どんな寄与分が認められるのか?5つのパターンと計算方法
遺言書以外で相続額を増額させる制度である「寄与分」ですが、なかなか認められず実現が難しい制度ともいわれています。 そ…[続きを読む]
2019年7月から特別の寄与の制度が新設され、被相続人の親族であれば、相続人でなくても請求をすることができるようになりました。
そこで、特別の寄与制度とは何か、特別寄与料がある場合の相続税申告について解説します。
目次
もともと、民法には、「寄与分」という規定がありました。しかし、寄与分が認められるのは、相続人だけでした。
しかし、相続人以外でも被相続人に献身的に尽くした相続人以外に不公平であるといった趣旨から新設されたのが、民法1050条の「特別の寄与」の制度です。
まず、従来からある寄与分について簡単に説明しましょう。
寄与分とは、一定の行為をしたことで、被相続人の資産の維持や増加に貢献した相続人に対して認められる、相続人間の公平を図るための制度です。
民法904条の2
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
条文の後半が少しわかりずらいかもしれません。寄与分がある者の相続分を計算式にすると、次の通りとなります。
寄与分がある者の相続分 | (相続財産の総額 ― 寄与分)× 法定相続分 + 寄与分 |
---|---|
寄与分がない者の相続分 | (相続財産の総額 ― 寄与分)× 法定相続分 |
しかし、寄与分は相続人だけに認められていたため、被相続人の療養・看護などをしていた相続人とはならない一部親族にとっては不公平な制度ではありました。
例えば、被相続人の長男の嫁が長期間被相続人の看病をしていたけれど何ももらえず、お見舞いにさえ来なかった次男に遺産が相続されるのはどう考えても不公平です。
そこで、新設されたのが、民法1050条の特別の寄与の制度です。
民法1050条1項
被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭の支払を請求することができる。
※括弧内省略
これにより、一定の要件を満たせば、相続人でなくても特別寄与料を請求することができるようになりました。特別寄与料を請求できる者を特別寄与者と呼びます。
寄与分と特別の寄与の制度の違いを大まかにまとめると、次の通りです。
寄与分 | 特別寄与料 | |
---|---|---|
請求権者 | 相続人のみ | 被相続人の親族 |
請求対象となる行為 | 被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付 被相続人の療養看護その他の方法 | 無償での療養看護その他の労務の提供 |
請求方法 | 遺産分割協議で主張 | 相続人に対して主張 |
請求できる期間 | 定めなし | 相続の開始と相続人を知った時から6ヶ月 相続開始から1年 |
特別寄与料の請求が認められるには、以下の要件をすべて満たさなければなりません。
親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族です(民法725条)。6親等内の血族となれば、かなり遠い親戚までカバーすることが可能です。また、3親等の姻族には、配偶者の叔父叔母、甥姪、曽祖父母などがあたります。
親族の範囲
- 6親等内の血族
- 配偶者
- 3親等内の姻族
ただし、次に該当する者は、特別寄与料の請求ができません。
では特別寄与料は、誰に、どのように、いくらくらいを、いつまで請求することができるのでしょうか?
特別寄料は、特別寄与者が相続人に対して請求し、相続人との協議で決定します。
当事者間で話し合いがつかない場合は、特別寄与者は、家庭裁判所に対して、「特別の寄与に関する処分調停」の申立てをすることができます(民法1050条2項)。調停では、当事者同士の合意を目指して解決案の提示や助言がなされますが、合意に至らなければ、審判へと進みます。
調停に関する費用や書類、申立先については、以下の裁判所のサイトをご確認ください。
【関連サイト】特別の寄与に関する処分調停|裁判所
特別寄与料については、同法1050条4項にある通り、相続開始時の遺産の額から遺贈した額を差し引いた額を超えることができません。
言い換えれば、この範囲内で相続人と話し合いがつけば、いくらでも構わないことになります。
特別寄与料 < 相続財産額(相続開始時) ― 遺贈の額
ただし、話し合いに決着がつかず、調停などになった場合は、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定めます(民法1050条3項)。
特別寄与者が寄与料を請求できるのは、相続の開始と相続人の両方を知った時から6ヶ月以内です(民法1050条2項但書)。
ただし、相続の開始と相続人を知らないうちに1年経過してしまった場合や、相続の開始と相続人を知った時から6ヶ月経過していなくても、相続開始から1年経ってしまった場合は、請求することができません。
最後に、特別寄与料が発生した場合に相続税申告について解説しましょう。
特別寄与料を受け取った場合、特別寄与者に対して遺贈があったものとみなして相続税が課税されることになります。
相続税は、相続財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人となった孫(直系卑属)を含む)及び配偶者以外の場合は、その者の相続税額に、その相続税額の2割が加算されます。
特別寄与者が被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の場合は、相続税総額の2割が相続税額に加算されることになります。
特別寄与者は、特別寄与料の金額が決定した日の翌日から10ヶ月以内に相続税申告をしなければなりません。
特別寄与料を支払った相続人は、課税価格から支払った特別寄与料を控除して、相続税を申告することができます。
特別寄与料の決定が相続税の申告期限に間に合わなかった場合には、特別寄与料を支払った相続人は、更正の請求をすることができます。
更正の請求は、特別寄与料が決まった日の翌日から4ヶ月以内です。
「特別の寄与の制度」が新設されて被相続人の親族に対して寄与料が認められることになったことは、被相続人の親族にとっては朗報でしょう。
しかし、特別寄与料は、請求すればそのまま認めてもらえるものでもありません。日頃から特別の寄与を証明する被相続人の診断書やカルテなど証拠の保管や、介護日誌の作成をしておく必要があります。
また、特別寄与料の話し合いがまとまったとしても、相続税の申告には期限があります。もし、思い当たることがあれば、トラブルを避けるためにも相続税に強い税理士に事前に相談することをお勧めします。