平成28年の相続税の税務調査の状況について

統計 グラフ

1.はじめに

国税庁から平成28事務年度における相続税の調査の状況が公表(以下「本件調査公表」といいます。)されました。
平成28事務年度とは、平成28年7月1日から平成29年6月30日までの期間をいいますので、基礎控除の引き下げをなどがなされた平成27年相続税法改正の施行後初の事務年度となります。
では、どのような状況だったのでしょうか。以下で解説します。

【出典】国税庁:平成28事務年度における相続税の調査の状況について

※本記事中の表およびグラフは上記、国税庁サイトから抜粋しています。

2.実地調査件数及び申告漏れ等の非違件数について

2-1.本件調査公表について

主として平成26年度に開始した相続について税務署等が収集した資料から過少申告であると想定される事案や無申告事案(申告義務があると疑われるのに申告していない事案)に対し実施されました。その件数は、1万2116件です(前事務年度比101.5%)。そのうち申告漏れなどの非違事項が指摘された事案は9,930件であり(前事務年度比101.7%)、その割合は、82%(前事務年度比0.2増)とされています。

なお、前事務年度では、実地調査件数は1万1935件、非違事項が指摘された事案は9761件、非違割合は81.8%となっております。過少申告はともかく無申告事案についても税務署は資料収集により目を光らせていることがわかりますね。

また、実地調査が行われるとその8割について、非違事項を指摘され、修正申告や更正等の何等かの措置がなされていることもうかがえます。

2-2.実地調査について

実地調査とは、国税に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいいます(調査関連通達1-1)。要するに税務職員等が質問検査権を行使して納税者(相続人)対し、質問や資料の提出を求める行為をいうのです。

他方、相続税等の申告後に、法令により添付すべきものとされている書類が添付されていない場合において、納税義務者に対して当該書類の自発的な提出を要請する行為や、当該職員が保有している情報又は提出された納税申告書の検算その他の形式的な審査の結果に照らして、提出された納税申告書に計算誤り、転記誤り又は記載漏れ等があるのではないかと思われる場合において、納税義務者に対して自発的な見直しを要請した上で、必要に応じて修正申告書又は更正の請求書の自発的な提出を要請する行為などは、ここでいう調査ではありません。

調査に該当するかどうかは、事前通知などの国税通則法に定められた調査手続きを税務署等が実効する必要があるかの点で大きく異なるのです。

項目平成27
事務年度
平成28
事務年度
対前事務
年度比(%)
実地調査件数(件)11,93512,116101.5
申告漏れ等の非違件数(件)9,7619,930101.7
非違割合(②/①)81.80%82%0.2ポイント
重加算税賦課件数(件)1,2501,300104
重加算税賦課割合(④/②)12.80%13.10%0.3ポイント
申告漏れ課税価格(※)(億円)3,0043,295109.7
⑥のうち重加算税賦課対象(億円)458540117.7
追徴税額本税(億円)503616122.3
加算税(億円)80101125.6
合計(億円)583716122.8
実地調査
1件当たり
申告漏れ課税価格(※)
(⑥/①)(万円)
2,5172,720108
追徴税額(⑩/①)(万円)489591121

3.申告漏れ課税価格について

3-1.本件調査公表について

申告漏れ課税価格は3,295億円(前事務年度比109.7%)で実地調査件数あたり2,720万円(前事務年度比108%)とされています。なお平成27事務年度では申告漏れ課税価格3004億円、実地調査件数当たり2571万円です。平成28事務年度においては、申告漏れ価格及び実地調査件数当たりの申告漏れ課税価格は微増といったところでしょうか。また実地調査件数当たりの課税価格について見ると約2700万円というかなり大きな額の申告漏れが指摘されていることがわかります。

3-2.申告漏れ課税価格について

本件調査公表における申告漏れ課税価格とは、申告漏れが指摘された相続財産額(この中にはいわゆる相続時精算課税が適用される贈与財産を含みます。)から、被相続人の債務・葬式費用の額(調査による増減分)を控除し、相続開始前3年以内の被相続人から法定相続人等への生前贈与財産額(調査による増減分)を加えたものをいいます。要するに純粋に追徴税額を算出するために基礎とされた課税価格のことです。

3-3.課税価格について

課税価格とは、各種税法の規定により税額を算定するに当たっての基礎となる数額で、その額について税率が適用されるものをいいます。相続税法においては、相続また遺贈により取得した財産の価額の合計額をいいます。

