相続に備えるための老人ホームの選び方

介護が必要になった方が、適切な生活を行うための施設である老人ホーム。ただ、一口に老人ホームと言っても多くの種類があるため悩んでしまう方も多いです。

そこで、今回は老人ホームの種類や特徴について一から解説します。そして、相続に備えるという視点で覚えておきたいポイントも併せて解説します。

1.老人ホームの種類と特徴

介護が必要となると入居を考えなければいけなくなる老人ホーム。ですが、いざ入居先を探そうとすると、多くの種類があってどこがどんな種類の老人ホームなのか、最初の段階で躓いてしまうこともあります。

そこで、正しい選び方を身につけるためにも、まずは老人ホームにはどのような種類があるのか、それぞれの特徴を解説します。

1-1.有料老人ホーム

老人ホームという言葉で真っ先に思い浮かべるイメージに近いのが、有料老人ホームです。正式には「特定施設入居者生活介護」という名称の施設となります。老人ホームの代表的なイメージである、食事や入浴などの介助やイベントごとなど、老人ホームの代名詞的にもなっています。

1-1-1.有料老人ホームの種類

有料老人ホームには2種類あり、「介護付有料老人ホーム」と「住宅型有料老人ホーム」です。

介護付有料老人ホームは、施設内に職員が24時間在中し、生活している入居者の介護を行います。つまり、イメージ通りの老人ホームです。

一方、住宅型有料老人ホームは、施設ではなく介護が必要な方で共同生活をしているようなイメージです。24時間常駐している職員はおらず、必要に応じて外部の通所介護やリハビリなどを使用します。

ただし、全く別のところのサービスを利用するのではなく、もともと通所介護を行っている会社が住宅型有料老人ホームを経営しているケースもあります。また、必要に応じて24時間訪問介護の職員を配置することもできますので、結果としては有料老人ホームと変わらない介護も受けられます。

種類やサービスの提供方法によって種別が分けられていますが、ほぼ同じものだと考えておいても問題ありません。

1-1-2.有料老人ホームのメリットとデメリット

有料老人ホームのメリットになるのは、低介護度の方も入居ができるという点です。介護付有料老人ホームは要介護1から、住宅型有料老人ホームは要支援1から、または認定がない方でも利用できます。

ですので、どちらも老人ホームでの生活に慣れること、今までと同じ生活を他の方と一緒に続けられること、が大きなメリットとなります。特に、住宅型有料老人ホームは介護サービスを利用しながらのルームシェアのようなことができるところもあり、より楽しく生活ができます。

ただ、このメリットはデメリットにもなってしまいます。
低介護度の方を対象とした有料老人ホームの場合、介護度が上がるほど入居を断られることがあるのです。さらに、入居中に介護度が上がってしまうと、他の場所を探すように促されてしまうこともあります。

また、他の老人ホームと比べて利用料が高い、というのもデメリットとして考えなければいけません。そのため、有料老人ホームは一時的に利用する方も多く、終の棲家とはなりにくいのが非常に大きなデメリットとなっています。

1-2.サービス付き高齢者向け住宅

ここ数年大きく注目され、人気を集めているのがサービス付き高齢者向け住宅です。
厳密に言うと老人ホームではないのですが、数多く建設されており、入居を検討している方も増えています。では、一体どんな施設なのでしょうか?

1-2-1.サービス付き高齢者向け住宅の実態

名前が長いので、省略して「サ高住」とも呼ばれます。

サービス付き高齢者向け住宅は、老人ホームではありません。厳密に言うと、24時間の訪問介護サービスが受けられるマンションを借りるサービスです。分かりにくいですが、住宅型有料老人ホームをより専門化したサービスだという認識でOKです。

もう少し詳しく解説すると、サービス付き高齢者向け住宅の経営母体となっているのは不動産や住宅建設をメインとしている会社です。つまり、利用者はマンションの1室を借りることが主な契約内容となっています。

その後、介護に携わる訪問介護サービスと個別に打ち合わせをして、どのような介護を行うのかを決定します。ですので、入居すれば介護サービスが受けられるのではなく、それぞれ別のサービスを1箇所で受けられるようにまとめている施設がサービス付き高齢者向け住宅なのです。

また、サービス付き高齢者向け住宅で多いのが、1階部分が訪問介護の事務所になっている場合です。そのため、サービス付き高齢者向け住宅でも24時間体制で介護を行うことができるため、サービスとしては一般的な老人ホームと遜色ありません。

1-2-2.サービス付き高齢者向け住宅のメリットとデメリット

サービス付き高齢者向け住宅のメリットは、特別な施設を建設しなくても事業を開始できる可能性が高いことです。つまり、今後も増えていく可能性があるため、より介護の負担を軽減させることが可能なのです。特に、介護の制限もなければ、重い介護度の方でも入居できますので、安心して居続けることができます。

