相続時精算課税制度の贈与税申告書の書き方と必要書類【2023年版】
「相続時精算課税選択届出書」と「贈与税の申告書」の書き方について、初めて適用するケースと2回目以降の申告のケースに分…[続きを読む]
ご家族などに財産を遺す方法の一つとして、負担付贈与というものがあります。簡単に言うと、不動産などの財産とそのローンなどの負担をセットで贈与する方法です。
負担付贈与は贈与者、受贈者双方の希望や、状況にぴったりと適していれば贈与者、受贈者双方にとって非常に有益な方法となります。
しかし、負担付贈与には関連する法律も多く、メリット・デメリットも多岐にわたり、また必ず得をするといものではありません。贈与者、受贈者双方のご希望やおかれた状況をしっかりと把握し、メリット・デメリットを理解したうえで、負担付贈与を使うべきかどうかを慎重に判断する必要があります。
今回は、その負担付贈与について、読者の方がご自身のケースに当てはめて、負担付贈与を使うべきかどうかを判断するための一助になるように分かりやすく説明していきます。
負担付贈与とは、贈与と負担がセットになっているものです。
贈与者は、財産を貰うかわりに、ローンの返済、親の介護などの何らかの負担を引き受けます。
受贈者の負担によって利益を得るのは贈与者に限らず、例えば子が親から財産を貰うかわりに祖父母の介護をするといったケースもあります。
負担付贈与については、民法第553条に記載があります。家族間で行われることが多い負担付贈与ですが、通常の贈与とは異なり、贈与者と受贈者の双方に一定の責任が生じますのでしっかりと理解しておくことで後々のトラブルを回避することが大切です。
民法の規定によると、負担付贈与は売買契約などと同様に、当事者双方が義務を負う契約と位置付けられております。したがって、売買契約などと同様に受贈者がその負担する義務の履行を怠ったときは,贈与者は,債務不履行に基づく解除をすることができます。
例えば、住宅の贈与を受ける代わりに贈与者の介護を負担するという契約の場合に、受贈者が介護を行わないでいれば、贈与者は契約を解除することができます。
なお、義務の履行後でも、お互いの合意があれば、解除が可能な場合もあります。
民法上の規定によると、負担付贈与における贈与者は、その負担の限度において、売買契約における売主と同じ担保の責任を負います。
例えば、贈与した財産が不動産であった場合に、シロアリ被害といった欠陥が見つかったというケースを考えてみます。通常の贈与の場合、贈与者がその欠陥を知らなかった場合は一切責任を負いません。ところが負担付贈与契約の場合は、贈与者が欠陥を知っていた場合はもちろん、知らなかった場合でも、受贈者は契約の解除や負担の範囲で損害の賠償を請求することができます。
このように負担付贈与は通常の贈与とは異なり、贈与者、受贈者双方に責任を生じさせる契約です。
受贈者はただ財産を貰うだけではなく負担の履行義務が生じます。その義務をはたせるのかを事前にしっかりと検討することが大切です。
また、贈与者もただ財産を譲るだけではなく、かわりに受贈者に一定の負担をさせますので、財産に欠陥などが無いように慎重に検討していく必要があります。
負担付贈与を使うことができる財産、負担に決まりはありません。
したがって、財産は現金でも不動産でもかまいませんし、負担はローンの返済でも親の介護でも大丈夫です。
一般的なパターンとしては、
などがあります。
では次に、受贈者・贈与者にどのような税金が課せられるのかを解説しましょう。贈与者、受贈者双方に税金が課せられる可能性がありますのでそれぞれしっかりと理解していないと後で思わぬ負担を強いられることになってしまいますので注意しましょう。
負担付贈与における贈与者にも譲渡所得税という税金がかかる場合があります。
以下の事例で考えてみます。
以下の財産を贈与した場合の譲渡所得
贈与した財産の時価:3,000万円
取得価額:1,500万円
ローンの金額:2,000万円
譲渡所得額
2000万円-1,500万円 = 500万円
贈与者からすると、1,500万円で取得したものを2,000万円で売ったと考えることができるため、差額の500万円に対して譲渡所得税がかかることになります。
なお、譲渡した年の翌2月16日から3月15日までに譲渡所得税の確定申告をすることになりますので納税資金を用意しておきましょう。
