不動産の贈与税|相続と生前贈与どちらが有利なの?

生前贈与は相続税節税に非常に効果がありますが、対象となる財産が不動産である場合には注意が必要です。 無計画に不動産を生前贈与すると、かえって税金の負担が重くなってしまう可能性があるからです。

今回は不動産の生前贈与にかかる税金について解説します。それぞれの相続に合わせて、有効な節税対策を選択しましょう。

1.不動産の生前贈与にかかる税金

1-1.贈与税

贈与を行うと、財産を受け取った人に贈与税がかかります。贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までに申告と納税をしなければなりません。
贈与税には基礎控除があり、年間110万円以下の贈与には贈与税はかからず、超える部分に対してのみ贈与税がかかります。

ただし不動産は基本的に高額であるため、110万円を超える贈与がほとんどです。贈与税はかかるものと思われていた方が良いでしょう。

1-2.不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得した人に対して1度だけかかる税金で、贈与による取得に対してもかかります。なお、相続による取得にはかかりません。
税額は、固定資産税評価額に次の税率を乗じて計算されます。

区分税率
贈与相続
土地3%0%
建物
建物(住宅以外)4%

土地のうち、宅地や宅地と同じ扱いを受ける土地については、2021年(令和3年)3月31日までに取得したものであれば、固定資産税評価額の1/2に対して不動産取得税が計算される特例があります。

不動産取得税は3%程度の税率ではありますが、不動産は乗じる金額が大きく、税額は多くの場合で数十万~数百万円程度になります。 これが相続の場合には0で済むわけなので、不動産取得税は生前贈与と相続の大きな差です。

1-3.登録免許税

登録免許税は、不動産の名義変更登記の際に法務局に対して支払う税金で、固定資産税評価額に税率を乗じて計算します。 不動産取得税と同様に、贈与と相続では税率に差があります。

区分税率
贈与2%
相続0.4%

1-4.その他の経費も忘れずに

生前贈与にかかる費用は税金だけではありません。
贈与税の申告を税理士に依頼した場合や、不動産の名義変更登記を司法書士に依頼した場合には、報酬が発生します。

報酬は自由設定になっているため税理士、司法書士ごとに異なりますが、贈与税申告料は贈与財産の金額に応じて報酬が決まる仕組みとしている税理士が多く、不動産の名義変更登記料は1件につき5万円程度の報酬を設定している司法書士が多いです。

生前贈与を行わなければ申告する必要もありませんし、不動産の名義変更も相続時に一括して行った方が安く済む可能性が高いでしょう。

2.具体的な税額

それでは、「1.不動産の生前贈与にかかる税金」は具体的にいくら程度かかるものなのか、計算してみましょう。

【例】

  • 贈与者:父
  • 受贈者:長男
  • 贈与財産:宅地
  • 宅地の評価額:2,000万円
  • 宅地の固定資産税評価額:1,800万円

2-1.贈与税

贈与税の計算に使用する税率には、「一般贈与財産用(一般税率)」と「特例贈与財産用(特例税率)」の2つがあります。

特例税率は、父母や祖父母などの直系尊属から、その年の1月1日において20歳以上の子や孫などへ贈与があった場合の贈与税の計算に使用します。

一般税率は、特例税率に該当しない贈与税の計算に使用します。 今回は父から長男への贈与ですので、特例税率を使用して贈与税を計算します。

(2,000万円 - 110万円)×45% - 265万円 = 585.5万円

贈与税の基礎控除額110万円は、土地などの大きな金額の贈与を前にすると、ほとんど節税効果がないことが分かります。

【一般税率】

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%-
300万円以下15%10万円
400万円以下20%25万円
600万円以下30%65万円
1000万円以下40%125万円
1500万円以下45%175万円
3000万円以下50%250万円
3000万円超55%400万円

※「特例贈与財産用」に該当しない、兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から子への贈与で子が未成年者の場合などの贈与税の計算に使用。

【特例税率】

基礎控除後の課税価格税率控除額
200万円以下10%-
400万円以下15%10万円
600万円以下20%30万円
1000万円以下30%90万円
1500万円以下40%190万円
3000万円以下45%265万円
4500万円以下50%415万円
4500万円超55%640万円

※直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の直系卑属(子・孫など)への贈与税の計算に使用。祖父から孫への贈与、父から子への贈与など。