ただ、非常に大きなデメリットとなるのが費用です。介護サービスの費用の中でも、訪問介護の費用は人件費などの問題から割高に設定されています。さらに、従事した時間ごとに高額になる特徴がありますので、同じ介護の内容でも割高になりやすいのです。

また、通常の老人ホームだと部屋代も介護保険の適用内となりますが、サービス付き高齢者向け住宅は住宅を借りるサービスです。ですので、家賃は介護保険の適用外となり、場合によっては敷金や礼金が必要となるケースもあります。

このような実態から、サービス付き高齢者向け住宅は利益が出やすい施設のため、取り扱う企業は増えています。ですが、長期間の入居となると費用面で非常に苦しくなってしまう方も多いため、途中で他の施設へ移ってしまう方が多いといわれています。

1-3.介護老人保健施設

老人ホームの中でも治療が行える施設が、介護老人保健施設です。「老健」ともいわれることがあります。体調を崩しやすかったり、ケガをしやすかったりする高齢者にとっては嬉しい施設です。

1-3-1.病院が経営母体となっている安心感

介護老人保健施設は治療が行える老人ホームとして人気を集めています。ですが、単純に専門の医師が常駐しているというだけではありません。介護老人保健施設の経営母体を確認してみると、そのほとんどが「医療法人」となっています。

つまり、経営母体が病院であることが多いため、医師や看護師の質が非常に高いのです。さらに、何か病気を患ったり、疑いがある場合は、経営母体の病院へ優先的に受診することができるため、より高度な治療を受けることも可能です。

そのため、老人ホームではあるのですが、中身としては病院にかなり近い施設といえます。もちろん、医療だけでなく、介護についても専門のスタッフが24間体制でサポートを行います。

また、病院へ入院後、専門的な治療が必要なくなったため、介護老人保健施設へ移って生活を続ける、というのも入居の多いパターンです。こうした介護と医療の密度の濃いサポートは、介護老人保健施設だけのサービスとなりますので、入居者だけでなく家族にとって安心できる施設といえるでしょう。

1-3-2.介護老人保健施設のメリットとデメリット

介護老人保健施設の最大のメリットは、上記の通り医療行為が行えることです。特に、医療行為自体がサービスの1つとなっていますので、包帯やギプスなどの費用も全て利用料に含まれています。つまり、軽度な利用なら無料で行ってくれます。さらに、往診にも応じますので、かかりつけ医が常に状態を把握できるのもメリットとなっています。

デメリットとなってしまうのは、介護老人保健施設の施設の存在意義です。もともと、介護老人保健施設は病院と同じように治療を行う場所として作られたという背景があります。そのため、治療が必要なければ介護老人保健施設での入居を続けることができないため、自宅、もしくは他の施設へ転居しなければいけません。

また、このデメリットにもう一つ問題があり、明確な基準がないのです。ですので、入居後3ヶ月で退居を迫られる場合もあれば、2~3年経っても生活し続けている方もいます。治療が必要ないという基準だからこそ、人によっては非常に不公平を感じさせる基準となってしまうのです。

介護老人保健施設も終の棲家となるかは、入居者本人の状態次第となるため、ずっとその施設で生活できるとは限りません。治療行為が行える、医療によるバックアップが手厚いというメリットがある一方で、こうした現実的なポイントもきちんと把握しておかなければいけません。

1-4.特別養護老人ホーム

ニュースなどでも取り上げられることが多い特別養護老人ホームは、老人ホームの中でも非常に人気の施設です。では、どうして人気を集めているのか、その背景には何があるのでしょうか?

1-4-1.圧倒的な安さが魅力

特別養護老人ホームが人気を集めているのは、何と言っても費用の安さです。他の老人ホームと比べて、最も費用が安く設定されているため、長期間入居していても負担になりにくいのが、特別養護老人ホームの大きな魅力です。

特別養護老人ホームは、半公営の老人ホームとも呼ばれており、設立費用の半分程度の税金が投入されている施設です。そのため、介護費用を抑えても赤字になりにくく、そもそも低所得者でも誰でも入居できることを目指した施設なので、一際費用を安くできるのです。

また、介護度が重くなっても他の施設に映るように促されることもなく、むしろ転居先として特別養護老人ホームが活用されています。ですので、特別養護老人ホーム=終の棲家、ともいわれており、一度入居すれば亡くなるまで生活を続けられます。

加えて、世帯所得に応じて利用料が割り引かれる制度も存在しています。こうした制度からも特別養護老人ホームが安く利用でき、1ヶ月で10万円を切ることも珍しくありません。

1-4-2.特別養護老人ホームのメリットとデメリット

特別養護老人ホームが話題となるときは、入居待ちの方が多いという時です。誰しも費用が安い老人ホームを利用したいと思うため、現在では入居まで5年待ちともいわれるほど、入居することが困難です。

特に、特別養護老人ホームで部屋が空く場合は、その部屋の方が亡くなるか入院から戻れなくなる場合です。さらに、税金が投じられることで、たくさん建設することができません。こうした背景から、簡単には入居ができません。

