相続税改正で基礎控除額を大幅引き下げ!いくらから相続税がかかる?
相続税法改正により、2015年1月以降の相続から基礎控除額が縮小され、結果的に増税となりました。実はこれは50年ぶり…[続きを読む]
小規模宅地等の特例は、宅地の相続税対策の代表といっても過言ではないくらい、大きな節税効果がある制度で、宅地の評価額を最大8割減額することができます。
今回は小規模宅地等の特例の基本を、わかりやすく解説します。
目次
小規模宅地等の特例は、被相続人の宅地が一定の要件に該当する場合には、限度面積まで評価額を50~80%減額できる制度です。
2015年度の相続税大改正では、基礎控除額が従来の60%にまで引き下げられました。
これにより、都心に一般的な自宅を所有しているだけで基礎控除額を超えてしまう事態が考えられますが、小規模宅地等の特例が適用できれば相続税を免れる可能性が高くなります。
自宅土地8,000万円が80%減額の小規模宅地等の特例の要件に該当すると、評価額は1,600万円にまで一気に減額されます。 相続税率が10%であった場合には、小規模宅地等の特例の適用がなければ800万円だった相続税が、160万円になるのです。
なぜそこまで優遇してもらえるのでしょうか?
それはその土地が、残された家族や事業を承継した人の生活の基盤として大切なものだからです。
8,000万円の評価額そのままに対して高額な相続税をかけてしまっては、その宅地を手放して納税するしかない人もいます。 被相続人が遺した自宅に住み続けられるように、事業を引き続き営めるように配慮されています。
小規模宅地等の特例は、大きな評価減ができる制度であるため、被相続人の宅地であれば何でもかんでも適用対象とするわけにはいきません。
特例の対象となる宅地は以下の4種類あり、それぞれに要件が定められています。
すべてに「等」が付いているのは、対象となるのは宅地だけではなく、借地権などの土地の上に存する権利も含まれるためです。
そして、宅地の種類ごとに限度面積と減額割合が異なります。
それでは1つずつみていきましょう。
特定居住用宅地等とは、被相続人が死亡する直前に住んでいた宅地のことをいいます。被相続人の自宅は大抵これに該当します。
特定居住用宅地等には次の2パターンがあります。
被相続人が住んでいた宅地を誰が相続したかで要件が決まります。
相続した人 | 要件 |
---|---|
配偶者 | なし(無条件で適用可能です。) |
被相続人と同居していた親族 | 相続開始時から相続税申告期限まで、その自宅に住み続け、かつ、その宅地等を所有していること |
被相続人と同居していない親族 (家なき子特例※) | 被相続人に配偶者や同居親族がいないこと |
相続開始前3年以内に、自分または自分の配偶者、3親等内の親族、特別の関係にある法人が所有する家屋に住んだことがないこと | |
その宅地等を相続税申告期限まで所有していること | |
被相続人の死亡時に自分が住んでいる家を過去に所有していたことがないこと |
相続したのが配偶者であれば、それだけで特例の適用対象となります。
同居親族が単身赴任で一時的に別の場所に住んでいた場合には、同居していた自宅は生活の拠点であるということで要件を満たしている扱いになります。要件にある、「自宅に住み続ける」に反することにはなりません。
※家なき子特例については、2018年度税制改正で厳格な要件が追加され、このようになりました。納税者に不利な改正である点が考慮され、2020年3月31日までに発生した相続については、改正前の要件が認められます。
特定居住用宅地等は基本的には被相続人が住んでいた宅地ですが、被相続人ではなく、生計を共にしていた親族が住んでいた場合にも適用できます。
生計一は同居に限らず、別居で生活費や療養費などの仕送りをしている場合も含まれます。
相続した人 | 要件 |
---|---|
配偶者 | なし |
被相続人と生計一だった親族 | 相続開始時から相続税申告期限まで、その自宅に住み続け、かつ、その宅地等を所有していること |
