どんな寄与分が認められるのか?5つのパターンと計算方法

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遺言書以外で相続額を増額させる制度である「寄与分」ですが、なかなか認められず実現が難しい制度ともいわれています。
そこで、寄与分の詳細を5つのパターンで解説しながら、どうして認められにくいのか、どのようなものが寄与分と認められるのか、探っていきます。

1.寄与分とは

遺産相続の仕組みの中に、「寄与分」という制度があります。知っておくと遺産分割で有利になる制度ですが、実現させるためには難しいともいわれています。では、どのような仕組みなのか確かめていきましょう。

1-1.寄与分の仕組み

遺産相続では、全ての相続人が法律に則って平等に資産を相続するのが原則となります。
ですが、どうしても相続人の中で相続額に差をつけたいと思うこともあります。そこで、多少の色をつけるために用いられるのが遺言書です。

被相続人の意思を示す遺言書を活用することで、ある程度は相続人の相続額に差をつけることができます。
実は、遺産相続の仕組みの中にも、相続人の実態によっては遺言書がなくても相続額に差をつける制度があるのです。

それが、「寄与分」と呼ばれる仕組みです。寄与分とは、相続する資産の継続、増加に特別な寄与(貢献)を行った方の相続額を増額させる仕組みです。
例えば、兄の力添えによって資産を増額させたのに、弟と同じ相続額の場合、労力などを踏まえると不平等となってしまいます。

そのため、資産増額への寄与した努力分を相続額に上乗せすることで、トータルでの相続額を平等にしているのです。
生前に被相続人をどれだけ手伝っていたか、などをお金で再評価する仕組みが、寄与分の考え方となっています。

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1-2.寄与分が適用される条件

寄与分は相続人の被相続人に対する行動などを評価する仕組みです。ですが、どのようなことをすれば該当するのか分かりにくい仕組みでもあります。
寄与分には適応される場合の条件が決められています。

  • 対象は共同相続人のみ
  • 寄与行為が「特別の寄与」に当てはまる
  • 寄与行為と被相続人の財産の維持や増額に因果関係がある

少し難しいですが、まとめると法定相続人が行った寄与によって被相続人の財産が増額した場合などにのみ寄与分が適用される、ということになります。

ただ、それでも分かりにくいのが「特別な寄与」という言葉です。これは、単なる寄与ではないことを意味しているのですが、どんなことが目安となるのかイメージしにくいと思います。特別な寄与を表すためには、以下のようなポイントなどを重視しているそうです。

  • 無償性
  • 持続性
  • 専従性

実は、被相続人が親の場合、子供が行うほとんどの行為は一般的な寄与行為として扱われてしまい寄与分として認定されません。
寄与分をきちんと上乗せしたい場合は、上記のポイントから客観的に立証していくことが大切です。

1-3.認められないケース

寄与分が認められるのは、上記の条件を満たしている場合のみです。そこで、疑問に思うケースから認められないものを確かめていきましょう。

まず考えるのが、法定相続人に当てはまるかどうかです。例えば、内縁の妻は書類上などは妻として認められていても、法定相続人とは認められません
ですので、特別な寄与があったとしても、そもそもの相続権がないため、寄与分も認められません。もちろん、第三者などが手伝っていた場合でも同様です。

続いては、特別な寄与です。以下のケースで考えてみましょう。

  1. 10年以上一緒に生活していた
  2. 入院中のお世話をしていた

これらのケースはよくあることだと思いますが、実は全て寄与分が認められません。子供には親の扶養義務があり、どちらのケースでも扶養義務の範囲内として認められてしまい、特別な寄与には当てはまらないのです。

そして、寄与分は法律上定められていますが、原則遺産分割協議で話し合い、相続人の同意によって決められます。つまり、他の相続人が反対した場合は認められないのです。
この場合、裁判所で客観的に判断してもらうことで寄与分を認めてもらう必要があります。

2.寄与分が認められるケースと計算方法

それでは、寄与分が認められるケースを実例などを用いながら、解説していきます。場合ごとの寄与分の計算方法も併せて紹介しますので、どの程度上乗せされるのかも確かめていきましょう。

2-1.家事従事型

特別な寄与の中でもイメージしやすい家事従事型。無償がポイントとなるこの場合の寄与は、どのような特徴があるのでしょうか?