また、介護保険法の改定により、入居基準が要介護3以上の方に限定されてしまいました。そのため、低介護の方は入居する事自体できなくなり、利用そのものハードルが高くなっているのが大きなデメリットです。

加えて、費用が安いということは、ほとんどが最低限のサービスとなっている点もデメリットになり得ます。施設ごとに工夫しているのですが、特殊なサービスには別途費用が必要となるケースがほとんどです。

最悪なケースとして施設によっては介護用品の購入を家族に促す施設があります。これは、法律上アウトな行為なのですが、施設と入居者という主従関係により、高額な車椅子などを購入してしまうケースもあります。

費用が安いのは大きな魅力なのですが、その背景には悪質な対応を迫る施設があることをしっかり覚えておきましょう。

2.相続を考えて老人ホームを選ぶためのポイント

終の棲家にもなりうる老人ホーム。
そこで、相続という観点から、老人ホームの活用方法や関係する制度などをまとめます。

2-1.費用を抑えて資産削減を抑える

老人ホームを利用する上で欠かせないのが利用料です。利用料が高額になるほど、金銭的負担が大きくなり預貯金が大幅に減ってしまいます。そこで、利用料の低い特別養護老人ホームへ入居することで、預貯金の削減を抑えられ、相続する金額を残しておくことが可能です。

特別養護老人ホームの利用料には、減免制度として「負担限度額認定」というものがあります。介護費用のうち部屋代と食費に関しては施設側が自由に決めることができ、これらは介護保険の適用外となるため、場合によっては利用料の大半を占めてしまいます。

しかし、負担限度額認定を受けられれば、段階によって国が決めた金額を負担するだけでよくなります。どれくらい安くなるかは施設によって変わりますが、半額程度に抑えられるケースが多いです。

この場合の利用料は、10万円程度/月となるため、年金だけでも賄えることもあります。そのため、資産を減らさないで、子孫に多く財産を残すことができます。

2-2.小規模宅地等の特例を利用した節税対策

老人ホームを利用するうえで覚えておきたい節税制度が「小規模宅地等の特例」です。この特例は、もともと亡くなった方や一緒に生活していた家族の住宅について、条件を満たすことでその宅地の評価額を80%も減額できるという制度です。

では、老人ホームとどのような関係があるかというと、老人ホームに入居中になくなった場合です。一般的に考えると、老人ホームへ引っ越してしまうため、亡くなっていた方が自宅で生活していたとはいえない状態です。

ですが、介護が必要な場合の老人ホームへの転居は、やむを得ず転居しなければいけなくなったと扱われます。
つまり、老人ホームの入居中になくなっても小規模宅地等の特例が適用されます。入院などと同じように、あくまでも生活の拠点は生活していた自宅だと認められています。

相続税の大半が不動産の評価額に由来しているといわれていますので、この制度によって相続税がゼロになる場合もあります。ですので、老人ホームへの入居を考えたら、この制度についてもしっかり押さえておきましょう。

【関連】老人ホームで介護する場合の相続税問題のまとめ

2-3.住所を移転してスムーズな遺産分割協議を行う

相続の観点から見ると特別養護老人ホームが優れています。その理由の1つが安いことでしたが、実はもう一つあります。それは、住所を老人ホームへ移すことができる点です。このことはあまり知られていないのですが、非常に大切なポイントです。

不動産をどうするか、どうやって相続するかは亡くなってから決めるのが一般的です。ですが、すでにその不動産には誰も住んでいませんので、後々に相続が必要な不動産をどうするのか、という相談を生前に行えるのです。

そのため、入居した段階で、該当の不動産の処分しても手間が増えることもなく、相続者が決まればそのまま名義変更もできてしまいます。つまり、生前贈与も含めた相続の具体的な相談がしやすくなり、遺産分割争いが起きにくくなります。

ただし、注意が必要なのは、特別養護老人ホームへの入居基準となる要介護度には、身体機能だけでなく認知機能も含まれています。ですので、認知症などを患っている方から不動産の名義変更などを行う場合は「成年後見制度」を利用しなければいけません。

さらに、この状態で残す遺言書には効力が無いとみなされるケースが多いため、新たに残すことはできません。
しかし、考え方を変えると、誰かが不正に遺言書を残すことを防げられますので、要介護度3以上の方しか入居できない特別養護老人ホームへの入居=公正中立な相続になりやすいともいえるでしょう。

2-4.相続を見据えた最適な老人ホームの選び方は

相続を見据えた選び方は、その老人ホームが終の棲家になりやすいかどうか、なる可能性がどれくらい高いのか、という基準で選ぶことです。そのため、一般的には、特別養護老人ホームへ入居することが、最も手軽で分かりやすいかもしれません。

ただし、入居先を選ぶだけでは、相続対策としてはまだ不十分です。入居後の行動や制度を活用して、初めて相続が有利に進みます。
ですので、老人ホームへ入居するとどんな制度を活用できるのか、何をすれば有利になるのかをきちんと把握しておきましょう。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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