国債や社債の相続手続きや相続税評価額の計算
国債・社債は、資金調達の手段として、国や会社がお金を借りるために発行する債券です。 国債や社債には定期的に利息が支払…[続きを読む]
昨今の超低金利時代では銀行の定期預金に預けておいてもほとんど利子がつきません。そこで、比較的安全な投資先として、値動きやリスクの小さい公社債を考えている方や、すでに、公社債を購入された方もいるかもしれません。
このような状況の中、相続財産として公社債が含まれることがあり、公社債の相続税評価ってどのようにするのだろうかと疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
そこで、まず公社債とは何かを説明し、その後、公社債の相続税評価方法について解説していきます。
公社債とは、国や地方公共団体、および企業など(以下、「発行体」と言います)が資金を借入れる際に発行する債券で、言ってみれば「借用証書」のようなものです。
発行体は、投資家に対して、利息の支払いや元本の返済を約束しています。
一般的には、公社債は株式などに比べてリスクが低く、投資信託の運用商品としても幅広く組み込まれています。
公社債は満期以前の換金も可能です。
ただし、中途換金は、日々変動する市場価格が使われますので、購入時点の価格よりも値上がりしていることもあれば、値下がりしていることもあります。そのため、売却益を得ることもあれば、売却損が出てしまうこともあります。
公社債は、次のように分類ができます。
種類 | 特徴 | 例 | |
---|---|---|---|
発行体による分類 | 公共債 | 国、地方自治体および公共機関が発行 | 国債、地方債、政府関係機関債(特別債) |
民間債 | 企業が発行 | 社債、金融債 | |
外国債 | 外国の政府・政府関係機関や企業が発行 | 外債 | |
利払い方式による分類 | 利付債 | 利息が支払われる | |
割引債 | 額面金額と購入価格の差が利息に相当する |
これより、相続財産として公社債が含まれている場合を想定して、主な公社債について評価方法を解説していきます。
利付公社債は、発行体が一般投資家から資金を集めるために発行する債券の一種で、定期的に利息が支払われ、償還日になると額面金額が払い戻される公社債です。
利付公社債の評価方法は、利付公社債のタイプによって、次の3区分に分かれます。
これより、それぞれの公社債の相続税評価額の評価方法を説明していきます。
上記の価格は、額面100円当たりの金額です。(以下の評価額計算においても同様です。)
課税時期とは、相続が発生した日のことです。
既経過利息は、最終利払い日から、課税時期までに発生した利息のことです。
「最終価格」は、日本証券業協会が売買参考統計値を公表する銘柄の場合には、金融商品取引所が公表する「最終価格」と日本証券業協会が公表する「平均値」とのいずれか低いほうの金額となります。
なお、売買参考統計値は、以下で調べることができます。
【参照】日本証券業協会「売買参考統計値/格付けマトリクス ダウンロード」
上場されていない公社債は店頭取引が中心ですので、他人が売買内容を知ることができません。そのため、日本証券業協会では、公社債の公平な売買を期するため、店頭取引の売買価格などを公表している銘柄があります。国債、地方債、社債などです。
売買参考統計値が公表される利付公社債の場合、日本証券業協会が公表している「平均値」を使用します。
金融商品取引所や日本証券業協会から公表がない利付公社債の場合は、課税時期の「最終価額」や「平均値」の代わりに「発行価格」を使います。
利付公社債は、「最終価格、平均値、発行価格」の取得方法が違うだけで、基本的な計算方法は同じです。
ここでは、上場されている利付公社債の相続税評価額の計算例を見ていきます。
相続税評価額 =(①課税時期の最終価格+②既経過利息-③源泉徴収税相当額)×額面総額/100円 より、
①課税時期の最終価格(額面100円あたり)=99円
②既経過利息(額面100円あたり)=100円×3%×73/365=0.6円
③源泉徴収税相当額=②×0.2=0.12円
相続税評価額=(①+②-③)×1,000,000円/100円=(99+0.6-0.12)×1,000,000/100=994,800円
割引公社債は、あらかじめ額面から利子相当額を割り引いた価格で発行され、満期時に額面金額で償還される公社債です。利子相当額を割り引いた価格で発行されるので、利子はつきません。発行額と額面額の差が、利付債の利息に相当します。
割引公社債の評価方法は、割引公社債のタイプによって、次の3区分に分かれます。
割引債の評価は利息を考慮する必要がないので、利付債より計算は簡単です。
