相続税の無申告、過少払いは「修正申告」を
この記事では、相続税の「修正申告」について解説してきます。修正申告の手続きやペナルティについて詳しく説明していきます…[続きを読む]
やっとの思いで納めた相続税が、特例の適用を失念していて過払いになってしまった場合や、相続税納付後に、相続税計算が間違っていたり、土地評価などが間違っていたりすると、相続税を払いすぎていることに気づく場合もあります。
そんなとき、「更正の請求」という制度を利用することによって、過払い金の還付を受けることができます。 今回は、その更正の請求について詳しく解説していきます。
まず、更正の請求とは何か?更正の請求にはどのような種類があるのか?について説明します。
相続税は、被相続人が死亡した日から10ヶ月以内に相続税の金額を税務署に申告して納付しなくてはなりません。 しかし、10ヶ月という短期間で相続税を申告しないといけませんので、申告後に、何らかの理由で支払うべき相続税が変わる場合があります。 相続税を払いすぎている場合、払いすぎた相続税を戻してもらう手続きを「更正」と言います。
相続税を払いすぎた場合には、ご自分で更正の請求をしない限り、払いすぎた相続税は戻ってきません。
一方で、すでに納付した相続税が、支払うべき税額に比べて少ない場合、正しい相続税を申告し直す手続きが必要です。この少なく申告してしまった相続税を正しく申告し直す手続きを「修正」と言います。
更正の請求は、納税地を所轄する税務署に提出します。
更正の請求期間は、相続税の法定申告期限から5年以内です。
この期間を過ぎてしまうと、更正を請求することができなくなってしまいます。ただし、特段の事情が生じた場合には、法定申告期限から5年を経過した後でも、更正の請求を行うことができます。 詳細は後段で説明します。
更正手続きは、「国税通則法第23条」および「相続税法第32条」に基づいています。
その為、「国税通則法上の更正の請求」と、「相続税法上の更正の請求」があります。
一般的な、国税に関する更正の請求については、国税通則法に規定されています。 課税価格や税額等の計算について相続税法等の規定に従っていなかった、または、計算に誤りがあった場合などがこれにあたります。
相続税については、遺産分割や財産相続という民法上の法的問題もあり、国税通則法ではカバーしていないケースもあります。
その為、相続税法に、国税通則法とは別に更正の請求ができる個別のケースが規定されています。 未分割財産があったが遺産分割協議が成立した場合や、未分割財産が分割されたことにより軽減措置や特例が適用できる場合などがこれにあたります。
ここでは、どのような場合に更正の請求ができるのか?について解説します。先述のとおり、 更正の請求には、以下の2種類があります。
まず、ここでは、国税通則法上の更正の請求について説明します。
国税通則法23条1項1号
当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき。
課税価格や税額等の計算について相続税法等の規定に従っていなかった、または、計算に誤りがあった場合です。 この場合の更正の請求期間は、相続税の法定申告期限から、5年以内です。
申告時の税額の基礎となっていた事実が後で変更された場合、変更された事実のことを「後発的事由」と言います。
国税通則法では、この後発的事由によっても、更正の請求を行うことができます。 後発的事由に該当する場合、法定申告期限から5年経過後であっても、その事由が生じた日の翌日から起算して2ヶ月以内に限り、更正の請求ができます。
国税通則法23条項1号
その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき
相続財産と申告した財産が、申告後に確定した判決により第三者の財産であることが確定した場合が該当します。
国税通則法23条2項2号
その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をし、又は決定を受けた者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があったとき
被相続人に帰属するとしていた土地を相続税の課税価格に算入したが、他の者に帰属するとして更正/決定処分がなされたような場合が該当します。
国税通則法23条2項3号
その他当該国税の法定申告期限後に生じた前二号に類する政令で定めるやむを得ない理由があるとき
