アメリカに資産がある人は要注意!アメリカと日本の相続税
グローバル化が進み、海外に資産を持つ人も少なくないと思います。しかし、その資産を相続するとなると、少し複雑な計算が必…[続きを読む]
グローバル化が進み、海外に資産を持っている人も少なくないと思います。しかし、その資産を相続するとなると、どこの法律でどのような税金を払えばよいのか戸惑ってしまうことがあります。
そこで、このサイトでは海外資産を国際相続する際のポイントを、日本人が資産を持つことの多い「アメリカ」と、「その他の国々」の2つの記事に分けて解説していきます。今回は、「その他の国々」に着目して、国際相続について詳しく説明していきます。
アメリカに資産がある方は、是非、以下の記事をお読みください。
国際相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産が海外にある場合や、相続関係者(被相続人を含む)が海外にいる場合の相続のことを指します。国際相続は、「日本の法律」と、「外国の法律」が関係してくるため、日本国内財産のみの相続より複雑になります。
最近では、国際化が進み国外に株式や不動産投資する人が増加しており、国際相続の件数が増加しています。
国際相続は、日本の法律のみではなく、財産がある国の法律がどうなっているか確認しなければなりません。両国の法律や手続きの違いなど、よく問題になるものをいくつかご紹介します。
亡くなった人(被相続人)が日本国籍の場合は、原則的に日本の民法に基づいて、日本で相続税の申告が必要です。
日本で相続手続きを行った場合でも、外国にある財産については、その国の法律により相続税の手続きが必要になってしまう場合もあります。
海外の財産の相続手続きは、その国の裁判所が関与して相続手続きを行うケースが多くあります(今回紹介する国ではフィリピンのみです。)。
この手続きを「プロベイト」と言い、国によっては3年以上の期間が必要な場合もあります。プロベイト手続きには、現地の弁護士などの専門家への依頼が必要になる場合が多いため、多額の報酬の支払いが発生することがあります。
日本国内の財産の相続税評価は、比較的容易に相続税評価額を算出することが可能です。しかし、国外の財産は、現地の専門家による不動産評価などが必要になります。
国際相続では、長い間海外に居住している相続人と連絡が取れない場合があります。
日本の民法では、相続人全員で遺産分割を行う必要があるため、その相続人を探しださなければ相続手続きを進めることができません。専門家に依頼して捜索しても見つけることができない場合は、家庭裁判所に申し出て「不在者財産管理人」を選任し、相続手続きを行わなくていけません
相続人が海外に居住していて、相続税の納税が必要になった場合は「納税管理人」の届出をしなければなりません。
納税管理人とは、海外に住んでいる納税者の代わりに各種申告書の作成や納税などを行う人のことを言います。
税理士や家族、知人を納税管理人に指定することができます。納税管理人を指定する場合は、税務署に「納税管理人届出書」を提出しなければなりません。また、相続人が帰国した場合などで「納税管理人」が必要でなくなった場合は、「納税管理人解任届出書」を税務署に提出しなければなりません。
【参考】国税庁HP [手続名]相続税・贈与税の納税管理人の届出手続
相続手続きでは、相続人の確定と被相続人の相続財産の調査から始めます。
相続人の戸籍を集めると同時に、相続財産の調査をしましょう。財産調査が遅れると、相続税申告書の提出が遅れ、延滞税や加算税の対象となるため、なるべく早急に行いましょう。 財産が外国にある場合の相続財産の調査は、国内財産調査より難しくなります。財産調査では、次のものをチェックしましょう。
国外に5,000万円以上の財産を保有している場合に、日本の税務署に提出する書類です。
国外財産の種類、数量、評価額が記載されていますので、国外財産を把握することが可能です。
海外に財産を保有している場合、その資産の取得のために日本から海外送金しているケースが多くあります。