受贈を受けた財産の価額から負担の額を控除した額について贈与があったとみなされ、贈与税が課されます。
財産の価額から負担の額を控除することができるため、贈与だけを受けるよりも相続税の負担額は小さくなります。
税務上の観点から見ると、負担付贈与は資産と負債を同時に贈与(受贈)していることを意味するので、課税価額の算出方法は下記の通りです。
なお、負担付贈与の場合でも相続時精算課税は使うことができます。
相続時精算課税は、贈与時には贈与税を課さずに、相続時にその贈与財産も含めて相続税を課す方法です。相続税が発生しない方や、相続財産が少なく相続税の税率が低くなる方にはお得になる制度となっています。
不動産を取得した場合に納めるべき税金として不動産取得税というものがあります。負担付贈与による取得の場合にもかかってきます。
その税額は固定資産税評価額×4%です。
なお、固定資産税評価額は時価の7割になるように設定されています。
不動産を取得した時に必要な手続きとして登記というものがあります。不動産の所有権を贈与者から受贈者に移す手続きです。
この手続きに登録免許税というものがかかってきます。贈与の場合、固定資産税評価額×2%です。
そんな負担付贈与ですが、それではいったい何が負担付き贈与を使うことのメリットで、何がデメリットなのでしょうか。しっかりと理解することで、ご自身のケースにおいて負担付贈与を使うべきなのかどうかの判断材料にすることができます。
相続の場合、有効な遺言を書いていたとしても、相続人全員の話し合いにより、遺言によらない分割をすることができます。そのため、その話し合いの結果によっては、介護をしてくれた人に財産を遺せない可能性もあります。
それに対し、負担付贈与の場合は生前に財産を贈与してしまうため、そういった心配は無く、確実に自分や自分の親などの介護をしてくれた人に財産を渡すことができます。
相続の場合、相続人全員で話し合いをし、財産の分割方法を決めることになります。財産を遺す者としては、自分の財産が原因で家族が争ってしまう可能性があるのは辛いものです。その点、負担付き贈与の場合は生前に自分が決めた人に贈与できますので、不要な争いを避けることができます。
負担付贈与において贈与税を計算する際の財産の価額は、その財産が不動産である場合は贈与時の時価、それ以外の財産の場合には贈与時の相続税評価額となります。
それに対して、相続税においてはもちろん亡くなった時の相続税評価額で評価します。相続税評価額は時価の7~8割程度となっています。
財産の価額の評価
相続 | 負担付贈与 | |
---|---|---|
不動産 | 相続税評価額 | 贈与時の時価 |
不動産以外の財産 | 相続税評価額 |
したがって、不動産以外の財産であれば負担付贈与であっても相続であっても相続税評価額で評価をしますので、その財産の時価が高ければ高いほど相続税評価額も高くなり、不利になります。つまり将来に値上がりすると考えている資産であれば、今の時点で贈与してしまう方が有利ということが言えます。
そして、不動産の場合、相続であれば相続税評価額で評価される一方で、今の時点で贈与してしまうと時価そのもので評価されてしまいますが、それ現在の時価以上に値上がりすると考えられるなら贈与してしまっても良いでしょう。
メリットでも述べましたが、通常の贈与や相続の場合、不動産の評価額は、相続税評価額になりますが、負担付贈与の場合における不動産の評価は時価で行うことになっています。
そのため通常の贈与に比べて贈与税の計算上不利になってしまいます。
相続税を大きく減額する方法として、小規模宅地等の特例というものがあります。これを使える場合、土地の評価額を最大で8割減額することができますので、納税者にとって非常に有利な特例となっております。
ところが、これはあくまで相続の場合に適用可能な特例であるため、負担付贈与の場合は、適用することができません。
不動産を取得した場合に納めるべき税金である不動産取得税ですが、実はこの税金は相続によって取得した場合には課税されません。
その税額は固定資産税評価額×4%と無視できない負担になりますので、負担付贈与を使うかどうか判断する際にはしっかりと考慮にいれておきましょう。
不動産を取得した時に必要な登記にかかる登録免許税ですが、相続の場合のその税額は固定資産税評価額×0.4%です。
