相続税申告における遺産分割協議書と税理士の役割
この記事は、は遺産分割に焦点を当てて、その遺産分割協議について説明すると共に、遺産分割に関しての税理士の役割について…[続きを読む]
あまり聞いたことがない「相続分の譲渡」ですが、もめ事が多い厄介な遺産分割から早く解放されたい方、自分の望む人に譲渡したい方にとっては、その選択肢として考えられる方法です。
一方で、「相続分の譲渡」のやり方によっては、相続税だけでなく、贈与税や譲渡取得税がかかる場合もあります。
そこで、今回は「相続分の譲渡」について解説します。
目次
ここでは、相続分の譲渡とは何かついて見ていきます。
相続分の譲渡とは、相続権を持っている人が、相続人としての地位を他の相続人や第三者に譲渡することです。
相続分の譲渡には、次のような特徴があります。
単純に、自分がもらう財産だけの譲渡ではなく、相続人としての地位そのものを譲渡することです。
相続分の譲渡先は、以下の場合でも可能です。
しかし、後述しますが、誰に譲渡するかによって、相続税や贈与税などの扱いが変わりますので、注意が必要です。
相続分の譲渡は、有償で譲渡しても、無償で譲渡しても構いません。
こちらも有償と無償では、相続税や贈与税などの扱いが変わります。
他の相続人の同意は不要です。相続分の譲渡を行う旨の通知を行えば良いです。
相続分の譲渡は、通常のプラス財産だけでなく、債務などのマイナス財産も含まれます。
例えば、不動産について相続分の譲渡を行う場合、不動産そのものと、住宅ローンと言ったその債務も含めて譲渡することになります。しかし、債務を含めて相続分の譲渡を行っても、債権者に対し、債務の移転(相続分の譲渡)について対抗できません。その為、その債権者から返還請求された場合は、その要求に応じる必要があります。
ここでは、相続分の譲渡を行うメリット、どのような場合に相続分の譲渡を行ったらよいのかについて見ていきます。
相続でのもめ事が最も多いのが遺産分割です。
離婚歴があったり、相続人の間の関係が良くない場合など、遺産分割協議でもめることが多々あります。そのような遺産分割協議を回避したり、早く抜け出したい場合に、この相続分の譲渡が使えます。
遺産分割協議に相続人が全員合意して、初めて遺産を受取れます。
相続分の譲渡では、遺産分割協議が終わらなくてもお金を受取れますので、早くお金を受取りたい場合には、この相続分の譲渡が使えます。
相続分の譲渡では、自分の意志に基づいて譲渡先を決めることができます。
他の相続人に財産をあげたい場合、相続放棄をすることもできますが、相続放棄では、相続人を指定して、自分の望む相続人の受取り分を増やしてあげることはできません。
また、遺産分割協議で自分の取り分をゼロにして、他の相続人の取り分を増やすこともできますが、自分の思い通りの相続人が受け取れるように合意できるとは限りません。
次に、相続分の譲渡のデメリットを見ていきます。
第三者への譲渡も可能です。
しかし、他の相続人のなじみが薄い、あるいは、まったくの第三者が遺産分割協議に加わることになると、相続人同士の関係が複雑になり、まとまりにくくなるリスクがあります。
第三者へ譲渡した場合、上記で見たように遺産分割協議が円滑に進まない場合が出てきます。その場合、第三者に譲渡した分を取り戻される事があります。
相続分を取り戻すためには、以下の条件を満たす必要があります。
これは、譲渡する人や譲渡を受ける第三者にとってはデメリットですが、他の相続人にとってはメリットになります。
「相続分の譲渡」と「相続放棄」は、遺産を相続しない点に関しては同じですが、いくつか異なる点がありますので、参考までに、ここで説明します。
相続分の譲渡 | 相続放棄 | |
---|---|---|
債務 | 相続人としての債務に対する責務は引き続き残る | 債務を負う義務もなくなる |
取り消し | 条件を満たせば、取り消し・取戻し可能 | 取り消しできない |
自分の意志 | 自分の意志で譲渡先を決められる | 反映できない |
債務含めて相続の全ての権利や義務を放棄したい場合は「相続放棄」を、遺産分割協議のもめ事を回避して早く財産を欲しい場合や特定の人に譲渡したい場合は「相続分の譲渡」を選択肢としてお考えになってはいかがでしょうか?