特定事業用宅地等とは、被相続人が死亡する直前まで事業のために使っていた宅地のことをいいます。被相続人が個人事業主で店舗を運営していた場合などが該当し、事業が貸付業であった場合には貸付事業用宅地等に該当するため、
ここでは除かれます。
特定事業用宅地等には次の2パターンがあります。
被相続人が店舗や事務所などの事業用に使っていた宅地です。
相続した人 | 要件 |
---|---|
事業を承継する人 | 被相続人の事業を引き継ぐこと |
相続税申告期限まで事業を営み続け、かつ、その宅地等を所有していること |
被相続人ではなく、生計一の親族が事業のために使っていた被相続人の宅地です。
相続した人 | 要件 |
---|---|
事業をしていた生計一の親族 | 事業をしていた親族がその宅地等を相続すること |
相続税申告期限まで自分の事業を営み続け、かつ、その宅地等を所有していること |
特定事業用宅地等はいずれの宅地の場合にも、申告期限までの事業継続と保有が要件です。事業を継ぐ気はなく、すぐに廃業したり、売却すると小規模宅地等の特例は適用できません。
可能であれば、申告が終わるまでは事業を継続した方が相続税の節税になります。
特定同族会社事業用宅地等とは、被相続人が死亡する直前から相続税申告期限まで、特定同族会社の事業(貸付業を除く)のために使っていた宅地のことをいいます。
名称から難し気なイメージがしてしまう特定同族会社事業用宅地等ですが、特定同族会社(※)の判定ができさえすれば、それほど難しくはない
ので大丈夫です。
※特定同族会社:全体の50%以上の株式を親族が所有している会社のことです。 日本の多くの中小企業は、社長夫婦や家族などだけで株式を保有しています。
相続した人 | 要件 |
---|---|
被相続人の親族 | 被相続人、親族、特殊関係人が株式の50%超を保有する法人の事業に使われている宅地等であること |
その宅地等相続した親族が、相続税申告期限までその法人の役員であり、かつ、その宅地等を所有していること |
特定同族会社に該当するのであれば、法人であっても個人事業と同じように考えましょうというイメージです。
特定事業用宅地等=個人事業主、特定同族会社事業用宅地等=オーナー企業と簡単にとらえてください。
貸付事業用宅地等とは、被相続人が死亡する直前から相続税申告期限まで、被相続人の貸付事業用に使っていた宅地のことをいいます。貸付事業とは、
賃貸マンション、月極駐車場などの不動産賃貸業のことをいい、被相続人が個人事業で行っていたものです。
基本的には特定事業用宅地等の要件と同じです。
相続した人 | 要件 |
---|---|
貸付業を承継する人 | 被相続人の貸付業を引き継ぐこと |
相続税申告期限まで貸付業を営み続け、かつ、その宅地等を所有していること | |
貸付業をしていた生計一の親族 | 貸付業をしていた親族がその宅地等を相続すること |
相続税申告期限まで自分の貸付業を営み続け、かつ、その宅地等を所有していること | |
共通 | 宅地の上に建物や構築物があること(※1) |
相続開始前3年以内に新たに貸付業を始めた宅地等でないこと(※2) |
※1 建物や構築物がない貸付業用宅地は適用対象外です。特にその宅地が駐車場の場合には、構築物の有無に注意しましょう。
構築物とは土地の上に作られた建物以外のものをいいます。例えば、アスファルトや塀などです。 アスファルト舗装された駐車場なら対象ですが、更地にロープなどで区画を区切っているだけの駐車場などは対象外となります。
※ 2 2018年度税制改正で新たに追加された要件で、2018年4月1日以降の賃貸業に適用されます。相続が開始しそうだからと、節税のために焦って賃貸事業を始めることを防止するためです。
ただし、本格的な賃貸業で5棟10室基準を満たすような事業的規模の場合には、3年以内であっても適用対象となります。
4種類の要件の簡単な一覧です。
