1.山口県の相続税事情
山口県は中国地方の主に山陽地方に位置しており、県庁所在地の山口市は県中央部にあります。なお、九州との県境である下関市は関門海峡を隔てて福岡県との経済交流が盛んなため、経済力としては山口市よりも下関市の方が高いとも言われています。その反対に、県東側地域については、お隣広島県と経済圏を共有しています。
また、山口県は8つの広域都市圏に分かれており、それぞれに経済圏を形成しています。中でも最も多くの人口を占めるのが県内中央にある「山口・防府広域都市圏」で、山口市や防府市などがこの広域都市圏に該当します。
なお、山口県内の経済圏は比較的県内でも分散しており、下関市、宇部市、山口市、周南市、岩国市などがその中心となっています。その中でも下関市は金融機関が拠点を多く置いていることもあり、最も高い経済力がある地域と言えます。
そんな山口県ですが、相続税申告の事情はどうなっているのでしょうか。
2.相続税の課税データと山口県内の各地域の特徴
広島国税局発表による平成27年度都道府県別相続税課税状況のデータは以下のようになっています。
税務署名 | 管轄地域 | 申告件数 | 申告割合 | 課税件数 | 1件当たりの 納付税額 (千円) | 課税割合 |
---|---|---|---|---|---|---|
下関 | 下関市 | 214 | 5.98% | 182 | 7,123 | 5.09% |
宇部 | 宇部市 | 131 | 6.47% | 109 | 20,993 | 5.38% |
山口 | 山口市 | 181 | 8.48% | 144 | 5,107 | 6.74% |
萩 | 萩市 阿武町 | 57 | 5.75% | 45 | 19,761 | 4.54% |
徳山 | 下松市 周南市 | 234 | 9.79% | 187 | 8,727 | 7.82% |
防府 | 防府市 | 77 | 5.92% | 64 | 4,687 | 4.92% |
岩国 | 岩国市 和木町 | 185 | 9.64% | 145 | 8,349 | 7.56% |
光 | 光市 上関町 田布施町 平生町 | 72 | 6.70% | 61 | 11,651 | 5.67% |
長門 | 長門市 | 25 | 3.99% | 23 | 7,994 | 3.67% |
柳井 | 柳井市 周防大島町 | 60 | 6.38% | 56 | 11,057 | 5.95% |
厚狭 | 美祢市 山陽小野田市 | 54 | 4.39% | 40 | 14,407 | 3.25% |
山口県計 | 1,290 | 7.08% | 1,056 | 9,888 | 5.80% |
2-1.山口市
山口県の県庁所在地である山口市。県の中心地域であることから、裁判所や法務局などの行政機関が集中して建設されています。一方で、市内には代表的な産業が少ないことから、日本では珍しい行政が中心となった都市づくりが行われている市です。
山口市は瀬戸内海に面しているため、市内に4つの漁港が設けられており、さらに河川地域では鮎の養殖が行われているなど、海産物の取り扱いが多いことが特徴として挙げられます。また、市内には瑠璃光寺を始めとした神社や温泉などが多く点在していることから観光客が多く訪れており、観光業が市の重要な産業の1つになっています。
山口市の1件あたりの納付税額は約510万円、課税割合は6.74%です。1件あたりの課税額は平均である約980万円を大きく下回り、課税割合は5.80%という平均データを上回る数値となっています。
行政都市であるため所得が高い人が多いというイメージが強いのですが、公務員は採用人数が決められており、実際にはその他の仕事に従事している人のほうが多いのです。そして、山口市は観光業が発達しているものの、製造業などの産業があまり活発ではありません。こうした産業の発展度による影響が、課税割合は高くても平均としての課税額が高くなりづらくしていると考えられます。
2-2.下関市
山口県の西部に位置し、本州の最西端の市でもある下関市。下関市は本州と九州の接続地域として発達してきた背景があり、海を挟んで隣接している北九州市とともに関門都市圏を形成しています。そのため、市の中心部にはオフィスビルや商業施設が立ち並んでおり、山口県西部を代用する中核都市へと成長しています。
また、商業地とビジネス地、どちらも発展していることから下関市内に本社や営業拠点を置く企業が多く、こうした企業進出に伴い山口県で最も多い人口を擁しています。さらに、現在は市内総生産額も県内トップと県を代表する重要都市としての役割も担っています。
下関市の1件あたりの納付税額は約710万円、課税割合は5.80%となっています。意外にも1件あたりの納付税額と課税割合どちらも県の平均データを下回る結果となっています。実は、県内で最も多い人口を誇る下関市ですが、ここ数年は人口の減少傾向が見られています。
これは、一緒に発展してきた北九州市に都市機能が集中し始め、少しずつ都市機能の重要性が薄れ始めてきたこと、山が多く平地での土地開発が難しいこと、などが影響していると考えられています。県西部地域を支える重要としではあるものの、こうした影響から課税額、課税割合どちらも低い数字となっているのです。
2-3.宇部市
下関市と並んで山口県西部を支える重要都市の1つである宇部市。県内3位となる人口を擁しており、宇部市を中心とした宇部都市圏が形成されています。さらに、北九州市とも交流があることから関門都市圏の一部にもなっており、県の経済を指せる重要な役割を担っています。
