相続対策のつもりで始めたアパート経営で自己破産に至ることも

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このところ、相続対策でローンを組んでアパート経営を始める人が増えています。しかし、収支の予測が甘かったり、経営環境の変化に対応できず、失敗するケースも見られます。

アパート経営失敗は、最悪の場合、自己破産に至る可能性もあります。アパート経営で見られる失敗例を紹介し、またアパート経営の現状について解説します。

1.不動産投資と他の投資との違い

1-1.不動産投資と金融資産への投資の相違点

最初に、不動産投資の注意点を確認しておきましょう。

不動産投資はよく「ミドルリスク・ミドルリターン」といわれ、株式や投資信託などの金融商品に比べ、リスクが低い印象があります。家賃が安定的に入ってくるので、自己破産などとは無縁のようにも見えます。
しかし、不動産投資は次の点で、株式や投資信託への投資とは異なります。

  • 借り入れを行う(ローンを組む)こと
  • 初期投資額の回収に長い時間を要すること

不動産投資は、アパート経営でもワンルームマンション投資でも、多額の資金が必要です。
少額で投資できるのはREIT(不動産投資信託)くらいでしょう。
そのため、借り入れを行う(ローンを組む)必要があります。これはつまり、少ない元手で大きな投資をする、いわゆる「レバレッジを効かせる」ことを意味します。

例えば、頭金なしでアパートローンをフルローンで組んだら、レバレッジはかなり大きくなります。
レバレッジの大きい投資は「ハイリスク・ハイリターン」といえ、失敗したときの損失も大きくなってしまいます。

また、市場で売却したらすぐに初期投資額を回収できる上場株式などとは異なり、不動産投資は初期投資額の回収に時間がかかります
小さな家賃が長期間安定的に入ってくることにより、少しずつ元手を回収するのです。

この二点を踏まえたうえで、破産に至る失敗例を見てみましょう。

2.破産に至る収支の例

例えば、アパート経営初心者のAさんが、賃貸住宅メーカーの提案を受け、次の条件でアパート経営を始めたとします。

  • アパートの概要:2階建て・8室・6,000万円(土地価格および建物本体価格合計)
  • アパートローン:6,000万円、返済期間:30年、変動金利:3.0%(諸費用のみ現金払いのフルローン)
  • 設定家賃:7万円
  • 毎月の返済額:252,962円(年間返済額:3,035,544円)
  • 6年目以降の毎月の返済額:269,426円(年間返済額:3,233,112円)
  • 年間支出:約163万円(固定資産税・都市計画税:60万円、管理委託費:67万円、修繕維持費:33万円、
    火災保険料等:3万円)

Aさんのアパート経営の収支を、収支表に沿って年ごとに見てみましょう。

2-1.初年度の収支

年間収入:7万円×12×8室=672万円(8室とも入居で満室)
年間支出:3,035,544円+1,630,000円≒約466万円

初年度だけで見れば672万円-466万円=206万円の利益となりました。順調な滑り出しです。

2-2.2年目の収支

2年目に入ると、退去者が1名出て1室が空室になりました。また、ゴミ置き場の扉の破損とインターホン交換があり、10万円の費用が発生しました。
この結果、2年目の収支は、

年間収入:7万円×12×7室=588万円
年間支出:3,035,544円+1,630,000円+100,000円≒約476万円

となり、利益は、588万円-476万円=112万円と、1年目より縮小しました。

2-3.3年目の収支

3年目に入ると、退去者がさらに1名出て2室が空室になりました。また、エアコンの交換が1台あり10万円の費用が発生しました。この結果、

年間収入:7万円×12×6室=504万円
年間支出:3,035,544円+1,630,000円+100,000円≒約476万円

となり、利益は、504万円-476万円=28万円と、2年目よりさらに縮小しました。

2-4.4年目以降、破綻まで

4年目に入ると、退去者がさらに1名出て3室が空室になりました。また、給湯器の交換が1台あり10万円の費用が発生しました。この結果、

年間収入:7万円×12×5室=420万円
年間支出:3,035,544円+1,630,000円+100,000円≒約476万円

となり、420万円-476万円=▲56万円と、初めて赤字になってしまいました。

5年目以降も新規入居者はなく、6年目にはさらにもう1名退去者が出て空室は4室(稼働も4室)となりました。
4室では年間の賃料収入は7万円×12×4室=336万円にすぎず、ローンを払ったらほとんど手元に残りません。

そして、その後も、台風の直撃による外壁補修工事や屋上防水工事、変動金利の上昇による6年目からのローン返済額の増加などがあり、毎年の収支の赤字は改善しませんでした。
10年目経過時点の税引き前キャッシュフローの累計額は、約700万円ものマイナスになってしまいました。

毎月のローンの返済は苦しくなり、銀行や管理会社との調整も不調に終わったため、12年目にAさんはついに自己破産を決断しました。

このように、「(空室増加による)賃料減少・経費増加で、ローン返済が次第に困難になる」のが、アパート経営で破産に至る最も多い例といえます。

3.破産に至る理由

では、Aさんのように、破産に至ってしまう理由にはどのようなものがあるか、詳しく見てみましょう。

3-1.退去者の増加(空室の増加)

最も多い理由が退去者の増加、つまり空室の増加です。アパート経営を収入面と支出面から見ると、収入の構成要素はこの賃料だけですので、収入が減少あるいは途絶えたら経営が苦しくなるのは当然です。
空室が増加する理由は、例えば、