【出典サイト】No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|相続税 |国税庁 

2-2.不動産取得税

不動産取得税は、不動産の固定資産税評価額に税率を乗じて計算します。
今回の場合は土地が宅地ですので特例の適用対象となり、固定資産税評価額の1/2に対して税額を計算します。

(1,800万円 × 1/2)× 3% = 27万円

2-3.登録免許税

登録免許税は、不動産取得税と同様に不動産の固定資産税評価額に税率を乗じて計算します。

1,800万円 × 2% = 36万円

2-4.生前贈与にかかる税金

税目税額
贈与税585.5万円
不動産取得税27万円
登録免許税36万円
合計648.5万円

不動産を生前贈与した場合にかかる税金の大半を占めているのは贈与税です。 ここをどう節税できるかによって、生前贈与と相続税のどちらが有利か選択できることになります。詳しくは次項で解説します。

3.生前贈与の節税方法

通常の贈与税計算では、どうしても大きな金額になってしまう贈与税。節税できる方法を解説します。

3-1.毎年110万円以内で持分の贈与をする

贈与税の基礎控除110万円を利用して、毎年110万円以下の贈与を繰り返す方法で、 不動産の場合には、持分の贈与という形で毎年110万円以下ずつ贈与すれば贈与税はかかりません。

ただし毎年贈与する度に、名義変更登記、不動産取得税、登録免許税がかかる点に注意しましょう。
税額としては、その土地の持分の贈与額に応じた金額ですので損得はありませんが、司法書士に登記を依頼する場合には、毎年司法書士報酬がかかってしまいます。また、毎年納税や手続きの手間がかかります。

そして、この方法の何より怖い点は、最初から対象不動産のすべてを贈与するつもりであったと税務署に判断された場合には、一括しての贈与であったとみなされて贈与税が課される可能性があることです。
そうなってしまうと、何年もかけて行ってきたことが水の泡になってしまいます。 理論的には可能な方法ですが、実務上はあまりおすすめはできません。

3-2.相続時精算課税制度の適用

相続時精算課税制度とは、60歳以上の両親や祖父母などの直系尊属から、20歳以上の子や孫などへの贈与について適用することができる制度で、贈与額2,500万円までは贈与税がかかりません
2,500万円を超えた場合には、超えた部分の金額に一律20%の贈与税がかかります。

例えば「2.具体的な税額」の父と長男の年齢が相続時精算課税制度の適用対象であったとすると、贈与税はかかりません。

相続時に精算して課税する制度なので、贈与者の相続が発生した際には、相続時精算課税制度の適用を受けた生前贈与と相続財産の合計に相続税がかかりますが、既に贈与税を支払っている場合には、その分差し引かれます。

相続時精算課税制度を使って生前贈与を行うことで、不動産などの大きな金額のものを、贈与税の負担なく、または負担を軽減して一括贈与することができます。
更に将来、相続財産が基礎控除以下であるなどで相続税の納税義務が発生しない場合には、単に2,500万円までの贈与を非課税で行うことができます。

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3-3.居住用不動産の配偶者控除の適用

夫婦間の贈与が次の要件に該当する場合には、「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」が適用でき、最高2,110万円(基礎控除110万円+配偶者控除2,000万円)まで贈与税がかかりません。

  • 婚姻期間が20年以上の夫婦であること
  • 婚姻期間が20年を過ぎた後に行われた夫婦間の贈与であること
  • 配偶者からの贈与財産が、 国内の居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭であること
  • 贈与があった年の翌年3月15日までに、贈与を受けた居住用不動産または贈与を受けた金銭で取得した居住用不動産に、受贈者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
  • 過去に同じ配偶者からの贈与について、この制度の適用を受けていないこと
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4.結局どっちが有利?生前贈与 or 相続?