「最終価格」は、日本証券業協会が売買参考統計値を公表する銘柄の場合には、金融商品取引所が公表する「最終価格」と日本証券業協会が公表する「平均値」とのいずれか低いほうの金額となります。
売買参考統計値が公表される割引公社債の銘柄の場合、日本証券業協会が公表している「平均値」を使用します。
市場価格や売買参考統計値がない場合は「発行価格」を参考にします。この場合は、割引公社債を購入してから評価する時点までの期間を考慮して評価します。
市場価格や売買参考統計値が、そのまま「額面100円当たりの評価額」になります。これに額面金額を掛け、100円で割ると相続税評価額が求められます。
発行価格を参考にして、割引公社債を購入してから評価する時点までの期間を考慮して評価します。
このケースの計算例を見ていきます。
相続税評価額={(95円)+(100円-95円)×(73日/365日)}×(1,000,000円/100円)=960,000円
よって、960,000円がこの場合の相続税評価額となります。
このように多くの種類がある債券の中でも、一番身近ともいえるのが個人向け国債です。個人向け国債ブームもあり、相続財産として扱われることも多くなってきています。
個人向け国債(個人向け利付国庫債券)は、日本国が発行している国債で、その購入者は個人に限定されており上場はされていません。
利払いは年2回、発行月と発行月の半年後の月の各10日に支払われます。
原則として中途換金は発行後1年を経過すれば可能ですが、特例として、相続発生時には、発行後1年未満でも中途換金が可能です。
中途換金の際は、中途解約違約金に相当する中途換金調整額が控除されます。
このような特徴がある個人受け国債ですが、リスクも低く、個人投資家にとってもなじみのある投資先であるため、相続財産となることも多いといえます。
国債を相続した際の手続きについては、以下の記事を参照ください。
個人向け国債の相続税評価は、相続開始日の中途換金の金額で評価します。
中途換金の金額は、額面金額に税引前の経過利子相当額を加算した額から中途換金調整額を控除して求めます。
経過利子については税金はかかりませんので、税引前の経過利子を加算します。
中途換金調整額は、直近2回分の利子として受け取った金額となります。つまり、中途換金のペナルティとして、直近2回分(1年分)の利子を返金することになります。
次のケースの、個人向け国債の相続税評価額を計算してみます
評価額=額面金額+①経過利子相当額(税引前)−②中途換金調整額(過去2回分の受取利子相当額)より、
①経過利子相当額(税引前)
1,000,000×0.05%(適用利率)×73日/365日=100円
②中途換金調整額
前回利子受取分 1,000,000×0.1%×1/2(半年分)×(1-0.2)=400円
前々回利子受取分 1,000,000×0.2%×1/2(半年分)×(1-0.2)=800円
相続税評価額 = 1,000,000円+①−②=1,000,000円+100円-(400円+800円)=998,900円
よって998,900円がこの場合の相続税評価額となります。
個人向け国債の中途換金額(=相続税評価額)は財務省ホームページの、「個人向け国債シミュレーション」を使って自分で計算することができます。
金利が何年タイプのものか、発行回数はいつか、額面金額はいくらか、を入力するだけで簡単に中途換金額が求められます。
転換社債は、一定の条件で株式に転換できる権利を持つ社債です。
所有者は、発行時に決められた値段(転換価額)で社債を株式に転換することができます。
つまり、転換社債は、株式と債券の二つの特徴をあわせ持っています。
社債のまま保有し続けると、利付債として定期的に利子を受け取ることができ、償還日には額面金額が払い戻されます。
一方で、株式に転換すると配当や株価の上昇による利益を得ることができます。
基本的には、利付公社債と同じように評価します。
しかし、発行会社の株式の価額が、その転換社債の転換価格を超えてしまうケース(5-5②)では、評価方法が違います。
評価方法は、次のケースに分けて考えます。
これより、それぞれのケースごとに、評価方法を説明します。
【参照】国税庁HP「第2節 公社債 転換社債型新株予約権付社債の評価 ⑶」
公社債は、株式などに比べてリスクが低いので、気軽に投資ができる商品です。そのため、公社債を保有している方がお亡くなりになり、相続財産に含まれるケースも多いと思います。
公社債は、種類も多く、評価も複雑です。その為、個人で正確に公社債を評価するのは難しいと思われます。基本的な公社債の評価概要を理解したうえで、ぜひ税理士にご相談されることをお勧めします。
今回の内容が、公社債評価を理解する一助になれば幸いです。