  • 物件の魅力(付加価値)の低下
  • 周辺の競合アパートの増加
  • 学校や事業所、工場などの撤退
  • 地域特性(人口および世帯数の減少、その街のイメージや人気の低下)
  • 入居者のニーズの変化(住まいの多様化)

などが考えられます。

3-2.アパートの老朽化(修繕費の増加)

また、アパートの老朽化も一因です。2.破産に至る収支の例で見たとおり、老朽化が進むと修繕費がかさみ、例えば屋上防水補修工事や外壁補修工事、鉄部塗装工事、給水ポンプの交換、廊下の補修工事などが必要になります。
エアコンや給湯器、インターホンや郵便ポスト、照明、扉の交換などもあるでしょう。

アパート経営初心者は、この老朽化リスクを軽視する傾向があるので、注意が必要です。

3-3.サブリースの問題

サブリース契約を結んでいる場合は、サブリースが問題となることもあります。保証期間切れや、管理会社からの保証賃料の引き下げ要求などです。

特に、空室が長く続く場合は、保証賃料の引き下げに従わざるを得ない場合も多く、こちらも注意が必要です。
この保証賃料の引き下げについては、近年オーナーと賃貸住宅メーカー、管理会社とのトラブルが多く発生しており、一部では訴訟に発展しています。

【関連】サブリース方式

3-4.金利の上昇

先ほどの例でもアパートローンを変動金利で借りていますが、この場合、市場金利が上昇すると、借入金利の上昇を通じて返済額が増加してしまいます。

金利上昇は変動金利にとって大敵ですので、借入時に将来の金利上昇も見込んだシミュレーションを行い、金利上昇に対する抵抗力がどの程度あるのか、確認しておくことが必要です。

3-5.不動産市況の低迷

不動産市況の低迷も大きな要因です。周辺の家賃相場が下がってくると、借主は「もう少し待てば、家賃はもっと下がるだろう」と借り控えをします。
その間空室は埋まらず時間だけが過ぎるため、賃料が入ってこず、アパート経営にとっては大きな痛手です。

また、複数のアパートを所有していて、そのうち一棟だけ売却して収支改善を図るような場合でも、思うような価格で売却できないリスクが高くなります。

空き部屋 空き家

3-6.ライフプランの想定外の変化

自らのライフプランに想定外の変化が生じるリスクも考慮しておく必要があります。
例えば、急な相続で多額の相続税を払う必要が生じたり、病気やケガで長期間働けなくなるような場合です。

アパート経営に限らず不動産投資は流動性(換金性)が低いので、その結果資金ショートし、破産につながってしまうことも考えられます。

4.日本のアパート経営、アパートローンの現状

現在の日本のアパート経営の状況は、客観的に見ても過熱気味です。首都圏のみならず地方でもアパート建設ラッシュが続き、アパートローンの新規融資は急速に伸びています。
これは、個人、金融機関、賃貸住宅メーカー3者の思惑が、次のように合致しているからです。

個人相続税対策でアパート経営を行い、
家賃収入を老後の年金代わりにもしたい。
金融機関マイナス金利政策で収益が厳しくなっているので、
貸出金利の高いアパートローンを増やしたい
賃貸住宅メーカー地主にアパートをどんどん建ててもらい、
利益をあげたい

しかし、日本では今、少子化、高齢化、核家族化、人口減少、都市一極集中、地方の過疎化などを背景に空き家が急増しています。冷静に考えたら、需要が減っているのに供給だけ増加しているのはおかしな話です。

超低金利でアパートローンの金利も下がっているため、小規模アパートであればローンの借入総額もさほど大きくならず、初心者がアパート経営を抵抗なく始めることができるかもしれません。しかし、今のアパート経営、アパートローンは「バブルの手前」まで来ているといえるでしょう。

金融庁や日本銀行は、この状況についてすでに昨年来警告を発しています。また、大手新聞や経済誌などマスコミでもこの問題が取り上げられることが多くなってきました。情報収集はしっかり行っておきましょう。

5.アパート経営がうまくいかなくなったらどうすればよい?

では、アパート経営がうまくいかなくなってしまった場合、どのようにすればよいのでしょうか。

5-1.金融機関に返済条件変更を相談

まず考えられることは、アパートローンの負担を軽減するために、金融機関に返済条件の変更を相談することです。これはできれば、返済が滞るよりももっと前に対応しましょう。

しかし、条件変更は実際にはなかなか難しいのが実情です。金融機関により、またその取引支店によってもスタンスは異なりますが、過度な期待は禁物です。

5-2.売却の検討

条件変更が難しい場合、売却してしまうことが考えられます。しかしこの場合も、必ずしも希望価格で売れるとは限りません
また仮に売れるにしても、長い時間を要することも考えられ、その間の資金繰りをケアしなければなりません。不動産市況が低迷しているようなときは、売却は特に難しいでしょう。

5-3.弁護士に債務整理を相談

条件変更も売却もできず、親族や他の金融機関からの借り入れも難しく、万策尽きたときは、弁護士に債務整理を相談することが考えられます。

【関連サイト】債務整理弁護士相談Cafe

6.まとめ

相続税対策のためのアパート経営は、成功している人ももちろんいます。メリット、デメリットやリスクをしっかり確認し、自らのライフプランに照らして過大投資にならないよう注意して始めるのであれば問題はありません。
ただし、賃貸住宅メーカーや周囲の人に流されて始めることはお勧めできません。また、失敗したときの対応(リスクシナリオの策定)も予め決めておく必要があります。

アパート経営で失敗し、アパートローン返済困難で自己破産にならないよう、もし始める場合は、アパート経営について十分な知識を身につけてからにしましょう。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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