2-1-1.家事従事型の特徴

特別な寄与の中でも、分かりやすいといわれているのが「家事従事型」です。家事従事型の特徴は、「無償」で行っていることがポイントです。
つまり、料金を貰わずに事業を手伝うことで、被相続人の資産を維持、増額させた場合に当てはまる寄与分です。「家事のみ」が当てはまる、という訳ではありません。

家事従事型で当てはまることが多いのは、税理士や医師などです。例えば、被相続人の事業の資産管理や運用方法についてマネジメントしていた、という場合です。
本来なら費用がかかることを無償で提供しているため、特別な寄与と認められるのです。

また、農業などを手伝うことも認められるケースが多いです。家業の手伝い=アルバイトなどと同一視されるため、無償で行うことの裏付けになっているそうです。
そのため、休みの日などに家業の農業の手伝いを行い、その結果資産の増額などにつながれば、寄与分の対象になります。

家事従事型のポイントは、費用のかかる仕事を無償で行う・手伝っていることです。そのため、家業を直接手伝っていなくても、寄与分が認められる場合があるのです。

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2-1-2.家事従事型の計算方法

家事従事型の寄付分は、以下の計算式で求められます。

「寄与者が受け取るべき年間の給付額 × (1-生活費控除割合) ×寄与年数」

分かりやすくすると、本来払うべき料金の一定の割合を相続財産から後払いを行う、というイメージです。特に控除割合がなければ、あなたが行った行為分の費用が上乗せされます。

生活費控除割合とは、その名の通り被相続人から支払われた生活費の割合となります。同居している場合の食費や居住費などが当てはまります。
これらは被相続人から利益をもらっていたと考えられるため、寄与分から控除されます。ですので、同居している場合などは寄与分が大幅に少なくなる可能性もあり、注意が必要です。

2-2.金銭等出資型

労力ではなくお金にまつわる寄与となるのが金銭等出資型です。では、金銭的な負担を背負うだけで、特別な寄与とみなされるのでしょうか?

2-2-1.金銭等出資型の特徴

労働力などを無償で提供する家事従事型とは違い、直接お金を出資する場合が金銭等出資型の寄与分に当てはまります。
頭に浮かびやすいケースとしては、会社設立や倒産を防ぐための出資などかもしれません。ですが、当てはまるのは会社に関係する出資だけではありません。

夫婦で住む住宅の費用を折半して支払った場合、結婚後も共働きで資産を形成していた場合など、近年では珍しくないケースも金銭等出資型に当てはまることが多いです。加えて、医療費や介護費などを全額負担している場合も、金銭等出資型として認められることがあります。さらに、借金を肩代わりする場合も、金銭等出資型の範囲内となっています。

ただ、会社への出資は被相続人への直接的な寄与とは認められず、特別な寄与に該当しない場合があるそうです。
さらに、医療費などの負担も子供の扶養義務の範囲内で控除が行われ、寄与分が少なくなるケースもあります。
単にお金を負担していた、というだけでは認められないこともあり、線引が難しい寄与となっています。

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2-2-2.金銭等出資型の計算方法

金銭等出資型の計算方法は、出資したケースごとに計算方法が異なっています。ですので、ケースごとに確かめていきましょう。まずは、不動産に関わる寄与分です。不動産を取得に対してお金を負担していた場合は、以下のような計算式で寄与分が求められます。

1人で全額負担した場合:「相続時の不動産額×裁量割合」
2人以上で負担した場合:「相続時の不動産額×(相続人の出資額/取得時の不動産額)」

不動産の価値は、購入時と相続時では大きく異なる場合があります。相続額を決定する場合、常に相続時点での不動産の評価額となっていますので、寄与分も同様に相続時での評価額が対象となります。

ただ、複数人で取得した場合は、相続時の評価額では負担割合が異なってしまいます。そこで、費用の負担割合に関してのみ取得時の不動産額を使用しているのです。

また、不動産を購入したのではなく、もともと所持していた不動産を被相続人に無償で貸していた場合は、以下の計算式となります。

「相続時の賃料相当額×使用年数×裁量割合」

これは、単純に賃貸料を相続額に上乗せしているイメージです。ですが、この場合も相続時の賃料がベースとなりますので、本来の賃料よりも安くなっていることもあり得ます。

また、お金を出資している場合は、以下の計算式で求めます。

「贈与額×貨幣価値変動率×裁量割合」

貨幣の場合、不動産のように大きく変わりませんが、時代とともにお金の価値も変動しています。そのため、変動率を考慮して価値を考えることで、より平等に寄与分を計算することができます。

金銭等出資型の場合、原則として出資した金額の相当額が寄与分の計算対象となります。
しかし、上記の計算式のように時間とともに価値が異なるため、実際には少なく評価されることもあります。必ずしも全額が寄与分の対象とはならないため、十分に注意しておきましょう。

2-3.療養看護型

被相続人への貢献という意味では、誰にでも当てはまる可能性があるのが療養看護型の寄与です。弱っているときの手助けは、無条件に特別な寄与分となるのでしょうか?