税務署からの相続税の税務調査は、過去10年間の預金口座を調査されると言われています。少なくとも10年間の全預金口座を調査して、海外送金の有無を確認しましょう。
海外に財産があった場合は、その財産がある国の法律にしたがって相続手続きを行わなければなりません。英米法系と言われる国はプロベート(裁判所による検認手続き)を採用しており、財産がある国がプロベートが必要な国かどうか確認しましょう。
「プロベート」を採用している主な国は、
プロベートとは、現地裁判所の監視下で行われる遺産分割手続き、および相続手続きのことを言います。各国(アメリカでは各州)で制度が違いますが、原則的には次のような流れになります。
裁判所から任命された代表者は、「遺言執行人」として手続きを進めることになります。
先述の通り、プロベートによる財産の分割は、上記のようなプロセスが必要になり、多くの時間が必要となります。
海外財産が、プロベートが必要ない国(大陸法系の国)の場合は、比較的簡単に相続作業が完了します。手続きの詳細は国によって異なりますが、財産の名義変更などは、ほとんど日本と同じ要領になります。例として、A国にある財産の相続についてご紹介します。
被相続人(亡くなった人)がA国に不動産、預金口座を持っていた場合は、以下のような手続きが必要になります。
「国際相続」には、国外財産がある国の相続に関する法律をチェックしなければなりません。ここでは、日本人の海外投資で人気がある国の相続制度をいくつかご紹介します。
まずは、中国の相続税制度についてです。
現在のところ、中国には「相続制度」は存在しますが、「相続税」に該当する税金はありません。
被相続人の遺産は無税で法定相続人が相続することが可能です。富裕層の財産がそのまま子孫に引き継がれるため、格差社会が広がる一因になっています。
日本に居住している日本国籍の人の中国にある財産は、日本の相続税の課税対象になりますので注意が必要です。
また、中国国内では、全ての土地は中国政府の所有物であることと、土地の使用者については「土地の使用権」が発生するため、日本での相続税評価額の算出が難しいと言われています。
なお、中国政府では「相続税(遺産税)」の導入を検討しているので、近い将来、制定される可能性があります。
次に、韓国の相続税制度についてです。
韓国には、日本と似た「相続制度」があり、基本的な考え方も似ています。
しかし、法定相続人の順位及び範囲、配偶者の法定相続分には違いがあります。法定相続人の範囲は日本より広く、配偶者の法定相続分は他の相続人の1.5倍となっている点が大きく違います。
どのような場合に、韓国の相続税が課税されるのかをケースごとに紹介していきます。
被相続人(亡くなった人)が相続時に1年以上韓国に居住している場合は、世界中にある全ての財産が韓国での相続税の課税対象になります。
被相続人(亡くなった人)が韓国に居住していなかった場合は、韓国国内にある資産のみが相続税の課税対象になります。
被相続人(亡くなった人)の国籍が韓国の場合は、居住期間に関わらず韓国の相続税の納税義務者になりますので注意が必要です。
また、相続前に遺言書により「相続は日本の法律による」と指定した場合は、日本の法律に基づいて相続を行うことも可能です。このことを「準拠法」といいます。
韓国での申告 | 日本での申告 | |
---|---|---|
相続人及び被相続人が、日本の居住者に該当する | 韓国にある財産のみ | 韓国・日本を含む、世界中の財産 |
相続人が日本の居住者、被相続人が韓国の居住者に該当する | 韓国・日本を含む、世界中の財産 | 韓国・日本を含む、世界中の財産 |
相続人が韓国の居住者、被相続人が日本の居住者に該当する | 韓国にある財産のみ | 日本にある財産のみ |
相続人及び被相続人が韓国の居住者に該当する | 韓国・日本を含む、世界中の財産 | 日本にある財産のみ |
※居住者の範囲の定めについては両国で違いがあります。 |
【引用】在日本大韓民国民団HP
日本と韓国、両国の相続税の申告で同一財産の申告が必要な場合があります。その場合、日本の相続税の申告で韓国での相続税相当額を控除できる「外国税額控除制度」の適用があります。