4.申告漏れ相続財産の金額の内訳について

4-1.本件調査公表について

申告漏れ相続財産の金額の内訳は、現金・預貯金等1,070億円(平成27事務年度1,036億円:前事務比103.2%)が最も多く、続いて有価証券535億円(平成27事務年度364億円:前事務比146.9%)、土地383億円(平成27事務年度410億円:前事務比93.4%)の順となっています。

土地の場合には、おそらく相続財産から漏れたことは考えにくく、評価誤りが多いと想定されます、他方、現金・預貯金等及び有価証券の場合には漏れであると考えられます。

そして、平成28事務年度の申告漏れ財産の金額の構成比を分析すると、平成26事務年度に並んで有価証券が土地よりも多額となりました。加えて前事務比の増減額でも上記3者のうちでトップの増加額を示しています。これは近年の財産の分散先が不動産から株式・債権等の有価証券にシフトしていることを表すものではないでしょうか。

4-2.海外資産関連調査事案について

海外資産関連事案とは、相続又は遺贈により取得した財産のうちに海外資産が存するもの、相続人、受遺者又は被相続人が日本国外の居住者であるもの、海外資産等に関する資料情報があるもの又は外資系金融機関との取引のあるもの等のいずれかに該当する事案をいいます。

海外資産関連事案については、実地調査件数では917件(平成27事務年度859件:前事務年度比106.8%)、申告漏れ等の非違件数117件(平成27事務年度117:前事務年度比100%)、申告漏れ課税価格52億円(平成27事務年度47億円:前事務年度比112.1%)及び非違1件当たりの申告漏れ課税価格は4483万円(平成27事務事務年度3999万円:前事務比112.1%)となっています。非違件数を除いてすべて増加傾向にあります。
さらに、海外資産関連事案の非違1件当たりの課税価格(4483万円)は相続税の調査全体の非違1件当たりの課税価格(2720万円)と比較しても、とびぬけており、これは、海外に資産を移す場合にはそのコストから大きな額の海外移転が行われていることが想定されます。

次に、海外資産関連事案の財産別非違件数(全体149件)では、1位こそ現金・預貯金(58件:構成比率33.55%)ですが、2位は土地(20件:構成比率13.4%)と並んで有価証券(20件:構成比率13.4%)となっており、海外資産の移転先が有価証券にシフトしつつあることがうかがえます。

そして、国別では1位北米(65件:構成比率51.5%)、2位アジア(30件:構成比率23.8%)、3位は欧州(19件:15%)となっており、北米・アジアで70%以上を占めています。

なお、昨今の経済のグローバル化や国内でのゼロ金利政策に伴い、個人の資産運用も国際化を強めています。国税庁としてもこれに対応し、相続税の適正な課税を実現するため、納税者の海外資産の把握に努めています。把握する方法として、相続税調査の実施に当たり、租税条約等に基づく情報交換制度を効果的に活用するなどの方法が採用されています。そして、海外関連資産事案といわれる資料情報や相続人・被相続人の居住形態等から海外資産の相続が想定される事案についての調査の強化は本事務年度以降も続くことが予想されます。

5.追徴税額について

追徴税額(加算税を含む。)は716億円(平成27事務年度583億円:前事務年度比122.8%)で、実地調査1件当たりでは591万円(平成27事務年度489万円:121%)となっています。いずれも増加傾向にあります。

6.重加算税の賦課件数について

6-1.本件調査公表について

重加算税の賦課件数は1,300件(平成27事務年度1,250件:前事務年度比104%)、賦課割合は13.1%(平成27事務年度12.8%:前事務年度比0.3増)となっています。いずれも前事務年度に比して増加しており、当局の調査の強い意向を示しているといえるでしょう。

6-2.海外資産関連事案について

海外資産関連事案の重加算税賦課件数は、9件(平成27事務年度7件:前事務年度比128.6%)、重加算税賦課対象額は7億円(平成27事務年度3億円:前事務年度比233.9%)と両者とも大幅増です。

7.まとめ

以上のとおり、平成28事務年度の相続税の調査の状況については、前事務年度よりも調査実績が増大し、重加算税の賦課件数及びその額も増大しています。また海外資産調査事案に対する関心の高さがうかがえます。

相続税申告に当たっては税理士に相談し、間違いのない申告をするようにしたほうが良いでしょう。

監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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