2-3-1.療養看護型の特徴

被相続人が病気や介護が必要になった場合に、相続人が看病などを行うことがあります。こうした場合の寄与を療養看護型と呼んでいます。
原則として、単に看病などを行うだけでなく、金銭的な負担を行っていることが必要な条件となっています。

例えば、医療費や入院費、介護費用などを負担している場合などが、療養看護型の寄与例となります。ただし、療養看護型の場合に気をつけなければいけないのが子供の扶養義務との兼ね合いです。

親がケガや病気をした時には、ある程度子供が負担をするのは基本的なことで、特別なことではありません。また、入院したからといって子供が治療を行うわけではなく、あくまでもお見舞い、付き添い程度しか寄与できていません。

加えて、医療も介護も保険制度がありますので、著しく高額な負担となる場合も少なくなっています。
ですので、現実的に療養看護型の寄与に当てはまる場合を考えると、厳しい条件をクリアしなければいけません。

仕事を辞めて自宅での療養・介護をしていた、別々の場所で暮らしていたのに引っ越して同居したなど、より大変な行動が必要となります。
さらに、療養看護型の負担だとしても、金銭等出資型の寄与として考えた方が認められやすい場合もあります。名目にこだわるのではなく、特別な寄与としてどの項目なら認められるのかを考えておくことも大切です。

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2-3-2.療養看護型の計算方法

療養看護型の寄与では、以下の計算式によって増額分が決定されます。

「付添介護人の日当額×療養看護日数×裁量的割合」

今までの計算式と同様に、その人が従事した仕事量についての報酬を上乗せ分として支払うことになります。
また、費用に関しては、「寄与財産額=負担金額」と考えられていることもあって、そのまま寄与文の金額として増額されることもあるのです。

ですが、すでに触れたように常識的な金銭的な負担では、扶養義務の範囲内として考えられてしまいます。ですので、この計算式などで療養看護型の寄与が行われるのは非常に難しいでしょう。

一方、金銭等出資型では「贈与額×貨幣価値変動率×裁量割合」となっており、療養看護型とそこまで大きく異なりません。そのため、療養看護型ではなく金銭等出資型として考えておくことも大切です。

ただし、どちらの場合でも扶養義務の範囲内とみなされることもありますので、療養看護型の寄与を行いたい場合は十分に気をつけておきましょう。

2-4.扶養型

療養看護型と同じく特別な寄与と認められるのが難しいのが、扶養型の寄与です。法定相続人=親族だからこそ難しい、扶養の範囲を確かめていきましょう。

2-4-1.扶養型の特徴

療養看護型と同じように特別な寄与として認められるのが難しいのが扶養型の寄与です。
この場合の寄与は、被相続人の食事や住居などの用意や、それらに関わる金銭的な負担を背負った場合、生活の世話などの扶養した場合に当てはまる寄与となります。

ただ、療養看護型でも問題点となったように、子供には親の扶養義務が存在しています。さらに、兄弟にも同じような扶養義務が課されています。
つまり、法定相続人となる続柄のほぼ全ての方に何らかの扶養義務が存在していることになるため、扶養型も特別な寄与として認められにくくなっているのです。

特別な寄与として認められる場合には、一般的に考えられる扶養の範囲を超えている必要があります。
しかし、そのような扶養を行える場合は、非常に限られているため、扶養型の寄与を認めてもらうためには、現実的ではないかもしれません。

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2-4-2.扶養型の計算方法

では早速、扶養型の計算方法を見ていきましょう。

「(実際に負担した金額又は生活保護基準によって算出した金額)×扶養期間×(1-寄与者の法定相続分割合)」

通常の扶養の場合は上記の計算式で求められますが、養育費などの扶養料として負担した場合には、「負担した扶養料×期間 × (1―寄与相続人の法定相続分割合)」という式で求められています。