宅地の種類 | 相続する人 | 要件 | 限度面積 | 減額割合 |
---|---|---|---|---|
特定居住用宅地等 | 配偶者 | なし | 330㎡ | 80% |
同居親族 | 居住継続&所有 | |||
別居親族 (家なき子特例) | ※要件多数のため該当箇所参照 | |||
別居生計一親族 | 居住継続&所有 | |||
特定事業用宅地等 | 親族 | 事業継続&所有 | 400㎡ | 80% |
特定同族会社事業用宅地等 | 役員の親族 | 特定同族会社&所有 | 400㎡ | 80% |
貸付事業用宅地等 | 親族 | 事業継続&所有 | 200㎡ | 50% |
それでは小規模宅地等の特例の適用額を、具体的な数字で計算してみましょう。
この宅地は特定居住用宅地等(限度面積330㎡、減額割合80%)に該当することになります。
次に、小規模宅地等の特例の適用の判断が難しいケースを簡単に解説します。
被相続人と二世帯住宅で同居していた場合には、その宅地に特例は適用できるのかは一概にはいえず、登記内容や生計一であったか否かなどの状況により異なります。
特定居住用宅地等の要件には、亡くなる直前まで住んでいたこととありますが、老人ホームに入居し自宅に戻らないまま亡くなった場合にはどうなるのでしょうか。
この場合には、被相続人が要介護認定等を受けていたこと、入居していた老人ホームが老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等であれば、特例の適用は可能です。
事業に使っていた宅地の要件には、事業を継続することという要件が多くありました。この事業継続は原則として、被相続人の事業と同じでなければなりません。
個人事業としての形態は引き継いだが、被相続人が居酒屋を営んでいたのを、相続人である子供が同じ店舗を使って美容室に変えてしまっては特例の対象外となってしまいます。
事業変更したい場合でも、申告期限までは同じ事業を続けておいた方が節税になります。
判断に迷ったら、是非税理士に相談してみてください。
判断が難しいケースではありませんが、小規模宅地等の特例は贈与では使うことができません。
小規模宅地等の特例は相続税にある制度であり、贈与税にはありません。
相続税対策として生前贈与は有効ですが、将来相続税で小規模宅地等の特例の適用を受けられる宅地まで生前贈与してしまうと、相続時に本来なら支払う必要のなかった多額の相続税が発生してしまうので注意しましょう。
それでは、最後に小規模宅地等の特例の適用を受けるためにできる生前対策をご紹介します。
元々は小規模宅地等の特例の適用対象外の宅地であっても、生前に対策することで適用対象にすることができます。
例えば、自分が所有している宅地に、生計一ではない親族がアパートを建てて賃貸経営をしているとすると、現状のままではこの宅地は貸付事業用宅地等に該当せず、特例の適用はできません。
そこで、この親族にアパートを贈与または売却をしてもらって自分の所有物にすることで、特例の適用対象となることができます。これを逆贈与といいます。
使っていない、ただ置いているだけの宅地がある場合には、アパートを建てたり、アスファルト舗装をして駐車場にするなどして賃貸にしましょう。そうすると貸付事業用宅地等として特例の適用を受けることができ、評価額を自用地の50%(限度面積200㎡)にすることができます。
ただし、2018年度税制改正での、相続開始前3年以内に新たに貸付業を始めた宅地等は除かれる点に注意しましょう。相続対策は早め早めが鉄則です。
小規模宅地等の特例は、土地の評価額を大幅に減額できる制度です。適用要件は細かく設けられていますが、自宅の場合にはほとんどの人が要件に該当するでしょう。
ただし、生前に小規模宅地等の特例の適用対象になるか否かの確認は必須です。適用対象だと思っていた土地が、実は対象外でそれが相続発生後に分かったとなると大変なことになります。
心配な土地がある場合には、迷わず税理士に相談しましょう。