国税通則法施行令第6条第1項に定められていますが、ここでの説明は割愛します。
【引用】電子政府の総合窓口(e-Gov)
相続税法に定められている、相続に関する後発的事由によっても、更正の請求を行うことができます。 相続に関する主な後発的理由には次のようなものがあります。
未分割財産について法定相続分に応じて申告をしており、その後に遺産分割が行われて、その割合に従って計算された課税価格が当初の課税価格と異なる場合が該当します。
遺留分の減殺請求に基づいて、返還/弁償すべき額が確定した場合が該当します。
遺言書が後から見つかり、遺産分割を変更する場合が該当します。
遺産が未分割の為に適用できなかった配偶者の税額軽減措置や小規模宅地等の特例を適用する場合が該当します。
相続税法上の後発的理由により更正の請求を行う場合には、それらの事実が生じた日の翌日から4ヶ月以内となっています。
提出期間を過ぎてしまうと更正の請求はできません。相続税の過払いに気づいたら、期限に間に合うように早急に手続きを行いましょう。
更正の請求の種類 | 期間 |
---|---|
通常の場合 | 相続税の法定申告期限から5年以内 |
国税通則法上の後発的理由の場合 | その事実が生じた日の翌日から2ヶ月以内 |
相続税法上の後発的理由の場合 | その事実が生じた日の翌日から4ヶ月以内 |
相続税法上の後発的理由の中の配偶者の税額軽減措置や小規模宅地等の特例を適用する場合 | 更正の請求の期限は3年以内(※) |
未分割の財産が分割できた日の翌日から4ヶ月以内 |
※3年以内に遺産分割ができない場合は、「遺産が未分割であることについてやむを得ない理由がある旨の承認申請書」を管轄税務署に提出して承認されれば、3年を過ぎていても遺産分割確定から4ヶ月以内に更正の請求を行う事ができます。 この承認申請書の提出期限は、法定申告期限後3年を経過する日の翌日から2ヶ月を経過する日までです。
次の書類を提出することが必要です。
納税地を所轄する税務署に持参または送付で提出します。
手数料は無料です。
【詳細】国税庁HP [手続名]所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続き
更正の請求を行った後、税務署の審査期間はおよそ3ヶ月程度と言われています。
税務署から更正の請求者宛てに「相続税の更正通知書」が届きます。 その後、還付金が指定金融機関に振り込まれます。
更正の請求却下について不服があるときは、再審査を請求することができます。 その場合は、その処分の通知を受けた日の翌日から起算して3ヶ月以内に ①その処分をした税務署長に対して再調査の請求 あるいは、 ②国税不服審判所長に対して審査請求 を行います。
「更正の請求を検討したけれど、初めての経験で分からないことが多いな」、と考えている方もいることと思います。 皆さんが気になっている事や疑問は、次のような点ではないでしょうか?
相続税は、個別の案件ごとに状況が異なります。
一方で、相続税対象件数自体が少なく、相続税の経験豊富な税理士が少ないのも現実です。 申告時の税理士の力量に不安な方は、相続税の経験豊富な税理士に対しセカンドオピニオンを求めてみるのはいかがでしょうか?
申告時の税理士と違う税理士に依頼しても構いません。
しかし、違う税理士に依頼する場合は、ゼロから説明して理解してもらう必要があり、手間がかかります。費用が余分にかかり、必要期間も伸びるかもしれません。 どちらにしても、正式依頼前に、見積もりを提出してもらうことをお勧めします。
相続の複雑さや相続財産の大きさなどによって、費用や必要期間は変わります。
税理士によっては、還付される場合のみ支払う「成功報酬型」の場合もあります。 まずは、見積もりを提出してもらうことをお勧めします。
更正の請求を行うことにより、税務調査を受ける確率が上がることはないと思います。
ただ、国税OBや相続税経験豊富な税理士がいる税理士事務所に依頼すると、税務調査を受ける確率は低くなる傾向があるという話は聞きますので、経験豊富な税理士事務所に依頼するに越したことはありません。
今回は、相続税の更正の請求について見てきました。
相続税の申告は個別の案件ごとに状況が異なります。更正の請求については、それにまして個別性が高くなります。 また、国税通則法や相続税法の理解はもとより、場合によっては、裁判の判例も考慮しないといけないケースもあります。
相続税の請求について概要を理解したうえで、まずは、相続税豊富な税理士に相談することをお勧めします。