投資信託の相続税評価と売却時の税金
相続財産に投資信託が含まれていることがあります。そこで、投資信託の相続時税評価方法や、売却時に課税される税金について解説します。
なお、投資信託の相続手続きについては、以下姉妹サイトの記事をご一読ください。
目次
1.投資信託とは
1-1.投資信託の概要
投資信託とは、投資家から集めた資金を一つにまとめ、それをプロの専門家が運用し、運用の成果(売却益や分配金など)を投資額(出資割合)に応じて投資家に分配する商品です。
投資信託は、別名「ファンド」と呼ばれ、運用するプロの専門家は「ファンドマネージャー」とよばれます。
投資信託では、投資家、販売会社、信託銀行、運用会社が、それぞれ次のような役割を担っています。
- 投資家
資金を拠出し投資信託を購入し、収益分配を受けます。「受益者」とも呼ばれます。 - 販売会社
投資家からの購入申し込みを受け付ける窓口となる金融機関で、証券会社や銀行などが該当します。 - 運用会社
投資家から集めた資金を運用する会社です。ファンドマネージャーもここに所属しています。「委託者」ともよばれます。 - 信託銀行
投資家から集めた資金を、運用会社の指図に従い管理します。「受託者」ともよばれます。
最近は、運用会社が販売会社を兼ねる場合があり、これは直販(直接販売)と呼ばれ、投資家にとっては、ファンド購入のコストが安くなるメリットがあります。
1-2.投資信託の種類
投資信託には、分類方法がいくつかあります。主なものを見てみます。
投資対象資産による分類
- 公社債投資信託:株式を組み入れず、国債や社債(事業債)などの公社債を中心に運用する投資信託
- 株式投資信託:株式を組み入れて運用する投資信託
追加設定の有無による分類
単位型 (ユニット型) | 購入は最初の募集期間のみに限られ、ファンドの設定後は、資金の追加ができません。 運用期間(信託期間)は最初から決められています。 |
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追加型 (オープン型) | 最初の募集期間が過ぎてからでも、いつでも購入することができ、ファンド設定後の資金追加も可能です。 運用期間(信託期間)は無制限、あるいは長期にわたるのが一般的です。 |
追加型の公社債投信の代表的なものに、短期公社債投信(MRF=マネー・リザーブ・ファンドはここに含まれます)、長期公社債投信、中期国債ファンド、MMF(マネー・マネジメント・ファンド)などがあります。
分配金の有無による分類
投資信託には、分配金があるタイプと、解約・売却まで運用益を再投資して、分配金を支払わないタイプとがあります。
上場の有無による分類
投資信託には、証券取引所に上場しているものがあります。
ETF (イーティーエフ) | ETFはExchange Traded Fundの略で、証券取引所に上場しており、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数(インデックス)に連動した運用成果を目指す投資信託です。最近では日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(通称:日経レバ)が個人投資家に人気となりました。 |
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REIT (リート) | REITはReal Estate Investment Trust の略で、不動産投資信託のことです。 通常の投資信託同様、投資家から資金を集めますが、それをオフィスビルや商業施設、物流施設など不動産に投資し、そこから得られる賃料収入や売却益を投資家に分配します。 分配の金利回りが預金金利よりもかなり高いことから、REITも近年、個人投資家の人気を集めています。 |
2.投資信託の相続税評価
相続時の投資信託の評価は、国税庁の財産評価基本通達199に次のように、3つの区分に分けて記載してあります。
- 日々決算型の投資信託:中期国債ファンド、MMFなど
- 上場している投資信託:ETF、REITなど
- その他一般的な投資信託
