国債や社債の相続手続き

金融 株価

2016年2月の日本銀行によるマイナス金利政策の導入で預金金利が大幅に低下したことを受け、資産運用手段として個人向け国債が注目を集めています。また、個人投資家向けの高利回りの社債(事業債)は、依然高い人気を誇っています。大手通信会社グループが発行する社債の条件に驚いたことがある人もいるのではないでしょうか。

このため将来、公社債(国債や社債)を相続する人も多いでしょう。公社債の相続は、株式の相続とは異なる注意点もあります。公社債の相続時に必要な手続きや相続税評価額の計算方法、相続後の名義変更と中途換金の比較、などについて解説します。

1.国債の相続手続き

1-1.国債の相続が発生したら

1-1-1.名義変更のための窓口

国債の相続が発生した場合、被相続人の口座がある証券会社が窓口になります。まず証券会社(取引支店)に連絡しましょう。連絡は書面である必要はなく、電話で構いません。証券会社は相続には慣れていますので、指示通りに対応すればよいです。

1-1-2.必要書類

手続き時の必要書類は、証券会社により異なります。ある大手証券会社の例で見てみましょう。ただしもちろん、これら(1)~(10)がすべて必要なわけではありません。

  • (1)被相続人の死亡および法定相続人が確認できる戸籍謄本等
  • (2)相続人全員の戸籍謄本等
  • (3)被相続人の死亡が確認できる戸籍謄本等
  • (4)相続届に署名・押印した人の印鑑証明書
  • (5)遺産分割協議書
  • (6)遺言書
  • (7)遺言執行者選任の審判書謄本
  • (8)審判書謄本および確定証明書または調停調書謄本または和解書謄本
  • (9)相続財産管理人選任の審判書謄本
  • (10)限定承認申述書謄本

(※)(1)~(4)は発行日より6ヶ月以内の原本が必要になります。
(※)上記以外にも、相続届で選任された代理人の印鑑証明書、相続放棄の申述受理証明書謄本、特別代理人選任の審判書謄本等が必要になる場合もあります。

そして最も重要なことは、相続のパターンにより上記の必要書類が異なることです。これは、国債を相続する場合に限らず他の有価証券でも同じです。具体的には、次のようになります。

  • 遺言書も遺産分割協議書もない場合・・・上記(1)(2)(4)が必要
  • 遺言書はないが、遺産分割協議書がある場合・・・上記(1)(2)(4)(5)が必要
  • 遺言書はあり、遺言執行者の指定がある場合・・・上記(3)(4)(6)が必要(遺言書の中で遺言指定執行者が指定されておらず、家庭裁判所で選任された場合は(7)も必要)
  • 遺言書はあり、遺言執行者の指定がない場合・・・上記(3)(4)(6)が必要
  • 裁判所の遺産分割の審判・和解・調停がある場合・・・上記(4)(8)が必要
  • 相続人不存在、限定承認の場合・・上記(9)(10)が必要

なお、相続にあたり残高証明書が必要になる場合は、残高証明書の発行依頼書、戸籍謄本(除籍謄本)等、印鑑証明書等を揃え、証券会社に提出します。

1-2.相続税評価額の計算方法

国債の相続税評価額の計算方法は、国税庁の財産評価基本通達197-2に定められており、次のようになります。なお、割引国債については割愛します。

上場利付国債最終価格+既経過利息(源泉徴収税相当額控除後)

この場合の最終価格は、日本証券業協会において売買参考統計値が公表される銘柄の場合、最終価格と売買参考統計値の平均値との低い方で評価します。

売買参考統計値銘柄に
選定されている利付国債
(金融商品取引所に上場しているものを除く)
売買参考統計値の平均値+既経過利息
(源泉徴収税相当額控除後)

個人向け国債は、課税時期において中途換金した場合に支払いを受けることができる金額として、次のように評価します。

個人向け国債額面金額+経過利子相当額-中途換金調整額

【関連】有価証券の相続税評価方法

1-3.中途換金(解約)は可能か?

国債を相続後、中途換金(解約)したいケースもあるでしょう。上場利付国債であれば気にする必要はありませんが、問題は個人向け国債です。個人向け国債は発行から1年間の中途換金禁止期間が設けられており、この間は中途換金できません。

しかしながら、相続のように個人向け国債の保有者が死亡した場合は、特例により中途換金が認められています。この特例により中途換金をする場合の必要書類は、証券会社により異なります。なお、相続以外にも大規模災害により保有者が被害に遭った場合も特例による中途換金が認められています。また個人向け国債は、1万円単位での一部換金も可能です。

1-4.中途換金(解約)が可能な場合の税金と計算方法

中途換金時の税金と計算方法について、個人向け国債で見てみましょう。個人向け国債を換金する場合は、前述の計算式にあてはめて売却代金を計算します。
例えば、変動10年の第19回国債で、額面100万円、課税時期を2017年6月2日とすると、

中途換金する額面金額:1,000,000円
経過利子相当額:189円(=100万円×0.05%(適用利率)×138日/365日(経過日数))
中途換金調整額:398円(={100万円×0,05%(適用利率)×1/2(計算期間)}×2×0.79685(調整率))

となりますので、この個人向け国債を中途換金したときに受け取る金額は、
1,000,000円+189円-398円=999,791円
となります。上記以外に、差し引かれる手数料はありません。

なお、財務省のホームページには個人向け国債の中途換金シミュレーションがあります。このシミュレーションにより正確な手取り金額を簡単に計算することができます。個人向け国債を相続したのち中途換金したい場合は、利用するとよいでしょう。

最後に税金についてですが、個人向け国債に限らず国債の利子は、受取時に20.315%分の税金が差し引かれます。

1-5.名義変更と換金のどちらがよいか?

