償規程、遺族年金規程、遺児育英年金規程等)に対して保険をかけることになる。よって、従業員死亡時に企業の規程から支払われる金額以上に保険金が支払われることはない。
  • 新規加入・増額時は「一括告知」のみのため、事務担当部門の負荷が小さい。
  • 総合福祉団体定期保険は有配当の場合が多い。このため、1年間の収支を締めて剰余金が生じた場合は、配当金として還元され、企業の実質の負担額が小さくなる。
  • 企業が支払った保険料は損金算入できる。役員加入分の保険料も損金算入できる。
  • 「年金払い特約」が制度に付加されている場合は、保険金を一時金ではなく年金形式で受け取ることができる。この場合、年金タイプは選択できる。年金タイプは、5・10・15年確定年金+保証期間付終身年金のなかから選ぶことが多い。
  • ヒューマン・ヴァリュー特約をつけることができる。
    ヒューマン・ヴァリュー特約とは、企業が従業員の死亡による「人的損失(逸失利益)の補填」や「人材育成費用の回収」のためにつける特約のことで、主契約の保険金額が上限となる。なお、ヒューマン・ヴァリュー特約の同意取得は特に厳格になっており、署名等による個々の同意が必要である。

3-2.総合福祉団体定期保険のデメリット

一方、総合福祉団体定期保険には、次のようなデメリットがあります。

  • 企業にとっては、保険料が費用(コスト)になる。
  • 1年更新のため、保険料(保険料率)は毎年見直され変動するため、企業は予算が組みにくい。
  • 一般的には毎年必ず保険料率が上昇する。(加入者全員、毎年必ず1歳年齢が上がるため)
  • 人事部、総務部等担当所管に事務が発生する。また、死亡・高度障害等事故発生時には遺族とのやりとりも発生する。
  • 加入時には従業員同意と併せ、「従業員代表者の同意(通常、労働組合の執行委員長の確認印)」も必要になる。そのため、当保険は、労使交渉の材料に使われやすい。
  • 団体定期保険と異なり、従業員は退職したら即脱退となる。
  • 企業が、生命保険会社からの強い圧力(大株主として、融資条件として等)を受け、加入させられることも多い。

4.企業保険と相続

企業保険は、相続の場面で登場することもあります。詳しく見てみましょう。

4-1.団体定期保険は死亡保険金の非課税対象、生前の注意点

団体定期保険で遺族が受け取る死亡保険金額は、死亡保険金の非課税「法定相続人数×500万円」の対象となります。
しかしながら、団体定期保険は給与控除されるため、会社に勤めていた本人(被相続人)しか契約の存在を知らないことも多いのです。

通常、従業員死亡時には福利厚生部門から当保険の存在および保険金請求手続きの案内がありますし、また年一回は生命保険会社から加入内容通知書が郵送されますが、当該部門が案内を失念したり、加入内容通知書を廃棄してしまうこともあります。
団体定期保険へ加入している場合は、親族間で情報を共有しておくことが必要です。

4-2.総合福祉団体定期保険も非課税対象、生前の注意点

総合福祉団体定期保険についても、例えば死亡退職金規程に基づき、死亡退職金として支払われる場合は、やはり「法定相続人数×500万円」までの部分が非課税になります。
弔慰金規程等に基づき、弔慰金として支払われる場合は、

  • 業務上死亡の場合…賞与を除く死亡時給与の3年分までの金額
  • 業務外死亡の場合…賞与を除く死亡時給与の6か月分までの金額

がそれぞれ非課税となりますので注意しましょう。

また、総合福祉団体定期保険は、企業契約で従業員の給与控除もないので、団体定期保険以上に、「従業員は、自分が加入していることをそもそも知らないことが多い」のです。

加入時に全員から同意を取得していますので、本来は知っているはずですが、同意取得の方法がいい加減であったり、本人が失念している場合もあるので、実際は全員が必ずしも理解・把握しているわけではないことに注意しましょう。
こちらについても、団体定期保険同様、自身の加入状況につき、親族間で情報を共有しておくことが必要です。

まとめ

団体定期保険や総合福祉団体定期保険は、すべての会社に必ず制度があるわけではありません。また、保険料についても、一定程度の年齢になると、個人加入の場合と比べた優位性も若干薄れてきます。

しかしながら、やはり加入者数が多い(=スケールメリットが働く)ことは大きく、特に団体定期保険については、自分が現在加入している他の生命保険とうまく使い分けることで、保障の隙間を埋め、効率的に保障を確保することができます。企業保険制度の存在そのものを知らないことは、「もったいない」といえ、特に、転職予定がなく、定年までその企業で働く予定に人にとっては利用価値が高いといえます。

企業保険制度の有無は、福利厚生部門に照会すればすぐにわかります。イントラネットに掲載されている場合や、労働組合から定期的に情報提供されることもあります。過去に募集パンフレットを配付されたことがある場合は、企業保険は間違いなく実施されているといえます。

企業保険制度を知り、賢く活用すれば、ライフプランを豊かにすることができ、相続の場面でも役に立ちます。この機会に企業保険についての理解を深めたらいかがでしょう。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
プロフィール この監修者の記事一覧
この記事が役に立ったらシェアしてください!