【参考】国税庁HP №.1240居住者に係る外国税額控除
次にフィリピンの相続税制度について紹介します。
フィリピンの相続制度はアメリカの相続制度とよく似ており、相続手続きにはプロベイト手続きが必要になります。
亡くなった人(被相続人)の住所地を管轄する裁判所によって相続手続きが行われます。この手続きが終了するまでは、相続財産の分配をすることはできません。また、遺言書がある場合と、遺言書が無い場合は、違ったプロベイト手続きが必要になるので注意が必要です。
遺言書がある場合は、遺言書に基づいて、裁判所により「遺言執行人」が選任されます。
「遺言執行人」は相続財産の管理、相続税の支払い、相続財産の分配を行います。フィリピンの遺言書は通常「公正証書」による遺言が一般的ですが、「自筆」による遺言も認められています。
遺言書がない場合は、全相続人により「遺産分割協議書」を作成し、それに基づき、遺産分割が行われます。
全相続人で「遺産分割協議書」の作成ができない場合は、所轄の裁判所によってプロベイト手続きが必要になります。裁判所が「遺産管理人」を選任し、相続財産を分配することになります。
フィリピンにある財産により二重課税が発生した場合は、日本の相続税から「外国税額控除」が可能です。なお、フィリピンの相続税率は一律6%になっています。
【参考】国税庁HP №.1240居住者に係る外国税額控除
次に、スイスの相続税制度について紹介します。
スイスの正式名称は「スイス連邦」といい、26の州による連邦国家です。連邦国家でもアメリカとは違い、スイス連邦としての相続税の制度はありません。
しかし、シュヴィーツ州を除く全ての州で、独自の相続税の規定が存在します。州によって異なりますが、スイスの相続制度は「居住地法主義」を採用しており、亡くなった方(被相続人)がスイスに居住していた場合は、全世界全ての財産がスイスでの相続税の課税対象になります。
財産が配偶者や子供などに相続される場合、相続税率は10%以下になりますが、それ以外の人が相続すると税率が10~40%になります。近親者が相続した場合は、相続税がほとんど払う必要がないというところが特徴的です。なお、相続税の税率や、法定相続人に関しては各州で規定されています。
スイスに居住している日本国籍の人が亡くなった場合は、スイスで全ての財産(日本の財産も含む)について相続税の申告が必要です。
また、日本でも全ての財産(スイスの財産も含む)について相続税の申告が必要になるため、二重課税になってしまいます。その場合は、日本の相続税の申告で「外国税額控除」の適用を受けることができます。
【参考】国税庁HP №.1240居住者に係る外国税額控除
タイでは2016年に相続税の制度が初めて導入されました。
近隣国のシンガポールは2008年に相続税廃止、マレーシアには相続税制度が存在しないなど、世界的に相続税の制度は縮小しています。タイでは独占禁止法が厳しくないため、経済格差が年々拡大しています。そのため、一部の富裕層が富を独占している状態が続いています。
タイの相続税の納税義務者は、
となっています。
また、タイに居住していない場合は、タイ国内の財産についてのみタイで相続税の申告が必要になります。
タイの相続税の対象資産は、日本と同様に現預金、不動産などです。相続財産が1億バーツ(約3.5億円)を超える場合に、1億バーツを超える部分の10%が相続税額になります。ただし、親・子供などの直系尊属、直系卑属が財産を相続する場合は5%になります。
日本とタイで同じ資産が相続税の対象になった場合は、日本の相続税の申告で「外国税額控除」の適用を受けることができます。
【参考】国税庁HP №.1240居住者に係る外国税額控除
今回は、「国際相続」についてご紹介しました。
「国際相続」は、日本の法律と海外の法律が複雑に絡み合います。原則的に、日本国籍の人は、日本で相続税の申告が必要です。それに加えて財産がある国の相続税の申告が必要になる場合があります。
また、相続手続きも各国違いますので、日本の専門家と、資産がある国の専門家と相談して円滑に相続手続きを行えるような状況を作ると良いでしょう。