今までとは違うのは、養育型の場合は実際に費用だけでなく、概算によっても対象となる金額が決められることです。これは、養育費という範囲が非常に広くなっているため、詳細に把握するのが難しいからだといわれています。特に、扶養期間が長くなればなるほど、不可能に近くなります。

また、どちらの場合も寄与者の法定相続分の割合が差し引かれてるのもポイントです。ですので、法定相続分に応じて寄与による増加分も少なくなり、認められたとしても寄与による増額はあまり期待できません。

扶養型は誰にでも当てはまる要素がある反面、特別な寄与となる条件は非常に厳しくなっています。ですので、扶養型による寄与を求める場合は準備などを丹念に行っておきましょう。

2-5.財産管理型

特別な寄与の中でも、少し特殊な寄与となっているのが財産管理型です。お金を管理をすることで利益を増やすという、変わった寄与にはどのような特徴があるのでしょうか?

2-5-1.財産管理型の特徴

特別な寄与の中で重視される継続性。ですが、一度の寄与でも特別な寄与として認められる場合があるのが財産管理型の寄与です。

財産管理型の寄与に当てはまるのは、財産が増えた場合ではなく、管理費用が不要になった場合など支出が抑えられた場合も含まれます。
さらに、土地売買の手続きを代わりに行った、売却代金を増加させた場合にも、財産管理型の寄与に当てはまることがあります。

つまり、財産管理型では余分な支出を減らすことでも財産の増加とみなされるため、当てはまる幅が広いのが特徴となっています。
さらに、一度だけの寄与だとしても特別な寄与に該当する場合も多いですので、何度も行う必要性がないのが特徴かもしれません。

また、近年増えている不動産の管理などを引き受ける場合でも、財産管理型にあたる場合もあるそうです。
ですが、この場合では管理会社を使用せず、数十室の部屋を1人で管理した場合に認められるといわれていますので、非常に条件が厳しくなっています。

そして、財産管理と同様に使われる言葉が資産運用です。株やFXなどを用いて資産を増やすことは、以前よりもハードルが下がり誰でも行えるようになりました。
しかし、こうした資産運用は特別な寄与には当てはまらないのです。

資産運用は100%寄与者の力で増えたとは言えず、運などが絡むため因果関係があるとはいえません。ですので、財産が増えたとしても特別な寄与には当たらず増額は行われないのです。

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2-5-2.財産管理型の計算方法

財産管理型の寄与分は以下のような式で計算されています。

「(第三者に委任した場合の報酬額) ×((裁量的割合)」

この場合の計算式でも同様に、報酬額の後払いというイメージになっています。財産管理型に当てはまるような不動産契約などは、高度な知識が必要となる専門的な行為です。
そのため、第三者に委託する場合の報酬と同じ費用が発生すると考えられています。

ただし、計算式から分かるように、利益=算定の根拠とはなっていません。あくまでも財産管理についての報酬となっているため、場合によっては利益よりも少ない報酬額が基準となってしまうこともあるそうです。

また、各種保険料や修繕費などを負担した場合は、相当額がそのまま寄与として増額されます。この場合は裁量的割合などは考慮されず、実費相当額がそのまま増額されるそうです。
ですので、当てはまる場合はきちんと支払った料金を把握できるようにしておくことが大切です。

3.相続税への影響は?

さて、相続額と大きく関わっているのが相続税です。相続額が高額になるほど、納める相続税も高額になります。では、寄与分が増加されると、相続税も増額されてしまうのでしょうか

相続税を計算する場合、遺産の総額から基礎控除を差し引いた金額が課税対象額となり、金額に応じた税率によって相続税が決定されます。
つまり、相続税は遺産全体への課税となり、そもそも寄与分は遺産の総額の中に含まれているため、相続税が増額されることはありません

ですが、相続税は相続額の割合によって、個人が納める相続税額は異なります。
寄与分が増額された場合、相続する金額の割合が増えるため、他の相続人より多く相続税を収めなければいけません

ただし、遺産総額が基礎控除よりも少ない場合は相続税が必要なくなります。寄与分が増額されても、相続税全体には関係ありません。
寄与は全体の相続税に関しては影響を与えませんが、個人の相続税には影響しますので、忘れずに覚えておきましょう。

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監修
税理士相談Cafe編集部
税理士ライター、起業経験のあるFP(ファイナンシャル・プランナー)、行政書士資格者を中心メンバーとして、今までに、相続税や相続周りに関する記事を500近く作成(2023年4月時点)。
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