相続時精算課税制度は孫にも使える|相続税の2割加算など注意点も
相続時精算課税制度は孫にも適用できますが、相続税を計算するとき2割加算されるなど、いくつかの注意点もあります。孫に贈…[続きを読む]
老後資金の心配が高まっていく今日、相続税対策の一つとして、皆さんがお持ちの株式や投資信託の「生前贈与」をお考えの方もいらっしゃることと思います。
また、逆に、株式や投資信託の贈与を受ける方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、「株式の贈与」に焦点を当て、株式を贈与する場合の評価方法を説明すると共に、相続税対策として、株式贈与による節税について解説します。
目次
まず、株式を生前贈与することによる「相続税対策としてのメリット」について見ていきます。
生前贈与とは、生存している個人から別の個人へ財産を無償で渡すことです。
相続税の節税対策としても行われ、生前贈与を行うことにより、相続税の課税財産を減らすことができます。
しかし、贈与税の基礎控除額(110万円)を超えてしまうと、贈与を受けた方に贈与税が課税されてしまいます。節税対策として生前贈与を行う場合は、相続税と贈与税を試算して、どうしたら税金が安くなるのか確認する必要があります。
贈与には、次の2種類があります。
相続税対策の観点で、生前贈与には次のようなメリットがあります。
贈与を受ける人一人当たり年間110万円までは、贈与税がかかりません。
例えば、子2人と孫3人に110万円づつ贈与すると、合計550万円を非課税で贈与できます。
贈与を行うことにより、相続財産を少なくすることができます。
また、110万円以上を贈与する場合では、贈与金額から110万円を控除した残額に贈与税がかかりますが、その場合でも、贈与税の方が相続税より安価な場合がありますので、一度に多額の贈与を行う場合でも節税になる場合があります。
このように、非課税で、あるいは、相続税率より低率で贈与を行うことにより、相続財産を少なくして節税することができます。
相続時精算課税による贈与の場合、”贈与時”の評価額が相続財産に加算されます。贈与時と相続時の評価が変わらない場合や評価が下がる場合は効果的ではありませんが、値上がりする場合は効果的です。
株式で将来にわたって値上がりが期待できる場合は、節税になる可能性があります。
株式を贈与すると、名義も変更になります。名義変更後に受取る配当についても、贈与を受けた者の資産になります。
高配当銘柄の中には、株価に対して5%相当の配当利回りの銘柄もあり、この場合は、10年間保有すると株価の50%相当の配当を受け取ることになります。
このように、贈与しない場合は相続財産に含まれる配当についても、株式の贈与により贈与を受けた人の資産になり、結果的に相続財産を圧縮することになります。
ここでは、株価の評価について、次の4種類の株式に分けて説明します。
上場株式とは、金融商品取引所に上場されている株式のことを言います。株式の価格は、その株式が上場されている金融商品取引所が公表しています。
次の4つの評価のうち、最も低い価格を評価額とします。
気配相場等のある株式とは、日本証券業協会の登録銘柄や店頭管理銘柄、あるいは公開途上にある株式をいいます。
気配相場等のある株式の贈与税評価は、
によって、評価方法が違います。
登録銘柄や店頭管理銘柄は、日本証券業協会の公表する取引価格をもとにして、次の4つの評価のうち、最も低い価格を評価額とします。
考え方は、通常の上場株式の場合と同じです。
なお、課税時期に取引価格がない場合や、その株式に権利落などがある場合には、一定の修正をすることになっています。
実際にこのようなケースがある方は、税理士にご相談ください。
株式の上場又は登録に際して、株式の公募又は売出しの公開途上にある株式の価格は、その株式の公開価格によって評価します。
また、株式の上場又は登録に際して、公募等が行われない場合の公開途上にある株式の価格は、課税時期以前の取引価格等を勘案して評価します。
非上場株式の評価は、複雑な計算が必要なので税理士に任せるのが良いと思います。
ここでは、非上場株式の贈与税評価額の算出の考え方の概要を説明します。基本的には、同族株主等(会社の経営⽀配⼒を持っている)か、それ以外の株主かによって、評価方法が大きく違います。
実際には、評価方法の選択は複雑で難解です。
非上場株式の評価方法の詳細は、以下の記事をご覧ください。
これまで、上場株式や非上場株式の評価方法を説明してきましたが、それ以外にも、評価方法が異なる特殊な株式がいくつかあります。
ここでは、特殊な株式の種類だけをご紹介します。このような特殊な株式の評価が必要な場合は、評価方法が複雑ですので、税理士に相談ください。
ここでは、株式を贈与(名義変更)する場合の手続きについて見ていきます。
株式の名義変更は、上場株式か非上場株式かなどによって手続きが異なります。
上場株式については、次の2つの名義を変更する必要があります。
証券会社に対して、証券会社に開設している取引口座の名義変更手続きを行います。
この名義変更については、証券会社が代行して処理を行ってくれます。
非上場株式の名義変更については、各会社によって行う手続きが違いますので、株式を発行している会社に直接問い合わせください。
その他特殊な株式の名義変更についても、各会社によって行う手続きが違いますので、株式を発行している会社に直接問い合わせください。
先代経営者から後継者へ、中小企業の事業継承をスムーズに行うための制度です。
事業の後継者が、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、「円滑化法」と言います)の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与により取得した場合、その非上場株式に係る贈与税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の 死亡等により免除される制度です。
「非上場株式等についての贈与税納税猶予及び免除」の特例を利用することにより、
以上の効果がありますので、スムーズは事業継承が可能になります。
特例を適用するためには、まず、「円滑化法」の認定を受ける必要があり、次の要件のいずれにも該当しない会社であることが必要です。
以下のどれにも当てはまらないこと
贈与者の要件は次の通りです。
受贈者の要件は次の通りです。
贈与の時において、
非上場株式等についての贈与税納税猶予及び免除には、一般措置と特殊措置の2つの制度があります。
特殊措置については、「事前の計画策定等」や「適用期限」が設けられていますが、一般措置の「納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃」がされているなどの違いがあります。
(参考)特殊措置と一般措置の比較
特例措置 | 一般措置 | |
---|---|---|
事前の計画策定等 | 5年以内の特例承継計画の提出 (平成30年4月1日から令和5年3月31日まで) | 不要 |
適用期限 | 10年以内の贈与・相続等 (平成30年1月1日から令和9年12月31日まで) | なし |
対象株数 | 全株式 | 総株式数の最大3分の2まで |
納税猶予割合 | 贈与:100% | 贈与:100% |
承継パターン | 複数の株主から最大3人の後継者 | 複数の株主から1人の後継者 |
雇用確保要件 | 弾力化 | 承継後5年間 (平均8割の雇用維持が必要) |
事業の継続が困難な事由が生じた場合の免除 | あり | なし |
相続時精算課税の適用 | 60歳以上の者から20歳以上の者への贈与 | 60歳以上の者から20歳以上の推定 相続人(直系卑属)・孫への贈与 |
【参照】国税庁提供のパンフレット 非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし
今回は、「株式の贈与」に焦点を当てて、株式を贈与する場合の評価方法、および、相続税対策として、株式贈与による節税について見てきましょた。
上場株式の評価については自分で評価できそうですが、非上場株式や特殊な株式の評価になると、複雑な計算も必要で、なかなかハードルが高いと言えます。また、非上場株式については、「非上場株式等についての贈与税納税猶予及び免除」の制度を活用した事業継承との兼ね合いもあり、スムーズな継承対策や節税対策について十分な検討が必要です。
どちらにしても、株式の贈与税評価方法をある程度理解したうえで、経験豊富な税理士に相談することをお勧めします。