また、宇部市内ではさまざまな産業が行われているのが特徴的で、特に市の沿岸部には工業地帯が形成されており、セメントの輸出量は国内3位という多さを誇っています。もともと石炭産業で栄えた宇部市の工業ですが、現在ではセメントの他半導体や電力事業にも積極的に行っており、今後も発展していくことが予想されています。
宇治市の相続1件あたりの納付税額は約2,100万円、課税割合は5.38%です。課税割合は平均よりも若干低いのですが、1件あたりの納付税額は県内トップの金額です。宇部市は下関市などと同じように人口が減少しているのですが、工業地帯の周辺には多くの団地が形成されています。
加えて、農業や林業、水産業などの自然を活かした産業、工業を営む人で栄えた商業など、各産業が現在でも活発に行われています。つまり、働き盛りの世帯が多いことから課税割合は低くなり限られた人への課税となりますが、しっかりとした産業が根付いているためその課税額が高額になっている考えられます。
2-4.防府、徳山、岩国
山口県の東部に位置している、防府、徳山、岩国の3つのエリア。このエリアは周南市と岩国市という県内でも主要な役割を担っている都市が含まれており、県東部の重要拠点にもなっています。特に、周南市と山口市に囲まれた防府市は、どちらへもアクセスできる利便性からあまり人口変化が見られないという県内では珍しい特徴があります。
この地域の主要な産業は工業で、各地に大型工場が建設されています。特に、周南市には石油コンビナートが形成され、山口県でトップの出荷額を誇っており、瀬戸内工業地帯でも重要な役割を担っています。
これらの地域の相続税のデータを見てみると、相続1件あたりの納付税額は防府のみが約468万円と低くなっていますが、他の2地域も800万円台と平均を下回っています。また、課税割合も同様に防府のみが4.92%と平均を下回り、他の2地域は7%台で平均を大きく上回っています。
防府は立地に恵まれた地域なのですが、山口県は産業と住宅が混在した街が作られています。そのため、ベッドタウンとしての役割が薄く、他の地域に比べて産業の成長度が低いことから、防府だけが低い数字となっていると考えられます。さらに、地価も防府だけが低い結果となっており、地価からもこうした傾向が強く現れていることが伺えます。
2-5.長門、萩、厚狭
山口県の中~北部に位置する、長門、萩、厚狭の3地域。厚狭地域は石灰岩が多く採掘できることから、セメントなどを取り扱う工業が主要な産業として発展しており、現在でも工業都市としての成長を目指している工業の街となっています。
一方、長門や萩では、日本海に面していることから漁業や水産加工食品の製造などが盛んに行われています。さらに、日本海に浮かぶ島々や温泉地があり、観光地としても人気を集めています。
これらの地域の相続税のデータを比較してみると、相続1件あたりの納付税額は長門市が最も低く約800万円です。しかし、萩は約1,900万円、厚狭は約1,400万円と、どちらも1,000万円を超える課税が行われています。
ただ、課税割合は3地域とも低く、長門が3.67%、厚狭が3.25%、萩が4.54%とどれも平均を下回っています。ですので、この地域の相続税には、課税される可能性は低いものの、非常に高額な課税が行われるという特徴があることが分かります。
2-6.光、柳井
山口県の南東部に位置している光と柳井の2地域。豊かな自然に囲まれたこの地域は、内陸部だけでなく半島なども含まれており、海の街という印象が強く現れています。そのため、自然を活用した漁業が行われており、各地に漁港が建設されています。
また、光地域では鉄鋼やステンレスなどを取り扱う工業が、柳井地域では花屋果実を中心とした農業が盛んに行われています。このように海の街であるこの地域では、瀬戸内海を活用した水産業だけでなくさまざまな産業が活発なのです。
この地域の相続税のデータは、1件あたりの納付税額は光地域が約1,165万円、柳井地域は約1,100万円と、どちらも平均を上回った数字となっています。さらに、課税割は光地域が5.67%、柳井地域は5.95%と平均とほぼ同様です。
つまり、他の地域よりも県の平均値に近い相続税が課税されている地域であるといえます。この背景には産業が発展しているだけでなく、他の地域よりも高齢の人が生活している割合が多いことが考えられ、県の中心部より離れていますが相続税への対策が重要な地域となっています。
3.山口県の税理士はやや不足気味
課税割合は低いのですが、課税額が高額な山口県の相続税。そこで、税理士による相続税対策が重要になります。山口県に在籍している税理士数は456名です。山口県内の総課税件数は1,056件ですので、やや不足している傾向があるといえるでしょう。
代表的な地域の在籍税理士数は山口市が66名、下関市が100名、周南市が53名、岩国市が51名となっており、これらの市だけで全体の過半数を占める税理士が在籍しています。そのため、地域によっては在籍している税理士が足りない場合がありますので、都市部であるこれらの市でも税理士を探しておくことが大切です。
また、相続税への対策が特に大切な地域は、1件あたりの納付税額が1,000万円を超えている宇部市、萩、光、柳井、厚狭の5つの地域です。さらに、課税割合が7%を超えている徳山、防府の2地域も要注意です。
山口県は課税額と課税割合に相関関係があまりないため、自分や相続される人が生活する地域の相続税のデータをきちんと把握しおき、どれくらいの注意が必要かを判断する必要があります。もちろん、相続する状況や遺産によっても相続税の注意度は異なりますので、分かる範囲でさまざまな情報を収集して、適切な相続税対策を講じましょう。