ここでは、相続分の譲渡を行った場合、相続税はどうなるのかについて、以下の2つに分けて見ていきます。
他の相続人への譲渡については、以下の2つにより扱いが大きく異なります。
他の相続人に対して相続分の譲渡を行う際、金銭を受け取らず無償で譲渡を行った場合は、次のようになります。
相続税の有無 | |
---|---|
譲渡する人 | 相続財産を受け取ってないため、相続税はかからない |
譲渡を受けた人 | 本来の自分の相続分と譲渡を受けた分の相続税を納める |
他の相続人に対して相続分の譲渡を行う際、金銭を受け取った場合は、次のようになります。
相続税の有無 | |
---|---|
譲渡する人 | 受け取った金額(相続財産とみなされるため)に対して相続税を納める |
譲渡される人 | 受け取った全相続財産から支払った金額を差し引いた財産に対して相続税を納める |
第三者への譲渡についても、扱いが大きく変わっていきます。
基本的には、第三者への相続分の譲渡は、⼀旦、譲渡する人が相続をして、それを譲渡を受ける人に譲渡したと考えます。
第三者に対して相続分の譲渡を行う際、対価の金銭を受け取らず無償で譲渡を行った場合は、次のようになります。
相続税の有無 | |
---|---|
譲渡する人 | 一旦、相続したとみなされるので、譲渡した自分の相続分に対して、相続税を支払う必要がある |
譲渡される人 | 贈与で受け取ったと見なされ、贈与税が課される |
第三者に対して相続分の譲渡を行う際、対価の金銭を受け取った場合は、次のようになります。
相続税の有無 | |
---|---|
譲渡する人 | ・対価の金銭を受け取ったか否かにかかわらず、譲渡した自分の相続分に対して相続税を支払う必要がある ・譲渡する資産の中に不動産などの譲渡所得を⽣じる財産がある場合は、所得税(譲渡所得)が発⽣する場合もある |
譲渡される人 | 対価を支払っているため、贈与税の課税なし |
「他の相続人への相続分の譲渡」について、「相続分の譲渡を無償で他の相続人に行った場合は贈与とみなす」という判決が、最高裁で出されました。
最高裁での判決を例示すると、次のようになります。
被相続:父
相続人:母、長男、長女
相続財産:4,000万円
以下の表は、相続分を譲渡する前とした後の相続財産の額です。母が自らの相続分を全額(2,000万円)、長男に譲渡した今回の事例では、次のようになります。
遺産分割(譲渡前) | 遺産分割(譲渡後) | |
---|---|---|
母 | 2,000万円 | 0円 |
長男 | 1,000万円 | 3,000万円 |
長女 | 1,000万円 | 1,000万円 |
この状態で、母親が遺産ゼロで亡くなった時に、長女が「母から長男への相続分の譲渡が、母から長男への生前贈与にあたる」と主張して、母の死亡時に、母の遺産の遺留分500万円を請求し、最高裁が長女の請求を認めました。
要するに、相続分の無償譲渡は贈与にあたり、他の相続人が遺留分を請求できると認めたことになります。
これまでは、「他の相続人への相続分の無償譲渡は贈与でない」との前提でしたが、この最高裁の判決は贈与と判断しています。相続税や贈与税の扱いなど、これまでとは異なった判決ですので、今後の相続分の譲渡の申請に影響が出てくる可能性があります。
【詳細】最高裁判決平成30年10月19日
ここでは、相続分の譲渡の手続きについて見ていきます。
相続分の譲渡は、次の手順で行います。
相続分の譲渡ができるのは、遺産分割の前までです。
遺産分割の前までに「相続分譲渡証書」を作成しておく必要があります。
通常の契約と同様に口頭でも可能ですが、後のトラブル防止のためにも、書面(相続分譲渡証書)を残しておくことが重要です。
相続分譲渡証書には、決まった書式はありません。次の項目を記載の上、署名および実印を押印し、印鑑証明を添付して作成します。
相続分の譲渡は、他の相続人の同意は必要ありません。そのため、他の相続人は相続分の譲渡があった事実を知りません。
相続分の譲渡があったことを他の相続人に知らせるために、「相続分譲渡通知書」を作成して、他の相続人へ通知します。あ後のトラブル防止のために、内容証明郵便で通知することをお勧めします。
一般的な相続分の譲渡である他の相続人に譲渡の場合は、相続税や贈与税に関しては、遺産分割協議で分けた場合とほぼ同じ扱いになり、かつ、自分の意志で望む人に確実に譲渡ができますのでメリットがあります。
また、最近の最高裁の判決により、他の相続人への無償譲渡が「贈与」とみなされる可能性も出てきました。
実際に、相続分の譲渡を行う場合は、専門知識が必要で、今後の裁判の判定も考慮する必要がありますので、経験豊富な税理士や弁護士にご相談されることをお勧めします。