国債を相続したとき、名義変更して保有を継続するか、中途換金するか迷うことは多いかもしれません。債券の場合は上場株式と異なり時価の把握が難しく、またそのときの金利の状況により時価が変わってくるため、一概にはいえないところです。

例えば、2017年6月5日現在募集中の個人向け国債の利率は、3年固定、5年固定、10年変動とも、最低保証利率の0.05%が適用されています。税引き後では、0.0398425%です。この0.05%という利率は、同日現在のメガバンクのおもな定期預金金利の5倍ですので、資産運用でリスクを取りたくない人やしばらく資金を固定しておいても問題がない人は、名義変更して継続保有するのがよいでしょう。

逆に、近々資金が必要になる人や、株式や投資信託などもう少しリスクを取って運用したい人であれば、中途換金するのがよいでしょう。被相続人のポートフォリオや資金の余裕度に応じて判断することをお勧めします。

1-6.戦没者等の遺族に対する特別弔慰金(記名国債)の相続手続き

戦没者等の遺族に対して発行される記名国債(交付国債)とは、第二次世界大戦の戦没者の遺族や強制引き揚げを余儀なくされた引揚者などに対して、弔慰金、給付金などの金銭の支給に代えて交付される国債のことです。遺族国庫債券、引揚者国庫債券などがあります。

これらの国債は、その発行目的や給付を受ける人が限定されているという性格上、記名式の現物債券となっており、原則として譲渡や担保権の設定が禁止されています。記名者が死亡した場合、国債の賦札が残っている場合は、国債の記名を変更することによって相続人が引き続き償還金を受け取ることができます。

2.社債の相続手続き

2-1.社債の相続が発生したら

2-1-1.名義変更のための窓口

社債の相続が発生した場合、基本的な手続きの流れは国債と何ら変わりません。やはり、被相続人の口座がある証券会社が窓口になります。ですので、まず証券会社(取引支店)に連絡しましょう。

2-1-2.必要書類

必要書類は、基本的には国債と同じです。

2-2.相続税評価額の計算方法

相続税評価額の計算方法についても、基本的には国債と同じです。

2-3.途中換金(解約)は可能か?

2-3-1.注意点1

社債は国債と異なり、必ずしも相続後に中途換金が可能とは限りません。発行体により発行条件が異なるからです。

例えば社債の中には、発行後一定期間の売却制限を設けることと引き換えに高い利率を設定している銘柄もあります。2016年は3月から9月にかけ特に超長期の社債の発行が急増しましたが、売却制限のある銘柄も散見されました。これについては、相続した銘柄の発行条件を証券会社から取り寄せ、しっかり確認することが必要です。

2-3-2.注意点2

もう一点、社債は国債よりも流動性が劣ることを覚えておきましょう。国内企業が発行する個人投資家向けの社債は、ほとんどが「バイ・アンド・ホールド」、つまり「発行時に購入して、償還まで持ちきり」を想定して発行されています。

そのため、途中換金による売りを出す場合は、アスク(売り)とビッド(買い)の開き、つまりスプレッドが広く、場合によってはかなり不利な条件で売買が成立してしまうことがあります。

一般的にこのスプレッドは、社債の場合、上場国債よりかなり広いです。そして、売却金額(額面)が小さい社債の場合、これはさらに顕著になります。発行額自体が小さい銘柄も多く、引き受けた証券会社も転売先を見つけるのに困ることが多いため、どうしても安く買い取りがちになります。このアスクとビッドの概念は円を流動性の低い外貨に換える場合、またはその逆をイメージするとわかりやすいです。

なお、中途換金が可能な場合、利子にかかる課税関係は、国債の場合と同じです。

3.まとめ

公社債の相続は決して難しいわけではありませんが、「債券」と聞くと何となく難しく、またとっつきにくいと感じる人が多いかもしれません。税理士の中にも「債券は苦手。よくわからない」という人は意外と多いです。

相続手続きの中で不明点があれば、基本的には証券会社に相談しましょう。マイナス金利の昨今、債券による資産運用は非常に難しくなっていますので、継続保有か中途換金かで迷ったら、ファイナンシャル・プランナーなど専門家に相談するのもよいかもしれません。公社債の相続に関する基本的知識を身につけ、いざ相続が発生しても困らないようにしたいものですね。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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