それに対して贈与の場合、なんと固定資産税評価額×2%にもなります。
高額な不動産を贈与する場合は、かなりの金額になってきますので、不動産取得税と同様に登録免許税も、負担付贈与を使うかどうか判断する際には考慮にいれておきましょう。
これは通常の贈与にも共通して言えることですが、贈与者はご自身の老後の生活費を見極めて無理の無い範囲で贈与を行うことが重要です。贈与を行った結果、ご自身の生活が困窮してしまっては本末転倒と言えるでしょう。
通常の贈与を行ったつもりが、負担付贈与とみなされてしまい税負担が大きくなってしまう場合がありますので注意が必要です。
具体的には、ローンが残った住宅や敷金・保証金のついたアパート・マンションを贈与する場合です。
ローンが残った住宅をローンと一緒に贈与した場合も、負担付贈与になります。
住宅などの不動産の負担付贈与の場合、財産の価額は時価で評価することになってしまいます。
実際に例を挙げて計算してみましょう。
事例1:親から子へ、以下のアパートとローンを一緒に贈与した場合(※)
アパートの購入価格:3,000万円
時価:5,000万円
ローン残高:3,500万円
受贈者の贈与税 | 正味価格 | 5,000万円 - 3,500万円 = 1,500万円 |
---|---|---|
贈与税額 | (1,500万円 - 110万円 )× 45% - 175万円 = 450.5万円 | |
贈与者の譲渡所得税 | 譲渡所得額 | 3,500万円 - 3,000万円 = 500万円 |
長期譲渡所得税額 | 500万円×20.42%(長期譲渡所得の税率)= 102.1万円 |
※ 購入価格よりローン残高のほうが多くなっていますが、他の必要経費を含めて借入をし、借入日より日が浅い場合を想定しています。
なお、一般贈与として計算しています。
敷金・保証金のついたアパート・マンションを贈与する場合にも注意が必要です。
敷金や保証金はアパート・マンションの入居者から預かっているお金、つまり債務になりますので、これらの債務とアパート・マンションをいっしょに贈与する場合、負担付贈与とみなされます。
繰り返しになりますが、負担付贈与とみなされてしまえば、財産の価額は相続税評価額ではなく時価で評価することになりますので、税負担が大きくなってしまいます。
なお預かっているお金もいっしょに贈与すれば、受贈者の負担は相殺されますので、通常の贈与として扱われます。
こちらも事例を挙げて敷金を贈与した場合としない場合を比較してみましょう。
事例1:親から子へ、以下のアパート贈与した場合(※1)
固定資産税評価額:4,000万円
時価:5,000万円
敷金:200万円
敷金を贈与しない場合 | 課税価額 | 5,000万円-200万円 =4,800万円 |
---|---|---|
贈与税額 | (4,800万円-110万円)×55% - 400万円=2,179.5万円 | |
敷金を贈与した場合(※2) | 課税価額 | 4,000万円(※2) ×(1 - 借家権割合 0.3 × 賃貸割合100%)=2,800万円 |
贈与税額 | (2,800万円 - 110万円)× 50% - 250万円 = 1,095万円 |
(※1)一般贈与の場合
(※2)敷金があるアパートの贈与で、敷金も含めて受贈者に贈与する場合は、国税庁より「負担付贈与には該当しない」という見解が出されています。その理由は、敷金返還義務に相当する金額を同時に贈与する場合は、その敷金返還債務を承継させる(する)意図が贈与者/受贈者にはなく、実質的な負担はないというものです。したがって、敷金を贈与する場合の贈与税の計算は、固定資産税評価額を基準とした通常の計算方法になります。
敷金を贈与しない場合との贈与税の差額は、約1000万円以上の差が発生していることがわかります。
負担付贈与はその利用が適しているケースである場合には贈与者、受贈者双方にとって有益なものです。メリット・デメリットをしっかりと理解し、その利用がご自身のケースにおいて適しているかどうか慎重に判断していくことが重要です。
しかし、注意すべき論点は多岐にわたりますので、思わぬ落とし穴にはまってしまう恐れも大きいものです。税理士などの専門家と相談しながら、慎重に判断していくことをお勧めいたします。