不動産を後継者に譲る方法として、生前贈与と相続のどちらが有利となるかはケースバイケースであり一概には分かりません。
例えば、受贈者が子や孫である場合には相続時精算課税制度、受贈者が配偶者の場合は配偶者控除の適用を受けられる可能性が高く、適用を受けた場合には贈与税の負担が抑えられます。

不動産を生前贈与することのメリットとデメリットを知り、そのうえで自分のケースでは生前贈与と相続のどちらが有利となるのか検討しましょう。

4-1.メリット

生前に希望する人へ確実に渡せる

遺言を残さずに死亡した場合、遺された財産は基本的に相続人たちが遺産分割協議を行って取得する人を決めることになります。こうなると、当然ながら死者は口を出すことはできませんので、希望する人以外の人が財産を取得する可能性があります。

不動産を渡したい人が予め決まっており、生前に渡しても問題ないのであれば生前贈与を行うことで、希望する人が取得するところを確実に見届けることができます。

相続トラブルの防止

遺産分割協議で相続トラブルが発生する可能性が高いのが、平等に分けることが難しい不動産です。
生前贈与は所有者が生存しているうちに行えるため、贈与者と受贈者だけではなく、将来の相続人たちにも了承を得たうえで贈与を行うことができ、将来の相続トラブルの発生を防止することができます。

しかし反対に、他の相続人が知らないところで生前贈与を行ってしまうと、相続時にそれが明るみに出て相続トラブルを助長してしまう可能性もあるので、十分な注意が必要です。

相続税節税の可能性

相続税は、被相続人が死亡時点で所有している相続財産に対してかかります。 この相続財産になる財産を、予め生前贈与により減らしておくことで相続税を節税することに繋がります。

4-2.デメリット

相続税に比べて贈与税は高い

贈与税と相続税には基礎控除がありますが、金額に大差があります。

  • 贈与税:110万円
  • 相続税:3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 

また、税率も贈与税の方が高いため、不動産のような高額な財産を単純に贈与した場合には贈与税の方が高くなる可能性が高いです。

不動産取得税や登録免許税も相続より不利

「1-2.不動産取得税」、「1-3.登録免許税」で解説した通り、不動産取得税は相続による不動産の取得ではかかりません。
また登録免許税は、贈与による取得での税率が2%であるのに対して、相続では0.4%となっており5倍もの開きがあります。

贈与の都度申告や登記が必要

年間110万円を超える贈与があった場合には、贈与税申告を行わなければなりません。 また不動産の場合には名義変更登記を行う必要があります。
これらは贈与がある都度、行わなければなりませんので、相続時に1回で済ませるより手間がかかります。

5.贈与手続き

それでは最後に、不動産の生前贈与の流れをご紹介します。

5-1.贈与契約書を作成する

生前贈与は贈与者と受贈者の口約束でも成立するものではありますが、将来の相続トラブルの防止や税務調査への対策として、贈与契約書を作成しておいた方が良いでしょう。

画像orリンク貼り付け
先日納品させていただいた、贈与契約書の画像やリンクを貼り付けてはいかがでしょうか。

5-2.名義変更登記をする

不動産の登記は義務ではありませんが、その不動産の持ち主が誰であるかを法的に証明できる重要なものですので、必ず行いましょう。

贈与により不動産の所有者が変わった場合には、その不動産を管轄する法務局で名義変更登記を行います。
難しい手続きではなく、法務局に相談員もいますので自分で行うことは十分可能ですが、必要に応じて司法書士に代行を依頼することも可能です。

【必要書類】

  • 登記申請書
  • 登記識別情報通知(登記済権利証)
  • 印鑑証明書(贈与者)
  • 住民票(受贈者)
  • 固定資産評価証明書
  • 贈与契約書
    など

5-3.贈与税の申告をする

贈与があった場合には、贈与の年の翌年2月1日から3月15日までに、受贈者の住所地を管轄する税務署へ贈与税の申告を行わなければなりません。

ただし、その年の贈与が基礎控除の110万円以下の場合には申告は不要です。110万円以下であったことを税務署へ知らせる必要もありません。

【必要書類】

  • 贈与税申告書
  • 添付書類(贈与の内容により異なります。)

まとめ

生前贈与は上手に活用することで、円満な相続を迎えることができ、相続税も節税できます。
ただし、不動産を生前贈与する場合には、贈与税、不動産取得税、登録免許税の税金が贈与の都度かかってしまいますし、申告や名義変更登記の手間もかかります。

生前贈与が良いのか、相続まで待つのが良いのかはケースバイケースで一概には言えません。メリット・デメリットに照らし合わせて有利な方を検討しましょう。

不動産は金額が大きいですので、判断を誤った場合の損失も比例して大きくなってしまうため、税理士にしっかりしたシミュレーションを依頼した方が良いでしょう。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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