これらの区分については、被相続人の投資信託を扱っていた金融機関から、被相続人の死亡日の残高証明書を取得して確認します。残高証明書や契約書面、目論見書を見ても分からない場合には、金融機関に問い合わせてください。
2-1.日々決算型の投資信託の相続税評価額
日々決算型の投資信託は、課税時期において解約請求または買取請求により、証券会社等から支払いを受けることができる価額として、以下の算式により計算した金額によって評価します。
1口当たりの基準価額×口数+再投資されていない未収分配金-再投資されていない未収分配金に対して源泉徴収されるべき所得税の額-信託財産留保額および解約手数料(消費税に相当する額を含む)
基準価額と口数、未収分配金は残高証明書を参照します。ただし、残高証明書では、準価額が1口あたりの金額となっていないこともあり、その場合は、1口当たりの基準価額を計算します。
また、一般的に、決算していれば未収分配金はありません。
信託財産留保額と解約手数料については契約書や、目論見書、公式サイトなどに記載されているのを確認します。分からなければ、金融機関に確認しましょう。
2-2.上場している投資信託の相続税評価額
ETFやREITなどの上場している投資信託の相続税評価は、上場株式に準じ、次の4つのうち最も低い価額で評価します。
- 課税時期の終値
- 課税時期の属する月の毎日の終値の平均額
- 課税時期の属する月の前月の毎日の終値の平均額
- 課税時期の属する月の前々月の毎日の終値の平均額
課税時期の終値がない場合は、課税時期前後で最も近い日の値とします。例えば、相続開始日が休日であれば終値がないので、前後を問わず、相続開始日に一番近い日の終値を採用します。
また、負担付贈与や、個人間の対価を伴う取引により取得した上場投資信託の価額は、その上場投資信託が上場されている金融商品取引所の公表する課税時期の最終価額によって評価します。
2-3.その他の一般的な投資信託の相続税評価額
上記2つ以外の一般的な投資信託の相続税評価額は、課税時期において解約請求等により、証券会社等から支払いを受けることができる価額として、以下の算式によって計算します。
1口当たりの基準価額×口数-相続開始時に解約請求等をした場合に源泉徴収されるべき所得税額-信託財産留保額および解約手数料(消費税に相当する額を含む)
ご覧になってお分かりの通り、計算は、「日々決算型」投資信託とほぼ同じです。
相続開始時に解約請求等をした場合に源泉徴収されるべき所得税額は、以下の計算で求めます。
(相続開始時点の1口あたりの基準額 × 口数−取得時の価額)×20.315%
なお、課税時期の基準価額がない場合は、課税時期前の基準価額のうち、課税時期に最も近い日の基準価額を課税時期の基準価額として計算します。
3.相続後に売却(解約・償還を含む)する場合の税金
投資信託を相続後、売却する場合もあるでしょう。この際注意すべきことは、被相続人の投資信託の取得費(取得価額)を引き継ぐことです。
つまり、被相続人が取得したときの価格を基に、損益を判定します。具体的な課税方法は、次のようになります。
3-1.取得価額よりも売却時の基準価額が下落している場合
被相続人が取得した時より、売却時には基準価額が下落していれば、売却時には売却損が発生するため、課税はされません。
3-2.(取得価額よりも売却時の基準価額が上昇している場合)
被相続人が取得した時より、売却時に基準価額が上昇していれば、「譲渡所得」として、合計20.315%の申告分離課税の対象となります。
なお、2016年1月1日から、金融所得課税の一体化により、(公募)公社債投資信託は(公募)株式投資信託と同様、受益権の譲渡(解約・償還を含む)については申告分離課税の対象となっています。
また、2016年1月1日から、特定口座に(公募)公社債投信が新たに加えられました。これにより、損益通算の範囲が拡大され、(公募)公社債投資信託の利益・損失は、(公募)株式投資信託や上場株式の利益・損失と損益通算できるようになりました。
まとめ
ここまでご説明した通り、被相続人が保有していた投資信託の種類により、相続税の評価方法が異なります。
わかりにくい項目があれば、金融機関や証券会社に問い合わせをするようにしてください。
もし、相続人が日頃ご自分で投資を行っておらず、評価するのが難しい場合には、相続税に強い税理士に相談するといいでしょう。